召喚魔王様がんばる

雑草弁士

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第83話 総督候補の面接

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 青年吸血鬼ローマン・ギルマーティンの喉から、ごくりと唾を飲み込む音が聞こえて来る。まあ気持ちはわからないでも無い。

 わたしだって、秘密結社『JOKER』の3大幹部、そして大首領様の前に出るとなれば、同じ様な反応を返すだろう。まあ、もう2度とその様な事が起こり得ないのは、わたしにとって哀しい事実であったが。洗脳されてるなあ、わたし。いやマジで。

 何が起きているかと言うと、ローマンがアーカル大陸総督に相応しいかどうかの面接が、今現在行われている真っ最中なのである。まあ何のための面接なのかは、ローマンには知らされていないが。

 面接官は魔王であるわたしと、親衛隊長アオイ、同副長ミズホ、魔道軍団軍団長ザウエル、そして彼の直接の上官である死霊軍団軍団長鉄之丞だ。この豪華メンバー相手に、ローマンはそれでも立派に受け答えをしてみせている。

 ちなみに彼が属する死霊軍団においては、階級は今のところ存在していない。ただし彼はロード種吸血鬼の端くれであるので、最低でも少佐相当の権限は有している。

 だが彼は兵法の修行……つまりは戦術の勉強のため、大佐相当官である死導師リッチキャメロン・オルグレンの元に副官として出向しており、その間は一時的に2階級降格して中尉相当官となっている。

 これは死霊軍団のあり方を、魔王軍の新たな軍制に合わせた際に出た無理を、強引に辻褄合わせした結果こうなった物である。ローマン自身、この処遇を納得して受け入れており、不満は無いそうだ。

 まあ不満があっても口に出したら、本来の上司であり鉄之丞の幕僚である大佐相当官、吸血姫ユージェニー・ダンヴァースの顔に泥を塗ってしまう事になる。流石にそれはできまい。

 ちなみに全くの余談であるが、副官とはNo.2のことではない。勘違いしている者も多いのだが、軍事組織を会社に例えれば、指揮官が社長であるならば副長は副社長、副官とは社長秘書である。


 辞書を調べれば載っているが、『副』には2通りの意味がある。副長の『副』が『第2の』の意味であるのに対し、副官の『副』は言い方が悪いが『添え物』の意味なのだ。

 ローマンがキャメロンの副官になった際に、中尉相当官と言う低い階級になったのは、副官が偉い地位では無いからなのである。

 ザウエルがローマンに向かって、意地の悪い問いを投げる。

「君の忠誠心は大したものだと聞くが……。怨霊将殿と魔王様が道を違えた場合、君はどちらに付いて行くのかね?」

「……その時々により、異なります。どちらに理があるかを見定め、鉄之丞様が誤っておられた場合には自分の仮初かりそめの命を懸けてお止めいたし、魔王様に非があらばこの身滅ぼされようと諫言いたします。それが真の忠義と信ずればこそ。」

「ふむ……。怨霊将殿がかつて魔王様と相対したときは、勝ち目が無いのに君は只々戦うことを選んだ様だが?今の台詞の通りであれば、怨霊将殿をなんとしてもお止めすべきではなかったかね?」

 ザウエルの追及に、ローマンは慚愧ざんきの念を顔に浮かべ、語る。

「いえ、あの時は当初勝てると踏んでおりましたが故のことにございます。不死怪物の8割が討ち減らされても、魔竜の骸を手にできれば勝利でございましたので。まさか魔王様がこれほどまでに強大なお方だとは、思っても見ませんでした。
 あの時の過ちにより、自分は情報の大切さを身に染みて思い知りました。誤った情報を元に戦術、戦略を立てては、無残な結果を引き寄せるのみと……。二度とあの様な無様はいたしませぬ。」

「口は上手い様だがね。君には今のところ、大した実績が無い。実績なしの大言壮語は、空回りして聞こえるよ?」

「は。返す言葉もございません。」

 ここで鉄之丞が、ローマンを庇う。まあ、ここは庇いどころだろう。鉄之丞も責められている部下を庇わなかったとあれば、部下との信頼関係だけでなしに、怨霊将としての立場も悪くなりかねない。あくまで魔道軍団と死霊軍団は、同格の扱いなのだ。

『まあ待たれよ、大魔導師殿。ろおまんも、自分で分かっておりもうす。その上で、ああ答えるしか無かったでござれば。』

「そうですね。少々意地悪でしたね。申し訳ない、怨霊将殿。」

『いや、面接官たる大魔導師殿にしてみれば、言わざるを得なかったでござろう。こちらこそ、口を挟んで申し訳ござらぬ。』

「いえいえ……。」

『いやいや……。』

「ああ、そこまでだ。……さて、ローマン・ギルマーティン。」

 わたしはザウエルと鉄之丞を制止すると、ローマンに話しかける。ローマンは顔に緊張の色を上らせる。

「はっ!」

「君がもし、もしもだがね?仮に一定の領地の管理を任されたとして、だ。その領地には、魔物と人類種族が共に暮らしている。まあ、アーカル大陸の現状なのだが。
 そこには元から住んでいた人類種族と、駐留する軍隊としての魔物がいる。まあ最近は、軍警察に人類種族を採用するなどして、双方の垣根は低くなりつつあるが、まだ完全ではない。
 で、だ。この状況下で、犯罪が発生する。君はどう対処する?」

 ローマンは少し考えると、わたしに対し答えを返す。

「……。犯罪の検挙自体については、さほど心配はいらぬでしょう。近年投入された科学捜査の手法の裏をかける犯罪者は、将来はともかく今の世ではそうはおりますまいて。問題視すべきは、裁き方にございます。
 この場合、自分の知る限りにおいては、未だ法の整備が満足にできておりませぬ。現在は旧アーカル大陸諸国家の法制度を暫定的に適用してはおりますが、元有った国家別、いや各貴族の領土別に異なる法体系が敷かれておりますれば。また魔物に対しては、魔王軍の軍法が適用されるなど、これもまた違う法体系にございますが、これもまた混乱の元でございましょう。」

「ふむ……。」

 なかなかの見識の様だなあ、ローマンは。彼は例を挙げて、説明を続ける。

「仮に人類種族の犯罪者を裁く場合、民の不公平感を抑制するためにも、早急に統一された刑法が必要となるでしょう。あ、いや刑法に限りませぬが。その公布までの間は、現状の法律の解釈をある程度緩め、弾力的な適用をしていくしかありますまい。労力はかかりますが、個々の事例ごとに1件1件事情を考慮して対処すべきかと。
 魔物の犯罪者……。軍警察などに採用された人類種族も含みますが、それを裁く場合は一般の人類種族を裁く場合よりも、厳しく罰すべきでしょう。上に立つ者としての責務を放棄した、との言い分にて。幸いにして、魔王軍軍法はその刑罰において、たいていの民間の法令よりも厳罰になっております。」

「なるほど……。ふむ、続きを。」

「ただ今後予想される、民間の魔物がアーカル大陸へ移民した場合のことですが、その場合魔王軍の軍法ではなく一般の法令を適用すべきですが……。もう少し、魔物と人類種族の壁が薄くなるまでは、魔物側に厳しく適用される様な仕組みを作っておくべきでしょう。ただしそれだけではなく、刑法以外の法令で、魔物を優遇する措置も必要でしょう。それで魔物側の反発を抑制いたします。
 無論、将来的には民間の魔物と民間の人類種族は、同一の法をもちまして一律に治めますれば。軍属の魔物と軍属の人類種族は、既に同一の軍法を用いておりますが、人類種族への適用を考慮して若干の法改正が必要かと。」

 ……ローマンに、政治経済に関する知識を頭脳に転写する必要、あるのだろうか。いや、一応やっておくべきだろう。彼の勉強に、抜けが無いとは限らない。

 わたしたちはその後も、いくつかの質問をローマンにぶつける。ローマンはある質問はすらすらと答え、またある質問は答えに窮したが、大体において満足する回答を返した。これならば、まあ完全とまではいかなくとも合格点だろう。

 わたしはローマンに向かい、言葉を紡ぐ。

「うむ、よく解った。先に言った通り、今回の面接内容を検討し、君を新しい任務に就けるかどうか判断することになる。君は隊に戻り、通達を待つように。では下がってよろしい。」
「はっ!では失礼いたします!」

 ローマンは敬礼をした。わたしたちも答礼を返し、退出して行く彼を見送る。そしてわたしたちは、互いに顔を見合わせて頷き合った。
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