召喚魔王様がんばる

雑草弁士

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第82話 休暇とアーカル大陸総督

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 日々は飛ぶように過ぎた。今日は休暇の当日である。わたしは魔王専用の公用車に乗り込み、近場の温泉地へと向かっていた。公用車の前後を、軍警察と親衛隊の自動車や自動二輪が挟み込み、しっかりと警護している。更にはアオイとミズホがわたしと共に公用車に同乗していた。

「……休暇なんだから、平服じゃあ駄目かい?」

「魔王様の休暇は、ぶっちゃけ公務。余所行きの格好してもらわないと。」

「お似合いですよ、魔王様!」

 わたしの着ているのは、いつもの黒い長衣ではなかった。いや、基本は同じ黒い長衣なんだが、魔法文字の縫い取りが黒い糸ではなく金糸、銀糸、光沢のある赤糸で施されており、下品では無いのだが豪奢な感じを際立たせている。

 更に肩と前腕に板金のプロテクターが装備されており、その色は黒を基調として金、銀、紅玉による装飾が下品にならない程度に施されている。

 アオイがとどめの言葉をつむいだ。

「それに、ソレは今日みたいな『非公式の場』での公務用。『公式の場』で使うのは、もっと物々しいのを幹部皆でデザインした。」

「えっ。聞いてないよ。」

「ああ、アレですね。ミスリル銀の鎖帷子を黒の長衣の下地にして、彼方此方あちらこちらに板金の防護を施した軍装。今着てるのよりも、もっと板金の量が多くて、もっと刺々しい印象です。
 大丈夫です、質実剛健に見えますから!」

 ミズホの説明に、わたしは肩を落とす。まあ、仕方ないだろう。今後は公の場に出る時は、それを着用するとしよう。……本当に質実剛健に見えることを祈ろう。

 わたしたちの乗る公用車は、安全運転で道路を走って行った。



 保養所の温泉宿を経営している、負傷除隊した隻腕隻眼の狼獣人ライカンスロープ型魔獣の中年男性が、残った右腕で最敬礼をしつつ歓迎の言葉を述べる。随行して来た政府広報の記者の連れであるカメラマンが、フラッシュを焚いて写真を撮った。

「こ、この度はこの様な辺鄙へんぴな場所に、魔王様の行幸を賜りまして、まっこと恐縮すると共に、感激に耐えませぬ!」

「うむ。」

 わたしは答礼を返すと、彼に向かい言葉を発した。

「楽にせよ。確か、オウガウガー退役大尉、であったな?」

「はっ! わ、我が名前をご存じであらせられましたか!? ま、まことに……。」

「いや、それは当然であろう。何を驚くことがあろうか。」

「な、なんと……。」

 感涙に咽ぶオウガウガー退役大尉だった。だがわたしとしては、ちょっとばかり心苦しい物がある。いや、魔王が休暇で宿泊する先の宿だし、あらかじめ色々調べるのは当たり前だろう。

 ここでいつもの仮面を被ったアオイが、公用車に積んで来た荷物の1つを手渡して来る。わたしはそれをこの退役大尉に手渡した。

「こ、これは?」

「これより1晩世話になる、お前への心ばかりの贈り物だ。遠慮はいらぬ、包みを開けてみるが良い。」

「は、ははっ! ……これは!?」

 その包みにはステンレス鋼で造られた、甲冑の左腕の様な物品が入っていた。わたしはオウガウガー退役大尉に、使い方を説明する。

「お前の左肩に、それの肩の部分をはめ込むようにして取り付けるのだ。ああ、何も難しいことはせんでも良い。ただ押し付ければ良い。」

「ははっ! ……な! う、動く! 感覚もある! なんと!」

 その甲冑の左腕……義手は、オウガウガー退役大尉の左肩に吸い付くやいなや、一瞬びくりと脈動し、そして残された右腕と同様、彼の意思に従って動き出す。うん、上手くいったみたいだね。

 わたしはその義手について、ざっと説明してやる。

「この温泉宿をやって行く上で、隻腕では何かと不便であろう?我の手慰みの品ではあるが、義手をつくってみたのだ。一度取り付けたならばその主、つまりお前にしか使えぬ様になる。
 錆びぬ金属で創ってあるのでな、水仕事もできるし、汚れたならば水洗いも容易ぞ。ある程度であらば、破損しても自己修復するでな。多少なら手荒い扱いも大丈夫である。」

 ちなみにこの義手は魔法の品ではあるが、随所に改造人間の技術を盛り込んである。魔法技術を応用した、新型改造人間開発の実験の意味もあるのだが、ここでそんなことを公表する野暮はしない。

 オウガウガー退役大尉は、感激のあまりに言葉も無く滂沱と涙を流す。随行の記者はメモ帳にペンを走らせ、カメラマンはさかんにフラッシュを焚く。

「うむ。今宵の夕餉ゆうげと、明朝の朝餉あさげ、期待しておるぞ?」

「は、ははっ!! 我が全身全霊を持ちまして、必ずやご満足いただける物をご用意いたしますれば!」

「では部屋に案内せよ。」

「ははっ! こちらにございます!」

 わたしはアオイとミズホ、それに親衛隊員他の随行員を引き連れて、オウガウガー退役大尉に案内されて温泉宿の中へ歩み入った。



 色々と精神的に疲れた休暇が終わり、わたしは魔王軍本部基地に帰還した。わたしは早速平服に着替え、開放感を味わう。休暇が終わって開放感を味わうのも何だが、本当のことだから仕方がない。

 実際のところ、せっかくの温泉だと言うのに、風呂も1人で入れなかった。アオイとミズホが護衛として、一緒に風呂の中まで付いてきたりしたのである。

 彼女らは水着をちゃんと着ていたし、元から混浴であるらしかったのだが。でも、彼女らはわたしが男だと言う意識があるのだろうか。ちょっと不安になる。

 それはともかくとして、本部基地では定例幹部会議が待っていた。ちなみにアーカル大陸にいるガウルグルクは『通話水晶』の映像での参加、巨体故に本部基地司令室に入れないオルトラムゥは『パペット』の魔法で傀儡くぐつ人形に意識を移しての参加だ。

 おもむろに、ザウエルが発言する。

「休暇お疲れ様でした、魔王様。」

「うん、分かってくれるかい。」

「魔王様はワーカホリックですからね。休めば疲れると相場が決まってます。」

 ちょっと違う。疲れたのは、休暇と言う名の堅苦しい公務だったからだ。だが幹部の大半が、ザウエルの言葉に頷く。わたしは溜息を吐いた。

「はぁ~っ。もう、ソレでいいよ。で、だ。
 一応休暇前に話を通して置いた通りだよ。ガウルグルクは魔獣軍団軍団長として、陸軍筆頭としての仕事があるからね。畑違いの政治的な仕事までさせるのは、そろそろ辛いだろう。
 そこでガウルグルクをバルゾラ大陸本土に戻して、アーカル大陸には新たに総督と軍事補佐官を置こうと思うんだけれど。
 誰か反対意見は?」

「反対するわけではありませんが……。魔獣将殿に対する降格人事、と取られる可能性はありませんか?」

 ザウエルが苦言を呈する。そうか、その心配もあるか。と、ここで当のガウルグルクから意見が出る。

『あ、いや。そうであるならば、わたしめの方から魔王様に願い出れば良いのでは?大魔導師殿。政治畑の任は、わたしめには筋違いであることも確かでありますしのう。
 軍務に専念したくある事と、バルゾラ大陸の同胞……。魔獣たちの部族が心配であることを理由にいたせば……。』

『おう。ならばよ、アーカル大陸にいる魔獣どもを一度バルゾラ大陸内地に戻してやったらどうだ?交代要員を送り込んで、よ。部族が心配なのは、奴らも一緒だろうよ。
 あ、そう言えばよ。アーカル大陸に出張ってる魔竜たちからも、故郷が懐かしいとか心配だとか、泣き言を吐いてる馬鹿が出て来てる。内地にいる魔竜と入れ替えの時期じゃねえかな、魔王様?』

 オルトラムゥの台詞に、一同は頷く。わたしもそれには賛成だ。

「ではその線で進めようか。人員入れ替えの細かい調整は、魔竜軍団と魔獣軍団の方に任せるよ。ああそうだ、魔像軍団と一般兵部隊は大丈夫かな?ゼロ、報告を。」

『了解デス。魔像軍団ハ、元ヨリ感情アル者デハゴザイマセヌ故ニ、ホトンドハ大丈夫デス。マタ、一部経験ヲ積ンダ個体ニハ感情ガ芽生エテオリマスガ、大半ハあーかる大陸デノ生活ノ方ガ長イタメ、ばるぞら大陸ヘ戻ス意味ガ無イデス。
 タダシ、一般兵部隊ニ関シテハ、入レ替エノ必要アリカト存ジマス。』

「じゃあ、一般兵部隊の犬妖、大犬妖は入れ替えることにしよう。
 ところでザウエル、ガウルグルク。肝心の総督に据える人材なんだが……。野にある人材で、誰か心当たりは無いかな?」

 わたしの言葉に、ザウエルとガウルグルクは考え込む。

「グラントリー・フィーロビッシャーは能力的にはともかく人格的に偏屈……。マーヴィン・イースデイルは小国の宰相ぐらいなら勤まるかもしれませんが、1大陸の総督となると……。
 それに両名とも魔法の研究一筋で、出世には興味が無いので仕官に応じてくれないでしょうし……。」

『ドウドーダルは魔獣にしては賢者ですがのう……。結局は価値観が、力で物事を解決する古い体質の魔獣ですからの。』

 しばらく2人はぶつぶつと呟いていた。だが突然傍らで話を聞いていた鉄之丞が、声を上げる。

『ろおまん・ぎるまあてぃん、と申す吸血鬼が我が死霊軍団に居りまする。それがしの幕僚、ゆうじぇにいの遠縁にて。力量はなんとかかんとか、ろぉど種の端くれに引っ掛かる程度にて、戦力としては上の下、または中の上でござるが……。
 頭は回りもうす上に、忠義の心を知っておりますれば。それがし、この者を推挙いたしたくござそうろう。』

「ろおまん・ぎるまあてぃん……。ローマン・ギルマーティンか。ロード種の端くれの吸血鬼か……。ユージェニー・ダンヴァースとわたしが交戦、交渉した時には、他にロード種はいなかった気がするんだけど?」

『はっ!彼の者は兵法を学ばせるために、きゃめろん・おるぐれんの元に派遣してござりますれば。おそらく魔王様とは面識は無きかと存じますれば。』

 わたしは、死導師リッチキャメロン・オルグレンとの戦闘経験があり、今も交友関係があるゼロに訊いてみることにする。

「ゼロ?貴様は知ってるか?」

『ハッ。ソノ者ハ、きゃめろん・おるぐれんノ副官ヲ務メテオリマス。優秀デハアリマスシ、忠誠心ハ疑ウベキトコロハゴザイマセン。タダ、彼ハ不死怪物デス。人類種族ノ拒否反応ガ問題カト。』

「ロード種の吸血鬼ならば、そう問題は無いだろう。直接吸血しなければ、相手を吸血鬼にもしないことだしな。
 ふむ……。信義の問題もあるし、仮に彼を就任させるとしたら、吸血鬼であることを公表しておく必要があるなあ。ついでに彼のための献血も募るか。」

 そしてわたしは、おもむろに続ける。

「まあ、まだ確定じゃないけどね。一応面接して、性格的な面をテストしてみよう。向き不向きってのはあるからね。それで合格したら、政治経済に関する知識を頭脳に魔法で転写してやって、しばらくガウルグルクの元で補佐として経験を積ませようかね。
 ついでに実績も積めれば言う事なしだ。その後にガウルグルクをバルゾラ大陸に引き揚げさせて、彼を総督にしようか。」

 幹部一同は、わたしの発言に了承の頷きを返す。本音を言えば、吸血鬼でも良いならば吸血姫ユージェニー・ダンヴァースの方が候補としては良かったのだが。だがまあ、彼女の引き抜きをやったら鉄之丞が公私共に困るであろうし、死霊軍団の運営に支障を生じかねない。

 とりあえずわたしは、そのローマン・ギルマーティンと言う吸血鬼を、第1候補として心に留め置くことにした。期待通りの人材であってくれれば良いのだが。わたしは彼が合格であった場合と、不合格であった場合の両方について心の内で色々検証しつつ、幹部会議の議題を次に進めた。
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