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第81話 心配事、いろいろ
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ミズホを部屋まで連れて行くアオイを見送って、わたしはいったん横になった。しかし仕事上で残っていた問題を思い出し、椅子の背もたれを正しい位置に直すと執務机に向かう。
残っていた問題とは、アーカル大陸のことだ。アーカル大陸はコンザウ大陸ほどではないけれど、バルゾラ大陸よりも広い。その広い土地の総督の役割を今現在担っているガウルグルクは、魔獣軍団の軍団長を兼務しており、魔王軍陸軍の事実上のトップでもある。
「ちょっと、負担が重いよなあ。それにガウルグルクは、来るコンザウ大陸侵攻戦の際には総指揮を取ってもらわないといけないんだから。最悪でもその時までには、代わりの……。って言うか、正式な総督を任命しないと。可能なら今すぐにでも。
今のところ上手くやってくれているけれど、それでも最近疲れが見て取れる。」
正式な総督を任命して送り込むにしても、人材が居るか?人類種族を送り込むのは、まだ時期尚早だ。迫害されていた少数民族の出身なり、売られてきた奴隷出身なり、信頼できる者はいる。だけど今はまだ、総督の地位には魔物を就けておく必要がある。
どちらかと言えば、文官肌の者がいいんだが……。軍事補佐官も付けてやらなければ駄目だし、その人事も一緒に……。
わたしは椅子の背もたれを起こして、執務机に向かう。忘れてしまわない様にメモを取りながら、考えを進めていく。
「魔道軍団員から、誰か派遣してもらうか?いや、彼らは優秀だけど、ザウエル1人が飛びぬけていて、残りは皆五十歩百歩だ。総督の地位に堪えられる様な者はいないな。残念だけど。
ザウエルならば余裕でこなせるだろうけど、彼には我が国の政治中枢に居てもらわないといけない。」
ザウエル以外の魔道軍団は、魔道の知識や技量にこそ突出した物があるけれど……。文官としては、以前の魔道士アンブローズや魔道士ブライアンと言った、彼らレベルが良いところだ。だが彼らレベルでは……。幹部会議の議事録を取らせたぐらいで胃を痛めたり、別の方向に向けたわたしの怒気の余波を浴びたぐらいで怯えきったりする様では、能力ではなく精神力的に、総督の任に堪えることはできまい。
だが人材としては魔族がいいのも確かなんだよなあ。次点で魔獣の中の、頭がいい個体かな。バルゾラ大陸各地の市長や州知事をこなしてるのは、魔道軍団に参加はしてなくとも大半が魔族だ。彼らは魔道軍団にスカウトされるほどには魔法の技量は持っていないか、あるいは戦いをあまり好まず可能な限り避けたい者たちだ。
むう、誰か隠れた人材でもいないかな。魔法的能力には拘らないから。いざとなったら、魔獣でもかまわないし。……幹部会議で、ザウエルとガウルグルクに相談するか。
「軍事補佐官は、と。候補はこの3名かなあ。後方指揮の重要性を理解し、前線に立ちたいと言う自身の欲望を抑えて見せた、例外的な巨鬼族ベン・ジャービス大佐。魔像軍団の最古参にして、ゼロの次席でもある戦闘ドロイドの壱号大佐。魔獣軍団でガウルグルクの薫陶を受けている、その一番弟子の獅子人部族出身ガオガーグ少佐。」
うーん、能力的な物から選んだ3名の候補だけど……。ベン大佐は駄目だな。彼を異動させたら、代わりになる者がいない。となると壱号大佐とガオガーグ少佐のどちらかだな。
壱号大佐は、弐号中佐以下の準ずる能力の者が何体もいるから、異動させても大丈夫だ。だが戦闘ドロイドと言う事で、他種族の部下から舐められないかな?ゼロは実績で黙らせていたけれど。
ガオガーグ少佐は、引き抜くのにガウルグルクと相談する必要があるなあ。それと、階級がちょっと低いから昇進させる必要がある。必要な武勲なりなんなりの功績は、あったかな? ガウルグルクを補佐してたから、大丈夫だとは思うんだけど。
……あれ? 司令室外の廊下に、アオイの気配を感じる。執務机の上の内線電話が、インターホンモードで鳴った。
「アオイかい?」
『うん、魔王様。今戻ったわ。入室許可願います。』
「許可するよ。どうぞー。」
アオイが扉を開き、入って来て敬礼をする。わたしは答礼を返した。
「ミズホの部屋から、直接自分の部屋に帰って寝るのかと思ってたんだけど。」
「それなら、黒板に行先を書くとき、そう書く。魔王様がきちんと休んでるか心配だったし。現に仕事やってるし。」
「……あー、すまんかったね。まあ、後は幹部会議で相談しなきゃ、どうにもならないから、もう寝るところだよ。」
「そう……。」
アオイはそう言うと、わたしをしげしげと眺める。わたしは怪訝に思い、彼女に問うた。
「な、何かな?」
「ん。魔王様、素地はいいんだから、もう少し着飾ればもっと格好良くなるのに。着る物、それと同じ物しか持ってないでしょ。」
「え?」
素地はいいって……。わたしのこの姿は確かに敵に対する威圧感とか、与える恐怖感とかを計算されて改造されているから、ある意味で魔王として理想的な外見ではあると思うが。格好良いかと言うと、おそらく意見は分かれるところだろう。
「着飾ると言っても、ねえ……。これでも見えないところに随分気を遣ってるんだけど。黒地に黒糸で魔法文字やら魔術文字やら縫い取りして、防御力や抗魔力上げたり。まあ比較的安価なのは否めないけどさ。」
「魔王様が本気で戦闘したら、着てる物が全部吹き飛んじゃうのは分かってる。だから着飾るのが勿体ないのも。でも魔王様は魔王なんだから、質素で質実剛健を好むにしても、それなりのデザインはあると思う。それだと、単に貧乏くさく見られかねない。」
「ぐっ!」
いや、本気でグサッと来た。だがアオイの言う事も分からないでもない。アオイは続ける。
「今日の晩餐会でも、魔王様が質素すぎるから、参加者たちが衣装に困ってたって聞いた。平服はそれでもいいけど、礼装はきちんと用意すべき。」
「あー、うん。そっか……。返す言葉も無い。いやわたしとしては、わたしに気を遣わず好きに着飾ってくれてもかまわないんだが、実際そうだよね。そう言うわけにも行かないね。」
「軍事独裁政権なんだから、勲章とかいっぱい着けたらどうかな。」
「いや、わたしが誰から勲章貰うのさ。それに某軍事独裁国家の総統は、国家元帥がいっぱい勲章で飾り立ててたのに比べて、かなり質素な装いだったんだよ。
できることなら武威を全面に押し立てた、軍装に近い物がいいかな。勲章は無しで。」
わたしの最後の抵抗に、アオイが頷く。正直ほっとした。だが別方向から追撃が来る。
「あと、公に休日を取る必要がある。魔王様は部下には各軍団長にすら休暇を取る事を義務付けてるのに、自分ではほとんど休みを取ってない。言行不一致は、ちょっとまずい。
それに部下の方も、義務だから仕方なく休みを取ってるけど、内心魔王様が休まないのに自分が休むのに気後れしてる。」
「……わかった。それにわたしが休まないと、アオイとミズホも休日取らないもんなあ。」
アオイはミズホと交代で休暇を取るように言っても、固辞していた。ミズホも同様である。まあ、今は急ぎの仕事はさほど無い。強いて言えばアーカル大陸総督任命の件だが、これは次の定例幹部会議で相談することでいいだろう。
「じゃあ、近いうちに数日のオフを入れて、近場の保養地に出かけよう。たしか温泉が湧いてる所があったはずだよね。あと、わたしが休暇を取ってることを、報道機関使って周知することも手配しないとなあ。」
「了解。予定を空けておく。……ごめん、結局魔王様が休むの邪魔した形になった。」
わたしのスケジュール表を取り出して書き込みつつ、アオイが謝罪を口にする。わたしは宥める様に言った。
「ああ、いや大丈夫。すぐに『睡眠圧縮』使って1時間寝るから。」
「たまには普通に8時間寝たら?」
「いや、休暇を取るためにも、その間の分の平常業務を先んじて片付けておかないと。アオイもそろそろ私室へ戻って寝なさい。警護なら、警備任務にあたってる当直の親衛隊員たちがいるから。」
「わかった。じゃ、お休みなさい。」
「うん。お休み。」
アオイとわたしは敬礼を交わした。アオイは司令室を退出する。わたしは『睡眠圧縮』の魔術を自らに行使し、椅子の背もたれを倒した。
残っていた問題とは、アーカル大陸のことだ。アーカル大陸はコンザウ大陸ほどではないけれど、バルゾラ大陸よりも広い。その広い土地の総督の役割を今現在担っているガウルグルクは、魔獣軍団の軍団長を兼務しており、魔王軍陸軍の事実上のトップでもある。
「ちょっと、負担が重いよなあ。それにガウルグルクは、来るコンザウ大陸侵攻戦の際には総指揮を取ってもらわないといけないんだから。最悪でもその時までには、代わりの……。って言うか、正式な総督を任命しないと。可能なら今すぐにでも。
今のところ上手くやってくれているけれど、それでも最近疲れが見て取れる。」
正式な総督を任命して送り込むにしても、人材が居るか?人類種族を送り込むのは、まだ時期尚早だ。迫害されていた少数民族の出身なり、売られてきた奴隷出身なり、信頼できる者はいる。だけど今はまだ、総督の地位には魔物を就けておく必要がある。
どちらかと言えば、文官肌の者がいいんだが……。軍事補佐官も付けてやらなければ駄目だし、その人事も一緒に……。
わたしは椅子の背もたれを起こして、執務机に向かう。忘れてしまわない様にメモを取りながら、考えを進めていく。
「魔道軍団員から、誰か派遣してもらうか?いや、彼らは優秀だけど、ザウエル1人が飛びぬけていて、残りは皆五十歩百歩だ。総督の地位に堪えられる様な者はいないな。残念だけど。
ザウエルならば余裕でこなせるだろうけど、彼には我が国の政治中枢に居てもらわないといけない。」
ザウエル以外の魔道軍団は、魔道の知識や技量にこそ突出した物があるけれど……。文官としては、以前の魔道士アンブローズや魔道士ブライアンと言った、彼らレベルが良いところだ。だが彼らレベルでは……。幹部会議の議事録を取らせたぐらいで胃を痛めたり、別の方向に向けたわたしの怒気の余波を浴びたぐらいで怯えきったりする様では、能力ではなく精神力的に、総督の任に堪えることはできまい。
だが人材としては魔族がいいのも確かなんだよなあ。次点で魔獣の中の、頭がいい個体かな。バルゾラ大陸各地の市長や州知事をこなしてるのは、魔道軍団に参加はしてなくとも大半が魔族だ。彼らは魔道軍団にスカウトされるほどには魔法の技量は持っていないか、あるいは戦いをあまり好まず可能な限り避けたい者たちだ。
むう、誰か隠れた人材でもいないかな。魔法的能力には拘らないから。いざとなったら、魔獣でもかまわないし。……幹部会議で、ザウエルとガウルグルクに相談するか。
「軍事補佐官は、と。候補はこの3名かなあ。後方指揮の重要性を理解し、前線に立ちたいと言う自身の欲望を抑えて見せた、例外的な巨鬼族ベン・ジャービス大佐。魔像軍団の最古参にして、ゼロの次席でもある戦闘ドロイドの壱号大佐。魔獣軍団でガウルグルクの薫陶を受けている、その一番弟子の獅子人部族出身ガオガーグ少佐。」
うーん、能力的な物から選んだ3名の候補だけど……。ベン大佐は駄目だな。彼を異動させたら、代わりになる者がいない。となると壱号大佐とガオガーグ少佐のどちらかだな。
壱号大佐は、弐号中佐以下の準ずる能力の者が何体もいるから、異動させても大丈夫だ。だが戦闘ドロイドと言う事で、他種族の部下から舐められないかな?ゼロは実績で黙らせていたけれど。
ガオガーグ少佐は、引き抜くのにガウルグルクと相談する必要があるなあ。それと、階級がちょっと低いから昇進させる必要がある。必要な武勲なりなんなりの功績は、あったかな? ガウルグルクを補佐してたから、大丈夫だとは思うんだけど。
……あれ? 司令室外の廊下に、アオイの気配を感じる。執務机の上の内線電話が、インターホンモードで鳴った。
「アオイかい?」
『うん、魔王様。今戻ったわ。入室許可願います。』
「許可するよ。どうぞー。」
アオイが扉を開き、入って来て敬礼をする。わたしは答礼を返した。
「ミズホの部屋から、直接自分の部屋に帰って寝るのかと思ってたんだけど。」
「それなら、黒板に行先を書くとき、そう書く。魔王様がきちんと休んでるか心配だったし。現に仕事やってるし。」
「……あー、すまんかったね。まあ、後は幹部会議で相談しなきゃ、どうにもならないから、もう寝るところだよ。」
「そう……。」
アオイはそう言うと、わたしをしげしげと眺める。わたしは怪訝に思い、彼女に問うた。
「な、何かな?」
「ん。魔王様、素地はいいんだから、もう少し着飾ればもっと格好良くなるのに。着る物、それと同じ物しか持ってないでしょ。」
「え?」
素地はいいって……。わたしのこの姿は確かに敵に対する威圧感とか、与える恐怖感とかを計算されて改造されているから、ある意味で魔王として理想的な外見ではあると思うが。格好良いかと言うと、おそらく意見は分かれるところだろう。
「着飾ると言っても、ねえ……。これでも見えないところに随分気を遣ってるんだけど。黒地に黒糸で魔法文字やら魔術文字やら縫い取りして、防御力や抗魔力上げたり。まあ比較的安価なのは否めないけどさ。」
「魔王様が本気で戦闘したら、着てる物が全部吹き飛んじゃうのは分かってる。だから着飾るのが勿体ないのも。でも魔王様は魔王なんだから、質素で質実剛健を好むにしても、それなりのデザインはあると思う。それだと、単に貧乏くさく見られかねない。」
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「あー、うん。そっか……。返す言葉も無い。いやわたしとしては、わたしに気を遣わず好きに着飾ってくれてもかまわないんだが、実際そうだよね。そう言うわけにも行かないね。」
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「いや、わたしが誰から勲章貰うのさ。それに某軍事独裁国家の総統は、国家元帥がいっぱい勲章で飾り立ててたのに比べて、かなり質素な装いだったんだよ。
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「……わかった。それにわたしが休まないと、アオイとミズホも休日取らないもんなあ。」
アオイはミズホと交代で休暇を取るように言っても、固辞していた。ミズホも同様である。まあ、今は急ぎの仕事はさほど無い。強いて言えばアーカル大陸総督任命の件だが、これは次の定例幹部会議で相談することでいいだろう。
「じゃあ、近いうちに数日のオフを入れて、近場の保養地に出かけよう。たしか温泉が湧いてる所があったはずだよね。あと、わたしが休暇を取ってることを、報道機関使って周知することも手配しないとなあ。」
「了解。予定を空けておく。……ごめん、結局魔王様が休むの邪魔した形になった。」
わたしのスケジュール表を取り出して書き込みつつ、アオイが謝罪を口にする。わたしは宥める様に言った。
「ああ、いや大丈夫。すぐに『睡眠圧縮』使って1時間寝るから。」
「たまには普通に8時間寝たら?」
「いや、休暇を取るためにも、その間の分の平常業務を先んじて片付けておかないと。アオイもそろそろ私室へ戻って寝なさい。警護なら、警備任務にあたってる当直の親衛隊員たちがいるから。」
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――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
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