召喚魔王様がんばる

雑草弁士

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第87話 海戦と銃火器の問題

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 わたしはいつもの司令室で、上がって来た報告書を読みつつ呟いた。

「ふむ、既に口頭で報告は受けてたけど……。あらためて書類になって、きっちり数字が出るとまた何と言うか……。海軍を整備しておいて、良かったよ」

「今まで警備や訓練ばかりだったけど、きっちり成果出してくれた。一安心」

「敵側からすると、恐ろしいほどの損害ですよね」

 アオイとミズホが、わたしの呟きに言葉を返す。何が起きたかと言うと、海軍が本格的に仕事をしたんだよね。これまで沿岸警備や船団護衛などで経験を積ませて来たんだけどさ。先日まともに艦隊が出動する事態が発生したんだよ。

 その事態って言うのは、コンザウ大陸諸国家による、アーカル大陸攻略作戦のための艦隊派遣なんだよね。まあ、あいつらは奪還作戦と言っているが。

「敵の総数は、全部で大型帆船267隻。コンザウ大陸の諸国家群からすれば、歴史に残るほどの大艦隊だね。まあ、その上で歴史に残るほどの赤っ恥をかいたわけだけど」

 1隻あたり、船乗りも含めて200人前後の兵員を詰め込んで、5万人規模の軍隊を送り込んで来たわけだが。だがその動きは、魔道軍団の間諜スパイたちの働きにより、こちら側に筒抜けであったのだ。

 更に言えば、ザウエルの使い魔である大王烏賊ダイオウイカで艦隊を追跡していた。敵にも魔道士はいる模様だが、ザウエルの使い魔を捕捉できるほどの腕前の者はいなかった模様。

 ちなみにこちら側の戦力は戦艦2隻、巡洋艦18隻、駆逐艦44隻、強襲揚陸艦22隻、潜水艦4隻、海竜12体。空母は艦上機の開発が遅れているため、建艦予定はあるものの起工すらしていない。

 なお潜水艦の数が妙に少ないのは、そのいずれもが最近就役したばかりの新兵器であるためだ。乗員候補の育成もまだまだ足りていないし、今現在乗り組んでいる乗員たちでさえ経験不足である。

 そんな理由もあって、この内の海竜と潜水艦は敵の退路に伏兵させた。海竜は万一消耗したらまずいし。潜水艦はもとより通商破壊の戦備であって、艦隊決戦のためにあるわけじゃない。まあ敵は帆船だから、心配はいらないって言ったらそうなんだけど。

 更に言えば、強襲揚陸艦は出す意味が無い。いや、砲は搭載しているから、にぎやかしにはなるけどさ。でも本来、海岸線に突っ込んで戦車とかを揚陸するための艦だし。だから今回は出さなかった。

 残り64隻の艦艇で、267隻の敵艦隊を迎え撃った。……うん、まあ相手は木造帆船だし、火砲を搭載してる船はごく少数だし、火砲の威力も射程も段違いだし、普通に勝った。こちらは水上機を着弾観測器として使用してたし、命中率も高かったし。

 運よく砲戦を生きて逃げ延びた数隻も、海竜の餌食と潜水艦の訓練標的になって1隻も残さずに沈んだ。いや、運よく逃げたと言うか、退路に伏兵を置いてあったから追わなかっただけなんだけどね。

 何はともあれ、これでざっと5万4千人程度の人類種族を、中央洋の魚の餌にした事になる。わたしは司令室の自席にもたれかかりながら、ぼやいた。

「やれやれ。これでまた、コンザウ大陸にわたしの悪評が広がることになるなあ。後々の支配に影響が出るかもなあ。」

「降伏旗も上げなかったんでしょ?仕方ない。」

「それに、火砲を魔力強化する戦訓を与えないためには、逃がさないのも仕方なかったと思います。」

 彼女らの言う通りだった。敵艦隊は人類種族の間で使われている降伏旗を用いようともしなかったんだよね。漂流していたわずかな生存者を尋問した結果、敵が魔物や人類の裏切者だと言う事で、降伏を禁じられていた様だ。その上宗教的にも、魔物に降伏したりすれば、死後地獄に落ちると説法されていたらしい。なんと馬鹿らしい。

 1隻も逃がさなかった理由も、その通りである。敵艦の1隻、旧式な大砲を搭載した艦が、海戦後半になって1発撃ってきたのだ。本来であれば敵の魔法も火砲も届かないはずの距離から。そして、その砲撃は至近弾となって、味方の巡洋艦近くに落着した。

 いつもの『通話水晶』によってその様子を知った私は、その敵艦の早急な撃沈を、艦隊司令となっていた、戦闘ドロイドである壱号大佐に厳命した。本来は部下の指揮権に介入する様な真似はしたくなかったのだが、今回はやむを得ない。明らかに敵艦は、その火砲を魔法で強化して撃っていたのだ。

 その戦訓を、何が何でも持ち帰らせるわけには行かなかった。案の定、その艦は『ヴィザー・ル新王国』の船である事が、マスト上に掲げられた国旗で判った。『ヴィザー・ル新王国』は、軍隊に銃を積極的に導入している国家である。

 放って置いても彼の国は、銃に魔法をかけて威力や射程、命中精度を向上させる事に、いつかは気付くだろうけど。だけどできるだけ、それを遅らせたいのが本音だ。長距離念話で本国に連絡をしていなければ良いんだけどなあ。

 ここでアオイが何かしら思い付いた様で、その考えを口に出した。

「ふと思ったんだけど、こっちも魔法で銃や砲の威力、射程距離、命中率を底上げしたら?」

「向こうが本格的にやってきたら、やる予定だけどね。ちなみに魔道軍団員ほどの魔法の達人たちを、そう言うことに使うのは勿体ないよ。並以下の腕前の、下手すれば魔法初心者ですらも、充分可能なんだから。
 今考えてるのは、犬妖コボルドに初歩の、と言うか魔力付与の魔法だけを睡眠学習装置で覚えさせて、自前で自分の銃や弾丸に魔力付与させること。ただ魔力量が少ないから、弾倉1個分で魔力切れするかな。巨鬼トロール族や蜥蜴人リザードマンたちの特殊部隊は既にテストケースとして、自前で銃に限らず色々な自分の武器に魔力付与する訓練を行ってる。」

「なんだ、もう色々やってたんだ。」

 アオイはちょっとばかり残念そうだった。私は頷く。

「うん。ただ、困ってるのは魔像軍団なんだよ。戦闘ドロイドやアンドロイド、高知能型ロボットなどの連中は、自前の魔力を持ってないからね。知能程度はかなり高いから、魔力さえ持ってれば簡単な魔法を行使させるのはできると思うんだが……。
 ゴーレム、生きた鎧リビングアーマー彫像怪物リビングスタチューの類は、それ以前の問題だね。銃火器が使えないんだから。今、その基本構造内部に火砲を内蔵した特殊なゴーレムを開発して、実験中だけど。」

「あともしかして、大犬妖ノールも困りませんか?犬妖コボルドは初心者級なら魔法使えそうなんですよね?でも以前、大犬妖ノール犬妖コボルドよりも身体的に強壮である分、魔法的素養に関しては、より乏しいって聞いた覚えがあるんですけれど。」

「うん……。その通り……。知識は睡眠学習装置で強引に植え付けられても、魔力が欠如してるし……。」

 ミズホの言葉に、私は肯定の返事を返すしかなかった。ミズホは必死に案を捻り出そうとする。

「えー、銃を最初から魔法の武器にするのはどうでしょうか?一時的に魔力付与するんじゃなしに。たしか魔像軍団の、特に上位の個体には、魔剣とか魔盾とか量産して与えてましたよね?」

「うん、それも検討はしてみたんだ。だけど、銃は部品点数が多いからねえ……。まあ、できなくもないんだ。だけど銃は飛び道具だからさ。大量消費する消耗品な銃弾1発1発に、いちいち永続的な魔力を込めるのは、コスト的に見合わないんだよ。
 君たちにあげた銃の専用魔弾が、通常弾とは違う切り札的な奥の手なのは理解してるだろ?あれを創るよりは、単に威力と射程距離を増すだけだからまだ楽なんだけどね。命中率の向上は、どっちかと言うと銃本体の魔力付与だから。」

「あー、はい……。お金の問題は大きいですよね……。」

 しょぼくれるミズホの肩をポンポンと叩いて、アオイが口を開く。

「魔力のバッテリーみたいな物、造れないのかな。」

「え……? えーっと、どうかな……。魔力のチャージには、ゴーレムなんかが自分の稼働用魔力を周囲の環境から吸収する仕組みを使って……。せいぜい犬妖コボルド1体分の魔力があれば充分だから、サイズは500mlペットボトルぐらい……。コスト的には……。ちょっと高くつくけど、魔銃と何よりも魔弾を大量生産するのに比べれば……。
 ……いける、かも。」

「すごいです、アオイさん!」

 ミズホがアオイを褒める。アオイはちょっと顔を赤くしている。たぶん本当に思い付きだったので、照れているのだろう。だが正直なところ、助かった。煮詰まって視野狭窄していたのか、私は完全にバッテリーと言う方式を失念していた。

 魔像軍団の戦闘ドロイドやアンドロイド、高知能型ロボットにも、大犬妖ノールたちにも、魔力バッテリーを持たせれば自動小銃の銃本体と弾倉1個分ぐらいは魔力付与可能だ。いやそれ以外にも、この魔力バッテリー方式は応用が利く。大型の魔力バッテリーを魔道軍団員に持たせれば、彼らの可能性は一気に広がる。

 おかげで『ヴィザー・ル新王国』が銃に魔力付与する戦術を編み出したとしても、安心して対処できる。その手法が周辺国に流出したとしても、銃の基本の性能が違うから、圧倒できるだろう。戦車や装甲兵員輸送車と組み合わせた戦術をこちらが取れば、向こうには為すすべも無い。

 ……あれ?そう言えば、魔力タンクを兼ねた魔力増幅装甲って、今研究中じゃなかったか?魔竜たちに装備させるために。魔力バッテリーと発想は近いじゃないか。馬鹿か私は、もっと早く気付けよ。本当に視野狭窄してたなあ……。

「……魔王様?何か落ち込んでない?」

「あ、本当ですね。」

「いや、なんでもないよ。ちょっと自分の間抜けさ加減を思い知ってただけだから。それよりアオイ、おかげで助かったよ。ありがとう。」

 私はアオイの頭に手をやって撫でる。撫でてから気付いたのだが、アオイの実年齢はもう20歳はたちだった。失敬だったかな、と思って彼女の顔を見ると、満更でもなさそうな表情だった。まあ、なら良いか。
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