召喚魔王様がんばる

雑草弁士

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第97話 敵軍襲来と、その末路

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 ガウルグルクとオルトラムゥ率いるコンザウ大陸侵攻軍の本隊が、『タラント連邦』を構成する都市国家群の、その最後の1都市をとしたと通信宝珠で連絡があった。そして魔道軍団の間諜スパイから、『リューム・ナアド神聖国』軍を中核としたコンザウ大陸南岸諸国解放軍が動き出した、と報せが入る。

 間諜スパイの報告によれば、コンザウ大陸南岸諸国解放軍では転移魔法を使える魔道士を物見に出して、『タラント連邦』の滅亡タイミングを調べていたらしい。やれやれ、だ。この件は、後日に調査の結果判明した、という但し書きをつけて、占領地域の民衆に公表するつもりである。

 いや、堂々と、間諜スパイの手によってもたらされた情報だ、なんて言えないからね。間諜スパイの存在をほのめかす事になってしまう。

 まあ『リューム・ナアド神聖国』もなあ。ここで『タラント連邦』を救おうとしたが間に合わなかった、って感じで軍隊を出撃させるだけさせておくなんて芸当、できないものかね。いや、されたらこっちが困るが。少しだけ。

「さて、ゼロ。迎撃準備は整っているかな?」

『ハッ!偵察機ヲ飛バシ、敵軍ノ動キハ掴ンデオリマス。敵予測進路ハ、当初ノ想定トハ異ナル難所ノ間道ヲ越エ、占領地域内ヘト至ルモノト思ワレマス。コレガ報告書デス。』

『むむ。平家物語の鵯越の逆落としでも気取るつもりであろうか。難所である山道を通るとは……』

「うーん。鉄之丞、こいつはどっちかと言うと、韓信の『明修桟道、暗渡陳倉』じゃないかね。報告書によれば本来通るはずだった道に、旗指物だけを大量に抱えさせた少数の隊を送り出してる」

 大量の旗指物で本隊に見せかける偽装を施し、その間に本当の本隊が布陣したこちらの軍の後ろに出現する、ってつもりか。甘いね。こっちの偵察機とそれに積んだ望遠レンズのカメラで撮った写真で、きっちり分析はできてるんだ。

「でもやっぱり、バルサンド・フォラム・ソール将軍は後方の許可も取らずに、勝手な作戦に出たね」

「事前の情報収集でも、そう言う行動とる可能性は指摘されてた」

 アオイが頷きつつ言う。わたしは目の前に広げられた戦術マップの上のコマを動かし、布陣を若干変更した。

「鉄之丞、ゼロ、2人は各自の軍勢をこの位置に移動させて伏せてくれ。一見、敵の作戦に引っ掛かった様に見せて、間道を通り抜けて来る敵に本陣である親衛隊の横腹を、わざと晒してやる」

「そして……。あたしの出番、ですね?」

「その通り。間違いなく敵の先頭には、勇者タケル・アカギが出て来るはずだ。頼んだよ、ミズホ」

 漆黒の軽鎧一式に漆黒の仮面を被ったミズホが歩み出る。わたしはそれに大きく頷いてやった。



 とうとう敵軍がやって来た。と言っても、本隊に見せかけた偽装部隊だ。こちらは一見それに相対する様に布陣して見せる。こちらの軍隊の規模は、それほど大きくない。理由は、占領している各地に分散しているから……と言う事になっている。

 いや、嘘なんだけどね。嘘ってのは言い過ぎか。占領地全域に、コンザウ大陸侵攻軍がばらけているのは確かだ。だが、コンザウ大陸での本拠地であるガナンズ基地を守る部隊だけでも、本当はこの十数倍いるし、それに加えてわたしが連れて来た親衛隊もいる。

 だけど、今ここに布陣しているのはその留守番部隊全体の5%程度か。そして各地から、敵軍の奇襲に驚いて、慌てて軍隊をガナンズ基地へ戻している、と言う嘘の情報をコンザウ大陸の各国に流してもいる。いや、戻さなくても充分な戦力は駐留させてるし。

 そしてわたしの『コンヴェイ・シンキング』の魔法により、わたしの思念が広域に響き渡った。

われは魔王ブレイド・JOKERである。せっかくわれが前線を慰問に訪れたときに攻撃を仕掛けて来るとは、愉快な事をしてくれたな?まあ、貴様らごとき、我が親衛隊だけで充分だ。われの無聊を、その散りざまで慰めるが良い』

 偽装部隊から、動揺の気配が伝わって来る。わたしの超感覚からすれば、相手がほんの少数で、旗指物で数を水増ししているだけだと言うのははっきり判るのだ。

 わざとこの場に持って来た、旧式の火砲が火を噴く。それは過たず敵偽装部隊の端に着弾し、幾人もの敵兵を吹き飛ばした。次々に旧式砲が火を噴き、敵軍を殲滅して行く。わたしはゆっくりと、自軍を前進させた。

 そして、険峻な岩山の脇を、わたしはわざと進軍する。うん、知ってるんだ。この山の上に敵の本隊が伏せてるのを。無理に険しい間道を通った事で、崖から落ちるとかで兵がそこそこの数、損なわれてるらしいが。それでも敵軍の大多数は、無事に現場にたどり着いた模様。

 さあて……。わざと戦列を縦に長く伸ばしてやったんだ。さあ来い。



 そして、ついに来た。

「うおおおぉぉぉっ!! 輝け、我が魔力によりて!! 光の槍よ、我が敵を穿て!! はあらゆる物を貫く!! シャイニイイイィィィング、ジャベリイイイィィィン!!」

 おい。『シャイニング・ジャベリン』の魔法ぐらい無詠唱で使えないのかよ。しかも遅い。しかもあんだけ絶叫して詠唱してるのに、放った光の槍は1本だけかい。

 ま、威力はそこそこか。でも、この魔法は最低威力が保証されてるタイプの魔法だからな。それを考えると、この子供ガキの魔法的能力はたいした事ないんだろう。まあそれでも、旧式火砲に光の槍は着弾して、弾薬に引火して吹き飛んだ。砲手の戦闘ドロイドたちはきちんと脱出できてるけどね。脱出できる様に、坊循はしっかり用意しておいたし。


「てめえが魔王だな!? この化け物野郎め、世界の平和のためにこの俺が、てめえを倒す! いくぞ!」

 うん。カッコつけて片手半剣バスタードソードを右手で片手持ちにして肩に担ぎ、空いた左手でわたしを指差してる。口上の間、周囲を警戒もしないでただ突っ立ってる。

 周囲では、この子供ガキといっしょに山肌を駆け下りて来た敵兵が、わたしの周囲を固めているマッドゴーレム、クレイゴーレム、ストーンゴーレムなどと戦い始めた。敵兵の数はどんどん増える。でもまだ、山の上に大量に居るんだけどね。

 ちなみに『JOKER剣魔国』の軍としては既に時代遅れになっているゴーレム集団だが、今回は被害担当役としてわたしの周囲に配置してある。まあ、そんな時代遅れのゴーレムたちでも、兵士たちからすればかなりの強敵なんだよね。

 そしてわたしは、この子供ガキに問いかける。いや、誰だかわかって言ってるんだが。

「……貴様は何者だ?」

「俺は勇者! てめえを倒すためにこの世界に召喚された、勇者タケル・アカギだ!!」

「そうか。だが貴様ごときが、わたしの相手をできるとでも思っているのか?」

「ぬかせ! てめえの悪行も、俺が来た以上これで終わりだ!」

 そして派手にジャンプして、片手半剣バスタードソードをわたしの頭に振り下ろして来る。アオイくらいの実力があれば、跳躍するのも問題ないとは思うけどさ。この子供ガキじゃあなあ……。

 下手にべば、隙だらけにしかならんよ?いや、その隙に付け込んだりしないけど、さ。

 それにどうせ、すぐに……。



 ギャリィッ!!



 勇者タケルが振り下ろした片手半剣バスタードソードが、鈍い音を立てて打ち返された。無様に地面に転がり、そして慌てて立ち上がる勇者タケル。彼は叫んだ。

「な、誰だ!?」

「……。」

「……。」

「紹介しよう。われの信頼厚き腹心の部下、親衛隊長と親衛隊副長だ。今、貴様の剣撃を防いだのが、親衛隊副長であるぞ?」

 そしてミズホは、仮面の奥から冷たい視線を勇者タケルに向ける。勇者タケルは苛立った様に叫んだ。

「ちっ! まぐれで俺の剣を防いだくらいで、いい気になるなよ!? 見ればこんなクソチビのガキじゃねえか!」

「……見た目で侮られるのは慣れたつもりだけど。だからと言って、ムカつかないわけじゃないのよね」

「!? なんだぁ!? 増してや女かよ! やい魔王! てめえ女のガキの後ろに隠れるなんざ、たいした魔王っぷりだなあ!!」

「くくく、見た目に惑わされるとは、たいした勇者だな。親衛隊長も親衛隊副長も、貴様より年上だぞ? しかも貴様ごとき歯牙にもかけぬ強者だ。」

「なにを……おわっ!?」

 ミズホが自分の片手半剣バスタードソードで斬りつける。勇者タケルは、泡を食って避けた。いや、わざと避けられる様に斬り付けたからな。

「てめえ、人が喋ってる途中……」

「舐めてるの? ここは戦場。馬鹿でしょう、貴方」

「て、てめえ! 女でガキだからって、もう容赦しねえぞ!」

 さて、準備は整った。わたしは右手を高々と挙げ、パチンと指を鳴らした。と、ミズホと勇者タケルを取り囲んで、結界が張られる。

「な、なんだと!? てめえ魔王、何をしやがる! 出しやがれ!」

「貴様が我が親衛隊副長との一騎打ちで勝利する事ができたなら、出してやっても良いぞ? まあ、その様な事は天地がひっくり返っても無いがな。オマケだ、こうしてやろう。」

 そしてわたしは、無詠唱で『グレート・スピーチ』の魔法を行使する。すると天空に巨大なスクリーンが展開され、そこにミズホと勇者タケルの一騎打ちの様子が映し出された。

「これで貴様の無様な敗北が、周囲一帯に知らしめられると言うわけだ。さあ、親衛隊副長。そいつを片付けてしまえ。できるだけそいつが無様を晒す様に、な?」

「く、俺がこんなクソチビメスガキに負けるわきゃ無ぇだろ! くそ、覚えてやがれ魔王!」

 わたしはその言葉を黙殺し、この子供ガキと兵士たちが駆け下りて来た山を見上げる。うん、阿鼻叫喚。岩の隙間とかから死の霧ガストとか亡霊スペクターとか霊体系の不死怪物アンデッドが次々に湧き出て来てるんだ。その中央に居て、『ダーク・ヴェール』の魔法を行使してるのは勿論鉄之丞だった。

 そう、この山は既に鉄之丞と死霊軍団が伏兵してたんだよね。更に実体のある不死怪物アンデッドたちが、迂回したり一部の者は空飛んで、敵軍の後背に回り込んでいる。うん、敵軍は完全に罠にかかってくれた。

 敵の本隊は死霊軍団よりも多いんだが、『ダーク・ヴェール』の中で不死怪物アンデッドに勝てるほど強くない。このまま討ち減らされて、終わりだね。あ、バルサンド将軍を鉄之丞が捕まえて、生気を吸ってエナジードレインしてる。経験は無いけれど、あれは苦しいらしいね。

 更にわたしの幻影系魔法で周辺の岩などに化けていた、ゼロ率いる魔像軍団の装甲兵員輸送車や装甲車、戦車、自走砲、歩兵その他諸々が偽装を解除して、整然と隊列を組む。勇者の子供ガキと共に山を駆け下りて来た兵士は、たぶん精鋭部隊だったんだろうけどね……。

 今まで旧式ゴーレムと戦っていたそいつらは、絶望の表情を顔面に貼り付けている。自分たちが詰んだ事を理解するぐらいの頭はあるんだろう。流石精鋭部隊だ。

「さて、と。」

 視線をミズホ対勇者に戻した。まだ勝負は始まって無い。いや、終わってるとも言えるが。ミズホにこの子供ガキが勝てるはずもないんだよね。

 それにこの子供ガキは、周囲の様子を理解してないと言うか、見ようともしてない。憎々し気にミズホを睨み付けてる。と、その顔がニヤリとだらしない笑みを浮かべた。たぶんカッコイイ自分のカッコイイ活躍で、カッコ良く自軍が勝つ事でも夢想してるんだろうな。

 そして、新旧の勇者は、戦いを開始した。
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