召喚魔王様がんばる

雑草弁士

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第102話 魔王様と苦悩する王

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 ちょっと前に、コンザウ大陸のガナンズ基地に作戦のため来たばかりだと言うのに、こんな早くまた来る事になるとは、思ってなかったね。わたし、アオイ、ミズホはバルゾラ大陸の本部基地をザウエルに任せ、ガナンズ基地まで『ゲート』の魔法陣を使ってやって来た。

 ちなみに前回は親衛隊全部隊を引き連れてやって来たのだが、今回は特に精鋭の古参戦闘ドロイド20体ばかりを連れて来ている。今回は基本、戦いのためではなく交渉のために来たんだから、それで構わないのだ。他の護衛は、現地にいる魔獣軍団、死霊軍団、魔像軍団から出してもらう。

 なお、魔竜軍団のオルトラムゥからも何体か魔竜を出そうか、と尋ねられた。けれど今回は、相手をあまり威圧しても意味が無いので、オルトラムゥには感謝の意だけ伝えて断っている。

 そう、わたしは今回交渉のためにガナンズ基地までやって来たのだ。交渉相手は『カンザ・アド王国』国王、マードック・ゼン・カンザ・アド三世。通称マードック三世である。

 ちなみにこの交渉を持ち掛けてきたのは向こうである事や、交渉内容が『カンザ・アド王国』の臣従と言うか併合の申し出だから、向こうの王をバルゾラ大陸の本部基地へ呼びつけるべきでは、との意見もあった。だが事が急を要するのと、『ゲート』魔法陣などは信頼できるか分からない相手に使わせるわけには行かないため、当初案の通りガナンズ基地での会見になった。

「魔王様、ようこそガナンズ基地へ。行幸を賜りまして、光栄にございますれば」

『お待ちしており申した。相手方は今日明日には到着の見込みであるとの事でござる』

『魔王様、元帥怨霊大将殿の台詞に関係してなんだが。今俺の本体は、ガナンズ基地上空を直属部隊を率いて警戒飛行してるんだがな。相手方の竜車が魔導軍団員の転移魔法で、今しがた基地から4~5kmの地点に出現したのが見えた』

 ガウルグルク、鉄之丞、そして『パペット』の魔法で意識を小さめの魔竜像に移したオルトラムゥが、口々に言った。ちなみにゼロは元帥魔像大将としての仕事、コンザウ大陸南岸の占領地における治安維持の仕事が忙しく、今ここには居ない。

「来たか。ガウルグルク、迎えの部隊を出してくれ。できるだけ見栄えがいいのを選んでね」

「はっ。了解いたしました」

 さあて、マードック三世……いったいどんな人物なんだろうね。とりあえず、今晩はゆっくり休んでもらって、明日会見と行こうか。



 そして今、わたしはガナンズ基地中央会議室の会議机の上座で、下座に自分から座ったマードック三世と向かい合っていた。緊張の色を隠せないマードック三世だが、この会議室の質素さにも驚いている様である。

 わたしの周囲には今、アオイ、ミズホと数体の親衛隊員がいる。あちらの周囲にも第2騎士団から選抜されたと言う腕利きの騎士が4名控えていた。

「ようこそ、マードック・ゼン・カンザ・アド三世殿。一国の王を迎えるに、少々質素すぎる装いの部屋で申し訳ないな。なれど防諜などを考えると、余計な飾り物の類は返って困ると言う物。
 それに空調他の居住性、壁の中に埋め込まれた防御のための装甲など、下手に煌びやかに飾り付けた部屋よりも、金もかかっておるのだ。まあ、飾り付けが無い最大の理由は、質実剛健を好むわれの我儘であるのだがな」

「いえ……。昨晩泊めていただいた部屋も、一見質素な様でありながら温度、湿度など適度に保たれており……。魔王軍、いえ『JOKER剣魔国』の技術の高みを垣間見た気持ちです。魔法によるものか、それとも噂に聞く科学技術とやらによるものなのかは存じませぬが……。」

 いや、魔法なども学問として成立している以上、あれも言葉の意味合いの上からは『科学技術』の一端であるんだがね。というか、全ての学問は『科学』だ。魔法なんかは、魔法が自然における魔力という物の働きを解析して成立しているから、『自然科学』に分類されるし、魔法を使った技術はそう言う観点から見れば『科学技術』の端くれになる。

 まあ、細かい言葉の意味合いに無理に拘る場面でもないな。大事なのは、マードック三世が『科学技術』と言う言葉を使った事だ。アーカル大陸を領有して開発した以上、幾ばくかの情報はコンザウ大陸諸国家にも流れているのは確認している。

 それに以前、我々に反抗的な人類種族の捕虜をコンザウ大陸に送り返したからな。彼らから、バルゾラ大陸、アーカル大陸の発展ぶりと民間にまで広がっている便利な技術について、若干知られていてもおかしくは無いんだ。

 まあ、上っ面の便利さだけは知られていても、その仕組みとかまではわからんだろうが。上下水道とか、発電所や変電所とか、電話網とか。

「それに昨晩出された夕食と、今朝の朝食。あれもとても美味でした。見た目も美しく、貴族や高級軍人でもあれほどの料理は、なかなか食べられる物では……」

「ううむ。感動してもらっているところ、申し訳無いのだが。われが質実剛健を好むと言うのは嘘では無いのだよ。昨晩と今朝の料理は、確かに手は抜かずに用意させた物ではある。しかし普通に我が兵士たちも、盛り付けは別で思い切り雑だが、同じものを食べておる。
 ああ、無論われや高級軍人たちも、同じく調理された物を食しておるぞ?特別なものが食べたくば、今宵の宴会まで待たれよ。料理長シェフらも、張り切っておるでな」

「あ、あの料理が普通の兵士たちも食べられるのですと!? しかも魔王様も同じものを食しておられると!」

「安価で、美味しく、安全な食材を、我が『JOKER剣魔国』では可能な限り末端の国民にまで行き届く様に、苦心しておる。また、調理法も同じく様々な手段を使って広めておるからのう」

 うん、テレビやラジオで料理番組……料理勝負とか高級料理の値段当てとかじゃなく、安価で美味しい料理のレシピや調理のコツを教える番組の方だが、それを放送する様になって久しい。その努力の甲斐あって、バルゾラ大陸でもアーカル大陸でも一般の家庭で美味しくて栄養のあるご飯が、食卓に並ぶ様になった。

 閑話休題それはともかく、わたしの言葉を聞いてマードック三世は愕然とした表情になる。何と言うか、敗北感の様な物を感じさせる顔だった。だが、それでも安堵の気配も見える。

「……予想以上ですな。わたしたちはアーカル大陸の様子を、解放され帰還してきた者たちから聞き取り調査を行ったり、密貿易を行っている者から情報を得たりしておりましたが。しかし一般の民の口にまで、あの様な料理が入るほどとは。
 違う、違い過ぎる。わたしも民を思う気持ちでは、負けていない、そのつもりでした。しかし、そのつもりでしか無かった……。民のため、父に倣い『リューム・ナアド神聖国』は『神教』への喜捨……実質は上納金ですが、それを王家の財物を処分して捻出しもしました。困窮する民に負担をかけぬために。
 なれど、第1騎士団長バウルスの様な者の勝手を許し、その試みも水泡に帰しました。それ以後、水面下で民のために隣国より食料輸入量を増やすべく動いたりもしましたが。いずれの試みも……」

 密貿易は、実は『JOKER剣魔国』政府の制御下で、あまり派手にならない様にやらせてるんだよね。いや、無理にやめさせても止まるもんじゃないし。だからこちらの諜報に協力させて、その見返りとして黙認してる。ただ、旧態依然とした帆船だけ使わせて、動力船は使わない様にさせてるけどね。

 荷もあまり高度な物品はやめさせて、陶磁器や硬貨、ガラス製品や大量生産した絹や木綿とかを持っていかせてる。そしてコンザウ大陸からは金銀プラチナや粗銅、粗鉄、そんな物を得ているんだよね。

 それは置いといて。わたしはマードック三世を慰める。

「いや、貴殿の置かれた立場は、あまりにも初期条件が悪すぎる。それをどうにかしようと言うならば、われの如く圧倒的な能力ちからなり知識なりがどうしても必要だ。あまり気に病まぬことだ」

「ありがとうございます……。魔王様、わたしが送らせていただいた親書に記した通り、我々は『JOKER剣魔国』に降ろうと考えております。その代わりと言っては何ですが、どうか我が国民……今後は魔王様の民となる、現『カンザ・アド王国』の民人をお救いくださいませ。
 我々は、アーカル大陸において当代の魔王様が、先代魔王とは異なる方針で占領地を経営している事を知り申した。民人から搾取するどころか民の暮らしを支援している。病の者は病院と呼ばれる施設で安価に治療を受けられる。道では自動車なる馬や竜などに牽かれぬ荷車が大量の物資を足りぬ所へと運ぶ。人々は笑顔でいきいきと暮らしている。
 最初は信じられなかった……。だが調べれば調べるほど、嘘だとは思えなくなる……。わたしが望んでいた、民の笑顔がそこにある……。わたしの国ではない、魔王軍に蹂躙されたと聞かされるアーカル大陸で……。」

 そしてマードック三世は、力なく肩を落とす。かける言葉が、わたしには無かった。
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