召喚魔王様がんばる

雑草弁士

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第112話 ちょっと待て、まだ死ぬには早い

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 天空に向けて、白色に塗られたロケットが炎を噴いて飛び上がって行く。これは成功か? そう思ったとき、ロケットは突然爆発した。大空に炎と爆発煙が撒き散らされ、ロケットは粉々になる。

 わたしの周囲を固めている文官6名、そしてアオイとミズホから、『ああー……』と残念そうな声が上がった。うん、わたしは今、本部基地司令室の通話水晶を使って、アーカル大陸の赤道直下にある宇宙基地から打ち上げられたロケット発射実験を見ていたんだ。

「あー、また失敗か……。最初に打ち上げた『アマツミカボシ1型』ロケットは成功したんだけどねー。アレだと超小型の『スクリーマー1号』タイプの衛星しか打ち上げられないから……。
 だけど『アマツミカボシ2型』ロケットは、積載量が上がってるから色々なタイプの衛星を打ち上げられるんだが……」

「『2型』ロケットは成功率低い。3回打ち上げて2回成功1回失敗じゃあ困る」

 アオイが言った通り、成功率が2/3じゃあなあ……。可能な限り10割に近い成功率で、打ち上げないと。まだ実験段階だから、『アマツミカボシ2型』打ち上げでは本番用の高い人工衛星は載せてない。

 載せてたのは『スクリーマー2号』タイプと言って、『スクリーマー1号』と同じく、軌道に乗ったらひたすら電波を発信して『ここにいるぞー』って叫び続けるだけの代物だ。野球ボール程度でごく短寿命の『スクリーマー1号』と違い、サイズは本番用衛星と同じだけどさ。

 でも、打ち上げの成功率が66.67%しか無いんじゃあ、ちょっとね。さて、ちょっと通話水晶使って連絡しないと。わたしは通話水晶の回線をロケットの打ち上げ基地に繋いだ。がっくりと落ち込んでいる、魔族の主任技術者や部下の土妖精、森妖精などが、映像に映し出される。

「こちらバルゾラ大陸本部基地司令室、魔王ブレイド・JOKERだ。」

『……はっ!? は、ははっ!! 魔王様!! こ、此度の打ち上げ失敗、全てはわたくしめの責任でございますれば! どうかわたくしめの、そっ首ひとつで部下たちは御赦おゆるしくださいま……』

「待て待て、待つが良い。わたしがわざわざ連絡したのは、貴官らを制止めるためだ。
 此度の責任を感じると言うならば。ならば此度の失敗の原因を調査し、次回に活かすが良い。わたしは怒ってはおらぬからな。宇宙ロケットの打ち上げは、満足な打ち上げ成功率になるまでは、幾度も幾度も失敗して然るべきなのだ。
 わかったな?わかったなら、おのれの首元に突き付けている短刀を下ろすが良い。貴官に死なれては、此度の経験を次回に活かす事が出来ぬだけでは無い。ようやく練度が上がってきた主任技術者を失っては、宇宙計画が遅れてしまうではないか。そうであろう?」

『は……。は、ははっ!! なんと寛大な!』

 うん、何かあるとすぐに責任感じて自害しようとしたりするのは、どうにかならんかね。忠誠心が高いのはいいんだが。

「うむ。宇宙ロケットの実験は、何度も失敗しての試行錯誤は付き物なのだ。気に病んだりするよりは、資料やロケットの残骸をチェックし、今回の失敗原因を突き止めて、今後造られるロケットをより完璧な物にするのだ。
 良いな?」

『はっ! 了解いたしました!』

 なんとか分かってくれたか。わたしは大きく溜息を吐いて、敬礼と答礼をもって通信を終了する。アオイとミズホが、話しかけて来た。

「大変ね、魔王様も。わたしの直属部下は戦闘ドロイドたちだから、自害騒ぎは無いけど……」

「前にも切腹騒ぎとか色々ありましたからねー」

「うん……。困ったもんだよね」

 わたしは手元の報告書をめくる。そこには様々な取るに足らない失敗で自害騒ぎを起こした面々についての報告が書かれていた。

「これまで自害に成功したのが1件だけあるんだよね。あれは痛恨だったなあ……。」

「魔王様、たしかその時は訓示をしたのよね。死を命じる必要があるときは、魔王様が命じるから、勝手に死ぬなって。いかに忠誠心の顕れと言えど、次々に人材が死なれちゃこまるって、分かって無いよね」

「あの時は、後任人事で大変でしたねー。科学技術庁兵器開発局の局長でしたか」

 そうなんだよ。飛行機が設計ミスで墜落事故起こしたんだけど、パイロットは脱出して機体も人家が無いところに落ちたから、特に問題なかったんだけどね、こちらとしては。それなのに責任を感じた局長が、自害に成功しちゃったんだ。

 替えが無い人材だったのもあるけれど、仕方ないから何とか後任を決めて新局長やらせたんだけどね。当然仕事の引継ぎとかしてないから、兵器開発局はしばらく混乱したんだ。困った事に。

「また、もう一度訓示する必要があるかな」

「わたしも同意する」

「そうですね。下手に死なれるとより一層の迷惑をかけるって理解してもらわないと」

「それと事故調査委員会を立ち上げて、今回のロケット爆発の原因調査させないとなあ。このままじゃ、『アマツミカボシ2型』は使えないよ」

 そして『アマツミカボシ2型』が何とかなったら、『アマツミカボシ3型』造ってパイロット乗せるタイプの宇宙カプセル……は、まだ早いか。それより先に、犬や猿だな。生き物をカプセルに乗せて、軌道上に乗せなきゃ。

 あと、それを無線操縦で大気圏再突入させて地上に降下させるようにしないとね。生き物を無事に打ち上げて戻ってこさせる事ができれば、次はいよいよパイロット乗せての打ち上げだ。その次は宇宙遊泳EVA実験。

 あの夜空の月に魔物や人類を送り込めるのは、何時になるかなあ。……あと何回、自害を制止めればいいのかなあ。
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