異世界ゴーレム浪漫譚

半田圭

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第4章<光と影の激突>編

143話「俺は、俺だ」

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「ブラッドチャージ。」
   
    ミネルバは四肢を切断した際にしてしまった出血を、魔力を血に変換する魔術「ブラッドチャージ」によって補う。
    これによって彼女は万全な状態に戻り、ガオレオとリコの奮闘の結果はふりだしに戻った。

「残念だけど、センジュは帰ってこないわよ。この身体の主導権は完全に私が取り返したのだもの。リコちゃん?私はセンジュの中から見ていたわ……センジュが貴方の弟を殺す所をね。酷い女だと思うわ……品性も道徳心も持ち合わせていない邪悪な女よ。」
 
「それ、貴方が言うの……?」

「ふふふ……私はただ生きたいだけなの。」

「生きて何をするんだ?」

    ガオレオの質問に対してミネルバはこう答える。

「世界は広いのよ。それがワケの分からない事で終わらされて……でもこの世界は楽しいじゃない?魔術がある。モンスターがいる。そうなればやれる事、やりたい事はたくさん思いつくもの。それを謳歌したい……ただそれだけなの。」

「……そうね。魔術には無限の可能性があるわ。その恩恵を受けて私は今日まで生きてきたのだもの。」

「分かってくれた?魔術師の貴方なら分かってくれると信じてたわ。」

    リコが自分に共感してくれた事でミネルバはご機嫌になる。
    だが、そんな余裕そうな彼女に対してリコはこの間際にある事を画策していた。

「火の魔術は便利よね。火があれば寒い時に暖を取れるもの。人が活動するには水がないといけないから水の魔術も便利だわ。氷の魔術によって作られた魔道具のクーラーボックスっていうのはお肉や野菜を長期保管するのにとても役立ってるわ。そして……雷の魔術。」

「……?」

    リコの話を聞いていたミネルバとガオレオは、彼女の視線が僅かに動いた事に気づいた。
    それを見て彼女の意思を汲み取ったガオレオは、彼女が自分と同じ事を考えていた事を理解する……センジュの人格を戻す為のその「作戦」を……。

「リコ!来い!」

「ファイブサンダーバレット!」

「ウィンドナックル!」 

ビュオォォォ!

    右手を突き上げ、右手に風を纏わせるガオレオ。
    その右手に狙いを定めて5つのサンダーバレットを放つリコ。
    サンダーバレットは吸い寄せられるかのようにガオレオの右手に飛んでいき……

バチバチバチィィィッ!!
 
    雷の弾丸がガオレオの右手を覆う風とぶつかり激しい音を立てる。

「何……!?」

    ガオレオとリコの突然の行動に困惑するミネルバ。
    彼女が見たのは、右手に雷の力を纏うガオレオの姿だった。

「ぐ……ぐぉぉ……!」

    ガオレオが右手に纏った雷の力は彼自身にも影響を及ぼしており、右手に走る雷の感覚に苦痛の声をあげる。
    だがそれは彼にとって覚悟の上だった。
    これこそがセンジュの人格を呼び覚まさせる方法……言うなれば「電気ショック作戦」なのだ。  

「まさか……貴方達……ふふ、面白いわね!やってみなさい!」  
 
「おう……じゃあやらせてもらうぜ……!」  
 
    風が吹き荒れる中心地で互いに睨み合うガオレオとミネルバ。
    互いに攻撃のタイミングを探り合い、動くべき適切なタイミングを待っている……その間もガオレオは雷魔術の痛みに耐えている。
 
    そして、最初に動いたのは……

「バインドチェーン!」

    最初に動いたのはリコだった。
    彼女は先程と同様拘束魔術でミネルバを拘束しようと杖を振りかざし、バインドチェーンを発動する。

     ジャララララララ!

「もう喰らわないわよ!」

    それを軽やかな身のこなしで回避しガオレオに接近し、ガオレオ自身もまたミネルバに接近する。
    そして雷を纏った右手を振り上げ……

「喰らいやがれぇぇぇ!!」

    猛々しい声をあげながらガオレオは拳を突き出し、それに対してミネルバは右手のレイピアと左手の鎌を交差して防御しようとしたが……

ガキィンッ!

    ガオレオの拳は2つの武器によって止める事はできた……しかし、彼が右手に纏っていた雷の魔術が武器を伝ってミネルバの身体に伝播し……

「あ……あぁぁぁぁあ……が……!」

    ミネルバは苦痛の声をあげる。
    ガオレオとリコの思惑通り、ミネルバの身体に電流を流す事に成功したのだ。
     
「ぐぁ……アジな真似を……ッ!?」

    危機を察知したミネルバはガオレオに反撃を繰り出そうとするが、その時彼女を、頭が割れてしまうかのような激しい頭痛が襲う。

「ぁ……ぃ……っあ……!!」
 
    苦しそうな表情を浮かべて頭を抑えながらフラフラとふるミネルバ。
    彼女の中では、雷属性魔術の衝撃によってセンジュの人格が刺激され、それがミネルバの意識を打ち破って出てこようとしていたのだ。

「いけたか……?」

「……!!」

    ミネルバの様態を見て、センジュが戻ってくる事を祈るしかできないガオレオとリコ。

「出てくるな……出てこないで……」

―嫌だね。ミネルバだか誰だか知らねぇが……私は私だ!悪の戦士センジュだ!これだけは誰にも譲らねぇ!除け……クソアマがぁ!!―

    センジュの意識はミネルバの身体の中でだんだんと膨れ上がっていき、ミネルバにはもはやそれを抑えられる事などできずにいた。
    そして、ミネルバの奮闘も虚しく……

「出てくるな……私の……私のぉぉぉぉぉおおお、俺は俺だぁぁぁ!!」

    ついにミネルバの人格を打ち破り、センジュの人格が蘇った。
    センジュはおぼつかない足でなんとか体制を立て直しつつ、ガオレオとリコを鋭い圧を放ちながら睨みつける。

「……よぉ。」

    復活した直後、ガオレオとリコを睨みつけるギラついた視線はまさに狂戦士センジュのそれだった。
    
「センジュ……!」

「やった……これで、仇が取れる!」

    センジュが戻ってきた事で、ついに彼女の復活を成し遂げたのだとガオレオとリコは確信した。

「仇かぁ!!いいねぇ!!リコ……いつかの約束覚えてるか?あの時より多少マシになったお前らを……」

「こっちこそお前に言いてぇ事がある。トーゴの仇を……」

「弟を殺した貴方を……」



「「「殺す!!!!」」」

ドガガガガガァッッッ!!
ビュオォォォォッッッ!!

    三者、それぞれ覚悟は完了した。
    迸る稲妻を放つ本気状態「雷神具猛怒」となったセンジュと、荒ぶる猛風を纏う本気状態「大風雲猛怒」となり、さらにティアマトの子としての真の姿……顔も体も獣のような出で立ちの「ワイルドファング」へと変身したガオレオは互いに睨み合う。

「パワーブースト!スピードブースト!エレメントブースト!」  

    さらにリコは筋力強化魔術「パワーブースト」、速力強化魔術「スピードブースト」、属性魔術強化魔術「エレメントブースト」をガオレオに施し、彼の力は限界以上……120パーセントの状態になった。

「おぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「がぁぁぁぁぁぁ!!!!」

    瞬間、ガオレオとセンジュ両者が立っていた場所から消え去ったかと思った直後、2人は戦場の中心で風式と拳をぶつけていた。

ギィィィィィン!!

「へっ……!」

「くひひ……!」

    さらに両者は互いの武器を激しくぶつけ合い、自身の体から溢れ出す余剰魔力を辺り一面に撒き散らし、周囲は風が吹き荒れ雷が轟く。

ガガガギギギギギギギィィィ!!

   お互い、負けられない理由は存分にあった。
    親のいないティアマトの子として孤児院で育てられたガオレオは、1人で生きていくという覚悟と強さ、そして自分と同じ境遇の子供達と過ごしてきた事で人を思いやる優しさを持っていた。

    そんな彼だから影の一味がいっそう許せなかったのだ。
    元から親などいなかった自分と違い、孤児院の子供達は親を失ってしまい孤独の身となった……影の一味の侵略が進めばそういう子供達が増えてしまうのは目に見えている。

    それを阻止する為に、ガオレオは冒険者の誇りと使命を全うする事にしたのだった。
    

    センジュは闇のティアマトによって狂死郎の目的を達成する為のピースとして生み出さた。
    戦闘特化に調整された彼女は1つの村を滅ぼすなど簡単な事だった。
    抵抗できない村人達に、女子供にすら容赦なく拳を振るった。

    自分こそが真の選ばれし人間だと信じて……この日まで突き進んできた。
    それは決して許されることでは無い、許さてれはいけない行いだった……しかし、彼女には信じるものがあった。

   「悪」だ……彼女は悪の戦士として世界を支配する自分の姿を誇りだと思っていた。
    それこそが自分が歩いていく道だと信じて疑わず、全力でその道を走り抜けた。

    ガオレオとセンジュの信念を込めた一撃同士が激しくぶつかり合い、互いに疲弊していく……この戦いに勝者がいるとしたら、それは相手よりも強い信念を持っている人間だろう。

    それこそが勝者だ。



 __ザシュッ!!

    
「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ……」

「……くひひ」

    勝者の剣は敵を貫いた。
    相手を打ち倒さんという強い信念を持った者、それは……

「ガオレオ!!」

「……へへっ。」

    リコはその名を呼び、彼は満身創痍の身体で笑顔を浮かべて応えた。
    彼の剣……斬月刀・風式は、センジュの身体を貫いていた。
    


   
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