異世界を創って神様になったけど実際は甘くないようです。

ヨルベス

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序章 異世界創造

第7話 大精神の誕生4

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「これで全部揃ったのう」

 卓袱台の上で賑わう大精神達を、彼らの頭上から眺める神様。
 神様の言う通り、ドレイクを最後に大精神は全員揃った……のだが。

「ティアっちのヘソすっげぇ綺麗だなぁ。ちょっと舐めさせてくれよ~」
「ひゃあ~! エクレールちゃんに触られると痺れちゃう~!」
「ハァ……ハァ……ティアっちのヘソたまんねえ。ちょっとだけ! ちょっとだけでいいからさあ! なあ頼むよ~!」
「こらっ、エクレール! 放電しながらティアマトに触れるのは止めなさい!」

 わちゃわちゃと小さな騒動を起こしている大精神達を視界に入れて、妙なわだかまりを抱きながら唸る。
 胸の中で渦巻くわだかまりの正体はこうだ。
 
「足りない……」

 そう。何かが、足りない。
 足りないというのは、大精神達のことだ。

 光、闇、地、海、風、雷、水、炎と、あらゆる属性の大精神を生み出したのに何か物足りない。

「何じゃ、まだ精霊をつくりたいと言うのか?」

 つまりはそういう事になる。
 ただし、どんな大精神を生み出すのかはまだ決まっていない。

「十分に生み出したじゃろう? もうすぐワシは帰らなければならん。どうするか早く決めい」
「わかってるって」

 腕を組み、しばらくうんうんと考え込む。
 あと一体大精神を……といきたいところだが、どんな属性を持った大精神にするか思い付かない。

 あともう少しで思い付きそうな気がするんだが……むう。
 惜しいが諦めるとするか?

「貴方は本当に炎を出せるの?」
「フハハハハハ! 愚問である! 我輩は業火の化身! いくらでも炎を出せるぞ!」
「じゃあ是非見せて頂戴! 貴方の炎が見たいわ!」
「あいわかった! 我輩の業火をその目にしっかりと焼き付かせるがよい!」

 んー……ん?
 なんだろ? ちょっと騒がしいな。

 気が付けば、ドレイクとラシルが打ち解けているのか、何やら楽しげな会話をしている。この組み合わせはちょっと意外かもしれない。
 
 んんっ? ドレイク? なぜ腕を構えているんだ?
 何をし――

「破アァァァッ!!!!」

 野太い声が、甲高く吠え上がって空気を揺るがす。
 それを合図にしてドレイクの掌から出てきたのは、一塊の炎だった。
 
「あ」

 爆裂による爆炎。
 炎はみるみると面積を増やしていき、鼻先まで迫る。

 何が起こったのか反応が遅れてしまい、瞬く間に接近を許す。
 舐めてやろう、と炎が顔の直前まで舌を伸ばし、前髪をちりちりと焦がした。

「熱っ! あっつうぅぅぅぅい!!」

 肌を焦がそうとする熱に、背後にすってんころり。床に背中を強打。
 熱気にやられた顔を抑えてのたうち回った。

 ふぬあぁぁぁぁ! 顔が熱いぃぃぃぃ!

 危ない……あともう少し近かったら火傷を負うところだった。
 お気に入りのジャージも焦げてないよな……?

「凄いわ! まるで花火ね!」
「フハハハハハ! これはほんの一部よ! 次はより盛大なものを見せてやろう!」
「お前らぁっ!!」
 
 悪びれる様子もなく、ドレイクはまたも炎を繰り出そうとする。だがすぐに他の大精神に止められたようだ。

 全く、危ない事しやがって。火事にならなくて済んだから良かったものを。
 うわっ、髪の毛が燃えてちょっと短くなってる。最悪だ……。

「……大丈夫そうじゃの」
「じゃなかったら今頃ミディアムかレアに仕上がってるよ」

 心配する神様の呼び掛けにいまいち感情がこもっていない。悪態をついているのを読み取って、無事と判断したからだろう。

 あー、疲れた……。
 バイトの分が積み重なっているから余計に眠たい。身体を起こすのも面倒だ。
 もういっそこのまま眠ってやろうか……。

「お……?」

 大の字、仰向けのまま見上げていると、カーテンの間から差し込む乳白色の光が視界に入ってきた。

 月だ。
 
 完全な円弧を描いた満月で、静寂な夜をより明るく照らしている。
 それはあたかも今日日きょうびストレスを抱えた社会人達の心を癒してくれる淡い光だった。

「……綺麗だな」

 月を仰ぎながら、ついそんな感想をこぼしてしまう。
 夜空を見上げるロマンチックも、綺麗と言うセンチメンタリズムも無いと思っていたが、意外にも見とれてしまう自分がいた。

 月……月光……ん?

「これだぁぁぁぁっ!!」

 閃きが走る。それに連動するように身を跳ね起こした。
 大精神の何人かがびっくりしたらしく、何事かとこっちを見ていた。

「な、なんじゃい……」
「月だ! 月だよ!」
「月じゃと……ああそうじゃの。今日は満月の日じゃったの」
「違う違う! そうじゃなくて大精神だよ! 月の大精神!」
「月の……精霊じゃと?」
「そう! 月の大精神を創るんだよ!」

 月。地球の周辺をついて回る衛星。
 己の存在を見せつけるように夜を照らし、その輝きは時の皇帝を狂人に変えたという逸話を残す星でもある。

「月か。ソールと対照的かもしれんのう」

 神様がしみじみと白髭をさする。

 ソールは日光の大精神。言わば太陽の化身だ。
 太陽と月。陽と陰。昼と夜を照らす光。これから生み出す大精神とは確かに対照的だろう。

 そう思うと、ちょっと期待が高まってくる。最後の大精神がどんな姿で生まれるんだろうかと。

 月の大精神って言うからには、あの満月のように綺麗でかなりの美人な大精神にしよう。ドネルにしっかりとイメージを込めてな。

 まだ余っているドネルを取り、最後の大精神の創造に取り掛かる。
 目を閉じ、ねたドネルに思いを込める。
 
(月の大精神……月と月光の化身……)

 トールキンの夜を、淡麗の輝きで抱擁する陰の光……。

(出てこい……!)

 手の中でドネルが形を変えていき、新しい姿への準備を始める。月の大精神の生まれる時が近付く。

「完成だ!」

 手を撫でる小さな感触は、ドネルが新しい姿へ変わった証拠だ。

 月の大精神の誕生。
 新たな出会いに胸を踊らせ、期待を馳せながら自分の手をゆっくりと退けた。
 アンブラを除く大精神達も、静観してこの瞬間を見守っていた。

 最後の大精神は銀色に雪を溶かしたような髪を腰まで伸ばし、とても瑞々しく滑らかな肌を持っていた。
 彼女は眠り姫のように静かに眠っている。

 ……美しい。彼女の眠る横顔がなんて美しいことか。

 自分が生み出したのに、息を漏らしてしまいそうになる。
 全ての女性を見てきた訳じゃないけど、誰よりも美しく見えた。

 まさに美の女神。
 彼女の美しさは人類の比でなく、神としての域に達しているようにも思える。

 長い睫毛を添えたまぶたがぴくりと動く。月の大精神が目覚めるようだ。

「――――――」

 切れの長い目がゆっくりと見開き、初めての世界をその儚く美しい瞳に映す。
 
 なんて綺麗な目だ。
 一切の濁りを含まない瞳はどの輝石にも劣らない。いや、彼女の方が断然勝っているとも言っていい。そもそも比べるのがおかしいくらいだ。

 新たな大精神はその瞳で辺りを見回し、ゆっくりと身体を起こした。

 やばい。なんというエロス。

 きめ細かい肌を多く露出している服装は何と肉体と一体化しており、ほとんどボディペイントに見える。一応服らしさはあるけど、それだけに魅惑的な肢体を豪華に主張していた。

 圧倒的な美貌。
 胸は綺麗な形を描き、腰は流れるようにくびれ、脚はすらりと細長く。きっと人類の知らない黄金比が彼女の肢体に存在しているのかもしれない。

 女性型の大精神の中でも、彼女の容姿端麗さは追随を許さなかった。
 洗練したプロポーションが目の前に立ちはだかる。

「――ねぇ」 
「は、はひぃ! いや……」

 涼やかなハープの声音が呼びかけ、身体が自然とかしこまってしまう。何やってんだ俺……。

 無垢でありながらもどこか艶やかさを感じさせる視線が見上げる。あれに見つめられると、魅入ってしまいそうだ。
 加えて異性との付き合いの乏しさが災いして、胸の鼓動を加速させる。歳上のお姉さんに声をかけられた気分だ。

「ここは……どこなのかしら? 教えてくれると助かるのだけれど」

 月の大精神が周囲を再び見渡し、己がいるこの世界を尋ねる。身体を動かす度に胸がたゆんと揺れ動いた。

 くっ、動作がいちいちエロティシズムだ。顔がかあっと熱を帯びてきているのがわかる。
 お、落ち着くんだ俺……大精神は俺が生み出したトールキンの精霊。いわば子供のようでもあるから、落ち着いて話すんだ。

「こ、ここは俺の部屋だ。俺はオリジン。お前を生み出した創造主だよ」

 彼女の美貌が生み出す魔力に惑わされつつも何とか冷静に話しかける。

「お前に名を与えよう。お前の名は……マーニだ」

 生まれたばかりの最後の大精神に向かい、彼女に初めての祝福を与える。

 マーニ。
 北欧神話に登場する月の神の名前で、太陽の神ソールの弟の名前だ。
 男神の名前であるが、同じく光に属するソールの妹という意味を込めてこの名前にしてみた。
 姿は似てないけど、姉妹らしく仲良くなれるといいな。

「わかったわ。ありがとう、お父様」
「お、お父様っ?」

 お父様って……確かにコイツにとって俺は父親のようなものだが、その呼び名で呼ばれる歳じゃないから妙な感覚だ。
 でも父性本能をくすぐられて、これはこれで悪くないかも。

「どうかしたかしら?」
「い、いや、なんでもないっ。よろしく頼む。わからない事があれば何でも聞いてくれ」
「そうするわ」

 慣れない呼び名に戸惑い、ぎこちなく体裁を取り繕いながらも彼女に言葉を返す。マーニはそれに応じると、瞬きを送ってきた。
 その笑顔が生み出す魔力に心を射られる感覚に襲われ、身体が熱を帯びるのを感じた。

 い、いかんいかんっ。このままだと彼女の美貌に堕ちて威厳が無くなってしまいそうだ。
 もしかしたら俺はとんでもない大精神を生み出したのかもしれない。

 それからマーニは傍で誕生を見ていた大精神達に囲まれ、各々の歓迎を受けた。
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