13 / 109
序章 異世界創造
第11話 シンジの異世界転移
しおりを挟む小さい頃の俺はどこにでもいる普通の子供だった。
ごく普通に遊び、ごく普通に勉強をする。
小学校の成績はそこそこだけど、頑張ればそれなりの結果は出ていた。
時にはスリルを求めて危ない遊びをして、時にはくだらないことで喧嘩をして。
喜び、怒り、哀しみ、楽しみ……いろんな思い出があったけれど、それはそれで当時の俺は幸福に満ち溢れていたと思う。
……だけど、だんだん大人へ成長するにつれて俺の人生はつまずき始めていく。
俺のつまずきは些細なものだ。
特に何でもない、大したことのないつまずき。
気付かぬ内に俺は他の皆から遅れ始めていた。少しずつ、緩やかに……。
気がついた時には、もう手遅れだった。
変わりゆく環境……将来の目標を作り、道程をしっかりと築く周囲の皆……。
友が、クラスメイトが、少しずつ大人への階段を上ろうとしているのに、俺は特にやりたい事も夢もなかった。
今が楽しければそれで良いと思い続けていた。自由気ままだった。
でもそれは甘い考えだった。間違いだったんだ。
大人になろうとする準備に……しくじっていたんだ……。
人は成長すると、人生には上手く行かない事があるのを経験する。
いわゆる壁とも言えるが、大抵の人間は研鑽し、努力し、それを越えようとするが、俺はそうしなかった。
怖かった。失敗をしてしまう事が。
失敗を犯してしまう事が情けないものだと認識していた……。
だから、なのか。
嫌な事や苦手なものには目を背け、克服することに抵抗を感じるのが当たり前になってしまった。
アニメや小説のような現実離れしたファンタジーに没頭し始めたのはその頃だ。夢中になったのは、上手く行かない現実に辟易していた影響かもしれない。
困難を出来るだけ避け努力することを望まず、だが甘い汁は啜りたい。社会人としての責任がまともに備わっていない奴が真っ当な人生を送れるはずもない……。
待っていたのは、灰色の人生だった。
好調はほとんど無いが、不調は多い色褪せた人生。面白味の薄い人生を現在進行形で送っている。
そしてある時、それをはっきりと理解した。
クソゲー、だとね……。
ライフ・イズ・クソゲー。まさに俺の一生にお似合いの呼称だ。
死ぬように生きるのは簡単だ。すぐに慣れてしまう。
だけど……時々心が痛むことがある。
こんな生き方はもっと嫌だ、と――。
「進児よ……お主は何という事をしてくれたんじゃ……」
様子を見に訪れ、事情を知った神様は、トールキンの内部で起こっている出来事を確認している。神様もさすがに驚愕を隠せない様子だ。
ホログラフィーは、ゲームや映画とはかけ離れた生々しい戦場の光景を映している。冗談ではなく人同士が武器を持って本気の殺し合いを繰り広げていた。
「………………」
最悪の光景を横に、俺はただただ卓袱台の前に座り、戦場から生じる叫喚と鉄のぶつかり合う音を聞き流している。尽きることのない怒号や悲鳴は、映像を通しても鼓膜をびりびりと揺らしてきた。
「なぜ止めなかった!?」
枯れたような声を荒げ、大喝を飛ばしてくる神様。
怒るのも無理はない。顔を知らない、でも確実に何年も生きてきた誰かの命が無駄に潰えたのだから。
ソールに頼まれたあの時に動けば、この結果は回避出来たかもしれない。
事態はもう取り返しがつかなくなっている。何もしてやれない……いや、何もしようとしない俺はただ黙っていることしか出来ない。
「皆本進児!! 答えんかっ!!」
沈黙を貫く俺に、神様は熱を上げたのか胸ぐらを掴み、老人とは思えない腕力で引っ張ってきた。
くぼんだ眼窩から鋭い眼光が飛んでくる。胡散臭そうな雰囲気は全く無い。
目の前にいるのは、畏怖の象徴――神だった。
「っ……痛えな。ジャージが破けるだろ……」
すぐそこにある世界で人が次々と死んでるというのに悲しみも後悔も出てこない。そのうえどうでもいい事を気にしてる、ふざけた自分がいる。感情が、心が、腐敗を始めているのかもしれない。
はは……滑稽だな。今の俺、誰が見ても最悪に最低なんだろうな……。
「お主の罪は重いぞ! 見よ、人同士が長きに渡って戦い続けておる! 無益に殺し合い、死を迎えた者の魂がそこら中から嘆きと憎しみの声をあげておるわ!」
「……こんなの、俺のせいじゃねえよ。あいつが……ソールが言ってたんだ。マーニが戦争を誘発したって。だから俺のせいじゃない。無関係なんだ……」
「お主はこの星の管理者じゃぞ! 行動を起こせば止められたじゃろう! お主の責任でもあるぞ!」
ぎりり、と歯が怒りに軋んだ。
これは俺の責任じゃない。俺のせいじゃないんだ。
「なんじゃと? 皆本進児、お主どういう心積もりじゃ!?」
「管理なんか知るか……! 俺はもう放棄したんだ! トールキンの神は辞めたんだよ!」
「ふざけるでない! お主が何と言おうと、座から離れることはない! この星の神はお主だけじゃ!」
「それでも嫌だ! 神様なんてやるつもりはないんだ!」
ソールがこれを聞いたら、きっとまたショックを受けるんだろうな……。
でも仕方が無かったんだ。苦しい生活で異世界の管理なんてやってられなかったから……っ。
「この……馬鹿者が! 恥を知れ!!」
ひどく呆れた神様は、もうたくさんだと言わんばかりに胸ぐらを離した。
突き飛ばすように離したせいで背中を少し打ってしまった。
「っ……痛……」
「まったく……大陸中そこらで人が争っておる。かなりの規模じゃ。これでは滅亡の道を辿ってしまうぞ。大精神がこれに当たっているが……はて、妙なものが滲み出ておる。これは何じゃ……?」
痛がる俺をよそに神様はトールキンの様子を眺め、眉間に皺を刻んでぶつぶつ言っている。
「これは……このままではいずれ彼らでも手に負えない事態になるかもしれないぞ……」
「はあ……」
話を聞く限りでは不吉なことが起きるらしいが、何もしてやれない無気力な俺は適当に言葉を返すしか出来なった。
だが、しばらくトールキンを凝視していた神様が突然俺を見た。
「仕方ない。かくなる上は……」
「?」
この爺さんはいきなり何を…………ん? んんっ?
身体がおかしい。妙に軽くなっているような……。
「!? なに……わっ、うわっ!」
異変に気付き、常識離れした光景を目の当たりにした。
いつの間にか身体が床から離れ始めていたのだ。
宙に浮いている……! 重力が引っ張るのを止めたみたいだ。
「え!? ええっ!? わっ! 待って! いきなり何!? どうする気だよ!?」
「どうする何も……もう一つの願いを叶えてやろうとしておるのじゃよ。お主が抱いていたもう一つの願いを、のう」
「もう一つ……!? あっ、まさか……!」
トールキンに転移させるつもりか――!
「正解じゃ。良かったの、皆本進児よ。行き掛かりではあるが特別に叶えてやろう。お主は今からトールキンに赴き、お主の手で彼らを救うのじゃ」
それは特別でも何でもないと思う。ただの派遣だ。しかも強制。
「わっ、うわ! やめろ! 離してくれよ! こんな世界、行きたくなんかない!」
「ダメじゃ。駄々をこねるでない」
じたばた暴れて抵抗するも身体は浮いたままで、落ちることも何かに掴まることも出来ない。神様の意思で自由に動かせるらしい。
くっ……逃げられない……!
「なんで俺が行かないといけないんだ!? 何でも出来るアンタが行けば万事解決じゃんか!」
「それでは意味が無い。これはお主が生み出した業じゃ。ならばお主が自分の力でそれを滅しなければならぬ。第一、お主の世界に行ってやる余暇が無いのでの」
「そ、そんなぁ……!」
「事が解決するまで戻ってくるでないぞ」
「戻ってくるなって……俺にどうやって救えって言うんだよ!」
「それは自分で何とかするんじゃな。自分でのう」
すると、足下にあったトールキンが強い輝きを放ち始め、輪を形成する。
生じた光の輪は、人が簡単に入りそうな大きさまで広がってきた。
大きくなった輪の中は何処までも空間があるように見えた。
まさか……俺をこの中に……!?
「さあ――行くがいい」
神様が告げると、それを合図に宙に浮いていた身体が再び重力に引っ張られた。
「わっ!? わっ! うああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――――っ!!」
足場にぶつかる、はずだった。
浮力の拘束から解放された身体は光の中に呑まれ、あり得ない事に落下を続けている。
常識では考えられない現象だ。空間が歪みを起こしているんだ。
不思議なことに、どこまでも続く強い光の中は眩しいと感じることがなく、下から風が吹き上げることもない。
見上げると、顎鬚を撫でながら覗いている神様の姿が小さく――かなり遠ざかっている――映っていた。
「精進せよ、皆本進児。これはお主にとって長く途轍もなく……意味のある旅路となるじゃろう」
見えなくなっていく直前、何か喋っていたようだが耳に届くはずもなかった。
いつ終わるか知り得ない光のトンネルの中で、俺は情けない声を上げながら落ちていく。
希望と期待を持って望んでいたはずの異世界転移。それは思いがけない形で果たされてしまった。
以前なら願ってもない奇跡の機会だったと思う。でも実際は甘くなかった。
いつだったか覚えてないが前の俺はこう言った。
もう一つの現実世界だ、と。
確かにその言葉通りだった。そして、少し誤解をしていたようだ。
文化、思想、宗教、技術、娯楽、生態、生活……環境が異なっても、トールキンは現実であることには変わらない。決してただの架空ではない。
ライトノベルのような都合の良い展開がそう簡単に起こるとは限らない。ここから先にあるのは異なる世界での現実染みた冒険譚だ。
ファンタジーの要素はあれど、生温くない困難が待っているかもしれない……。
ビューティフルか、クソゲーか。
明日の我が身をも知れぬ、皆本進児だけの異世界生活が始まろうとしていた……。
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる