異世界を創って神様になったけど実際は甘くないようです。

ヨルベス

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第一章 出立

第25話 再会、ソールと

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 次に意識が明転した時、そこは光る流れ、、、、の中だった。
 何を言ってるのかわからないとは思うが、今まさに不可思議現象を体験している俺も状況が理解できずにいる。

 周囲は、奥に太陽みたいなぺかーっと光る巨大なものが一つあって、そこから光の奔流が生じて俺の背後へとゆっくり流れている。例えて言えば、光のトンネルか四次元空間と言ったところか。

 光は強いが、不思議なことに眩しいと感じることはない。身体も特に何らかの影響は起こってないようだ。
 けれど、身体はその空間に釘打たれたように留まり続けていて、腕や足を動かすといったことはできても何処かに行くことはできなかった。

 これは一体……現実なのか……?

「創世主オリジン――」

 自分のもの以外に音が生まれない静かな世界に、突然聞き覚えのある声が鐘の音のように響き渡る。
 耳朶を叩くその人物は……何処にも見当たらず。けど変化はすぐに起こった。

「私です。大精神が一柱、ソールです」

 太陽(?)を背に、細かい光の粒子が集まり人の型を形作っていく。シルエットが大きくになるにつれて外見が色を帯び始める。

 目の前で形作られた人型は、女性だ。
 太陽を表した金の飾り、燃えるような双眸、巫女のような恰好……細部に至るまで見覚えのある姿で、誰なのかすぐにわかった。

「おぉっ、お前ソールじゃんっ!」
「久方振りでございます。お変わりなくご清栄でなにより」

 しばらく顔を見てなかったその神物じんぶつは頭を垂れ、丁寧に一礼する。敬意を厚く表した心地良いお辞儀だ。

 そう、こいつは大精神のソール。トールキンの精霊で、日光を司る自然神だ。
 俺が創造した者達の中でも最初に生まれ、変わり者が多い大精神達を纏めて……まあ何とか纏めているリーダー格だ。

 真面目で、しっかり者で、勤勉で……。

「わんわんおっ!」
「ひいっ!?」

 でも犬が苦手という残念な一面もある。この間、マーニと一緒にテレビに映った犬を見て悲鳴を上げてたのは今でもよく覚えている。鳴き真似だけでこのリアクションだ。

「ごめんごめん。冗談だって」
「あああ……我が主よ、そのような悪戯いたずらはお止めに……ぅくっ、記憶がよみがえって……っ」
「ど、どうしたっ?」

 ソールが頭を抱え始め、苦しそうに表情を歪めてしまう。今にも脂汗が滲んできそうだ。
 確か大精神は病気や症状に罹らないはずだが……犬の鳴き真似でどうしてこんなに辛くなれるんだ?


「いやー、よかったよかった。ソールに会えてよかったよ」

 ソールの発作、、が無事に終わり、一時中断してた邂逅が再開する。

 突然トールキンに転移される事になって、何処へ行けばいいのかわからず、モンスターには襲われ、それでも現地の優しい人フィーリに助けられたけど、初めての異世界生活はちょっと不安で心細い思いも抱かずにはいられなかった。
 だからこそ、以前よりもソールが頼もしく見える。

「お前、今まで何処に居たんだ?」
「はい……私は遥か空の上にある地『ソランジュ』に座しております。アンブラが濯いだ魂達を預かり、新しい命を地上に送り続けています」
「ソランジュ……」

 へぇー、空の上にそんな場所があるのか。どういう所なのかちょっと行ってみたくもある。
 どうやらソールもアンブラも、与えた役割をちゃんと果たしてるようだ。

「ちなみにですが、我が主の御目に入れているこの姿は本体ではありません。ソランジュからを送っています」

 あー、以前も使ってた立体映像みたいなアレね。やっぱり光の大精神は便利な能力を持ってるな。

 そういやソールに何か……あっ! 思い出した!

「おい、ソール。お前な、トールキンここの奴から聞いたぞ。お前がソール教って宗教の神様だとか」
「そ、それは……」
「これはどういうつもりだ? オリジンおれは名前すら知られてないのに、お前はめちゃめちゃ崇拝されて、随分偉くなったもんだなあぁ~?」

 ソール教と呼ばれる、いつの間にかあった宗教の件について多少の妬み嫉みを織り交ぜつつ問い詰める。聞かれたソールは、あっという間に苦い表情になった。

「も、申し訳ありません……致し方の無き事なのです……」
「仕方なく神様になったのかあぁ~?」
「ソール教は人間達ヒトの意思で創られました。私めは一切示唆していませんし、『掟』を破るような事もしていません……」
「ふうぅぅぅぅん?」
「うぅ……お許しを……敬虔な者達に崇められているだけなのです……」

 非難の双睨しせんに、ソールは畏まって頭を下げてくる。その姿が上司に怒られて落ち込んでる部下みたいで、なんだか心が痛くなってきた。

 まっ、いいか。ソールが嘘を付いてるようには見えない。仕事もきっちりやってるし、俺より偉い神に成り上がろうとする野心は持ってないようだから許してやるか。

「もういいよ、許すって。そこまで責める気は無かったし、信仰なんて今さらどうにか出来るものじゃないしな」
「お、恐れ入ります……」
「それにしても……トールキンに一体何があったんだ? 戦争はどうなったんだ?」

 尋問から解放されたソールに、胸の内に溜まったままの違和感について尋ねる。
 外側、、から神様に見せられたトールキンの酷い光景を見せられて、直後に転移されちゃったけど……着いた時はもう無くて、フィーリも知らないと言っていた。

 この矛盾は、何がどうすれば起こり得るんだ?

「はい、実は……我が主がトールキンこのほしに送られた際、著しい誤差が生じてしまったのです」
「誤差ぁ?」
「それは時間ときズレ、、です。我が主が訪れる間に起きてしまったのですよ」
「転移中にそんな事が……それで、どのくらいズレたんだ?」
「差は……千年以上、、、、、です」
「千年以上ぉ!?」

 移動した間にそんなに長く過ぎたの!? いくらなんでも開き過ぎじゃない!?

人間ヒトの身を別の時空に送るなど、前例の無い試みだったのでしょう。問題が起こらぬはずがありません」

 そりゃ異世界転移なんて異例中の異例。異世界ファンタジーでもないと滅多に起こりえないし、あの爺さんも転移は初めてだったろうな。

「我が主が五体満足でおられるだけでも有難い事です」
「さらっと恐ろしい事を言うなっ。そう言うお前は何ともないのかよ?」
「私は大精神です。トールキンに属し、人間ヒトとは組成が異なる精霊、、にして自然神であります。ですから時の流れや時空の隔たりによる影響は受けません」
「そうなの……」

 納得できたような、できないような……。
 でも大精神は普通の生き物とは格が違う存在としてつくったから何ともないんだろう。

「これまでトールキンに何があったのか伝えねばなりませんね」
「ああ、頼む」
「では……既にマーニが誘発した人間ヒト同士の戦争は、パンゲアとティアマト両者が引き起こした地異に鎮み、マーニは我々八柱の合意を得て私めとアンブラが永劫の封印を施す事となりました」

 神様に転移され、トールキンに着くまでの出来事を、ソールが威儀を正したような態度で話す。

「地異……?」
「大地を裂き、海を揺るがしたのですよ」

 パンゲアとティアマトが……それはつまり……。

「たくさんの命が、犠牲になったんだな……?」
「はい……事態は著しく、こうするより他の方法はありませんでした。他の大精神もこれに賛同しました。どうかパンゲア達を咎めるようなことは……」
「わかってる……」

 二人を責めるつもりはない。マーニが誘ったとはいえ、人間の暴走を止めてくれた者達をどうして責められようか。

『掟』に人間の命を奪い取る事を禁止するという項目は無い。時に人間がトールキンの害悪になる事もあるからだ。
 だからと言って無闇に人間を一人二人殺しても良いとはならないが。

 パンゲアとティアマトの行動にやり過ぎ感は否めない……けれど、これはトールキンをほったらかした逃避の結果だ。この大きな痛みは創世主である俺が背負うべき業だ。

「大きな傷を負った地上は、一時はひどく痩せ衰えてしまいましたが、辛くも衰亡だけは免れたのです」
「すまんな。お前も、皆も……よくやってくれた。ありがとう。後は何とかするよ。マーニはどこだ?」

 封印されたと言うマーニに会う為に居場所を聞くが、ソールは「それが……」と苦い声を漏らす。

「この長い歳月の間に大精神達が消息を絶ち、アンブラも今年いまより遡ること五十年ほど前に消息が途絶えてしまいました」
「大精神達がいなくなったのか? 何があったんだ?」
「事細かには存じ上げませんが、何者かの手によるところは間違いないかと。ラシルとレシルが風に乗せ、エクレールが雷鳴で伝えてくれましたから」

 誰かが……? あの自然の化身とも言っていい大精神達に何かしたって言うのか?

「そいつは人間なのか?」
「わかりません。いったい誰がどのような手段で大精神を拐わかしたのすらも……」

 なんとも不可思議な話だ。
 これは……トールキンで何かが起ころうとしている……のか?

「結果、アンブラの失踪で封印が弱まり、眠りから覚めて地上に戻ったマーニは再び人を動かし、己が王となって一つの国を治めています」
「あいつ、女王になったのか!?」
「然り。大精神の身で人の王とは愚かしい……」

 知らない間に大精神が行方不明になって、アンブラもいなくなったせいでマーニの封印が弱くなっちゃって、封印から目覚めたマーニがまた勝手なことして今度は女王様になっちゃった、と……。

 あれま、としか言葉が出ない複雑な状況になってるな……。

「お前は……その様子だと大丈夫そうだな」
「地上の何処に居る皆と違い、天上ソランジュに在しているおかげか難を逃れているようです」

 しかし、いなくなった原因が解らない以上、空の上に居るソールもいつまでも安全な状況が続くとは限らない。それは女王になったというマーニも同じくだ。

「時に……地上で夜をお過ごしになった時、何かおかしな事に気付きませんでしたか?」
「おかしな事? あっ……そういや月が無くて、昔【月隠し】ってのが起こったらしいな。あれって、もしかして……」
「ご想像の通り。トールキンほしの周囲を廻っていた月は、その最たる存在であるマーニの力によって、己が国の上空に固定、、したのが真相なのです」
「固定しちゃったの!? そんな事したら色々ヤバくなってない!?」
「そこは問題ありません。我が主の世界と違い、この世界ほしの月は幾分小さく、ただ光る、、だけです。その上トールキンこのほしの環境は我ら大精神の力に守られてます」
「そ、そうなんだー……」

 さすが異世界。環境が似ていても構造が違ってるんだな……。

「マーニの目覚めと時を同じくして地上ではモンスターと呼ばれる異形の存在が跋扈ばっこし始めるように……」

 封印が解けるのと同時期にモンスターが……?
 じゃあなんだ。モンスターが出るようになったのはマーニと関係している? マーニがモンスターを召喚しているってこと?

 んんー……わからないな。どうしてマーニがあんな凶暴で醜悪な見た目をした生き物達を……それもどうやって創っているんだ? ヤツらの元は何だ?

「マーニは何か言ってたか?」
「何度かを送り、問い詰めたのですが……ことごとく『関係無い。知らない』と一蹴されまして……」

 当時の事を思い出したのか、「嘆かわしい……」と愚痴を付け足す。

 その後、結界を張られてマーニに会う事ができなくなったとソールは語る。
 根拠は無いが、俺はマーニがモンスターを創ってるとは思えない。でも彼女じゃないとすれば一体誰が……?

「我が主よ。このままではことわりに歪みが生じ、悠久の果てにトールキンは衰退の一途を辿っていくでしょう……」
「お前らに守られてるんなら、いなくなったのはなおさらマズい事態だな……と言っても、ソールが全部何とかすれば早いんじゃないの?」
「それはなりません。この状況の中、私はソランジュを離れられないのです」
「はあ? どういうことだよ?」
「私には大事な役目があります。ですからどうしても此処を離れる訳にはいきません」
「役目ぇ?」

 あっ、魂の管理か。
 全く……俺の判断がここで裏目に出るとは、あの時の自分を憎むぞ。

「と、とにかく……私はソランジュから離れることができません」
「じゃあどうするんだ? 他に行ってくれる奴にアテあるの?」
「それなら問題ありません。既に居ますとも。それも目の前に、、、、……」
「??」

 なんだかソールがやけに俺の方を凝視してる気がする。
 目の前……?

「我が主――――貴方が赴くのです」
「おー、そうかそうか。なら安心だー」

 これで解決だー………………ん? 

 えっ? うぇっ!? ええぇっ!!?

「お、俺ぇ!?」
「然り。我が主が行くのですよ」
「んな!? 本気で言ってんのかよ!?」

 ソールはまたも「然り」と頷き、とんでもない事を告げた。

「今より我が創世主は七柱の大精神を救い、身勝手な行いを振る舞うマーニに灸を据えるのです」
「オーノーッ! 俺はリージュの街でたくさんの女の子達とフラグ作ってハーレムを築く予定なんだぜ!」
「ダメです。そのような悦楽、貴方には必要の無いものです」
「ひどいっ!」

 異世界に来てるんだから、可愛い女の子達と仲良くなってもいいじゃないかっ!
 それに街の外はモンスターがうようよ居る。危なっかしくて旅なんかやってられるかっ!

「落ち着いて生活できる場所を手に入れたばかりなんだ。絶対に行かないぞ!」

 外出は少ない、インドアの俺を甘く見るなよぉ~っ!

「っ……これはっ!! 貴方のやるべき事なのですっ!!」
「ぅひいっ!?」

 ソールの中で何かが切れたのか、光の空間に怒号を轟かす。
 それはまさしく爆ぜる太陽のフレアを想像させた。

 ガチギレしてんのか……? な、なんで……?

 目を丸くさせつつ――怒号のせいで身体が微かに震えてる――ソールを見やる。
 彼女の表情は、少し前まで遜っていた大精神しもべのものではなく、これまで接してきた時とは違う厳かなものを帯びていた。

 今この時対話しているのは、自分が生み出した生命いのちの一つではなく、異世界トールキンを恵みの光で抱擁することも出来れば灼き焦がすことも容易い、超自然の存在であることを覚えさせた。

「是が非でも行ってもらいます! いいですね?」
「いやっ……お、俺は、その、あのー……」
「い・い・で・す・ねっっっ!!?」

 こ、怖い……っ!!

 眉間に皺を極限まで寄せたソールの顔――小皺っぽいものがぽつぽつ見える――が急激に迫って来る。滲み出る剣幕が凄まじい熱となって焦がしてきそうだ。

「は、はひっ! わかりました……っ」

 もはや脅迫の域とも言っていいソールの頼みに、畏れるように反射的に頷いてしまう。
 お、押し負けてしまった……俺、オリジンなのに……。
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