異世界を創って神様になったけど実際は甘くないようです。

ヨルベス

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第一章 出立

第33話 闇に這うもの

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 地面をクンクンと嗅いでは進むレトを先頭に、テレサと一緒に遺跡の奥へ進む。テレサが捜している薬草――ソカバそうだってさ――は爽やかな匂いを放つそうだが、今のところレトの鼻に引っ掛かってない。

「シンジさんは討伐者だったんですね」
「そうそう。事情あってリージュに居てな。力を付ける為にモンスターの討伐をしてるんだ」
「どおりでこの場所に……おかげで助かりました。シンジさん達が来てくれなかったら私の命はありませんでした……」
「そんなに畏まらなくてもいいよ。俺も落ちたし」

 まさか穴の下に女の子がいるとは予想できなかったなー。できれば空から落ちてきて欲しかったところだ。
 落ちてるところを偶然見つけてはその身を受け止める。そんなシチュエーションでありたかった。

「良かったら理由を聞かせてくれませんか? その、シンジさんが強くなりたい理由を……」

 隣を歩くテレサが、興味ありげに尋ねる。
 理由か。そうだな……暇つぶしに話してみるか。

「詳細は省略するが、パニティア中を廻る事になったんだよ。海の向こうの大陸にも行かなきゃいけなくなってさ。ある人がモンスターをやっつける力を身に付けろって言うから討伐をしてるんだ」
「海の向こうの……? 海の向こうにパニティアと同じ大きな島があるのですか?」
「そうそう。ロンディアってのがあるんだよ。で、まずはパニティアを廻って、いずれは海に出てロンディアに向かうんだ」

 改めて旅の目的を確認すると気が遠くなりそうだ。
 ま、自分が何とかするって言ったんだけどさ。

「――――」

 不意に訪れる沈黙。何処かへと通ずる通路が、来る前の静けさを取り戻した。

 テレサは不自然にも口を閉ざ……いや、ぽかんと張りの良い唇を結びきれないでいる。黙ったままの横顔は、どこか遠くを見る目つきになっていた。

「遥か海の先……」

 ぼそりと呟いた気がしたが、彼女の声はテクテク歩くレトの足音がはっきり聞こえる静寂の中でも捉えることは出来なかった。

「どうかした? 痛いところある?」
「あっ、いえ……少し変わったお話を聞かせてもらったので呆けていまして」
「やっぱり?」
「変わってはいますけど……シンジさんのお話はまるで冒険譚のようです」

 不可解な様子を見せたテレサは、それから何事も無かったように会話を再開する。意外にも彼女は耳心地の良いお伽話を聞いたような所感を投じてくれた。

 やる事が多いだけにその言葉は有難い。けど……。

「それほど良いものじゃないぞ。ぐぅーんと元を辿っていけば俺のせいだし」
「シンジさんのせい? 過ちを犯してしまったのですか?」
「まあそんなところ。どうにも取り返しのつかない、とんでもなく馬鹿デッカいのをな」
「そんなに……?」

 これから始まろうとしている旅路は、冒険譚と言うほど憧憬を抱けるようなものじゃない。これは……創世主オリジンのごく当たり前の行いを放棄したけじめだ。

 あんな……名前を知らない人間達だれかを無意味に散らせてしまった自分の……な。

「……俺はさ、とんでもない大馬鹿者なんだよ」

 皮肉を放った声は、わずかに震えていた。
 何を口走ってんだろ俺……。

「シンジさん……?」

 無論、テレサは聞き逃さなかった。聞き逃せるはずがなかった。
 関係の無い事を吐露した自分に情けなさを抱くも、どうでもよくなる程にあるものが脳裏によみがえる。

 それは自分が招いた出来事あやまち。何度思い出してもあの光景きおくは胸が苦しい。

 何をやってもあの日の償いにはなり得ない。例えどんな事をしても到底取り戻せないのだと思うと、真っ黒な深海の底まで沈むような錯覚を覚える。

 それこそ、この廃れた建物の暗い中に居るみたいに……。

「ごめん、ちょっと嫌な事思い出しちゃってさ。変な空気になっちゃって悪いな」
「いえ……シンジさんは難しい事にぶつかっているのですね。でも――自分の過ちを正そうとするのは素晴らしい心掛けだと思います」

 光のようなひたむきさで響くテレサの声。思いもよらず語りかけてきた言葉に、闇に溶けかけたレトの後について行こうとした身が止まる。

「そう……かな?」
「はい。シンジさんは大馬鹿者なんかじゃないと思います。それだけがシンジさんの全てじゃないと……少なくとも私はそう思いますよ」

 どうして……どうしてテレサはそんな風に言えるのだろうと、しかし確かな事実に辿り着く。

 成行きだったから気付かなかったけど、テレサは俺に命を助けられたから、俺に出来た何かを見ているからこそ、こうして純粋な信頼を向けられるんだ。

「どんな事があってもその気持ちだけは忘れないようにしてください。私、応援してますからっ」

 過去の俺がやらかした事――大昔のトールキンで起こった出来事をテレサは知らない。知ればこの信頼は覆るのかもしれないけど、テレサが放ってくれた今の言葉は冷めてた部分をほんのり温めてくれたような気がした。

「俺に……出来ると思うか?」
「出来ますよ。意志を捨てない限りいつかきっと、です」

 あの時から根付いたやましい意識を撫でるような言葉を言ってのけたテレサは、エールを送るように笑顔を送ってくれた。

 意志を捨てない限り……いつかきっと。

 あまり俺には相応しくない言葉だが、不思議だ。テレサが言ってくれると不思議とやっていけそうだ。

 テレサはさらに言う。

「きっとシンジさんのこと、ソール様はお空の上で見守ってくれていますよ」

 …………あれ? 馴染みのある名前が出てきたぞ?

「もしかしてさ、テレサってソール教の信者なのか?」
「そうですが……?」

 そっかー……テレサもソール教の信者なのかあ。まあパニティアの国教だし変な話でもないか。
 けど少しはオリジンの存在を信じて欲しいな。ちょっと情けない創世主かみさまだけど。

「どうかしましたか?」
「いや……テレサはさ、もし俺がソール……様よりもすごい神様だと言ったら信じるか?」
「神様? シンジさんが? それは信じられない話ですが本当だったら嬉しいですね。神様に助けられた上にお話してるなんて一生の思い出になります」

 もう既に一生の思い出になってるんだよなあ。

「実際にオリジンって名前の神様なんだけど、どう?」
「どうと言われましても……何も変わりない素敵な男の人に見えます。その、オリジンさんですか? 初めて聞きました」

 むう……テレサも俺が神様だとは信じられないか。今ここで魔法を見せてやればその考えを改めるかも。

「じゃあ……おっ?」

 気が付けば辺りは少しだけ明るく、開けた空間に出た。
 高い天井は一部が崩壊し、わずかに外の光が差し込んでいる。ここは広場か?

「キュキュッ? キュー」
「レト?」

 何か見つけたのかレトの様子が変わる。どんどん先へ行き、瓦礫の近くに行ったところで動きを止めた。

「キュッ?」

 瓦礫の陰に向かって、これ? と言いたそうに示す。陰に視線を落とすと、変わり映えした草が何本か生えていた。

「あぁっ、これですっ! これが探してた薬草です!」
「これが……見つかって良かったな」
「はいっ。お二人、、のおかげで見つけることが出来ましたあ……」

 いやー良かった良かった、ソカバ草が見つかって。人一人の命が助かりそうで探した甲斐があった。大体はレトのおかげだが。

「これで村長さんの病気も治せそうです……」

 ソカバ草を見つけ心底から安堵するテレサ。誰かの命を助ける事が叶いそうで、透き通った氷のような瞳は涙を滲ませている。その姿を見て俺にも安堵が伝播したらしい。

 悪態が多いレトだが、今日ぐらいは労ってやろうかな。

「キュ……」
「なんだ、急にどうした?」

 レトの耳がピクリと動き、奥をじっと見つめ出す。

 視線の先からは、のそのそと歩く音が……いや地面を這うような音が近付く。怪しい音を排出する暗闇は、爛々と輝く二つの光を映していた。

 それを真ん中に輪郭を映した黒い塊が現れ、ソーラダイトの光によって確実な姿を現す。

 塊の正体は、大きなコウモリのバケモノだった。

「モンスター……!」
「ああぁ、そんな……っ」

 コウモリの姿をしてる……コイツがダルクハンガーか? 聞いた特徴よりやけに大きい気がするが……あっ、もしかしてコイツが変異体ってやつか!

「シンジさんっ、逃げましょう!」
「そうしたいところだが、コイツが討伐相手みたいなんだよな」

 コウモリの癖に地面を這ってるとは驚いたな。大きい身体のせいで飛べなくなってるんだ。

『ギアァッ!!』

 ぬおっ!? コイツ、地べたを這いずりながら迫って来るぞ! コウモリのくせに意外に地面の上を進むのが速いっ。

「早く離れろっ! 後ろに下がるんだ!」
「あのっ、私も一緒に……」
「いいからっ!」

 テレサを安全な場所に離し、腰から抜いたダガーを煌めかせる。
 雄叫びを上げながら迫るダルクハンガーを魔法の光でム●カ大佐みたいにしてやる――と思いきや、ダルクハンガーの横から突然大きな影が急速に迫ってきた。

「へ――――へぶっ!?」

 急激に襲った影は、ダルクハンガーの翼手だった。
 殴打を見切れなかった俺はモロに受け、地面を転がる石と化す。

 コイツ、強い……! 俺が弱いんじゃなくてこの変異体が強いだけだよな?

「だ、大丈夫ですか……?」
「これくらい大丈夫さ……」

 傍に近寄ったテレサからは労りの視線が。その優しさが嬉しく、そして辛い。
 テレサにカッコいいところ見せたかった……。

 ていうか……レト、お前も戦えよ。なんで一緒に戦ってくれないんだ? フィーリと一緒の時はあんなにも息を合わせて戦ってたじゃないか。

「キュイッ」

 お前も戦えや、と視線を送るが、レトは即座に拒否る。
 あー腹立つー! お前のおかげで薬草見つかった事は忘れてやる! 絶対後悔させてやるからなあ……!

『ギギイイイイィィィィッ!!』
「シンジさんっ! モンスターが来ました……!」

 あっ、ヤベッ! ダルクハンガーが迫ってきたあっ!

「キュッ!」

 這いずり来るダルクハンガーの前に、レトが割って入る。思わぬ横槍に邪魔されたダルクハンガーはしつこく取り付いてくるレトを標的に定め離れていった。

 ナーイスッ! なんだ、やっぱり援護してくれるじゃーん……と思ったら、ダルクハンガーと戦うレトから「仕方ねーから戦ってやるかあ」という雰囲気がひしひしと伝わってきた。腹立つわぁー……。

 けどダルクハンガーの気がレトに行ってる内に態勢を立て直さないと。レトだけじゃ決め手に欠けそうだからな。

「傷が……私が治癒しますっ」
「ほ? テレサは魔術が使えるのか?」
「はい、これしか力添え出来ませんが……」

 これは予想外。回復アイテムが無かったから嬉しい予想外だ。

 テレサが両手を当て、詠唱を行う。発動までの時間はフィーリの時より遅く治癒の量は少ないものの、十分に回復できた。自分に出来ることをやりたい気持ちだけでも有難い。

 回復したのはいいが、あのダルクハンガーを倒すには…………そうだ! スキルの書を使えばいいじゃん!

「キュアッ!!」

 レトがダルクハンガーを相手取ってる傍で、バックパックの中のスキルの書を漁る。役立ちそうなスキルはあるか……?


《スキル》

 『マーベラスヒット』
 ・クリティカルヒットの発動率が100%になる。戦闘終了後、自動で消滅する。


 一冊のスキルの書の効果が、ひどく目を釘付けにしてくれる。
 これだああああぁぁぁぁぁぁぁぁ―――っ!!!

「シンジさん? 何をやってるんですか?」
「アイツを倒す素敵なスパイスを加えるのさ」
「スパイス……?」

 疑問符を浮かべるテレサに細かい事を説明する暇も潰し、引き出したスキルの文字列を身体に押し込む。

 やはり変わった感じは……いや、なんか感覚が冴えてきた気がする……!

「レトっ! 今から行くぞっ!」

 ダガーを片手に、再び接近。それまでレトをいちいち仕留める事の出来なかったダルクハンガーも気付いたようだ。

「おおおおぉぉぉぉーっ!」
『ギギッ……ギャギッ!!』

 またも振り迫る翼をスライディングで回避。翼が頭上すれすれを掠める。
 翼が通り過ぎた直後のダルクハンガーは隙だらけだった。

 スキル『マーベラスヒット』が「ここだ!」と直感を告げる――!

「はあぁ――っ!!」

 自分のものとは思えない動きで、ダガーをダルクハンガーの肉体に埋める。刃が痛快に軌跡を次々と描き、ダルクハンガーがもがき苦しむ。

 おおー怯んでる怯んでるっ! 攻撃全てがクリティカルヒットになってるんだ!
 凄い……この『マーベラスヒット』ってスキル強いよおっ! このスキルがあればどんな強敵も倒せそうだ!

『ギャギッ!!』

 クリティカルヒットの嵐をまともに受け、それでも耐え凌いだらしいダルクハンガーが剣山のような牙列を見せ、喰らい付こうとしてきた――が、それをスキル『ハイジャンプ』で回避。

 喰らい付くはずだったえものが無い事に気付き、どこ行った? といった面白い姿が下方で繰り広げられる。

 隙だらけだ――!

「おうりゃああああぁぁぁぁっ!!」

 ジャンプしてからの落下エネルギーを込め、ダルクハンガーの背中にドズンッとダガーを思いっきり刺突っ!

『ギャギャアアアアァァァァッ!!』

 歪な巨体を貫く重い一撃。暗闇ばかりが占める場を甲高い声が震わせる。
 深く突き刺さったダガーからは体液が溢れ、悶え苦しむダルクハンガーは背中に張り付いた俺を排しようと暴れ始めた。

『ギギャ……!』
「おっと……」

 振り解き、退いたダルクハンガーがまたも口端を裂く。
 もう一度喰らい付くのか――と思いきや、予想は裏切られた。

『ッ――――――!!』

 浴びせてきたのは咆哮ではなかった。空気をビリつかせる程の振動が鼓膜をひどく引っ掻き回す。

「うぐ……!」

 耳が……痛いっ! これは超音波かっ!

「きゃあああああぁぁぁぁ――っ!!」
「っ!?」

 ダルクハンガーが超音波を吐き終えると同時に、テレサの悲鳴が闇に木霊する。彼女の姿は何処にも無かった。

「テレサ? テレサ!? どこだーっ!!」
「キューッ!」

 レトが上を見やって吠える。見上げれば空中で翼を羽ばたかせるダルクハンガーと、その両足に掴まれたテレサの姿があった。
 急に居なくなったんじゃない。ダルクハンガーに捕えられたんだ。

 おいぃぃぃっ!? アイツ飛べないんじゃなかったのかよっ!

「シンジさああぁーんっ!!」

 天井の光一点を目指し上昇するダルクハンガー。
 モンスターに捕えられ助けを呼ぶテレサの表情は、このまま何処かに連れて行かれて殺されるのではないかという恐怖に染まっていた。

「テレサ……!!」

 早く追いかけないと、テレサが攫われてしまう……!

「レトっ! 行くぞっ!」
「キュ? キュウゥッ!?」

 レトの首根っこを掴み、『ハイジャンプ』で跳躍。ダルクハンガーに向かって身体が跳ね上がる。

「シンジさん……っ!」

 どんどん近付くテレサに腕を伸ばす。届…………かないっ!

「シンジさーんっ!!」

 伸ばした手は届かず、あともう少しで助けられるはずだったテレサの姿が遠のいていく。

 逃げられる――――とでも思っていたか?
 こんなのまだ想定内なんだよな、これが――!

「飛んでいけえぇぇぇぇ――っ!!」
「キュオォォォォ――ッ!?」

 離れゆくダルクハンガーを狙って、掴まれた状態のレトをぶん投げる。

「ギュッ!!」
『ギッ!?』

 びたーん! と、大の字になってダルクハンガーに衝突。それから素早い身のこなしでダルクハンガーの頭まで上り詰めていく。

 もうヤケクソ気味になったレトは、ダルクハンガーを噛み付きや爪引っ掻きで蹂躪する。おかげでダルクハンガーの身動きが鈍くなる。相手も落ちないようしつこく粘ってるようだ。

 いいねえいいねえ。そこでしっかり暴れてろよ~。

「今すぐ迎えに行ってやるから…………なっ!!」

 ぐっと地面を踏みしめ、レトに翻弄されるダルクハンガーを目指して再度ジャーンプッ!!

「おりゃああああぁぁぁぁーーっ!!」
『ギャッ!?』

 レトに気取られ油断を晒してたダルクハンガーに、流麗な軌跡が突する――!!


 一刀両断。
 スキルの効果を帯びた刀身が、ダルクハンガーの身を一文字に切り裂く。


『アギィィィィアアアアァァァァ――――ッ!!!!』

 真っ二つになったダルクハンガーが断末魔を吠え上げた。

「俺に掴まれっ!!」

 断末魔を吠えたダルクハンガーからは飛翔が失せていく。重力の手に引っ張られ始めた時、上手いことテレサの身を堅く抱き寄せる。我ながらなかなかの反射神経じゃないか?

「きゃあああぁぁぁぁっ!!」

 風が下から叩き付け、真っ黒に染まった地面が迫る。テレサに怪我などさせまい、と両足を突っ張らせる。

 地面に着地っ――ゴキリッ! と足が盛大に悲鳴を上げる。
 いぃぃぃっっったあぁぁぁぁ……! また足首やっちまったあぁ……!

 遅れて真っ二つになったダルクハンガーが転がり、ただの肉片として沈黙を続ける。息絶えたようだ。

「あの……」
「ん? どうした、テレサ……あっ」

 ダルクハンガーを様子見て、もう襲ってくる気配が無いと察したほっとした矢先、テレサと視線が重なる。覗き合う瞳同士の近さに、ぽっと熱を顔に宿したらしい。

 かっ、顔が近いっ。しかも抱き締めてらあ……。
 足首をやったせいで身体は横に、テレサを上に密着してる状態だ。傍から見れば男女が身を寄せ合って寝てるように見えよう……。

 俺ったらなんて事を……っ! 顔から火が出ちまいそうだ!

「シンジさぁん……っ!」
「おぉっ!?」

 瞳を湿らせたテレサは涙を頬に一筋走らせ、なんと胸に顔を埋めてきたのだ。
 こ、これはっ何事でありまするかっ!?

「お二人、、が助けてくれなかったら、きっと殺されていました……!」

 恐怖を掻き消そうと顔を押し付け、テレサはくすんくすんと泣き始めた。
 泣くのも無理はない。モンスターに攫われて、もしかしたら殺されかけたんだ。普通の女の子ならかなり怖いに決まってる。

「怖かったです……!」

 こういう時、怖がって泣いてる女の子を慰めるには……だ、抱き締めていいんだよな?
 そーっと、そーっと優しく抱き締めて、撫でてあげよう。怯えてる女の子はそうしてあげるのが一番だ。今ならこれくらいやっても嫌がらないはずさ。

「っ……」

 テレサに伸びる自分の腕が震える。漢シンジよ、テレサを抱き締めて撫でまくれぇい……!!

「キュアァッ!!」
「うぎゃあぁぁぁぁっやめろおぉっ!!」
「レトさんっ!?」

 最高さいあくなタイミングで割って入るは、さもご立腹なレト。無造作に掴まれ、投げられ、ぶつけられた恨みを込めた仕返しを仕掛けてきた
 足はまともに使えず、テレサの愛くるしい拘束ほうようを離せなかったせいで頬が千切れかけた。


 負傷けがが治った後も通常個体のダルクハンガーを五対倒し、目標を達成した。
 ソカバ草も無事に手に入れた俺達は遺跡を出て街道まで戻った。

「シンジさん、レトさん……お二人、、には薬草を探してくれたばかりか二度も命を助けてもらいました。感謝してもしきれません……」
「いいっていいって。そういうのはソール……様にでもすればいいさ」
「キュー」

 二度と無いかもしれない幸運に恵まれたテレサは、俺とレトにそれぞれ感謝の意を送る。
 俺も多少ながらテレサに助けられた。魔術で傷を癒してくれたし、テレサが掛けてくれたあの言葉は今でも自分の中で温かく残っている。

 今日は気分が晴れ晴れしい。勇気付けてくれたテレサを助けたからか。

「そういやこの後はどうやって帰るんだ?」
「自分の足で来たので帰りも歩いて行こうと思います」

 と、徒歩だったのか……。
 じゃあテレサはモンスターのうろついてる場所を一人で歩いて来たって事かあ?

「馬車に乗せてもらえれば助かるのですが、あいにくお金は持ち合わせてなくて……」
「よくそれで外をうろついたな……」
「はいぃ……」

 自身の行動を省みて、無謀な行いだったとテレサは軽く落ち込む。
 出来ればココル村まで一緒に行ってあげたいところだが、そこまで遠出するわけには……。

「キュー、キュー」

 足元でお座りしてるレトが、リージュ側の街道の先を示す。地平線から大きな何かが近付くのが見えた。
 あれは……馬車だ! これは運が良い。

 ココル村までテレサを乗せてもらおうと、近付いた馬車を呼び止めた。

「この子を馬車に乗せてくれないか? ココル村の住人なんだ」
「乗りたいのなら180カンド払ってもらうが、それでいいかね?」
「180カンドね……ほら、丁度だ」

 貯めていた所持金から180カンドを御者に渡す。その横で「え……?」と零したのはテレサだった。

「そんなっ! お金を払わなくてもいいですよっ。自分の足で歩けますからっ」
「いや受け取ってくれ。村長がヤバいんだろ? なら少しでも早く帰って治してあげなきゃ」
「でも……」
「これはテレサへの感謝の気持ちだ。それでも受け取れないか?」

 乗るのを一度拒否したテレサは俺からの頼みにどうするか迷い、間を置いてから顔を綻ばせ受け入れてくれた。


「何から何まで助けてくれて……今日は本当にありがとうございます。シンジさんとレトさんに会えて本当に良かったです」

 馬車の背後でテレサがまたも深謝する。そんなに礼しなくていいのに……と思ったが、テレサの様子に少しだけ名残惜しそうな雰囲気を感じた。
 こっちも名残惜しいが、ここは彼女の背中を押してあげよう。

「俺もテレサに会えて良かったよ。無事な姿見せて病気も治してやれ」
「はいっ。あの……シンジさん」
「?」

 インサイドに乗り上がろうとして、テレサが足を止める。まだ伝えたい事があったらしい。

「いつかまた……会いましょうね。近くに来たらぜひココル村に来てください。その時はシンジさん達に恩返しします」
「……っ」

 ブワッ、と暖かい風が駆け巡る。あっという間に雰囲気に駆られてしまった俺は叫ばずにはいられなかった。

「絶対会いに行くっ!!」
「本当ですか? では……人差し指を出していただけますか?」
「人差し指? こうか?」

 訳が分からないまま言う通りに指を出すと……白魚のような手がきゅっと優しく掴む。
 テレサの手は少しだけひんやりしていた。

 な、何事っ? いきなり指をへし折ったりしないよな?

「――約束、です」

 テレサがしてきたそれは約束の誓い。必ず果たすことを運命付ける証だ。
 一方の指をもう一人が優しく握る……少し子供っぽくて可愛げのある光景に俺は見惚れてしまったようだ。

 まるで青春にも思えたひと時は、御者が早く乗れと急かすまで続いた。


「じゃあなー!」

 テレサを乗せた馬車が進み出す。後ろに居たテレサは笑顔を見せ手を振ってくれた。

 馬車が消えるまで見送った俺は、ほっそりした手に握られた余韻を感じながら、小さく映るリージュを目指――

「……えへっ♪」

 すぐそこに、ニヤけ顔を浮かべる金糸、、が一人。

「フィーリ!? 何でここに……!?」

 背後に立っていたのは、ここ最近会う事の少なかったフィーリだった。
 こんな場所に居るなんて微塵も思わず、驚きのあまり全身の毛が逆立ってしまいそうだった。

「見ぃーちゃったー見ぃーちゃったー。シンジったら男の子してたねー」

 うぇっ!? 見られてた……!?

「い、いつから見てたんだ……?」
「遠くからこっそり近付いて見てたけどぉー、『絶対会いに行くっ!!』ってところから見てたよ。レトは途中から気付いてたけどね」

 あああぁ、嘘だあぁ……さっきのやり取り、ずっと見られてたのか……。
 はっ、恥ずかしいっ! 恥ずかしさで頭がフットーしそうだよぉっっ。

「あの子可愛いかったねー。シンジってあんな子が好み?」
「こっ、コココ好みとかそんなんじゃないって! 俺はただ救助してやっただけだっ」
「えー女の子助けたのー? やるじゃーん」

 自分が何を言ってるのかワカンナイ。人助けをしただけなのになんでツンデレみたいな事を言ってるんだオレハ。

「さよならする前に指と指くっ付けちゃってさ、約束してたんでしょー? また会う約束でもしてたのかな?」
「ぐぬぬぅ……もう殺してくれぇ……!」

 顔がぶしゅう~と蒸気を噴き上げる。このまま溶けてしまいたい……。

「あははっ、シンジのカッコイイぃー姿見れちゃった。そろそろ帰ろっか」
「お、おう……」

 未だ晴れぬ羞恥心に熱したまま、フィーリに促される形で一緒にリージュへの帰路に着いた。
 うぅ……まだ顔が熱い……。

「そういえばコンシールちゃんと食べた?」
「うっ!?」

 が、テレサとのやり取りを見られた羞恥心はすぐに晴れる。いや、吹っ飛んだ。
 まずい。もう一個はテレサにあげたんだよなあ……。

「えっ、なにその『うっ』て。もしかして食べてないの?」
「いやいやいや食べた。食べましたともっ。な? な?」
「キュー……キュ?」

 懐疑を含んだ視線の的にされ、ちゃんと食べた(一個)ことを証明してもらおうとするも、レトはもう一個のコンシールがいつの間にか無くなってる事に腑に落ちない様子を見せる。

 おかげでフィーリの嗜虐的な凝視にいじられる目に遭った。



《リザルト》

 ・ダルクハンガーを六体倒した。
 ・変異体のモンスターを倒した。
 ・スキルを使用して戦闘を行った。
 ・クリティカルヒットでトドメを刺した。
 ・テレサを助けた。
 ・テレサを守り戦闘に勝利した。
 ・探索目標のアイテムを入手した。

《アイテム》

『ソカバそう』:状態異常を治す効果を持つ薬草。暗い場所に生えている。

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秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

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