異世界を創って神様になったけど実際は甘くないようです。

ヨルベス

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第二章 その魂、奮い立つ

第54話 眠れない夜に

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「…………眠れねー」

 夜なのに目がギンギンに冴えている。昼間寝てたせいだ。
 劇物コンシールを食べたおかげで体調はだいぶ治ったようだが、眠れん……。

 どれだけ眠ろうとしても眠れる気がしない。
 瞼は軽く、まだ眠ることを許してくれなさそうだ。

 うんざりして身体を起こすと、椅子に座って寝ているテレサが映った。

 腕を枕代わりに、テーブルで静かな寝息を立てて眠っている。わずかな光を受けている姿は見惚れるものがあった。

 今日は大変世話になった。
 テレサには感謝を覚えている。彼女の気持ちで治ったとも言っていい。
 この借りは必ず返す。ココルを去るまでにはテレサに何かしてあげたい。

「ありがとうな」

 何も羽織ってないテレサに上着を掛けてやる。
 風邪ひいたら面白くないからな。そうなったら俺が世話してやるけど。

 などと思いつつ寝直そうとして、おかしな事に気付いた。


 ………………いない?


 静けさが一層に、夜闇に潜む異常性を露わにする。

 ごく普通の家庭にいるはずの家族の存在がいない。
 家のどこも見当たらない。この家の住人はテレサ一人だ。

 テレサの家族はどうした? 家にいないのか?
 用事や出稼ぎで離れているのだろうか。


 まさかとは思うが……。


(死んでる、はずがないよな……)

 縁起でもないことが頭の中に浮かぶ。
 おいおい。何を考えているんだ、俺は。

 バカらしい推察はすぐに振り捨てる。変なことを考えるもんじゃないと自身を咎めた。
 死んでなどいない。姿を見せていないだけで絶対に生きてる。

 だが……奇妙な光景は、それは浅慮であると疑う。
 もしかしたら現実から目を逸らしているのか……?

 ちょっとだけ歪な夜は時間が止まってるように感じる。
 しかし、テレサの寝息が時を刻んでくれた。
 彼女の寝顔は曇りを感じさせない。その穏やかな表情に安心させられる。

 思わぬ事に良くないものを考えてしまった。
 もういい。さっさと寝よう。




 …………結果、まだ眠れない。
 身体はまだ眠りを欲していなかった

 あーもう。こんな時は何かをして眠るまで時間を潰そう。

「おっ、本があるじゃないか」

 昼は気付かなかったが、傍に本棚がある。
 助かるな、これは。テレサは本が好きだったりするのかな。
 棚にある物を読んで寝オチするとしよう。

 ソーラダイトに【霊素エレメンタル環紋・サークル】の光を、テレサが起きない程度の明るさを蓄えさせ、傍にあった本棚から本を何冊か手に取る。

 えっと……『馬突邁進! ポーラちゃんがゆく』? チェンジだな、こりゃ。

 他は……『ゴッドアイドル』、『雷の心臓』、『凍てつくシンなる巨神』、『新世界へ至る甘い灯り』、『深き呪いと闇の巫女』か。どれも興味が湧かないなあ。

 ラインナップが変わりものばかり。もっと面白そうなものは無いのかと探していると、特に飾り気の無い本が目を引いた。

 この本は表紙にタイトルが書かれてないな。
 これは……『ふしぎの世界のアリシア』? アリス的な物語か?

 もういいや。まずはこの本を読んでみるか。どれどれ……。



『ある日、アリシアという少女が不思議な世界に迷いました。

 不思議な世界を歩いていたアリシアは初めて住人に会いました。
 しかし、その住人はとても醜い姿をしていました。
 それを見たアリシアは驚いてどこかへ逃げてしまいました。

 逃げた先でアリシアは別の住人たちに出会いました。

 一人目はお日様みたいな女性でした。
 二人目は無口で仮面を付けていました。
 三人目は背中に甲羅を付けていました。
 四人目はお魚さんに似ていました。
 五人目と六人目は可愛らしい双子でした。
 七人目は楽器を鳴らすのが好きな人でした。
 八人目は水を愛する男の人でした。
 九人目は火遊びが大好きな男でした。
 最後の人は美しい見た目の女性でした。

 アリシアは彼らと仲良くなりました。
 そこへ醜い姿の住人がアリシアを追いかけて来ました。
 アリシアと住人たちは協力して醜い住人をやっつけました。

 そしてアリシアは住人たちのおかげで無事に元の世界へ帰ることができました。
 めでたしめでたし。』



 …………ビミョー、だな。ま、こんなものだろう。
 だけどまだ眠れる気がしない。他の本でも読むかあ。





「ぅ……」

 活気を感じる。暗い世界が光を帯びている。もう朝だ。

 知らず閉ざされていた目に朝日を取り入れた時、ゴソゴソと動くシルエットが。
 誰か居る。当たり前か。今居るのは他人の家だ。

 テレサが朝ご飯の準備でもしてるのか……な……?

(ぬおっ!?)

 声を出しそうになった。
 染み一つ無い柔肌がそこにあったからだ。

 テレサが着替えている。服を脱いで新しいものへ替えている。
 上半身はもう裸で、綺麗な背中が素肌を晒している。朝日を受けたそれは積もった雪の滑らかな表面を想像させる。

 おお、おおぉ!?
 これは素晴らしきイベ……ハプニングじゃないか。

 テレサさん? テレサさん? ちょっと警戒心無さ過ぎではあ~りませんか?
 もう起きてますよ。見られてるんですよ? 極めて貴方の裸にフォーカスが定まってるんですよ?

 気付いて「きゃあ! シンジさんのエッチ!」とか言われても悪くないからね! ありがとぉ~ございますっ! ありがとぉーございますっ!!

 これは一生のベスト思い出にし――


(…………はぇ?)


 着替えをしっかりと目で録画してると、テレサの背中がきらっと光った。

 背中に何か浮いてる? なんだ……?

 煌めいた光は反射の光などではない。それ自体が光を放っていた。
 ごく一瞬しか映らなかったが、模様に見えた。
 全方向に枝葉を伸ばしていて……雪の結晶みたいな……。

(んんー?)

 寝惚けではない事を確かめるため目を凝らしていく。
 じーっと、じーっと集中する……と、突然ふさっとしたものが飛び出してきた。

 この無駄に良い毛並は尻尾だ。横にいたレトが尻尾で視界を覆ったのだ。

「っ……!」

 この畜生め、邪魔しおってからに……!

「シンジさん?」
「テレサっ!」
「へ? きゃあっ!」

 ただ一点に気が集中していた。
 レトの妨害を抜け、起きてる事に気付いたテレサ――慌てて服を着たようだ――に迫る。

 壁を背後にしたテレサは目を丸くしたまま見上げている。
 急にどうしてこんなことをするのか分からないと困惑を浮かべていた。

「あのぉ……シンジさん……?」

 じっと見つめ、逃げられないようにする。
 戸惑ってはいるが恐怖を与えてはいけない。人を呼ぼうものなら変態の不審者としてお縄に掴まる。
 前科一般には未来永劫なるまい。テレサを怖がらせない為に慎重な行動を取らないと。

 というか……アレ? これって壁ドンみたいだあ。
 まっ、いいか。それよりテレサのことだ。

「テレサ、頼みがあるんだ」
「は、はい……な、何でしょうか……?」

 落ち着いた態度でこの状況を制する。
 テレサはまだ事態についていけてない。紅潮させた顔は困惑の色を取り除けずにいる。

 主導権の在処は俺の手。確認するなら今だ。

 気になることがある。確かめたいことがある。
 背中の模様をじっくりと調べたい。だから……。


「服を脱いでくれな――」


 張り手が飛んできた。
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