異世界を創って神様になったけど実際は甘くないようです。

ヨルベス

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第二章 その魂、奮い立つ

第58話 討伐だって楽じゃない

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 穏やかな快天が広がる。穢れなき空気が蒼色を届ける。
 喧騒の少ない静謐的な村の、それも外れに漂う自然の気は人の居る場所とは異なった活気を感じる。

 今日からはモンスター討伐。金を返すためにも、シュヴェルタルの討伐にむけて行動開始だ。
 すぐにシュヴェルタルを討つのは無理がある。倒すのは後日にして今は慣らしも兼ねて別のモンスターを討伐しにいこうと思う。

 思い出すと心が抉られるが、案内所でパーティに入りたいと言う討伐者はいなかった。
 だが、今回は意外な人物が一緒に居る。

「よろしくお願いしますね」
 
 テレサだ。
 なんと彼女がパーティに入って討伐に同行してくれるそうだ。

 パーティに加入してくれるとは驚いた。
 誰も集わなかった時に願い出てくれた事は大変ありがたい事だが、モンスター討伐に関してはほぼ素人。ただの村人である彼女を連れていくのには迷うところがあった。

「本当によかったのか? モンスターの討伐は危険だぞ」
「なにからなにまでシンジさん達に助けていただくのは悪いので……お手伝いをさせてください」

 どうやらロザリーヌとのやりとりを村長に話した上、俺達と一緒に討伐に行きたいと相談したらしい。
 これを聞いた村長は反対したが、テレサの気持ちが変わることはなかった。

 討伐者登録はもう済ませてある。今日から彼女は討伐者だ。

 今ごろ村長はソワソワしてんだろうな。討伐に行かせたくなかったろうが、意思を尊重したい気もあったんだろう。
 孫娘のように大切な存在だ。心配させないよう俺がしっかりしないと。

「わかった。だがモンスターの討伐は危険だ。命を大事にするんだ」

 命に危機が及ぶかもしれない行為は迅速で的確な判断が必要になる。
 自分自身の安全を確保しておくよう念を押すと、快い反応が返ってきた。

「しっかり気を付けます。リーダーさん」
「り、リーダー?」

 ああ、そうか。このパーティのリーダーは俺ってことになるのか。
 リーダーか。そう呼ばれると本格的にパーティを組んでいると実感してくる。

 まだメンバーは少ないし、自他ともに頼りないところもあるが俺のパーティが確かにここにある。やっと様になったように思える。

 とは言っても俺らは旅の身。話が解決すればココルを離れる時が来る。
 テレサが付き添う理由は無い。だからこの加入はあくまで一時的になるだろうな。惜しいが無理に同行させる必要はない。

「私が最初のメンバーになっちゃいましたね。あっ、レトさんが最初でした」
「キュッキュ」

 どうやらテレサにとってレトは二番目のメンバーという扱いになってるらしい。
 レトが「いいえ、違います」と訴えている気もするが。

 討伐者になったテレサには杖を買い与えた。
 杖は『オーリス』と言う鉱石のような物質が埋め込まれていて、魔術の効果や精度を上げる。戦士が剣や斧などの武器を使うように、魔術を扱う者には基本的な道具だ。

 テレサは後方に居てもらい、治癒の魔術で手助けしてもらおうと思う。

 ところでこのオーリスという素材……現実世界の住人である俺にとっては珍しいアイテムだ。
 なんでも『マナ』という物質が固まってできたものらしく、テレサが持ってるような魔術用の杖に埋め込まれていたり武器の強化にも使われている。

 その『マナ』自体はどういった物質なんだろう? 魔術を使う際に消費するものってのは理解できたが……。

「緊張しますね……でも頑張りますっ」

 閑話休題。杖を握り締めたテレサは緊張がありつつも気合が入っている。
 回復役がいるのは助かるが、このまま連れて行くのは不安が伴う。

 だから、この貯まったBボーナスPポイントを消費してテレサのパラメーターを強化しよう。

 初めてのパラメーター育成。今まではスキルの付加だけだった。
 でも今回はパラメーターの強化。自分以外の誰かを強くする。俺だけ除かれているのは悲しいが、他人のパラメーターを強化できるのは楽しみだ。

 いざ能力を上げようとステータスを開く……が、早速つまずいた。
 つまずいたのはパラメーターの強化方法。スキルの付加はアピス族に教えてもらったが、パラメーターの方は一度も教えてもらっていない。

 育成はどうすればいい? パラメーターを上げる方法が知りたいんだが……。


《ヘルプ》
 ・BPを使ってパーティメンバーのパラメーターを上げるには相手の身体に触れる必要があります。


「なんとおぉー……?」

 相手の身体に触らなきゃいけないのか。ぬ、ぬうぅ~……。

 触れなきゃパラメーターを上げられない、か。
 ファーストミッション、「テレサに触れる」。これは難しいかも。いきなり難度の高いミッションに直面してしまった。

 いいのか? 相手は女の子だぞ? 必要な行為だからってみだりに異性に触れてもいいのか? いや、合法になるのならそうしたいところだが。
 やり方次第ではテレサに嫌われる。いや、お縄に掴まってしまうしれん。その事態になるのは避けたい。

 これは慎重に交渉するしかない……!

「テレサ……」
「? どうかしましたか?」
「えっと、その……」

 じわりと汗粒が一つ生まれる。
 なにせ女の子に触れる為に交渉するのだ。一歩間違えば事案になる。警戒されないよう言葉を選ばねば。

「そのですね、テレサに頼みが……手だけでもいいので触らせてくれないでしょうか?」

 ダメだろこれ。セクハラじゃねーか。

「手を……ですか? いいですけど……」
「えっ!? いいのか!? お手に触らせていただいても?」
「構いませんよ。シンジさんなら。ほら、どうぞ」

 と、目の前にテレサの手が伸びる。特に怪しまれている様子はない。
 本当にいいのかと消えない不安を抱えつつ、おそるおそる手に触れた。

 柔らかい。ふにっとした感触にスベスベした肌触りが心地良い。
 いかんいかん。変な事考えてないでパラメーターを強くしなければっ。

「おっ?」

 確かにBボーナスPポイントが使える。貯まった分のポイントだけ《パラメーター1》の能力値を上げることができる。
 テレサの能力値が自分の操作で上がっていく。これは面白い。ゲームでキャラクターを育成してるみたいだ。

「何をしているんですか?」
「テレサのパラメーターにボーナスポイントを与えてるとこさ」
「ぱら? ぼーなす……? どういうことです?」
「簡単に言うと強くしてるんだ。少しの間この状態でいてほしい」

 テレサ側からは何を行っているのか見えてないらしい。とすると目の前の俺は不審な動きをしているのか……。
 謎の行為に首を傾げる少女、意味不明の不審な行動をしている男。よく考えたら怪しい状況だ。

 き、気にするな俺。これは必要な行為なんだ……っ。

 気まずい空気と戦いながら強化を続ける。
 ボーナスポイントは一つのパラメーターに極振りすることも出来るようだが、とりあえずは均等に振り分けよう。

 さあテレサよ、どんどん強くなあれ。



「どうだ?」
「少し……身体の調子が良くなったような気がします」

 ボーナスポイントを消費し、パラメーターの強化が終わった。
 変わったことはあるかどうか聞いてみたが、多少の変化を感じてるようだ。



〔マルタナ・テレーゼ〕
《プロフィール》
 クラス:ヒーラー
 年齢 :16歳
 身長 :156cm
 体重 :42kg

《パラメーター1》
 体力:3208/3208
 筋力:602/9999
 耐久:580/9999
 魔力:1750(+52)/9999
 魔耐:2130/9999
 器用:807/9999
 敏捷:765/9999

《パラメーター2》
 技巧:92/999
 移動:82/999
 幸運:191/999
 精神:264/999

《信頼度》
 B(シンジの《パラメーター1》が3%増加)

《スキル》
『粉砕の一撃』
 ・鈍器で攻撃した時、確率で相手の体力の80~120パーセントのダメージを与える。
  [着脱不可]

『バイタリティ・冷凍Ⅱ』
 ・状態異常・冷凍にならなくなる。
  [着脱不可]

『フォースⅠ』
 ・魔力が3%アップする。



 ボーナスポイントを消費してパラメーターを強化した上、アピス族の商人から買い取ったスキルを付加した。
 これで十分……だが、強化が必要無いんじゃないかと思える程のものを彼女は有していた。

 スキル『粉砕の一撃』……とんでもないスキルだ。

 これは絶対強い。ランダムで発動するそうだが、疑う必要の無い最強スキルだ。

 相手の体力の80%から120%のダメージって、最大火力でいったらほぼ即死だ。
 ダメージは防御無視とは説明に無いが、耐久に特化してる相手じゃなきゃ凄まじい威力は免れないな。

 初めて見た時はびっくら仰天、食いつくように凝視した。
 見つめ過ぎて朱色に染めた少女の顔がすぐそこにある事に気が付けなかった。

 こんな珍しいスキルを持っているとは……フィーリの時もそうだが意外な能力を秘めているもんだなあ。
 どうやったらこんな貴重なスキルが身に着くんだ?

「不思議ですね。シンジさんは変わっています 高いところに跳んだり、力を分けてくれたり……」
「そうか?」
「はい。変わっていますけど……すごいと思います」
「テレサだってすごいよ。強そうなスキルもの持ってるし」
「え? 私がですか……?」
「ああ、だからその力を最大限に活かしたいんだ」

 このスキルを使わない手はない。上手くやればフィニッシャーになる。
 シュヴェルタル打倒もいける……この後のモンスターとの戦いで慣れさせる上にスキルを活用させてもらおう。




「●ルスッ!」

 眩い光をモンスターにプレゼント。強烈な光によって視覚を潰されモンスターの動きが鈍くなる。
 しばらくは目が見えまい。そして次は……。

「テレサ!」
「はい! それっ!」

 背後から慣れない動きで近付くテレサ。頭上に掲げた杖がモンスターに向けて力強く下ろされる。
 モンスターを弱らせ、敵が油断しているうちにテレサのスキルでトドメを刺すという構図だ。これならテレサも安全に攻撃できるし、スキルの性能を確かめられる。

 ボコッ、と杖が直撃した……が、モンスターは脳震盪を起こして弱ってるだけ。テレサのスキルが発動したようには見えない。

「うーん、もっかい!」
「てやっ!」

 もう一回テレサの杖が命中ヒットするも、依然として弱ったままの状態でスキルの効果は確認できなかった。

 おかしいな? 確率で発動するってあったからまだ発動しなかったのか?
 せめて一度は確かめたい。何度もチャレンジだ。

「もっかい!」
「やっ!」
「もっかい!!」
「たあっ!」
「もっかーい!!」
「とりゃあ~っ!!」

 その後もモンスターを狩り続け『粉砕の一撃』が発動する瞬間を待ったが、その時は一回も来なかった……。



「疲れましたあ……」

 連戦でテレサはヘトヘト。溜まった疲れが出ている。さすがに戦わせ過ぎた。
 一旦休ませないと……スキルの効果を試すのは今はやめとこう。

 にしても何故だ? なぜ発動しない? 
 強いスキルだから簡単に出ないのか……?

 困ったな……そうなるとシュヴェルタルへの有効打にならない。テレサが危険だ。
 これは運用が難しいかもしれんと、スキルの活用に諦めかけていると……。

「ひゃっ……!」

 短い声が横から耳朶にかじり付く。引き寄せられるように向くと、テレサの身が傾いていた。

「あっ」

 その手に握っていた持っていた杖が迫る。当たる――と直感が刹那に走った。

 軌道の先に俺がいる。このままだと直撃する。と言っても何のことはない。
 コツンと杖が当たる。普通に痛い。「ごめんなさ~い」とテレサが謝る。そして俺が「大丈夫」と言う。それだけの事。

 そんな何気ない出来事にちじょうが起こるはずだった。


 ――なのに。


「ぶぐっっっっっっっ!!?」


 鋼鉄製のハンマーが顔に直撃した。
 違う。それは錯覚だ。直撃したのはテレサの杖だ。

「ぼげええええぇぇぇぇ……!!」

 なに、このメチャクチャな威力は……!?

 顔がメリメリと変形する。頭蓋がミシミシと悲鳴をあげる。
 凶器が絶大な破壊力をもって圧力をかける。トッテモ痛いデス。


 そして――プッツリと。
 電源の切れたコンピューターの画面のように何もかもが真っ黒に染まった。
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