異世界を創って神様になったけど実際は甘くないようです。

ヨルベス

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第二章 その魂、奮い立つ

第78話 死闘。シュヴェルタルと

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 見つけた……!!


「うおああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ────っ!!」


 激しく揺れる視界にテレサがいる。ロギニがいる。
 あと一人、シュヴェルタル──テレサの父もいる。三人とも一点に気を引かれていた。

 素晴らしいリアクションだ。運が良い。

 ほんのわずかなチャンスを、石に齧りつく勢いで掴み取りにいく。
 全力で駆け、テレサのところへ。その間には、乱入者おれに驚き振り返ったロギニが立っていた。

「そこをどけっ!!」
「うおっ……!」

 手中の短刃を一振り、束の間に空気を裂く。
 軌跡をぎりぎり避けたロギニは情けなく退却。足元の闇に身を埋めて消えた。

 障害物を退け、殺されかけてるテレサを救出しに、鼓動の速い心臓をさらに酷使して猛ダッシュした。

「きゃっ!!」

 肌を掠ったのは、二つに斬断され乱れた風。
 すぐ後ろで物凄い音が轟く。剣が地面を穿った音だろう。

 しかし、その刃には何者の血も吸えなかった。

 飛び込んだのが英断だった。
 間一髪テレサを抱え、シュヴェルタルの前から急速離脱。二人一緒してゴロゴロと地面をローリングしていく。

「いってて……」

 ゴツゴツと硬いものに全身を舐められた感触が余韻として残る。
 ちょっと身体が痛いが、テレサの命は助かった!

「大丈夫か、テレサ!」
「シンジさん? どうしっ、ひぇう……?」

 無事なことを確認して、テレサの両頬を軽くつねる。こんな状況で言うのはどうかと思うが程良い柔らかさだ。

 どうして頬をつねられているのか分かっていないようで、何故こんな事をしてくるのか疑問を浮かべながらも両頬の痛みに呻く。

「いふぁい……は、はひふるん、ですふぁあ?」
「家族は大事にするものなんだろ?」
「あ……」
「一人で勝手に、こんな自殺行為に等しいことをして……マジで心配したんだぞ」

 俺は怒っている。テレサに対して。
 離れている間に勝手に出て、此処に一人でやって来て、危うく死にかけた。そんな無茶を行った事に怒っている。
 今やっているのは、その表れ。テレサへの怒りだ。

「だ、ひゃっで、どうひても、ひう……っ」

 頬をびの~んと引っ張る。言い訳はさせん。

「いひゃっ、いふぁ……っ」
「お前が死んだら俺らはどうすればいいんだよ。俺みたいに生き返るんじゃないんだし。自分の命を大切にしろよ」
「ほれは……」
「しっかり反省しろ。わかったか?」
「ひうっ……は、はひぃ~、ごめんなはいぃ~……」

 伸ばした頬っぺたを離す。赤くなった頬にテレサは痛がり、自分の行為に恥じている様子だ。
 反省したか。なんにしろ生きてて良かった。

「おいおいおいよぉ。勝手に二人でラブコメってんじゃねーよ。つい待っちまったじゃねーか」

 間に差すのは、一度身を退いたロギニ。どうやら流れに乗せられて待ってたみたいだ。

 待ってくれたとしても容赦はしない。許しはしない。
 シュヴェルタルを……父親を使ってテレサを殺そうとしたからな。コイツは後でぶっ飛ばしてやる

「うっせえ、黙ってろ永久に」
「おーこえー。よく此処に来れたな。ま、大体アイツのおかげだろうがな」

 ロギニの視線の先に新参者が一人。カルドも遅れて場に集う。

 はい、そうなんです。そのとおりなんです。
 この場所に来るまで何回かモンスターと出くわして、行けなくなってたところをカルドに助けてもらった。カルドが居てくれたおかげでテレサの救出が間に合ったと言っていい。

 あんな無表情のくせして助けてくれて……冷たいのか優しいのかよく分かんない奴だ。でもカルドには感謝してる。

「オリジン御一行、またも集結す、か。一匹いねえが……で? 算段はついたのか?」

 人を小馬鹿にした態度は崩れない。何故ならこの場にはシュヴェルタルが居る。大きな問題はまだ片付いていないままだ。

 テレサを苦しめる脅威。ロギニに穢され、見ない間にさらに恐ろしさを増している。身体が重くなるのを感じた。

 正直逃げたい気持ちはあるが、ここまで来た以上逃げてもどうしようもない。そもそも逃げられるか分からんが、この場に来たらやってみせる。テレサの父さんを救うと誓ったからな。


 ……だが、その前にあれを確認しなきゃだな。

「聞きたいことがある」
「ほう? なんだ?」

 いつでも殺せる。そんな黒い腹積もりなのか、ロギニは意外にも素直に応じる。警戒を張りつつ、与えられた猶予に甘んじることにした。

「色々考えたよ。モンスターとかシュヴェルタルの事とか……」

 一つ、ある思考が生まれていた。
 モンスターとはどういう理屈で生まれるのか? 

 ソールは言った。
 アンブラが消息を絶ち、マーニが封印から解けた後にモンスターが出現するようになったと。
 最初こそマーニが関係しているものと考えた。それはソールも同じくだ。

 でも、実際は違う。マーニの仕業じゃないんだ。

 ロギニという異形の存在と、死んでいるはずの元人間のシュヴェルタル……これらを考慮するなら、マーニとモンスターとは何ら関係が無い。彼女の復活はおまけみたいなものだ。

 ならば、モンスターとは……

「その感じ……気付いたか。解ったんだろ? アイツらの正体が!」

 この事実に気付きたくなかった。知らないままでありたかったが、シュヴェルタルの存在が逃避することを許さなかった。

 喉で引っかかっていたそれを、無理やり押し出すように言葉にした。


「モンスターは……死んだ生き物達、なんだな?」


 ロギニは何も答えず。黙った後にくっくっと音量を上げて気持ち悪く笑う。
 妖しく笑む唇を限界まで裂いて歯を剝きだした。




「だいせえぇ~~~~かぁ~~~~いっ!!」




 目蓋をカッと開いて、ロギニは肯定する。
 汚らしい笑い声が洞窟の中に溶けた。

 やっぱり……俺の推測は間違いなかった。

 これほど嬉しくない正解があっただろうか。
 テレサもカルドにも度合いはあれど驚愕の色が滲み出た。

「死んだ生き物……だと? アレが?」
「そうだよ。材料無しに生産できるもんか。調達しなきゃ作れねえに決まってんだろ」
「そんなっ、そんな事があっていいはずが……!」
「お前らがどう言おうと事実さ」

 ただの戯言と片せたら楽なのに、アイツの言ってる事は本当だと信じてしまう自分がいた。

 各地に湧き、危害を与えるモンスターはトールキンにかつて生息し、死んだ生き物達の魂を使っている。
 エッジボアも、ネメオスライアーも……今まで討ってきたどのモンスターも異端の生命体じゃなくてトールキンに生きる生命だったんだ。

 シュヴェルタルが人型のモンスターなのは、元が人で……そして、亡くなったはずのテレサの父親……。
 辻褄が合う。他に最適な考えがつかない程にかっちりと合ってしまうくらいには。

「ちなみにその辺に転がってる死体から作ってるじゃないんだぜ。どこから調達してると思う?」

 調達のルートか。心当たりがある。
 死んだ者が生きているとすれば、その場所は……

「イザナグゥか」
「またまた正解だ! 冴えてるな」

 馬鹿にしやがって……でも、それ以外に考えが出てこない。

 これが事実なら、とんでもない事態だ。
 イザナグゥから調達しているのなら、地上の生命が死ねば死ぬほどモンスターの数は増える。討伐しても再利用、、、できるなら、一時的に数が減るだけで復活することもあり得る。

 なんだよこれ、トールキンで最悪のサイクルが成立してるじゃんか。

「つってもよぉ、ヒトは全然上手く作れねえんだよ」
「人間が?」
「動物は簡単に作れるんだが、なんでかなぁ……大抵はすぐに崩れるか失敗作が出来上がるんだよな。アイツらみたいなのが」

 ザンッ、何かが斬れる。見れば、カルドが襲撃してきたスケルトンの集団を薙いで片づけていた。

 アイツらってのは、あのスケルトンのことか。
 斬られ、バラバラに散ったあのスケルトン達も人間だったんだ。なのに、あんな醜い姿に……。

 しかし、妙だ。両者には違いがある。
 行動も見た目も違う。シュヴェルタルの方が人間らしさがある。この違いはなんだ?

「おっと。オリジンよぉ、こう考えてんじゃねえか? シュヴェルタルアイツはなんでつえぇのかってな」

 何も言わなかったのを、ロギニは図星ととって続ける。

「そいつはどうしても現世に強い未練があったんだよ。質の高い、、、、執着心を持ってると良いのが作れる。生前の能力も影響してるな」
「お父さんが……」
「ご遺族様にお礼を申し上げるぜ。オメーの親父は良い出来だよ。人間タイプじゃトップクラス。こんなに強いのに生まれ変わったんだからなあ」
「うぅ……ひどい……っ」

 今にも泣きそうな雰囲気のテレサ。心中は痛いほどに理解できる。頭の中がおかしくなりそうだよな、こんなの。

 悲しい死を迎えて、死んだ後もモンスターにされて、さらに醜く歪められた。
 現世にどんな未練を抱いていたのか知りたいが、それはもう生前の理性を失った今となっては聞けまい。

「地上に生者が死に、穢れて息を吹き返し、蹂躙に踊り……世界は、トールキンは混沌カオスとなる──」

 トールキンの生命は死を迎えると自動的にイザナグゥへ行く。
 モンスターの種となるものをイザナグゥから調達してるとするのなら、


「お前、アンブラをどうした──?」


 イザナグゥを治めていたはずのアンブラの安否を問う。
 質問に、ロギニは「ハッ」と返した。

「知らねえな。知ってても教えねー。知りたきゃ油を売ってねえでイザナグゥに来るんだな」

 シラを切りやがって……コイツが知らないはずがないんだ。アンブラに何があったのかを。

「やはりよぉ、テメーが降りてきたのはイザナグゥに行く為なんだろ?」
「っ……」
「正解だろ。言わなくてもわかるぜ」
「だから何だって言うんだ!」
「わかんねーのか? モンスターはイザナグゥにある魂を使っているんだ。早く来なきゃ元カノ、、、もああなっちまうぜ?」
「なに──?」

 元カノ? 誰のことだ?
 まさか、フィーリのことを言ってんじゃないだろうな?

 亡くなったフィーリもシュヴェルタルのようなモンスターに……。
 やめろ、彼女までモンスターにするとかふざけんな。フィーリの魂を穢すんじゃねえ。

「お前……!!」
「わかっただろ? 止めたきゃ来いよ。尤も、その前にアイツをどうにかするしかねえが」

 ある存在が道を阻む壁として脅威を放つ。
 そうだ。優先するべき相手がいる。

 テレサの父……シュヴェルタル──!!

 変貌した肉体をロギニの手でさらに変えられた。なんとも醜い姿は人としてあってはならない外見で、苦しくも痛そうでもある。テレサにとってどれだけ辛いことか。

 まずはテレサの父さんをどうにかしよう。イザナグゥを目指すのはその後だ。

 握る手に力を入れて刃を構える。
 取り戻すべき相手を前に。テレサのために。

 シュヴェルタルに向く。一つ息を吸って覚悟を決めた。

「さあ……来いやああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 と戦いの合図を送った瞬間、


『ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」


「は、はひっ……」

 顎が外れてもおかしくない程に口を開けて、シュヴェルタルは雄叫びを上げた

 いやー、お父さん発声がすごいデスネー……。

 凄まじい雄叫びに怯んでると、カルドが万全の体勢で接近する。シュヴェルタルと戦う気満々だ。

 手伝ってくれるのは有り難いのだが、今回は事情が違う。
 相手はテレサの父親だ。家族だった人をカルドはを殺そうとしている。そうする事が救いだと割り切っている。

 それを知っているからこそ「待て!」とカルドを止める。

「待つんだカルド! その剣をしまえ! ぷりーずうぇいっ!」
「なんだ? お前の話を聞いてる状況じゃないんだぞ」

 解っている。そんな指示をする余裕がある状況じゃないとは理解している……けどっ!

「コイツは俺が何とかする。カルドは絶対に手出しをするな」
「なに?」
「いいか。間に入るんじゃないぞ。俺がどうなってもな」
「異なことを……どうしてやれる? アレはお前の手に負えるものじゃ──」
「カルドさん! お父さんはシンジさんに任せてください!」

 遮ったのはテレサだ。

 意思を汲み取ったらしく、加勢を阻む。当然カルドにとっては賛同しかねるもので、ほんの少しだけ当惑してるのが見える。

「テレーゼ? お前まで何を言っているんだ」
「お願いします。シンジさんにやらせてほしいんです。シンジさんなら……!」

 強く主張するテレサ。対してカルドは、

「……もういい。勝手にしろ」

 不服そう眉を傾け、剣を下ろしてくれた。
 加勢が防げて少し安心したが、ここから先は一対一サシでの対決。張り詰めた空気が気を引き締めさせる。

「離れていろ。安全な場所にいるんだ」
「はい。お父さんを……助けてあげてください」

 背中で頷き、テレサが離れる。シュヴェルタルの前には俺だけが立つ形となった。

「さあ、来やがれ……!」
『オオオオオオオオォォォォ──!!』

 咆哮し、鈍重さを錯覚させる黒い躰が疾速する。

(来る──!)

 剣を見捉え、左手を前に出す。
 強烈な光を発動し、シュヴェルタルの視界を奪う──が、光が瞬いた直後に剣が襲ってきた。

 ギィンッ、と重みを伴った金属音が火花を生む。

「ぃつ……!」

 なんとか自分を守りきったものの、衝撃が振動となって腕を伝う。
 小細工じゃどうにもならないことに差を感じながらも、目の前に集中。休む間もなく、かなり荒く無茶苦茶な連撃が始まった。

 重い斬撃を落とす長剣を、軌跡を逸らすように受け流す。
 そこまでは良いのだが……反撃に転じる余地が見出だせずにいた。

 速く、力強い。カルドを追い詰めた、もはやと剣術と言っていいのか怪しい剣捌きが土石流のように喰らいに掛かる。ここで守りを一瞬でも忘れると刺し身にされるだろう。

 手中の短刃が粘り強く防ぎ、しかしいつでも折れてしまいそうだ。

(もういちど魔法で目をつぶして──!)

 苦しい状況から脱しようと、再び左手を前へ。
 悲しいかな、皆本シンジの限界は遠からず訪れた。

「くぁ……!?」

 圧倒的な力の差で薙ぎ払われる。一筋の斬撃を貰って。
 血が軌跡の一部を紅く染め、さらなる斬撃が身体中に線を描いた。

 は、速い……!

「ぅ、ぐうぅ……っ」
「ハハッ。なんだよ、カッコつけてこのザマかよ。偉そうなのは口先だけか!」

 度重なる猛攻と負傷のセットで疲弊し、膝が地面に付いた。
 俯瞰する間に、シュヴェルタルの動く気配。殺されると運命を危ぶんだが、

「おい、命令だ。そいつは捨て置いて女を先に殺せっ! 細切れになっ!!」

 シュヴェルタルの進行が反転し、別の場所へ足を進める。向かう先はテレサだ。
 本当に趣味の悪いヤツだ。どうしても父親の手で殺させたいか。

「待てっ、お前の相手は俺だ……っ」

 行かせまい、とシュヴェルタルの後を追おうとする。しかし、そこからどうにも出来ないことを脳が警告する。

 追ったところでどうする? 力の差は途轍もなく離れている。
 というか単純に倒すだけじゃダメだ。そもそもシュヴェルタルを救えない。

 どうすれば、どうすれば救える?

(アイツは……)

 痛みと焦りに蝕まれる中、敢えて思考に耽る。

 シュヴェルタルはテレサの父親……人間だ。生きてた頃はテレサを育て、愛情を注いでいたんだ。
 相手が父親なら、元が人だというのなら、


 突破口は──ある。


「まだ、だ……!」
「お? まだ動けるか。でも、お前じゃなんも出来ねーよ」
「いや、やってみせる。とっておきの作戦がある」
「はあ? とっておきの作戦だあ?」
「そう、とっておき。お前は言ってたな。元が死者だって」
「で? だから?」

 まだ分かっていないようだ。
 だったら見てろよ。今から実践してやる。アイツが人であるが故の対策法が!

「おいっ!! 俺の言葉を聞け!」

 呼び掛けたところでヤツの足は当然止まらない。
 そのまま続けて、

「俺はっ! 実はっ!!」

 声を大に、テレサの方へ歩むシュヴェルタルに向かって叫んだ。



「テレサの裸を見たんだああああぁぁぁぁ──っ!!!!」



 洞窟内に広がるカミングアウト。その後にしーんと沈黙が訪れた。

「え?」
「……はぁ?」

 緊迫した空気が一転。戸惑うような、呆れるような感想が飛ぶ。
 しかし効果は発揮できた。

 シュヴェルタルの身が停止。明らかに反応している。成功したんだ。
 よーし、そのままで居てくれよ。止まっているうちにどんどん捲し立てなきゃ!

「俺はテレサの裸を見たんだ! 背中だがな。おっと、胸だって揉んじまった! 小さいけど柔らかかった!」
「バカなのかお前は? そんなんでどうにかなる筈が──」

 そこで言葉が途切れる。シュヴェルタルの爪先が反転して地を噛んだからだ。

『オオオオオオオオォォォォォォォォッ!!』
「お、おい……?」

 ドスドスと重厚を足場に刻んでいく足音。その先には……俺がいる。
 駆け出したその足は、なんだか冷静が欠けてるようで怖いくらいに、いや凄く怖いっ。
 
「うわああああぁぁぁぁっ!!」

 こっち来てるううううぅぅぅぅっ!!
 で、でもっ、これでいい。シュヴェルタルをできるだけテレサから離すんだ!

「おっ、おい!? 何してんだ!? 言うことを聞け! そいつじゃなくて女を殺せよぉ!!」

 先の命令が繰り返されても、シュヴェルタルは無視。ロギニの命令に背き追走を続ける。

 別に研究者ってほど観察眼がいい方じゃないが、あの反応で確信した。
 アイツは自我を持っている。たとえ肉体が変貌していようが、魂の記憶、、、、は完全に忘れちゃいないんだ。

 それはそうとお父さん、殺意マシマシですね!?
 あれですか親バカですか! 娘さんを知らない男に変なことされて相当お怒りなんですねうわああああぁぁぁぁ追いつかれたぁぁぁぁっ!!

「ひいぃっ!」

 追跡するシュヴェルタルに追いつかれ、剣が風となる。
 背後から襲ってきた剣をギリギリで避ける。我ながら神回避ぃ!

 穿つ剣を躱し身の無事を喜んだ時、辺りの地面が妙に揺れを刻み始める。
 地揺れかと思った途端、身体が重力の枷から外された。

「わっ!!」

 お、落ちるぅぅぅぅっ!!

 崩落を起こす地面。真下にそれなりに広い空間があって、俺もシュヴェルタルも巻き込まれては落下する。

「ぐえっ!?」

 少しだけ空中を舞って、背中から地面に衝突。幸い意識ははっきりとしてて死んではいない。
 時間はさほど掛からなかった事も加味して、そこまで下に落ちてはいない。痛いのは痛いのだが。

「いってぇ……って、あれ?」

 ダガーが手元に無い。周囲を見ても無い。落ちた時、落としてしまったんだ。
 大事なものを落としてしまったと危惧するや──なんとシュヴェルタルも自分の得物を手離している。手ぶらの状態だ。

 これは逆にチャンスと俺は考える。武器を持ってない今を攻めればとも。
 素手の状態で肉迫。拳を作ってシュヴェルタルのところへ駆け出した。

 ここから先は拳での勝負だ!

「おりゃあぁぁぁぁ!!」

 拳を打ち突く。ひらりと躱され、空中を滑る。
 そして、シュヴェルタルの腕が瞬速となり、ドボッと凄まじい衝撃が貫いた。

「あ、れ──?」

 違和感がある。身体が全然動けない。
 その原因は、真下を見れば判明した。


 ──黒い腕が、鳩尾に埋まっている。


「かっ、あ……ぐあっ、が……!!」
「シンジさんっ!!!!」

 シュヴェルタルの腕は胸を貫き、背中まで貫いていた。
 視点が高くなる。それはシュヴェルタルが持ち上げているから。穴の開いた身体が地面から離れて宙ぶらりんと吊られている状態だ。

 痛い、痛い──。

 針が刺さるような生半可な痛みとは比べ物にならない、意識を圧潰せんとする激痛。気を保とうするのが限界で、意識が今に崩れようとしている。

 喉元には熱い液体がこみ上げている。血だ。
 口からごぼごぼ溢れ出して、呼吸を阻害する。止めたくても全然止まってくれない。

 目の前も黒ずみを増していく。何もかも見えなくなろうとしている。目蓋も重くなってきた。

 ダメだこれ。死ぬわ。

(力及ばず……か)

 死にゆこうとする自分を情けなく思う。それからテレサへの謝罪も覚えた。

 すまない、テレサ。あの時、墓地でお前にお父さんを助けると宣言した。
 なのに、こんな結末になって、お前の父さんを救えてやれなかった。

 マジ、で……ごめ……ん……。

「シンジさんっ!!」

 意識を辛うじて奮い立たせてくれたのは、テレサの声だ。

「そんなにボロボロになって……もうやめて、お父さん。その人は、お父さんを……っ」

 遠くから震えを帯びた声が小さく耳朶を撫でる。涙声だ。
 きっと泣いているんだ、テレサは。この惨い有様を見てショックを受けているんだ。

「テレ、サ……」

 吐血と一緒に、うわ言のように呟く。


 ああ、ああ──


 失いゆく意識が、テレサをきっかけに戻ってくる。
 シャットダウンしかけた脳内に訪れたのは、不甲斐ない自分への憤慨だった。

 なんて恥ずかしい。一人の女の子を泣かせたままで諦めようとしてんだよ。
 おまえはオリジンだろ? 世界を創った神だろ? それくらい大層な奴なんだから、頑張れよ。

「っ……」

 まだ、まだだ。起きていなくちゃ。
 痛みなんてどうでもいい。ここでっ……終わっていられるかっ!

「ぐうぅっ、おおおお……!」

 鞭打つように自分を奮い立たせる。だらんと垂れ下がった身体を無理矢理にでも稼働させる。

 動け動け動けっ、まだ動けよ俺の身体っ!
 テレサと約束したんだろ? それを果たせないでどうする!?

「死んでなんか、いられねえんだよなぁ……っ!!」

 ぎんっ、と意識を覚醒させ睨む。シュヴェルタルが驚いているようにも見えた。
 いや、実際にそうだった。だから油断して僅かに生まれた猶予を逃さなかった。

 身動ぎをして抵抗。身体を持ち上げていたシュヴェルタルの腕が傾き、足が地面を得た。

「なんで……そんな状態でどうして動けるんだよ!?」

 空気の少ない風船のようで、とにかく力がひどく抜けてる。血も隙間を縫って、垂れ落ちていく。
 身体にでっかい穴が開いてるんだ。自由に動けないのも道理だ。

 だけど……まだ死ねない!!
 まだ死ぬわけにはいかないんだっ!!

「お前は……ぜった、いにっ俺が……っ!」

 身体中の使えそうなエネルギーを集める。
 なんだか左手が温かい。光ってるように見えるのは幻視か、それとも瀕死の状態でおかしくなったせいか。

「あ……!」

 驚きを隠せない声が何処からか聞こえてくるが、些事な事だ。目の前の相手だけに気を傾ける。
 不思議なことに力が湧いてくる。この左手なら思いっきり動かせそうだ。

 危険を感じたらしく、シュヴェルタルが自分の腕を引き抜こうとする。 
 が、もう遅い。この手はもうお前を捉えている。


「こんのおぉぉぉぉ……!!」


 光を帯びた左拳を突き出して、ヤツの顔面に打ち込んだ。
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