異世界を創って神様になったけど実際は甘くないようです。

ヨルベス

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第三章 水の街

第87話 フィンチのアトリエ

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「着替えは終わった?」
「済んでる。この格好じゃないといけないのか?」
「そうよ。ちゃんと見なきゃ良いものが作れないからね」

 作業場で待つフィンチに、着替えを済ませたことを伝える。

 結局、俺たちは条件を呑み、当面はアトリエで過ごすことにした。
 資金の工面、宿の手配の手順手間を省けて願ったり叶ったりだ。

 テレサは身体の具合のこともあり、今日はおやすみ。先に俺がモデルの初仕事をやることになる。
 フィンチに会ってから時間を掛けずに始まった最初の仕事は、立体像の制作。俺の身体を見ながら粘土を使って像を作っていくんだとさ。

 与えられた腰布だけを巻き、いざ二人の前に──

「うぅ、頭がフットーしそうだよぉ」
「もじもじしない。逆に気持ち悪いわよ。早くこっちに来なさい」
「それもそうだな。ちゃっちゃと済ませるか」
「はわ、はわわわわっ」
「テレサ? 見るのが嫌なら離れてもいいんだぞ。別の部屋で安静に過ごしたって……」
「い、いえっ! 同席しますっ。シンジさんが間違いを犯してはいけませんのでっ」
「信用されてなくて傷付きそうだあ」

 顔を赤くし、そわそわとしていながらもテレサは監視に徹しようとする。というより、さっきの口振りはなんだか自身に言い聞かせているものに聞こえた。

「貴方はこの上に立って、ポーズは──」

 来たな……よしっ!

「フィンチ先生。始める前に申告したいことがあるんですが」
「どうしたの? 寒いのかしら?」
「そうではなく、せっかくのモデルのお仕事なので少し……鍛えてきました!!」

 身体に力を入れたのがスイッチ。筋肉が一瞬で隆起する。
 胸筋、腹筋、背筋、上腕二頭筋、大腿筋、あらゆる筋肉がムキョッと、ボディビルダー並に盛り上がった。

「身体が変わりました!?」
「どうだ、このマッスルボディは! 弾丸は通らない! ダンベル何キロも持てます!」

 嘘です。スキル『見せ筋』の効果で、筋肉はムキムキに見えるだけの偽物。パラメーターは変動しない、所謂パーティグッズみたいなものだ。
 弾丸も通るし、ダンベル何キロも持てません!

「さあ思う存分ヘルメス神に魅入られたこの筋肉美を拝みたまえっ!」
「ダメよ」
「即否定!?」
「素のままがいいの。戻して」
「はい……」

 こ、この素晴らしい筋肉が拒まれるとは残念だ。
 芸術家のこだわりは分かんねえなぁ……。


 指定された台の上で、指定のポーズをとる。
 せっせと動くフィンチと、顔が赤くて落ち着かないテレサに見られながら時間が過ぎる──が制作に取り組んでいたフィンチが、感嘆の息を静かな空気に溶け込ませた。

「いいわねぇ、貴方の身体。パニティアじゃ見ない身体つき……偉大な者が自ら形作ったと気がしちゃうわ。神の域の存在にね」
「へへっ、そこまで褒められると照れますなあ。というか神様だし」
「何の話?」
「俺がオリジンって神様ってこと。神様をモデルにした貴重な機会だから、しっかり残してくれよ」
「ふうん。言ってることは分からないけど、仕事はきっちりやるわよー」

 意気込み、フィンチは一片の逃し無く芸術家としての眼を研ぎ澄ませて制作を進める。

 しかし、モデルという仕事は暇だ。暇過ぎる。
 休憩は取ってるけど、立っているだけでは時間の経過が鈍速になるの感じる。

 相変わらずテレサは顔が赤くて落ち着かないし、暇に耐えかねて辛いんで、暇つぶしにフィンチに話を聞いてみるか。

「雑談していいか?」
「ポーズはそのまま維持でね。で、なに?」
「なんでミーミルは芸術の都って呼ばれてんだ?」
「それはこの街に住む貴族たちが芸術を嗜んでいるからよ」
「貴族……それってフィオーレの家とか?」
「そう。フィオーレ、ネーレ、シルバーレ、ガリストロラーレ、ディエーチ、ネイポリス……ヘリオスフィアに忠を示し、現在もミーミルの一部に土地を持つ貴族たちが芸術を研鑽し、文化を高めてきたの。ミーミルは芸術を誇りとしているわ」

 ひと時を彩るだけの、趣の域を出なかった芸術。それはミーミルでは、さらに高めて魅せようとする意識があった。

 時を重ねてそれらは街の主文化となり、フィンチのように生業とする市民まで生まれた。
 活動を易くし、芸術文化がここまで発展したのも、ひとえにミーミルの貴族達の働きあってこそだ。

「ヘリオシースも劣らないけど、学ぶならミーミルが最適ね。しかも目に留まれば貴族が言い値で作品を購入してくれる。後援者にもなってくれるのよ」
「なるほど。アンタはそれで生計を立てているわけだ」
「創作は労働とは違うの。対価を必ず、費やした時間と労力の分だけ得られるものでもないからね。資金には苦労するわ」

 他のお仕事に今さら就けないだの、荒っぽいことは指が勘を忘れるだの、芸術の方面に人生を捧げた者としての不満がフィンチの口から吐露される。一流の芸術家を目指すのも大変なんだな。

「フィンチさんはどうして芸術家になろうとしたのですか?」
「……小さい頃に絵を見たの。婦人が微笑んでる絵なのだけど、生きてるんじゃないかってぐらいに美しくてね。身体がキュンとしたのよ」

 フィンチは思い出を振り返り、その時の感動を表す。
 芸術の道を歩み始めた一人の女の目指す先は……

「私のやるべきことは素晴らしい作品を残すことよ。後世の人に感動してもらえる作品を創りたいの」
「後の時代の人にフィンチさんの作ったものが観られる……とても素晴らしいことですね」
「大袈裟だな。たかが残るくらいで」
「そんな事はないわよ。時を越えて残る。大地や自然のようにいつまでも……芸術は人が手に入れた究極の術とも言っていいわ」
「「究極?」」

 予想していたのか、反応を見たフィンチは疑問に応える。

「そう。動物の中で人間だけが唯一感性を持ち、新しいモノを次々と創りだしている……だから究極の術と言ったの。芸術とは神が行う創造の模倣、、、、、なのよ」

 話の一部がやけに、他とは異なる強調さをもって耳に残った。

「模倣……?」
「そこっ、体勢がズレてる! 維持して!」
「あっハイ」
「よろしい……この世界のあらゆるモノは創造によって産まれた。それはある意味、超越した芸術と私は考えているわ」
「超越した、芸術……」
「神様だって何かを創りたい気持ちはあったんじゃないかしら? 今の私みたいに……ね?」

 究極の術、神の創造の模倣……。

 芸術を創造に喩える奴なんて初めてだ。目下で粘土に形を与えているフィンチが、神がヒトの創造を行っているようにも見えて、なるほどと頷けた。

「だからこの世界がある。いつまでも美しいと思える作品せかいが生き続けている。創造と芸術は非なるものであっても似ているのよ」
「…………そう、かもな」

 否定が入る余地なんて無く、ただ頷く。遠まわしにトールキンを肯定してくれたから。
 参観するテレサが察したらしく、唇を微笑の形に変えていた。

 フィンチの高説は、ある意味で真理だ。
 一見関係の無い二つの行為。しかし、彼女の話を聞いて納得できる。こんな意識の高いものを、ミーミルの芸術家は自覚を問わず秘めているのもしれない。

「さんきゅっ」
「なんのこと?」

 着眼点の面白く、良い話が聞けたんで、感謝の言葉をプレゼント。当然ながらフィンチは理解に行き着くことはなかった。

 ……ん? そういえばアレも──

ミーミルここって動物園でもあんのか?」
「ドーブツエン? なによそれは?」
「飼育してる生き物を観賞するところだよ。この街には無いのか?」
「さあ。聞いたことがないわね」
「街の中に猛獣を飼ってる場所は?」
「農場に牛や馬はいるけど、猛獣は知らないわ。街の中で飼うところなんて貴族の屋敷ぐらいかしら?」
「どうかしましたか?」
「いや……」

 アトリエに来る前の、謎の集団が同伴する荷車の行方を知りたかった。
 あれも芸術に関しているのか訊いてみたが、思った答えは出ない。

 ミーミルにそんな施設や場所は無い、か。

 単に知らないだけか、これから開かれるのか。謎だけが確かに残る。
 動物を飼う施設が限られているとすると、あの荷車の箱に閉じ込められていた生き物は誰が何の為に? 貴族が飼うのだとしても溜飲が下がらない。考え過ぎか?

「じゃあ、それも脱ぎなさい」
「は? なんて?」
「脱ぎなさいと言ったの」
「脱げって……これ取ったら素っ裸になっちゃうんだけど」
「そうよ。裸になるのよ」
「本気で言ってるのか?」
「これも貴方のお仕事のうちよ。冗談言ってるつもりはないんだけど?」

 ほ、本気だった……。
 裸になれって……何も着けていない状態で立てって事かよ。これじゃヌードモデルと一緒だ。

「フィンチさん、裸にするのは止めておいたほうが……」
「それじゃ意味がないのよ。やるなら隅々まで形に残さなきゃ。全身の毛穴からお尻の穴のシワまでじっくり観察するわよ」
「そこまで!?」

 なんて情熱だ。そこまで見ていくとは、芸術家の根性恐るべし。
 だがしかし……!

「それはさすがに……女の子がそこにいるし」
「見られて減るものじゃないでしょ。さあ脱ぎなさい」
「ピュアッピュアなハートに傷が付くからっ」
「や、やめましょうよ。シンジさんが嫌がっていますので……」
「いいから脱ぎなさいっ!!」
「あぁっ、やめて! やめて! いやんっ!!」
「ひやああああぁぁぁぁ!!」

 フィンチに剥ぎ取られ、ひらひらと布が空中を舞う。すっぽんぽんの姿を見たテレサが悲鳴を上げる。
 主人公は全裸になるもの。けど、女に服を脱がされるのはなかなか無い体験だ……。





「──此処からの眺めは良いんだけどなあ」

 アトリエの上階の、貸してもらった部屋の窓に腰掛けて外を眺める。眼前には、夜の姿のミーミルが広がっていた。

 漆黒に彩られながらも星の光を映す湖面を、並べ立てられたロウソクのような街が囲む。
 明るさはココルを凌駕し、リージュをも越えている。その光景は、湖という大きな存在を讃えていた。

 ……と、センチメンタルに描写してみたが、こうしてミーミルの街並みを眺めているのは理由がある。フィンチに見てほしいものがあると言われたからだ。
 今夜はアレが見れるかもって言ってたけど、いったい何が見れるっていうんだ?

 確率で湖にそれは出るという話を鵜呑みにし、その時を待つ──先に訪れたのは、ドアを優しく打つノック音だった。

「シンジさん……」

 返事を受けて入ってきたのは、照明ソーラダイトを手に持ったテレサだった。

「そこに座るのは危ないですよ? 落ちたら身体を打ってしまいます」
「気を付けてはいるさ。いざとなったら引っ張ってくれ」
「私の腕ではシンジさんを支えられませんので期待はしないでくださいね」
「尤もな話で。貯まったBボーナスPポイントを筋力に振り切れば支えることができるが」

 奥ゆかしい娘のテレサをフィジカルに極振りにするのは避けている。パラメーターの育成は均等かつ個人の強みを伸ばす方針だからだ。
 というか、ゴリゴリに逞しくなったテレサは見たくない。●ンさんみたいになってしまったら俺がショックで死んでしまう。

「体調はどうだ?」
「このとおりです。もう元気になりました。満足に動けますよ」 
「そいつは良かった。当たりどころが悪くなくて」

 仕草から見ても、無理せず十分に休息が取れたことが分かる。いつもの調子に戻れて安心できた。

 心配の種が無くなったところで、モンスターに襲われた後の出来事が脳裏を過る。
 次から次に……今日はいろいろあったな。

 アピスの商人と河を下り、ロザリーヌとその兄に遭遇し、謎の鳴き声が聞こえて、テレサが居なくなって。捜して見つけたらでモデルの仕事ときた。

「いやー、モデルって大変だなぁ」
「そ、そうですね。お仕事を見させてもらいましたが、芸術のお仕事とはあのようにやるものなのですね」
「普通はあそこまでしないって。たぶん……」

 仕事に一切の妥協は無し。それはもう、じっくりじーっくりと見られた。
 顔を手で覆うテレサの前で、見えない部分まで舐め回すように。ホクロの数や位置すら把握しているんじゃないだろうか。

 身体を見られるのがこんなに恥ずかしく思える日が来るとは思わなかった。
 楽な稼ぎができると楽観したのに、屈辱を被った。非常に、非常に得難い経験であった。

「シンジさんの……見てしまいました……」
「見られたんだなあ」

 羞恥の抑えきらない声。裸姿を思い出したテレサは顔から蒸気を上らせているはずだ。
 ココルには子供がいても年齢の近い男は見かけなかったからなあ。異性の裸を見て悲鳴をあげるわけだ。

 静寂が手伝ってか、裸を見られたことを恥じている。そんな感情があることが驚きだ。
 ウブになるなよ俺。ココルじゃ夜這いしようとしたろ! 情けないぞシンジぃ!

「あっ、明日はテレサも頑張ってもらうってよ」
「私も裸になるんでしょうか?」
「フィンチ次第だわな。インスピレーションが湧いたって言ってたのに、まだ考えたいらしい」
「は、はあ。もし裸になるのなら……み、見ないでくださいねっ。絶対ですよ⁉」
「わかってるわかってる。見ないって」

 素直に見たいが、そこは自重しよう。あのやべースキルと鈍器のセットでぶん殴られたら嫌だからな。

「す、少しは見ても怒りませんっ、ですけど……っ」

 ぼそぼそとした音がテレサから聞こえてきた気がしたが……気のせいか。

「……怖くなかったか? ココルの外は」
「怖い、というのは?」
「あの洞窟で俺らはモンスターにやられた。生きているから良かったけど、最悪死んでいた」
「そうでしたね。でもそれは仕方のないことだと思います。急にいろんな事が起きましたから……」

 仕方のないこと。果たしてそれだけで片付くか?
 様子見と言って連れてきたせいで、テレサがあんな目に遭って……。

「無理はするな。もうダメっていうなら帰ってもいい。その分の馬車代は工面するよ」
「……ダメなんて絶対に言いませんよ」

 間を置き、テレサは意思を曲げぬと主張する。その真摯さには、固いものがあった。

「もう決めたんです。シンジさんについていくと」
「本当にいいのか? これから何度も危ない目に遭うかもしれないんだぞ? ロギニのヤツもいつ余計な事をしてくるか……」
「お父さんにだって殺されてしまいそうになったんですよ? それにあの変な人は次にあったら叩きますっ。ですから最後までお付き合いさせてください」

 きっぱりと、テレサは夜とソーラダイトの映す夜の世界で言いのけた。

 ……そうだな。そうだよな。

 ココルを発つあの日、テレサはもう決めていた。それは今でも変わっていなかった。
 どんなに辛い事が自分に降りかかったとしても進む道を得た足は止まらない。

 フッ、と自嘲する。
 弱気になっていたな。テレサの方がよっぽどしっかりしているんじゃんか。

「わかった。テレサの意見を尊重するよ」

 改めて覚悟を確認。俺もリーダーとしてこれ以上情けなくならないよう自分を奮い立たせる。
 下がりがちだった面を上げた時、遠くに映る湖に奇妙なことが起きているのを目撃した。

「あれは……?」

 湖の中央付近のいくつもの箇所の水面下から粒々とした光がたくさん出現し浮いていく。それらは空へ向かい途中で消えた。
 音は無く、湖の水面で静かに連続で繰り返している。

 あの光……フィンチが見れるかもと言ってたやつか?

「すっげーっ。何が光ってんだ? 虫か? それともオーブか?」
「あれは『エニアーレの粒光』といいます」
「えに……なに?」
「『エニアーレの粒光』。発光しているのは『マナ』なんです」
「マナ?」
「通常は見えないんですが、あのように目に見えるほどの輝きを放って湖の上に浮かんでくるんです」
「へぇーっ、詳しいんだな?」
「フィンチさんに教えてもらいました。月に一度あるかないかの頻度だそうなので、見られて良かったですね」

 偶然にも見ることのできた不可思議な現象に、テレサは内包した感情を含ませて言う。テレサが持つほどの感動はなかろうが、この光景には凄いと思わざるを得なかった。

 二人で窓から湖の光を眺める。下を見れば、俺たちの他にも湖の光を見ている者がいた。
 ミーミルの住民にとっては珍しさは多少抜けているんだろうが、それでも惹き寄せる魅力は消えていなかった。

 あれがマナというものか。綺麗なもんだ。
 観光に来たんじゃないが、悪くない気分。今はこの光景に見惚れるとしよう。

「き、綺麗な光ですね」
「そうだな。こんなもの初めて見たよ。待ってた甲斐があるぜ」
「初めて見ますが、ずっと見ていたい、、、、、、、、ですよね?」
「ん? ああ、ずっと見ていたいな?」
「そっ! そそそうですよね。ずっと見ていたいですよねっ」
「??」

 何ともない返事をしただけなのに、どういうわけかテレサは一人で騒いでいる。見た感じ、嬉しさに悶えていると汲み取れた。

 な、なんだ? テレサの様子がちょっとおかしい気がするんだが……?

「綺麗なので手を伸ばして触れてみたくないですか?」
「そうだな。触れてみたくなるな」
「あ、あぁ……」

 さっきから妙な質問を振ってくるが、テレサの奴どうしたんだろ?

「……えへ、えひゅへへへっ」

 ふにゃりと蕩けた、不気味な笑い声が夜の室内を漂う。それはテレサの口から零れていた。

 耳を疑った。目を疑った。
 テレサは……蕩けていたのだ。何かしらの感情で。
 その蕩ける様は、溶けるチーズやチョコ。まさに酩酊状態の人間だ。

 普段見ない彼女の変わりきった言動に、俺は呆然としてしまった。
 こんなテレサ、見たことがない。

「どうした急に!? 笑い方がおかしいぞ!」
「うひゅひゅ。おかしくありませんよぉ。シンジさんが知らないだけでぇ……えへぇーへぇーへぇー」
「やっぱり変だぞ!? 熱があるんじゃないか!?」

 モンスターに弾き飛ばされた上に河に流されて……それで今頃になって体調を崩して……俺のせいかもしれねえ。

「やっぱ明日は……テレサ?」

 少しフラフラとした足取りでテレサは部屋の外まで練り歩く。くるん、とテレサの後ろ髪が一回転した。

「おやしゅみなしゃいっ。しゅえながくよろしくお願いしますっ!」
「お、おう? おやすみ」

 なんだか嬉しそうに、にへらにへら笑いながらテレサは退室する。一人になった後も、廊下から「うふふふふふ」と怪しい声が壁を貫いた。


「しゅえながく……?」
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