異世界を創って神様になったけど実際は甘くないようです。

ヨルベス

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第三章 水の街

第103話 嵐の前支度

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 不審なことが起きているのに相も変わらずの活気を放つミーミルの街中。その中心に俺は立っている。
 正確に言えば表の往来から離れ、目立つせずに過ごせる場所。そこである人物を待っていた。

『今日は湖がいつもより濁って見えるわ』
『あっちの岸で魚が浮いてたなんて話を聞いたわよ。水が汚れているのかしらねえ』
『やだわあ。さらに汚れることはないわよね?』

 雑談を小耳に立ち尽くし、あくびをしたり、たまには少し歩いたり柔軟したり。
 あれから時間が経ったが、テレサはちゃんとあいつ、、、を捕まえてきたかな?

「キュッ」

 待っているうちに見張りのレトが戻ってきた。ということは──

『次はこの道を進むのかな?』
『はい。どうぞ、こちらに』

 お、来た来た。
 テレサの声が聞こえる。聞き覚えのある、求めていた人物を連れて。

『うむ……表から離れたが、此処に何が……』

 待ち合わせの場所に姿を現すテレサ。そして、その後ろに立っていたのはロザリーヌの兄のフランヴェオだ。

「き、キミは!!」

 顔を見るなり衝撃が走るイケメン。予想外の人物に会って驚いている。ま、驚くのは驚くか。

「なっ、ななな!? キミがなぜっ!?」
「よお、久しぶり」
「て、テレーゼ!? これはいったい……!?」
「そ、その、ごめんなさい……」
「いやあ会いたかったぜえ、フランヴェオさんよお。」

 話したいことがあった。だからテレサに単身で彼を連れてきてもらった。
 女性相手に丁重に接してくれるイケメン貴族様なら「フランヴェオさんじゃないと解決できないことに巻き込まれているんですぅ」という頼みを真摯に聞いてくれるだろうからな。

「キュッキュ」
「ああっ、ラトナリアーノまで!」
「いや、それはどうでもいいから。妹の捜索は順調かい?」
「……そうか。そういうことか」

 フランヴェオは事態を把握し、警戒を向けつつも紳士の冷静を帯びて向き直る。

「不可解だったよ。久方に顔を見せてくれたテレーゼの話は肝要が掴めなかったのだが……キミの差し金なんだね?」
「そういうことでぇーす。ご察しがよろ……ああっ、燃やそうとしないでっ。物騒なことはナシでね」

 敵意を持って掲げた手が下がる。あと少しで魔術の炎で燃やされるところだった……。

「僕に何用かな? 妹に不埒を働く者と交わす言の葉は持ち合わせていないのだが」
「ツンツンしないでくれよフランヴェオくーん。過去の事は水に流そう。チミ、、とはゆっくり話がしたかったんだ」
「話すつもりはないっ! 頗る気が立っているんだっ!」
「だろうなあ。あのバルガーネに嫁ぐはずの妹がいなくなって捜しても見つからないんだ。そりゃ気も立つだろうよ」

 どうしてそれを……と訴えている表情かおだ。

 現在、ロザリーヌは行方不明の扱い。情報を知っているのはフィオーレ家とバルガーネ家を中心とする関係者だけ。俺もテレサも知っている筈がないのが道理。フランヴェオの目線で言えば。

 実はそこに俺が関わっているんだよな。
 肉体レベルで変装し、バルガーネとの結婚から逃げたかったロザリーヌと入れ替わって抜け出した。ロリっ娘の助けで。

「ああ、そうさ。ロジーはいない。屋敷に戻った後に煙のように消えてしまったんだ」

 うんうん、知ってる。消えたのは俺だからな。

「両家共に捜索を出しているが、髪の毛一本も見つかっていない」
「ヘー、タイヘンダナー」
「どうしてなんだロジー……心を入れ替えて婚姻を決したというのに……!」
「シンチュウゴサッシシマース」
「キミは燃えてもらおう。潔く灰になるといい。テレーゼは下がっていなさい」

 全力でご遠慮の願いに掛かる。機嫌を損ねたフランヴェオの手に魔術で繰り出した炎がチラついたから。

「はあ……ロジー、早く兄に姿を見せておくれ。寒風と飢えに苦しんでいるのなら胸が張り裂けそうだ」
「そ、それは……」

 言いかけたテレサに閉口のサインを送る。妹の身を心配するフランヴェオには聞こえずに済んだ。
 安否も所在も話してやれることはできない。当面の間は。少なくともバルガーネの件はこの状態が続く。全てを知ってる俺らからすれば少し可哀そうな話なもんだ。

「よりにも、この危ない時、、、、に可愛い妹がいないとは……」

 妙なことをフランヴェオが憂鬱げながらに言い漏らした。

 危ない時……?

 ただロザリーヌを心配している文言だが、いやに引っ掛かる。その口ぶり、他に心配事でもあるのか?

「なんだなんだ、話聞こか?」
「キミに話すことはないと言っているっ!!」
「まあまあ、少しは気が楽になるかもよ。俺たちは敵じゃないんだ。あんたに悪さをする気はこれっぽっちもないんだ」
「私も気になります。話してみてはどうですか?」
「テレサ、そこは『私、気になります!』と言ったほうが効果的だぞ」
「へ? はあ……私、気になりますっ! これで良いんですか?」
「テレーゼ……」

 淑女の呼び掛けが効いたのか、フランヴェオは間を置いて緊張と憂いを解き、

「モンスターがこのミーミルに出現しているんだ。この美しい街に、僕の生まれ育った街にっ! 屋敷の付近でモンスターの目撃情報が出ている。怪我人も出たんだ」

 危惧と共に吐露し、悩ませていた問題。それには思い当たる節があった。

 そうだ、あの夜の貴族街で起きた事件……フランヴェオが言っているのはそれで合っているはずだ。
 屋敷を抜けた後、モンスターが急に現れたんだよな。ビィビィの二回目の遭遇の前だったんだよな。怪我人というのは俺が助けた騎士に違いない。

 あれもバルガーネに関係していそうだな。何を考えたか知らんが。
 街にモンスターを放った……? だとすると早く対処しないと街に危害が及ぶかもしれない。いや、もう被害は出ているんだよな。

「なあ、ちょっと訊きたいんだがモンスターを街に運ぶのは法的にどうなるんだ?」
「知らないのか? 故意あって市街にモンスターを持ち込むのは罪に問われる。危害になるものを外から持ち込んでいるのだからね」
「連れてきてはダメなんですね?」
「危険なモノを持ってくるのは許可の下りていない武器を懐に隠しながら人々に向けているのと同列だ」

 ふむふむ、これはバルガーネの隠された所業が明るみになれば即アウトだなあ。
 ん──?

「……」

 怪訝そうな眼差しがフランヴェオから放たれていた。
 腹の内を探っている。ただの質問ではないと勘繰っている。危険な生き物を街中に運んでいる者がいるなんて発想、普通はしないだろう。

「どうしてそんな事を訊くんだい?」

 推測は間違っちゃいなかった。

 来たな。坊ちゃんであっても騎士団に身を置く魔術師という肩書は伊達じゃない。
 これが何気ない質問であれば杞憂で済んで良しだろうが、そうでなければこの街にどれほどの危険が潜んでいることか。

 教えてやらねえとな。その為に会いに来たんだ。
 ボンボン貴族様が育ったこの街にとって良くないものを腹に抱えている奴がいることを。

「あのさ、モンスターが出た原因を知ってると言ったらどうする?」
「どういうことかな?」
「難しく言ってはいねえよ。街中にモンスターが出てきた原因を俺は知っている……と断言はできんな。まだ未確定ってとこなんだが」

 保証はないと聞くと、フッと鼻で笑われた。

「僕が虚言を信じると思うのかい? 誰がキミの話を信用するものか」
「虚言を喋ったつもりはねえよ」
「フランヴェオさん、シンジさんの話は信用できます。どうか聞いてはくれませんか?」
「自分が犯人と打ち明けてくれるのなら大いに聞いてあげるとも。悪いようにはしない。裁判で弁護してあげよう」

 それ、ぜってー不利になるやつだろ。

「嫌われてるのは分かっちゃいたが……聞いてって損は無いぜ? 吟遊詩人のくだらない話とも思っていいぞ」

 フランヴェオは少し黙って、判断を下す。

「聞かせてもらおうか。キミ達の知っていることを──」

 よし、食い付いた。




「あのバルガーネ殿が!? ロジーの新郎が斯様な事を……!?」

 食い付いたフランヴェオに俺達が行き着いた持論を聞かせてやった。
 奴がモンスターを捕獲し、所有しているという話を。

 奇妙な生き物を荷車に乗せた連中はバルガーネの息が掛かっていた。
 荷車に乗せていたのがモンスターだとすれば、奴らは何処に運んだんだろうな? 街の中に隠し通せる場所なんて多くないだろうに。
 
「怪しいが決定的な証拠は無いってところだ。俺達は確実な証拠を掴みに動いてんだよ。だからバルガーネの屋敷を調べに行こうと思ってんだ」
「信じられない。ミーミルに根差した貴族とあろう者がモンスターを……」
「フランヴェオさん、どうか信じていただけますか? バルガーネさんを放ってはおけません」

 話を聞いた後になってもフランヴェオはイマイチな反応を示していた。

 まだ信じられないよなあ。

 バルガーネが怪しいと言っても証拠が無ければ馬鹿げた話、馬鹿げた陰謀論だ。信じるに値しない。
 けれど、それがこの間の出没と関連しているのなら、放っておくとは思えん。時間を無駄に浪費すれば事態が深刻になる未来もあるから。

 おそらくはその辺の事に思考を巡らせているのか、「だが──」とフランヴェオは覆し、

「事実であれば……バルガーネ、どういうつもりだ。議会の目を盗んで法を破るなどと……!」
「だろー? だから協力してほしいんだ。客員魔術師、、、、、さん」

 その誘いにフランヴェオは乗らず、二の足を踏んでいた。
 協力は難しそうって感じに。

「僕が行くのは……良くないだろうね。彼も議会に席を置く者だ。調査は容易く通りはしない」
「そうか? あんたの親父ならなんとかできるんじゃないか?」
「父上の立場はロジーのことで糾弾を受けてね。議会での発言力が弱くなっているんだ。且つ、その父上もミーミルにはまだお戻りになっていない」
「あぁー……」

 嘆息と、ほんの少しの頭痛に見舞われた。

 ロザリーヌの悪行が足を引っ張るかあ。そのせいで自分より格下の成り上がり貴族に嫁に出されるくらいだもんなあ。

 親父さんの権力を傘にした協力は思ったほど期待できそうにないか。どうにかバルガーネの蛮行を白日に下に晒して言い訳できないようにするのが一番か。

「では、どうすれば……」
「なーに、方法はまだあるって」
「まだ? どのような方法行うつもりだい?」
「不正には不正をするんだよ」
「ふむ……?」

 丸い目が具体的なやり方を求めていた。

「あんたの嫌いな奴がバルガーネの家でひと悶着を起こすのさ。どうだ? そうすればあんたも動きやすいだろ?」

 ぐっと親指を自分に向ける。ひと悶着を起こすのが誰なのか教えてやると、失笑が返ってきた。

「バカげているな。本当にバカげている。テレーゼ、キミはこの男と関わるのを止めたまえ。ラトナリアーノも離れるんだ」
「キュ?」
「そういうわけには……」
「どうする? バルガーネの居所を教えてくれれば勝手にやる。あんたは偶然を装う形でバルガーネを追い詰めてやってくれ」
「……」
「バルガーネの家はどこだ? 教えてくれよ兄さま、、、
「に、い、さ、ま──?」

 眉がピクッと震える。口端も引きつっていた。

「ねーねー、教えてくださいよーフランヴェオ兄さまー。ねーねー」

 ロザリーヌを真似て揶揄う。それを聞いたフランヴェオは顔を伏せ、拳を作ってぷるぷると震えている。顔面は見えないが、口が動いていた。

「お、お……っ」

 お──?

「お前は嫌いだあっ!!」
「あっつう!!」
「シンジさんっ!?」

 掌に形作られた火球に焦がされた。
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