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間が悪い編
虎穴に入らずんば虎子を得ず
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「若~いるっすかー?」
とある商家の執務室に、気の抜けた声と共に背の高い、糸目の女性が入ってくる。
「若じゃなくて、オリバーって言えって言ってんでしょうが!」
「いやあ、私の中じゃ若は若だし」
「頼むよカエラ…」
年若く家を継いだオリバーにとって、自分の姉貴分であるカエラには頭が上げにくかった。
「いやー、それが大変なんすよ。前にウチに依頼が来てた、聖女様の件覚えてます?」
「あのバカの依頼でしょ?聖女誘拐なんてばれたらこうだよ。祈りの国所属に変わりはないのに」
そう言いながら、自分の喉を絞める動作をする。
「いやあ、男の欲望ってやつっすよねえ。特に超美女が絡むと、お先真っ暗」
「目が暗むだから。いや、合ってるっちゃあ合ってるか。というか、親父が死んでからウチはそういうのナシだって言ってるのに、まだ依頼が来る方に僕は驚くね」
「まあ、先代がやり手でしたからねえ」
オリバーは、闇の世界において、暗殺と誘拐においてダークエルフの達人に匹敵すると言われた、忌々しき父の顔を思い浮かべる。
「ウチはもう足を洗って、真っ当なしのぎで生活してるの」
「いやー、足向けて眠れないっす」
「だからお前も、昔みたいなことする必要ないからな」
「私の事、気に掛けてくれてるんっすね」
「ちち違うわい!それよりその聖女の一件がどうしたんだよ!?」
オリバーは嫌な予感を既に感じていた。
「今度ウチの高級商品、テイラー伯爵のとこに運ぶっすよね?」
「ああ、お茶用の陶磁器ね」
騎士の国の職人に発注した商品を思い出す。
「いやあ、それがどうも聖女様がいるのも、テイラー伯爵んとこのリガの街らしいんっすよ」
「はあ!?なんでそんなとこに!?」
それこそ、どこかの王都の教会にいるものと思っていたため、大声を出してしまう。
「ほんとっすよねえ」
「いや、そもそもあんな依頼を受ける奴なんていないだろ!?」
「若ー、闇組織舐めてるっすねー。あんだけの金額でしたから、"青の歌劇"が受けちゃったみたいっすよー」
「嘘だろ!?」
オリバーは絶叫しながら、人身売買で悪名高い闇組織を思い出す。
「下手すりゃ、お膝元で聖女様誘拐の騒動が起きたとこへ出くわすやも」
「冗談じゃない!?納期を遅らせるか…。いや、ようやく軌道に乗った時にそれはまずいぞ…!?」
「まあ、まだかち合うと決まっては無いっすからねえ。様子を見てきましょうか?」
「そうだ!転移魔具があれば!」
「驚いたっす。ウチの関係者に大金持ちがいるなんて」
「くそっ!だよな!」
オリバーは、転移魔具の触媒の値段を思い出して呻く。
「という分けで私が一足先に」
「いいやダメだ!そんな危ないとこには行かせん!」
「そうは言ってもっすねえ」
「だらかダメだって!腕っこきを連れて行って、すぐ商品を渡して帰る!はい決定!」
「もう、一度言い出したら強引なんだから」
「この話は終わり!」
断固とした決意で宣言する。
「分かったわ、私の事心配してくれてありがとうね」
「うっ!?」
近づいて来たカエラに頭を抱きかかえられ、オリバーは声を上げてしまう。
「愛してるわよオリバー」
「わわわかったから急いで準備だ!」
自分だけに見せてくれる姿に心拍数を上げながら、慌てて話を戻して平常心を得ようとする。
「分かったわ。また後で」
「あ、ああ」
カエラが出て行った扉を暫く見ていたオリバーであった。
◆ ◆ ◆
剣の国 王宮 宰相執務室
「宰相閣下、私です。至急報告したいことがあります」
「入れ」
防諜を任せている男のただならぬ声に、宰相はすぐさま入るよう命じる。
「何があった?」
「はっ。リガの街に住んでいる聖女リリアーナを拉致しようと、人身売買に関与する闇組織"青の歌劇"が動いています。依頼主は不明で消すことが叶いません」
男の報告に宰相は絶句する。
「馬鹿な。一体何を相手にしているか分かっているのか?」
何かに聞かれることを恐れる様な小さな声であった。
「はっ。間違いなく"化け物"そのものを知らぬかと。宰相閣下、至急人を入れとうございます。前回の者たちよりも戦う事に長じた者達です。それと、何卒転移魔具の御許可とテイラー伯爵への手紙を…。それと"化け物"にも…」
答える男も、まるで今すぐにでもなにか恐ろしい事が起こるかの様な声であった。
「分かったすぐに書く、転移魔具も許可する急げ、他に案件は?」
「はっ。ありません」
「よし、書くからしばし待て」
宰相が手紙を書く音だけが部屋に響く。
「よし、それぞれに書いた。では行け!」
「はっ」
宰相は男が出て行った後、こめかみを揉み。
「ようやく大人しく隠居しているのを、何故起こそうとするのだ。馬鹿め…」
◆ ◆ ◆
リガの街 どこかの部屋
あまり大きくはない部屋に、5人の男たちが集まり情報を照らし合わせていた。
「纏めると、聖女が住んでいるのは単なる一軒家だが、ダークエルフの同居人が2人に、男が1人。日中は教会で仕事っか。」
"青の歌劇"の先遣隊が、リリアーナ誘拐のための情報収集した結果を纏めていた。
「はい。やはり問題はダークエルフですな…。その道の専門家です、突っ込んだ偵察ができませんでした。やはり本隊の合流を待つべきかと」
闇の世界だからこそ、ダークエルフは名高い存在であった。
「そうだな。連絡が来るのを待とう。まあ、狙いは教会にいる時だとは思うが」
ダークエルフに闇討ち、夜討ちなんて馬鹿らしいにもほどがあると男達は考えていた。
「そうですな」
「確かに。所でお宅ら、ウチの奥さんに何の用?」
最後に発せられた言葉を聞けた者はいなかった。
"化け物"のねぐらに入るな
とある商家の執務室に、気の抜けた声と共に背の高い、糸目の女性が入ってくる。
「若じゃなくて、オリバーって言えって言ってんでしょうが!」
「いやあ、私の中じゃ若は若だし」
「頼むよカエラ…」
年若く家を継いだオリバーにとって、自分の姉貴分であるカエラには頭が上げにくかった。
「いやー、それが大変なんすよ。前にウチに依頼が来てた、聖女様の件覚えてます?」
「あのバカの依頼でしょ?聖女誘拐なんてばれたらこうだよ。祈りの国所属に変わりはないのに」
そう言いながら、自分の喉を絞める動作をする。
「いやあ、男の欲望ってやつっすよねえ。特に超美女が絡むと、お先真っ暗」
「目が暗むだから。いや、合ってるっちゃあ合ってるか。というか、親父が死んでからウチはそういうのナシだって言ってるのに、まだ依頼が来る方に僕は驚くね」
「まあ、先代がやり手でしたからねえ」
オリバーは、闇の世界において、暗殺と誘拐においてダークエルフの達人に匹敵すると言われた、忌々しき父の顔を思い浮かべる。
「ウチはもう足を洗って、真っ当なしのぎで生活してるの」
「いやー、足向けて眠れないっす」
「だからお前も、昔みたいなことする必要ないからな」
「私の事、気に掛けてくれてるんっすね」
「ちち違うわい!それよりその聖女の一件がどうしたんだよ!?」
オリバーは嫌な予感を既に感じていた。
「今度ウチの高級商品、テイラー伯爵のとこに運ぶっすよね?」
「ああ、お茶用の陶磁器ね」
騎士の国の職人に発注した商品を思い出す。
「いやあ、それがどうも聖女様がいるのも、テイラー伯爵んとこのリガの街らしいんっすよ」
「はあ!?なんでそんなとこに!?」
それこそ、どこかの王都の教会にいるものと思っていたため、大声を出してしまう。
「ほんとっすよねえ」
「いや、そもそもあんな依頼を受ける奴なんていないだろ!?」
「若ー、闇組織舐めてるっすねー。あんだけの金額でしたから、"青の歌劇"が受けちゃったみたいっすよー」
「嘘だろ!?」
オリバーは絶叫しながら、人身売買で悪名高い闇組織を思い出す。
「下手すりゃ、お膝元で聖女様誘拐の騒動が起きたとこへ出くわすやも」
「冗談じゃない!?納期を遅らせるか…。いや、ようやく軌道に乗った時にそれはまずいぞ…!?」
「まあ、まだかち合うと決まっては無いっすからねえ。様子を見てきましょうか?」
「そうだ!転移魔具があれば!」
「驚いたっす。ウチの関係者に大金持ちがいるなんて」
「くそっ!だよな!」
オリバーは、転移魔具の触媒の値段を思い出して呻く。
「という分けで私が一足先に」
「いいやダメだ!そんな危ないとこには行かせん!」
「そうは言ってもっすねえ」
「だらかダメだって!腕っこきを連れて行って、すぐ商品を渡して帰る!はい決定!」
「もう、一度言い出したら強引なんだから」
「この話は終わり!」
断固とした決意で宣言する。
「分かったわ、私の事心配してくれてありがとうね」
「うっ!?」
近づいて来たカエラに頭を抱きかかえられ、オリバーは声を上げてしまう。
「愛してるわよオリバー」
「わわわかったから急いで準備だ!」
自分だけに見せてくれる姿に心拍数を上げながら、慌てて話を戻して平常心を得ようとする。
「分かったわ。また後で」
「あ、ああ」
カエラが出て行った扉を暫く見ていたオリバーであった。
◆ ◆ ◆
剣の国 王宮 宰相執務室
「宰相閣下、私です。至急報告したいことがあります」
「入れ」
防諜を任せている男のただならぬ声に、宰相はすぐさま入るよう命じる。
「何があった?」
「はっ。リガの街に住んでいる聖女リリアーナを拉致しようと、人身売買に関与する闇組織"青の歌劇"が動いています。依頼主は不明で消すことが叶いません」
男の報告に宰相は絶句する。
「馬鹿な。一体何を相手にしているか分かっているのか?」
何かに聞かれることを恐れる様な小さな声であった。
「はっ。間違いなく"化け物"そのものを知らぬかと。宰相閣下、至急人を入れとうございます。前回の者たちよりも戦う事に長じた者達です。それと、何卒転移魔具の御許可とテイラー伯爵への手紙を…。それと"化け物"にも…」
答える男も、まるで今すぐにでもなにか恐ろしい事が起こるかの様な声であった。
「分かったすぐに書く、転移魔具も許可する急げ、他に案件は?」
「はっ。ありません」
「よし、書くからしばし待て」
宰相が手紙を書く音だけが部屋に響く。
「よし、それぞれに書いた。では行け!」
「はっ」
宰相は男が出て行った後、こめかみを揉み。
「ようやく大人しく隠居しているのを、何故起こそうとするのだ。馬鹿め…」
◆ ◆ ◆
リガの街 どこかの部屋
あまり大きくはない部屋に、5人の男たちが集まり情報を照らし合わせていた。
「纏めると、聖女が住んでいるのは単なる一軒家だが、ダークエルフの同居人が2人に、男が1人。日中は教会で仕事っか。」
"青の歌劇"の先遣隊が、リリアーナ誘拐のための情報収集した結果を纏めていた。
「はい。やはり問題はダークエルフですな…。その道の専門家です、突っ込んだ偵察ができませんでした。やはり本隊の合流を待つべきかと」
闇の世界だからこそ、ダークエルフは名高い存在であった。
「そうだな。連絡が来るのを待とう。まあ、狙いは教会にいる時だとは思うが」
ダークエルフに闇討ち、夜討ちなんて馬鹿らしいにもほどがあると男達は考えていた。
「そうですな」
「確かに。所でお宅ら、ウチの奥さんに何の用?」
最後に発せられた言葉を聞けた者はいなかった。
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