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全てを食らうもの編
呼ぼうか呼ぶまいか 祈りの国編
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祈りの国 本殿会議室
時は海の国で会議が始まる少し前に遡る。
「それでは会議を始めます」
進行役は、海の国での異常事態に対処するために、休みを取り下げたベルトルド総長が務めた。他の参加者として守護騎士団団員や勇者の以外にも、多数の文官と彼らを代表する立場であり、ベルトルド総長の盟友である枢機卿ドナートの姿もあった。
「海の国での最新の情報ですが、クラーケンの他にも大海蛇などが陸地に上陸し、派遣した団員が交戦しています」
会議室に小さなざわめきが起こる。
前回の会議で、クラーケンと勇者が交戦したことが報告されていたが、それでも今まで遠洋でしか目撃されたことが無い魔物が、陸地にまたしても現れたことは、彼等に衝撃をもたらした。
「また、前回報告された勇者ビアジの、クラーケン達は何かから逃げているという所感ですが、他の地で交戦した団員や、特級冒険者達も同じ意見であり、調査の重要性が増しました」
そう言うとベルトルドはドナートに目配せをする。調査の代表は彼が務めていた。
「調査班から報告させて頂きます。結論から述べると、竜が大海溝に潜んでいる可能性があります」
今度ははっきりとざわめきが起こった。
神々に仕える者として、怨敵である竜の存在は許せるものでは無いが、かといって具体的な対処は祈りの国1国では荷が重すぎた。
「古いエルフの日記に、海神様が竜が潜んでいると予測された大海溝に調査に赴いた際に、大きく力を落とされて帰って来たとありました。恐らく、マザサ神は竜に敗れて帰って来たのではないかと思われます」
神々と竜との戦いの資料は、大部分がエルフの森にあったが、森から大陸中央への反攻作戦には多くのエルフが従軍していたため、彼等の日記や従軍日誌は、戦争後に大陸中央で建国された祈りの国が多数発見していた。
「現在エルフの森に問い合わせており、返答を待っている最中です」
竜と直接矛を交えた唯一の人種であるエルフこそが、最も竜に詳しかったため、祈りの国はエルフの森に通信魔具で問い合わせをしていた。
幸い、同じ神々に仕える自負の大きい祈りの国とエルフの森は、成り立ち自体が神々の関与があったため、友邦、もしくは兄弟国と言ってよく、交流も盛んであった。
最も流石のエルフでも、神話で語られる時代の資料は、多くは失われており正確さに欠けたため、当時を知る唯一の存在に長老が恐る恐る尋ねたが、そいつはもう死んでる、という返事が返って来たため、困惑していた。
「そこで仮にですが、この騒動の原因が竜であった場合の対処ですが」
ちらりとドナートが自分を見ているとベルトルドは察したが、思わずため息を小さく吐いてしまう。
「ユーゴ殿のご助力を願う事としますが、皆さんどうでしょう?」
(仕方ないか…。"1"つの魔法には"1"つの魔法の仕事が…。竜の討伐は怪物にか…)
頷く周囲を見ながら、ベルトルドも仕方なしに納得する。
不本意ながら最近のユーゴとの付き合いで、ある程度信頼できることが分かったため、反対はしなかった。
「これは勿論仮定の話です。我々の先走り過ぎで、何かの自然現象の余波であった場合は、我々が上陸しようとした者を対処した方がいいでしょう。"1"つの魔法で片付く案件で、"8"つと言っていい彼が出張る必要はないでしょう」
一応ドナートも、ユーゴが出る必要が無いなら、それに越したことは無いと思っていた。リスクは最小限に抑えたかったのだ。
「それでは万が一の場合の使者ですが、」
それでも竜に関する文献がある以上、準備は必要だとユーゴの下へ赴く使者の選定をしようとした時である。
ゴーーーン!
「そんな!通知のベルが起動した!」 「今すぐ祭壇へ!」 「おお神々よ。試練なのですか!?」
荘厳な鐘の音が神殿全体に響き渡ったのだ。
通知のベルを聖なるものと捉えている祈りの国は、ベルが起動した時に鳴る鐘の音を唯一無二として、首都に鐘を置くことを禁じていた。
つまり、鐘の音が聞こえているという事は、神々が警告や通達を行う、通知のベルが起動したことに他ならなかった。
『警告!警告!警告!』
「なんてことだ!我々にもはっきりと聞こえるぞ!」 「いったい何が!?」
通常の場合、通知のベルは起動しても、適性のある聖女しか聞き取れないはずなのに、一行がベルが安置されている祭壇の間に到着すると、はっきりとベルから声が聞こえてきた。
『繰り返す!警告警告警告!"海神"が大海溝に施した別世界を隔たる結界を、異界の存在"全てを食らうもの"が突破を試みている!現在我々は、海神の施した結界の詳細な位置を特定中!人種では対処不可能!世界崩壊事態に直面!世界崩壊事態!』
「な、な、な!?」 「なんてことだ!」 「神々よ!」
ベルから聞こえてくる声の、あまりの内容に絶句する一同。建国以来、神々がここまで恐ろしい危機を通達したことは無かった。
『我"契約"の名を持って、特別緊急事態対処手段を実行し、"来訪者"への不干渉を解除!祈りの国の者よ!至急"来訪者"ユーゴに連絡を取り、協力を要請せよ!繰り返す!至急"来訪者"ユーゴに連絡を取り、協力を要請せよ!結界の場所が特定され次第、"全てを食らうもの"の討伐を要請!』
「使者は私が行く!転移魔道具が必要だ!急げ!」
「勇者、並びに守護騎士団を総動員する!」
流石かつての勇者ドナートとベルトルド。他のものが固まってしまう中、即座に行動に移して指示を出す。
『"危機感知"による"全てを食らうもの"の位階、総魔力の測定失敗!戦闘力不明!』
尚も続く警告に愕然としながらも、祈りの国の中枢は動き始めるのであった。
◆
カラカラ
クリスちゃーん。かわいいでちゅねー!
ん?抱っこかな?んまあ可愛い笑顔!
パパも嬉しいでちゅよー!
時は海の国で会議が始まる少し前に遡る。
「それでは会議を始めます」
進行役は、海の国での異常事態に対処するために、休みを取り下げたベルトルド総長が務めた。他の参加者として守護騎士団団員や勇者の以外にも、多数の文官と彼らを代表する立場であり、ベルトルド総長の盟友である枢機卿ドナートの姿もあった。
「海の国での最新の情報ですが、クラーケンの他にも大海蛇などが陸地に上陸し、派遣した団員が交戦しています」
会議室に小さなざわめきが起こる。
前回の会議で、クラーケンと勇者が交戦したことが報告されていたが、それでも今まで遠洋でしか目撃されたことが無い魔物が、陸地にまたしても現れたことは、彼等に衝撃をもたらした。
「また、前回報告された勇者ビアジの、クラーケン達は何かから逃げているという所感ですが、他の地で交戦した団員や、特級冒険者達も同じ意見であり、調査の重要性が増しました」
そう言うとベルトルドはドナートに目配せをする。調査の代表は彼が務めていた。
「調査班から報告させて頂きます。結論から述べると、竜が大海溝に潜んでいる可能性があります」
今度ははっきりとざわめきが起こった。
神々に仕える者として、怨敵である竜の存在は許せるものでは無いが、かといって具体的な対処は祈りの国1国では荷が重すぎた。
「古いエルフの日記に、海神様が竜が潜んでいると予測された大海溝に調査に赴いた際に、大きく力を落とされて帰って来たとありました。恐らく、マザサ神は竜に敗れて帰って来たのではないかと思われます」
神々と竜との戦いの資料は、大部分がエルフの森にあったが、森から大陸中央への反攻作戦には多くのエルフが従軍していたため、彼等の日記や従軍日誌は、戦争後に大陸中央で建国された祈りの国が多数発見していた。
「現在エルフの森に問い合わせており、返答を待っている最中です」
竜と直接矛を交えた唯一の人種であるエルフこそが、最も竜に詳しかったため、祈りの国はエルフの森に通信魔具で問い合わせをしていた。
幸い、同じ神々に仕える自負の大きい祈りの国とエルフの森は、成り立ち自体が神々の関与があったため、友邦、もしくは兄弟国と言ってよく、交流も盛んであった。
最も流石のエルフでも、神話で語られる時代の資料は、多くは失われており正確さに欠けたため、当時を知る唯一の存在に長老が恐る恐る尋ねたが、そいつはもう死んでる、という返事が返って来たため、困惑していた。
「そこで仮にですが、この騒動の原因が竜であった場合の対処ですが」
ちらりとドナートが自分を見ているとベルトルドは察したが、思わずため息を小さく吐いてしまう。
「ユーゴ殿のご助力を願う事としますが、皆さんどうでしょう?」
(仕方ないか…。"1"つの魔法には"1"つの魔法の仕事が…。竜の討伐は怪物にか…)
頷く周囲を見ながら、ベルトルドも仕方なしに納得する。
不本意ながら最近のユーゴとの付き合いで、ある程度信頼できることが分かったため、反対はしなかった。
「これは勿論仮定の話です。我々の先走り過ぎで、何かの自然現象の余波であった場合は、我々が上陸しようとした者を対処した方がいいでしょう。"1"つの魔法で片付く案件で、"8"つと言っていい彼が出張る必要はないでしょう」
一応ドナートも、ユーゴが出る必要が無いなら、それに越したことは無いと思っていた。リスクは最小限に抑えたかったのだ。
「それでは万が一の場合の使者ですが、」
それでも竜に関する文献がある以上、準備は必要だとユーゴの下へ赴く使者の選定をしようとした時である。
ゴーーーン!
「そんな!通知のベルが起動した!」 「今すぐ祭壇へ!」 「おお神々よ。試練なのですか!?」
荘厳な鐘の音が神殿全体に響き渡ったのだ。
通知のベルを聖なるものと捉えている祈りの国は、ベルが起動した時に鳴る鐘の音を唯一無二として、首都に鐘を置くことを禁じていた。
つまり、鐘の音が聞こえているという事は、神々が警告や通達を行う、通知のベルが起動したことに他ならなかった。
『警告!警告!警告!』
「なんてことだ!我々にもはっきりと聞こえるぞ!」 「いったい何が!?」
通常の場合、通知のベルは起動しても、適性のある聖女しか聞き取れないはずなのに、一行がベルが安置されている祭壇の間に到着すると、はっきりとベルから声が聞こえてきた。
『繰り返す!警告警告警告!"海神"が大海溝に施した別世界を隔たる結界を、異界の存在"全てを食らうもの"が突破を試みている!現在我々は、海神の施した結界の詳細な位置を特定中!人種では対処不可能!世界崩壊事態に直面!世界崩壊事態!』
「な、な、な!?」 「なんてことだ!」 「神々よ!」
ベルから聞こえてくる声の、あまりの内容に絶句する一同。建国以来、神々がここまで恐ろしい危機を通達したことは無かった。
『我"契約"の名を持って、特別緊急事態対処手段を実行し、"来訪者"への不干渉を解除!祈りの国の者よ!至急"来訪者"ユーゴに連絡を取り、協力を要請せよ!繰り返す!至急"来訪者"ユーゴに連絡を取り、協力を要請せよ!結界の場所が特定され次第、"全てを食らうもの"の討伐を要請!』
「使者は私が行く!転移魔道具が必要だ!急げ!」
「勇者、並びに守護騎士団を総動員する!」
流石かつての勇者ドナートとベルトルド。他のものが固まってしまう中、即座に行動に移して指示を出す。
『"危機感知"による"全てを食らうもの"の位階、総魔力の測定失敗!戦闘力不明!』
尚も続く警告に愕然としながらも、祈りの国の中枢は動き始めるのであった。
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カラカラ
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パパも嬉しいでちゅよー!
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そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
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