その男に触れるべからず ~過去にやらかし過ぎた最強男の結婚生活 反省しているので化け物呼ばわりは勘弁してください~

福郎

文字の大きさ
133 / 172
お家騒動編

一座1

しおりを挟む
???

「アジル。どうかあの子達をお願い…」

「ニナ様…」

湖の国の第一后ニナの命は、今まさに尽きようとしていた。

「私が死ねば、王は子供達を必ず殺そうとするでしょう」

「はっ…」

療養と称して、王城から実家の侯爵家に戻っていたニナであるが、実際は王に疎まれて戻されていたのだ。
そして、そんなニナの最大の懸念は、自分が生んだ双子の兄妹の行く先である。

「王にとっても我が子なのに…」

王が産後の肥立ちが悪いニナを実家に戻し疎んじたり理由は、人間種の彼女の産んだ赤子たちが、妖精族、、つまりチェンジリングであったことが原因である。

時折起こる、同じ人種同士の子供の種族が違うこの現象は、古くから忌み嫌われており、不貞や血統に紛れ込んだ異物として排除される傾向にあった。
しかも、その赤子たちは最も血統に拘る家、王族に生まれてしまい、父である王は赤子たちを亡き者にして、自分達の血統に起こった"不具合"を無かった事にしようとしていた。

「アジル。どうかお願い…」

「ご安心ください。このアジル、必ずやパーシル様とマナ様をお守りします」

「ありがとうアジル…」

自分の実家を継いだ気弱な兄が、既に子供達を王に渡そうとしている事を察知したニナは、それよりも早く子供達を逃がそうと、自分に古くから仕えてくれている年老いた家令、アジルに子供達を託そうとしていた。

「どうか…あの子らを…」

「ニナ様!?」

小国とはいえ、王妃であるニナの死は、年老いた家令一人に見送られる寂しいものであった。

それから幾年の歳月が経ち…。



「ああ。そういえば大道芸の一座が来る話は聞いてるかい?」

「いえ、初めて聞きました。凜は知ってる?」

「私も初聞きです」

商店街にある魚屋で買い物をしていたユーゴと凜は、店主からそう話を振られる。

「何でも騎士の国を中心に巡行してたみたいだけど、ほら、最近あそこは物騒だろう?それでこっちに来るとかなんとか」

「ああ、なるほど」

「それでこっちへ」

頷くユーゴと凜。
騎士の国は一時ほどではないが、それでも地方はまだまだ不穏で、軍の目が行き届かない場所では野党や盗賊の数も多かった。
尤もそれは、バジリスクの件の逃亡兵や、負傷して急に職を失った者が盗賊の構成員であったため、それなりの戦闘力を保持しており、生半可な戦力では返り討ちになる程であった。

「そこへ駆け出しの吟遊詩人や行商、絵描きとかが合流して、かなりの数になるとか」

「なんとまあ大移動ですね」

「まあ、くっ付いて動いた方が安全だし、どっかのおこぼれの金が舞い込んでくるかもしれないからね」

「ははは」

安全もタダではないこの時代であるから、出来るだけ安く済まそうと思ったら、何かしらの移動にくっ付いて行く方が安上がりなのだ。

「勇吾様。大陸の大道芸はどのようなものなのです?」

「ああ、高い場所から縄一本を歩いて移動したり、熊とかライオンが火の輪をくぐったり、空中でブランコからブランコへ飛び移ったり、そんな感じかな?」

そう故郷のサーカスの様な、大陸の大道芸について説明するユーゴ。

「なかなか大掛かりなのですね」

東方の、小道具で芸をする者達を想像していた凜は、ユーゴから聞かされた内容の大掛かりさに驚く。動物だってせいぜいが猿くらいだ。

「ああ、それと踊り子もいるみたいだ」

「はあ」

魚屋の店主にしてみれば、こっちの方が本題だったのだろう。喜色満面で踊り子も一座と共にやって来る事を嬉しそうに話している。

この時代の大陸で、各地を巡行している踊り子の一座は、煽情的な服で踊るだけでなく、時には金銭と引き換えに、男達を熱い夜に誘う事もしていた。

最も愛妻家のユーゴにしてみれば、そんな踊り子よりも、大道芸を子供達に見せてあげようという思いしかなかったが。

「それに街がにぎわう事はいい事だ」

「そうですね」

リガの街は発展はしているが、それでも地方都市でしかなく、市民が娯楽に飢えている面は確かにあった。

「はい、注文の魚をどうぞ。またよろしくね」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます」

注文していた魚を受け取り店を出る2人。

「そうか。次はブランコだな…。それとソフィアちゃんが、本物の熊を見て泣かなきゃいいが…」

そう呟きながら帰路に就くユーゴを、微笑まし気に見ている凜であった。



「まあ。大道芸の一座が?」

「うん。リガの街に来るみたい」

「ぱぱ!」

「ぱぱ!」

「おっと。ひひーん」

「わあ!」

「えっへ!」

「えへへ!」

家に帰ったユーゴは、早速家族に大道芸の一座達が来る事を知らせていた。
お馬さんごっこをして、背にソフィアとコレットとクリスを乗せながら。

「それじゃあ皆で見に行きましょう」

「そうだね。ソフィアちゃん、本物の熊さんが出て来ても大丈夫?」

「ぬいぐるみのくまさんと、くまはべつだよ?」

「はっはっは。そうだね!」

自分の背にいるソフィアの回答に、笑いながらリビングを移動するユーゴ。リリアーナは、そんな彼等をリリアーナは写真で撮りまくっているのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...