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プロローグ
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ーまた来てる…今日は何を聞かれることやら……
葵がこの店でバイトを始めて約二年、この男性客は度々訪れていた常連客だ。
それが近頃、様子がおかしい。
「お疲れ様。今日は何色のパンツ履いてるのかな?」
パ、パンツの色!すごいストレートがきた…!この前はブラのサイズ、その前は使ってるシャンプーのメーカー、今回はパンツの色…いったいなんなのよ…
「そういったことにはお答えできません」
「どうして?こんなに好きなのに。君のことならなんでも知りたいんだ」
こんな綺麗な顔で言われたら絆される人もいそうなほど、このお客さんの顔は整っていると思う。目は切れ長で、眉はきりりとしてて、服装はいつもスーツ。サラリーマンかな…?
ただ私の好みではないし、なんとなく気持ち悪いだけ。
ま、適当に流しておこう。
「ご注文は?」
「コーヒー」
澄ました顔して…コーヒー一杯でウェイトレスにセクハラするんだから、よほど暇なのだろう。
前回ブラのサイズを聞かれた時「今度プレゼントするからサイズ教えて」と言われたが、気持ちが悪い…。
ー普通、恋人でもない女性に下着なんて贈る?だいたい好きだからブラをプレゼントしたいとは言うわりには、人の好みはどうでもよさそうだし、大前提として、私は別に好きではないから付き合うつもりはない。
「付き合って」と言われた訳ではないが困る!それにしたって、告白ってレジで言うこと?
しかも「好きだからパンツ見せて」だなんてあんなの告白じゃないよね!
何だったのよあの、パンツ見たさに言ってみました的な流れ作業!
ここはドライブスルーじゃないのよ!ついでにポテトよろしく!で告白なんてされてたら、たまったもんじゃない!
…とその時
「お願いします」
「はーい」
ナイスタイミング!
他のお客さんに呼ばれ、行かなくちゃ…とばかりに向き直ると
「待ってよ」
突然、手首をぐっと強く掴まれ引き留められた。
表情が読めない能面のような、動かない黒目に思わず身動ぎする。
ー嫌っ、離して!
出かかった言葉をぐっと飲み込み、そっとその手をほどいて立ち去った。
もともとは、コミュニケーション能力の低さを克服するためと、生活の足しにするために始めたバイトだったが、表面的には冷静に対処できるまでに成長できたと思いたい。
ー本当にいろんな人がいるなぁ。
でも…あのお客さんだけは、何か毛色が違う気がして、話しかけられると焦燥感にかられて落ち着かない。
そんな気持ちを押しきって、平静としたふりをしているのはなかなかに骨が折れる。
ー考え過ぎかもしれない…
そう気を取り直して呼ばれた席に向かった。
「お待たせ致しました、ご注文はお決まりですか?」
お客に薄く微笑む。これはもう職業病だ。
「大変そうだね。大丈夫?」
そう言われ、ん?と思ったがすぐにさっきのお客さんのことだろうと思い
「ああ、毎回なんです…すみません、ご心配いただいて……」
少しはにかみながら言うと、彼は私にちょいちょいと手招きして耳元に顔を近づけてきた。
「あのお客さん、すごい睨んでる。気をつけたほうがいいよ…何かあってからじゃ遅いから」
囁かれた低い重低音の声が脳髄にまで響き、不覚にもゾクッとしてしまった。
「あ、はい、ありがとうございます」
「あと、日替わりランチ1つ」
「かしこまりました」
気にかけてくれたことに感謝しつつ、少し火照った顔を慌ててそらすようにしてその場を後にした。
葵がこの店でバイトを始めて約二年、この男性客は度々訪れていた常連客だ。
それが近頃、様子がおかしい。
「お疲れ様。今日は何色のパンツ履いてるのかな?」
パ、パンツの色!すごいストレートがきた…!この前はブラのサイズ、その前は使ってるシャンプーのメーカー、今回はパンツの色…いったいなんなのよ…
「そういったことにはお答えできません」
「どうして?こんなに好きなのに。君のことならなんでも知りたいんだ」
こんな綺麗な顔で言われたら絆される人もいそうなほど、このお客さんの顔は整っていると思う。目は切れ長で、眉はきりりとしてて、服装はいつもスーツ。サラリーマンかな…?
ただ私の好みではないし、なんとなく気持ち悪いだけ。
ま、適当に流しておこう。
「ご注文は?」
「コーヒー」
澄ました顔して…コーヒー一杯でウェイトレスにセクハラするんだから、よほど暇なのだろう。
前回ブラのサイズを聞かれた時「今度プレゼントするからサイズ教えて」と言われたが、気持ちが悪い…。
ー普通、恋人でもない女性に下着なんて贈る?だいたい好きだからブラをプレゼントしたいとは言うわりには、人の好みはどうでもよさそうだし、大前提として、私は別に好きではないから付き合うつもりはない。
「付き合って」と言われた訳ではないが困る!それにしたって、告白ってレジで言うこと?
しかも「好きだからパンツ見せて」だなんてあんなの告白じゃないよね!
何だったのよあの、パンツ見たさに言ってみました的な流れ作業!
ここはドライブスルーじゃないのよ!ついでにポテトよろしく!で告白なんてされてたら、たまったもんじゃない!
…とその時
「お願いします」
「はーい」
ナイスタイミング!
他のお客さんに呼ばれ、行かなくちゃ…とばかりに向き直ると
「待ってよ」
突然、手首をぐっと強く掴まれ引き留められた。
表情が読めない能面のような、動かない黒目に思わず身動ぎする。
ー嫌っ、離して!
出かかった言葉をぐっと飲み込み、そっとその手をほどいて立ち去った。
もともとは、コミュニケーション能力の低さを克服するためと、生活の足しにするために始めたバイトだったが、表面的には冷静に対処できるまでに成長できたと思いたい。
ー本当にいろんな人がいるなぁ。
でも…あのお客さんだけは、何か毛色が違う気がして、話しかけられると焦燥感にかられて落ち着かない。
そんな気持ちを押しきって、平静としたふりをしているのはなかなかに骨が折れる。
ー考え過ぎかもしれない…
そう気を取り直して呼ばれた席に向かった。
「お待たせ致しました、ご注文はお決まりですか?」
お客に薄く微笑む。これはもう職業病だ。
「大変そうだね。大丈夫?」
そう言われ、ん?と思ったがすぐにさっきのお客さんのことだろうと思い
「ああ、毎回なんです…すみません、ご心配いただいて……」
少しはにかみながら言うと、彼は私にちょいちょいと手招きして耳元に顔を近づけてきた。
「あのお客さん、すごい睨んでる。気をつけたほうがいいよ…何かあってからじゃ遅いから」
囁かれた低い重低音の声が脳髄にまで響き、不覚にもゾクッとしてしまった。
「あ、はい、ありがとうございます」
「あと、日替わりランチ1つ」
「かしこまりました」
気にかけてくれたことに感謝しつつ、少し火照った顔を慌ててそらすようにしてその場を後にした。
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