49 Daysー絶対死んだと思った自衛隊員が、最愛の彼女の教え子(問題児)として目覚めてしまい!? ★アルファポリスVer

茶山ぴよ

文字の大きさ
29 / 81

5:激流の向こう側(4)

しおりを挟む
 金曜日。海斗は、ようやく学校へ行く気になった。

 もともと不登校気味だった翔生の体だ、休み続けてもたいした問題はない。

 だが、アキトの心配そうな LINE が鳴り止まないし、家にいても午後にやってくる家政婦の志乃さんの仕事ぶりを眺めるくらいしかやることがない。

──ただ、登校して里玖の顔を見るのが怖かった。

 その一点だけが、足を重くしていた。

 だから、わざと始業時間を外して遅刻した。あいかわらずの雨で怠かったというのもある。

 一時間目の終わりに、廊下に誰もいないタイミングで教室のドアを開ける。 

(……俺も、なかなか堂に入った問題児になってきたな) 

 そんな自嘲を胸の奥で転がした瞬間だった。

「ショウ! やっと来たあ!」

 アキトが弾丸のように駆け寄ってきた。

 そんなアキトを無造作に押しのけ、水泳部女子の石川が前に出る。

「朝倉、みんなで手分けしてノート取っといたから。ほら」  

 ぶっきらぼうに差し出されたノート。海斗は少し戸惑いながら受け取った。

「……ありがとう。助かる」

 石川はそっけなく、スカートを翻すように踵を返すと、さっさと行ってしまった。

 すると、待っていたように他の生徒たちがわらわらと集まってきた。

「朝倉君、家族旅行行ったからお土産。いなかったから取っといたよ」

「朝倉君のプールの写真見た? あれヤバかったよね」

「朝倉君、今日英語当たるっちゃけど教えてくんね~」

 この体になって初めて登校した日とは、えらい違いだ。

 翔生と話したいクラスメイトが海斗の机の周りにわちゃわちゃと群がったが、二時限目のチャイムと共に、嵐が去るように散っていった。

 ふと視線を向けると、斜め前の杏奈がひっそりと背を向けていた。

 ──おとついはつい、大人げない態度で追い出してしまった。

 海斗はあのときの自分を後悔していた。

 杏奈からすれば、自分のボーイフレンドが、急に担任教師に色目を使い始めたように見えただろう。

 急に心変わりしたボーイフレンドに「ババアに必死」と毒づくのも、十七、八の少女としては無理のない反応なのかもしれない。

 まさか、中身が二十五歳の大人に入れ替わっているなんて、知るはずもない。

 それにしても――と海斗はさらに考える。 

 顔認証であの部屋に入ることができて、あんな風に押し倒してきたということは、翔生と彼女はすでに「そういう関係」だったのだろうか。  

 だとしたら、翔生として大人しく暮らすにしても、彼女との関係を以前“翔生として”続けるのは到底無理だ。



 昼休みはアキトと別棟の学食を利用する。雨が結構降る中、二人して「行くぞ!」ダッシュする。
 
 やっすい肉うどんに、ごぼう天の追加トッピングをオーダー。

 「ショウ、食欲ないやん。それだけ?」
 
 アキトのトレイには「木の葉丼定食」と、デザートとして売店で買った『マンハッタン※』が添えられている。

 相変わらずの食欲だ。

「ショウ、明日のボランティア BBQ 行くよな」
「あ~……ごめん、パス」
「なんで~!?」

 アキトが心底びっくりした顔で、マンハッタンを握りしめた。

「俺、ショウのアヒージョまた食べられると思ったのに!」

「いや、川にタコはおらんやろ」

「ええ~! ショウがいないとつまんね~。行こうよぉ。タダだし~……シャトーブリアンよ?」

 アキトは寂しそうに、しきりに誘ってくる。

「七海もたぶん来るやろ~? ショウぱぱがいないと寂しがるよ」

「…………」

 その七海が来るからこそ、参加を躊躇しているのだ。

 自分のことを「ぱぱ」と呼ぶ七海。

 里玖と七海の本当の父親がどうなっているのかは知らないが、今現在、別れているのは事実だ。

 もしその別れが、里玖にとって消したい記憶だったとしたら。 

 七海が「ぱぱ」と口にするたびに、彼女は古傷を抉られるような思いをしているのではないか。

 ……考えすぎかもしれない。

 だがあの日、あんな悲痛な顔をさせてしまった自分でもある。
 行けば、また彼女の心を乱してしまうかもしれない。

「二組の参加がタダになったのはショウのおかげなのに、本人が来なかったらみんな残念がるばい」

 アキトの純粋な気持ちに、海斗は、箸を握ったまま深く考え込んだ。

 学食の窓に雨がザッと強く降り注いだ。

※マンハッタン:
九州地方(主に福岡)で絶大な人気を誇る、チョコがけの硬めなドーナツ状のパン。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】

まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と… 「Ninagawa Queen's Hotel」 若きホテル王 蜷川朱鷺  妹     蜷川美鳥 人気美容家 佐井友理奈 「オークワイナリー」 国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介 血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…? 華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...