C級冒険者の日常

丸八

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19話

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「待って、お兄ちゃん。ちょっとしんどい。休憩にしようよ」

 今朝、陽が昇ってから意気揚々と出発したミアだったが、チョイヤ山の登山口を少し登ったところで悲鳴をあげた。
 普段の運動不足がたたっている、さっきから文句しか言っていない。自分で付いてきたいって言ったのにな。

「まだ歩き始めたばかりだろ」
「だって、もう一時間は歩いたよ!しかも山道!」

 リバサイ村から登山口までは緩やかな上り坂になっている。ただ、傾斜は本当に緩やかで、平地とさほど変わらない。しかも道は踏み均してあり、かなり歩きやすい。

「ここまでならリドだって平気で来れるぞ。よくそれで冒険者になりたいなんて言えたな」

 リドはゴルドの息子で、まだ六歳だ。生まれた時からリバサイ村に住み、去年から村の女衆に交じってこの辺りで山菜採りに励んでいる。
 そのリドでさえ大きな採取籠を背負い、元気に走り回っているんだ。荷物ももってないんだし、彼女の年齢ならもうちょっと頑張ってもらいたい。

「むぅ。いじわる!」

 不満げに頬を膨らませるミア。彼女は16歳だと言っていたが、それにしては子供っぽい。だからか、本当は大叔母様とでも呼ばなければならないはずだが、そんな気にもなれないでいる。

「しかし、無理しても良いことはないな。もう少し行けば休憩出来る水場がある。そこまで行ったら少し休もう」
「わ、やったぁ!」
「だからもうちょっと頑張れ」
「うぅ………」

 俺が少し折れてやる。そうすると、ようやくミアは足を引きずるように歩きだした。
 隊列の最後尾にいるガルドは、そんな俺たちのやり取りを見て、さもおかしそうにニヤニヤと笑っている。十歳近く下の娘に、いいように振り回されているのが面白いんだろう。良い性格してるよ、まったく。

「思ったより雪が残っているな」

 山に入ると、日陰にうっすらと雪が残っていた。そらの雪は水気を多く含んでいて重く、所々凍っていて、油断すると足元を掬われそうだ。
 小型の獣の足跡がいくつも残っており、春になって山の生き物が活性化しているのが分かった。

「うぅ、さむいよぅ」

 周囲の観察をしながら歩いていると、またミアの口から弱音が漏れる。
 ただ、確かに彼女はジャージという異世界の運動着を着ているだけだ。見るからに薄いジャージは初春の山には辛いかもしれないな。よく見れば唇は青ざめ、顔色も良くない。小刻みに震えながら両腕をこすって、寒さをまぎらわせようとしている。

「ほら、これでも着ておけ」

 ピコに出してもらい、彼女に渡したのは綿入りの布鎧クロスアーマーと毛皮の帽子、それから厚手のマントに革の手袋だ。これらはダンジョンでドロップしたものを、予備として持っていたんだ。
 因みに俺とガルドも同じく防寒用の装備を身に付けている。まあ、流石に動きやすいようにこんなモコモコとはしていないが。

「ありがとう、お兄ちゃん。やっぱり優しいね」

 にこりと笑って受け取ると、彼女は手早く身に纏った。まあ、若干布鎧には手間取っていたが、そこはご愛敬というものだろう。

「暖かい」
「ついでにこれも持っておけ」
「ヒノキの棒………じゃなくて杖?」

 最後に渡したのは木杖ウッドワンドだ。これもダンジョン産で、表面に魔法の発動を助ける魔法円が描かれている。これも何かに使えるかと思い、ストックしてあったものだ。

「ねぇねぇ、似合ってる?アタシちゃんとした大魔道師に見えるかな?」

 ミアはクルリと周り、全身を見せてくる。ただ、ほとんどマントで隠されていて、あまりよく見えないが。

「あぁ、どっからどう見ても大魔道師様だ。なぁ、ガルド」
「え?あ、あぁ、そうだな。立派な大魔道師に見えるぞ」

 サイズが合ってないせいか、どことなくおかしい気はするけど、それは黙っておいた方が良いだろう。
 せっかく機嫌が直ったのに、余計なこと言ってまたヘソを曲げられても敵わんからな。
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