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第4章
六話
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「ダメです」
テッドと別れた三郎達は、冒険者支援協会ホムベ支部の前で警備員に入場を止められていた。
理由はやはりオーガだ。
危険度がAランクの魔獣を壁内に入れることは出来ないと警備員に注意されたのだった。
「むう、ではどうしたら良いのだ?」
「ですから、一旦何処かにその従魔を預けてからもう一度来て下さい」
「では、何処に預ければ良い?」
「それは、分かりません」
「ふう、話しにならんな」
三郎は思わずため息をこぼす。
警備員は見知った顔だったのだが、頑なな態度を崩さない。
職務だという事は分かるが、それにしても要領を得ない返事だ。
せめて預け先でも提示してもらえれば、動きようもあるのだが………と考えていたら、協会の中からキールが出てきた。その後からはルナが付いてきている。
キールは三郎が止められている間に窓口へ行き、ルナにどうすれば良いか聞いてきたのだ。
「お、ルナ殿。久しぶりだな」
「三郎さん、お久し振りです」
三郎が手を挙げると、ルナは頭を下げた。
ルナは警備員に仕事に戻るように告げると、三郎に向き直る。
「ルナ殿、実はな………」
「分かっています。そのオーガの事ですね。その件で支部長が会いたいと言っております。お時間はよろしいですか?」
「うむ、拙者は良いのだが………」
三郎はちらりとオーガを見る。その視線を察したキールが口を開く。
「あ、クローだったらオイラが見てます」
ネクスから帰る時に、オーガの名前はクロー決まっていた。理由は色が黒いから。
支部長から呼ばれているわけではないからと、キールがそのクローと一緒にいると言ってくれたので、三郎はおとなしくルナについて行くことにした。
「こちらです」
受付の奥にある扉の前でルナは足を止める。
見ると、支部長室と書かれたプレートが扉の横に掛かっていた。
三郎がプレートを見ている内に、ルナはノックして来訪を告げた。
「どうぞ」
応答した声は、落ち着いた雰囲気がする男性のものだった。
ルナに先導されて扉を潜ると、執務机に一人の男性が座っていた。
長身で、細身ながらもしっかりとした体躯をしている男性は、仕立ての良いスーツに身を包んでいる。物腰は穏やかだが、その実、動きにほとんど隙がない。なかなかの手練れであると三郎は判断した。
ただ、男性の目の回りには黒々とした痣があり、頬は腫れている上に、真新しい引っ掻き傷が縦横についている。仕種の都度に痛みに耐えるような動きが見える事から、顔だけではなく身体のあちこちに同等の怪我があると見える。
彼のような手練れにここまでの怪我を負わせるのは如何な相手かと三郎は思ったが、男性がルナに向ける目が時折、怯えを含んでいるように見えた時、三郎は何やら察して深く追及するのを止めた。
「急に呼び立てたりして悪かったね」
男性は応接セットのソファーを三郎に薦め、自分も対面に腰掛ける。ルナは三郎の後に立つ。
三郎が着席するのを見計らい、自己紹介を始めた。
「初めまして三郎君。私はボーグ・ドルモア。ボーグと呼んでくれ。一応、この冒険者支援協会のホムベ支部を預かっている」
そこまで言うと、秘書らしき女性が持ってきたお茶を一口飲む。
三郎には飲み慣れない味のそれは、干した薬草を発酵させて作った薬草茶だった。この大陸では疲労回復に良いとして普及しつつある。
烏龍茶に似た味を気に入ったのか、冷えた薬草茶を一気にあおる。効能について何も知らない三郎だったが、先ほどの肉体労働の疲れが少し軽くなった気がした。お茶請けに出された饅頭も適度な甘さの豆餡で、三郎の好みに合うものだった。
「拙者、三郎と申す。以後、見知りおきくだされ」
コップをテーブルに戻すと、三郎は頭を下げる。すかさず、秘書がおかわりのお茶を持ってきた。
「君の事は聞いているよ。なんでもネクスでは大活躍だったらしいじゃないか」
「いや、大したことはしてござらん」
「ははは、謙遜する事はないよ。レベル10程度でオーガを倒すなんて、普通は出来ないんだから」
ボーグはやはり事前に幾らかの情報を仕入れているのだろう、たわいない会話やもてなしの端々にその事が窺える。
「して、今日の用件は?」
「あ、そうだったね。取り敢えずこれは君のパーティーリーダーのキール君には伝えてあるんだけど、今まで君達が使っていた部屋を出ていって貰う事になったんだ」
「む、そう言えばあの部屋は確か………」
「そう、あそこはレベル15までの低級冒険者用の宿舎なんだ。だから、レベルが50に上がった君達パーティーには心苦しいけど出ていって貰うのがルールなんだ」
「それは、………致し方ござらぬな」
部屋を借りる時の条件を思いだし、三郎は額に手をやった。
もうしばらく先の事と思い、準備も何もしていなかったのだ。
クローの事もあり、宿泊できる場所があるかどうかすらわからない。
「で、だ。ここからが本題なんだけど、三郎君、ギルドマスターをやらないかい?」
テッドと別れた三郎達は、冒険者支援協会ホムベ支部の前で警備員に入場を止められていた。
理由はやはりオーガだ。
危険度がAランクの魔獣を壁内に入れることは出来ないと警備員に注意されたのだった。
「むう、ではどうしたら良いのだ?」
「ですから、一旦何処かにその従魔を預けてからもう一度来て下さい」
「では、何処に預ければ良い?」
「それは、分かりません」
「ふう、話しにならんな」
三郎は思わずため息をこぼす。
警備員は見知った顔だったのだが、頑なな態度を崩さない。
職務だという事は分かるが、それにしても要領を得ない返事だ。
せめて預け先でも提示してもらえれば、動きようもあるのだが………と考えていたら、協会の中からキールが出てきた。その後からはルナが付いてきている。
キールは三郎が止められている間に窓口へ行き、ルナにどうすれば良いか聞いてきたのだ。
「お、ルナ殿。久しぶりだな」
「三郎さん、お久し振りです」
三郎が手を挙げると、ルナは頭を下げた。
ルナは警備員に仕事に戻るように告げると、三郎に向き直る。
「ルナ殿、実はな………」
「分かっています。そのオーガの事ですね。その件で支部長が会いたいと言っております。お時間はよろしいですか?」
「うむ、拙者は良いのだが………」
三郎はちらりとオーガを見る。その視線を察したキールが口を開く。
「あ、クローだったらオイラが見てます」
ネクスから帰る時に、オーガの名前はクロー決まっていた。理由は色が黒いから。
支部長から呼ばれているわけではないからと、キールがそのクローと一緒にいると言ってくれたので、三郎はおとなしくルナについて行くことにした。
「こちらです」
受付の奥にある扉の前でルナは足を止める。
見ると、支部長室と書かれたプレートが扉の横に掛かっていた。
三郎がプレートを見ている内に、ルナはノックして来訪を告げた。
「どうぞ」
応答した声は、落ち着いた雰囲気がする男性のものだった。
ルナに先導されて扉を潜ると、執務机に一人の男性が座っていた。
長身で、細身ながらもしっかりとした体躯をしている男性は、仕立ての良いスーツに身を包んでいる。物腰は穏やかだが、その実、動きにほとんど隙がない。なかなかの手練れであると三郎は判断した。
ただ、男性の目の回りには黒々とした痣があり、頬は腫れている上に、真新しい引っ掻き傷が縦横についている。仕種の都度に痛みに耐えるような動きが見える事から、顔だけではなく身体のあちこちに同等の怪我があると見える。
彼のような手練れにここまでの怪我を負わせるのは如何な相手かと三郎は思ったが、男性がルナに向ける目が時折、怯えを含んでいるように見えた時、三郎は何やら察して深く追及するのを止めた。
「急に呼び立てたりして悪かったね」
男性は応接セットのソファーを三郎に薦め、自分も対面に腰掛ける。ルナは三郎の後に立つ。
三郎が着席するのを見計らい、自己紹介を始めた。
「初めまして三郎君。私はボーグ・ドルモア。ボーグと呼んでくれ。一応、この冒険者支援協会のホムベ支部を預かっている」
そこまで言うと、秘書らしき女性が持ってきたお茶を一口飲む。
三郎には飲み慣れない味のそれは、干した薬草を発酵させて作った薬草茶だった。この大陸では疲労回復に良いとして普及しつつある。
烏龍茶に似た味を気に入ったのか、冷えた薬草茶を一気にあおる。効能について何も知らない三郎だったが、先ほどの肉体労働の疲れが少し軽くなった気がした。お茶請けに出された饅頭も適度な甘さの豆餡で、三郎の好みに合うものだった。
「拙者、三郎と申す。以後、見知りおきくだされ」
コップをテーブルに戻すと、三郎は頭を下げる。すかさず、秘書がおかわりのお茶を持ってきた。
「君の事は聞いているよ。なんでもネクスでは大活躍だったらしいじゃないか」
「いや、大したことはしてござらん」
「ははは、謙遜する事はないよ。レベル10程度でオーガを倒すなんて、普通は出来ないんだから」
ボーグはやはり事前に幾らかの情報を仕入れているのだろう、たわいない会話やもてなしの端々にその事が窺える。
「して、今日の用件は?」
「あ、そうだったね。取り敢えずこれは君のパーティーリーダーのキール君には伝えてあるんだけど、今まで君達が使っていた部屋を出ていって貰う事になったんだ」
「む、そう言えばあの部屋は確か………」
「そう、あそこはレベル15までの低級冒険者用の宿舎なんだ。だから、レベルが50に上がった君達パーティーには心苦しいけど出ていって貰うのがルールなんだ」
「それは、………致し方ござらぬな」
部屋を借りる時の条件を思いだし、三郎は額に手をやった。
もうしばらく先の事と思い、準備も何もしていなかったのだ。
クローの事もあり、宿泊できる場所があるかどうかすらわからない。
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