武者修行の仕上げは異世界で

丸八

文字の大きさ
42 / 62
第5章

一話

しおりを挟む
 鬱蒼と繁った木々の中、三郎達は一列になって進んでいた。
 先頭にいるのはシローだ。
 耳をピンと立て物音を拾い、スンスンと辺りの匂いを嗅いで警戒しながら進んでいる。
 次いで新しい着物を着た三郎が続く。
 着物はテイマーギルド支部長就任の祝いの品としてルナから贈られた物だったが、これを受け取るときにまた一悶着あったのだ。
 それは素材についてだ。
 三郎の様な下級武士が着るようなものは、だいたい麻か綿だ。しかし、贈られた小袖と裁着袴たっつけばかまは、見るからに上等な絹で出来ている。しかも、銀糸が織り込まれ見た目も華美である。二言目には倹約、倹約と煩く言われてきた三郎には畏れ多い逸品だった。

「拙者には過ぎたもの故………」

 こう言って三郎は固辞しようとしたのだが、ルナはどうしてもと譲らない。
 幾度かのやり取りの末、「責任ある立場に就くんだから、それなりの格好をしなさい」と言われ、敢えなく三郎は陥落したのだった。

 武器も新調した。
 腰にあるのは武骨な長剣だ。
 片手でも扱えるそれは、今まで腰に佩いていた太刀より少し重く刃先も鈍い。しかし、その分頑丈で、力の上がった三郎が少しばかり粗雑に扱ったとしてもびくともしない。おまけに耐久性及び斬撃性能向上の呪紋が刻まれている、所謂魔剣である。
 ソルの店に並ぶ商品の中では一番の物だ。
 魔剣を購入する時にソルから試供品と言って、一本の杖を受け取った。三郎の肩口位まであるそれは、朱鷺色に塗られた金属製で、やはり所々に呪紋が刻まれている。

 脇差しはソルが「一度じっくり見て、研究してみたい」と言ったので預けてきた。
 ソルには、色々と世話になっている恩も感じていたし、やはり馴染みの深い刀剣を出来れば作って欲しいという打算もあった。

 そんなこんなで、装備を一新した三郎は、泰然とシローの後を歩いていた。

 三番目に続くのはキールだ。
 彼の装備は以前と何ら変わらない。
 短弓を片手に持ち、背には矢筒。腰にはショートソードを差している。
 ただ、ひたすらスキルの練習をしながら歩いている。
 魔力操作の前段階。全身に魔力を行き渡らせる練習だ。
 それによって警戒が緩み、隙だらけになっているが、今後の為ならばと三郎には了承を貰っている。
 足元の注意も疎かになり、時折躓いて転びそうになるが、その都度後ろを歩くクローに掴みあげられ、事なきを得ている。

 キールの後、殿を務めるのはクローだ。
 彼はパーティー全員分の荷物を入れた背曩を背負っている。
 今回は日帰りが難しい上に、目的地周辺に宿泊施設も無いため、大型のテントや食料、簡単な調理器具などと荷物もこれまで以上に多くなっている。
 だが、強力な魔獣であるクローにとっては、この程度の重量なんかは苦にもならない。時に転びそうになるキールを支えながら、淡々と皆の後について歩いている。

 ミドリはといえば、これまたいつものように上空を羽ばたいている。
 平原と違い、森は遮蔽物が多く、なかなか全てを見渡す事は難しいが、地上のシローと情報をやり取りしながら警戒にあたる。
 空には何羽か鳥系魔獣が飛んでいるのだが、今のところ三郎達のパーティーに明確な敵意を持つものはいないので、そのままスルーを決め込んでいる。

 三郎達が目指しているのは、ホムベから50キロ程離れたキコマ山である。そこの中腹にある砦に住み着いたとされるコボルトの討伐ミッションを受けたのだ。
 また、三郎はその時にコボルトを捕獲して従えるつもりでいる。

 昨日、ボーグから聞いた話では、ギルドの支部長ブランチマスターになるためには、ジョブの習熟度が足りないそうだ。その規定の習熟度に達する為には、魔獣を後一体従えなければいけないらしい。

 ルナと相談した結果、このコボルト討伐ミッションを受けることに決めたのだった。
 コボルトを従魔にしようとしたのには幾つか理由がある。
 一つは、危険度ランクがEと低く、比較的捕獲が容易なこと。
 二つ目はランクの割りには知能が高く、人形ということもあり手先が器用だということ。
 三つ目は犬の様な顔から分かるように、彼等は群で生活しており、縦の関係を築きやすい。
 これ等の要素が合わさって、コボルトを従魔にする魔獣使いテイマーは多い。 高位のテイマーはコボルトに他の従魔の世話をさせたりもしている。
 その魔獣としての特性と、今回のミッションが合わさることで、行き先が決まったのだ。

 決めてからの行動は速かった。
 午前中、三郎がソルの店に行って相談がてら武器を購入している一方で、キールは必用な雑貨を買いに走った。
 雑貨は、昨日のミッションで護衛したテッドが営む雑貨屋「暴れ熊」で購入した。テッドの奥さんはかなりの美形で、キールは驚いたものだった。

 午前中を準備に費やした一行は、テイマーギルドの近くにある屋台で昼食を食べてから出発した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】 ※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。 ※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。 愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

処理中です...