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第5章
三話
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樹海で一晩過ごすと、前夜の残りを温め直して朝食を済ます。
本来、こういった場所では交代で不寝番をするものなのだろうが、彼等はぐっすりと寝ていたので目覚めもスッキリだ。
それにはやはりクローの存在が大きい。
ここまで来たときと同じように、彼の存在感で力の弱い魔獣が近寄って来ないのが分かっていたからだ。
しっかり休息し、腹も満たした三郎達はテントを畳んで出発した。
向かうは山の中腹にあるという砦だ。
ルナの説明だと、この砦はいつから存在しているのか分からないらしい。この大陸に彼女等が入植する前の時代の遺跡だという。
こういった遺跡は、大陸各地に散在しており、冒険者、殊に遺跡探検家と呼ばれる者達が発掘を進めている。
キコマ山の砦は規模も小さく、町からもそれほど離れていない為、既に調べ尽くされているようだ。なので、人も殆ど訪れず放置してあったらしく、そこに魔獣コボルトの群が住み着いてしまった。
そうなれば、流石に放置しておく訳にもいかないので、討伐ミッションが出されたのだった。
「昼前には着けそうですね」
「そうだな」
昨日に引き続き、獣道を歩く一行。山道は勾配のきついところもあり、キールは息が多少荒くなってきている。だが、レベル補正のおかげで速度は割りと速い。ちょっとしたオフロードをマウンテンバイクで走っている位のスピードはある。
「ケーン」
上空からミドリの鳴き声が落ちてきた。どうやら、目指す砦が見えたようだ。
しかし、どうも様子がおかしい。シローのスキルを使うまでもなく、その声には警戒音が混ざっているのが感じられた。
「悪いが、見てきてくれるか」
すぐさま三郎は指示を出す。
それを受けて、ミドリは砦を目指してスピードを上げた。
「戻ってくるまで、拙者らはここで待とう」
「分かりました」
地図によれば、砦まではもう二キロも無い。ミドリの翼ならほんの瞬く間だろう。
その間、何が起きているか分からないらしい状況で動くことを三郎は嫌った。
それは周りの気配が微妙に変わっているせいかもしれない。
三郎達から見えない程度に離れた場所が、妙に騒々しいのだ。まるで、何かから逃げる足音の様な音が微かに聴こえる。
「ケーン」
「お、戻ってきたな」
バサバサと羽音をたてて、ミドリは三郎が差し出した腕に留まる。
「なに、砦が襲撃を受けているだと?」
ミドリの報告によると、現在砦は一つ目の巨人三体に襲われているらしい。
「一つ目の巨人………。そういえば、付近にサイクロプスの群生地がありますね。付近と言っても山二つほど奥ですが」
「独眼巨人?」
「ええ、Bランクのなかでも強力な魔獣です。平均五メートルと体格も大きく、その膂力は同ランクの中では群を抜いています」
「なるほど」
サイクロプスの特徴は、先程受けたミドリからの報告と一致する。
「どうします、三郎さん?」
キールが尋ねる。
このまま放置しておけば、労せずしてミッションは終わる。もし、コボルトを倒してないと駄目なら、サイクロプスが討ち漏らすであろう個体を見つけて倒してしまえば良い。
得られる漁夫の利ならば恩恵に与れば良い。
もちろん、キールが明確にそのような思考をした訳ではない。
しかし、彼の深層では未だに戦闘を忌避する心は強い。
「いや、直ぐに参ろう」
三郎はキッパリと言い放つ。
「此度は拙者の従魔となるモノを探す目的もある」
イレギュラーが起こった事で忘れていた事を、キールはそこでようやく思い出す。
「今から行けば、その独眼巨人も従える事も出来るやもしれぬ」
三郎は凄絶な笑みを浮かべる。
その顔はサイクロプスとの闘いを強烈に望んでいる事を、キールに知らしめるに充分だった。
闘いを希求する武人と、戦いを忌避する冒険者。
二人の心根は違えど、今の目的は一つである。
「では、参ろうか」
その言葉に力強くキールは頷く。
戦いを忌避する気持ちはあるが、もう敵から逃げるつもりはないのだった。
シローを先頭に、一行は駆けに駆けた。
飛ぶような速さで獣道を行く。
数分後、辿り着いた目的地はまさに戦場だった。
砦を襲うサイクロプスと守るコボルト。
互いに一歩も譲らない攻防が繰り広げられていた。
本来、こういった場所では交代で不寝番をするものなのだろうが、彼等はぐっすりと寝ていたので目覚めもスッキリだ。
それにはやはりクローの存在が大きい。
ここまで来たときと同じように、彼の存在感で力の弱い魔獣が近寄って来ないのが分かっていたからだ。
しっかり休息し、腹も満たした三郎達はテントを畳んで出発した。
向かうは山の中腹にあるという砦だ。
ルナの説明だと、この砦はいつから存在しているのか分からないらしい。この大陸に彼女等が入植する前の時代の遺跡だという。
こういった遺跡は、大陸各地に散在しており、冒険者、殊に遺跡探検家と呼ばれる者達が発掘を進めている。
キコマ山の砦は規模も小さく、町からもそれほど離れていない為、既に調べ尽くされているようだ。なので、人も殆ど訪れず放置してあったらしく、そこに魔獣コボルトの群が住み着いてしまった。
そうなれば、流石に放置しておく訳にもいかないので、討伐ミッションが出されたのだった。
「昼前には着けそうですね」
「そうだな」
昨日に引き続き、獣道を歩く一行。山道は勾配のきついところもあり、キールは息が多少荒くなってきている。だが、レベル補正のおかげで速度は割りと速い。ちょっとしたオフロードをマウンテンバイクで走っている位のスピードはある。
「ケーン」
上空からミドリの鳴き声が落ちてきた。どうやら、目指す砦が見えたようだ。
しかし、どうも様子がおかしい。シローのスキルを使うまでもなく、その声には警戒音が混ざっているのが感じられた。
「悪いが、見てきてくれるか」
すぐさま三郎は指示を出す。
それを受けて、ミドリは砦を目指してスピードを上げた。
「戻ってくるまで、拙者らはここで待とう」
「分かりました」
地図によれば、砦まではもう二キロも無い。ミドリの翼ならほんの瞬く間だろう。
その間、何が起きているか分からないらしい状況で動くことを三郎は嫌った。
それは周りの気配が微妙に変わっているせいかもしれない。
三郎達から見えない程度に離れた場所が、妙に騒々しいのだ。まるで、何かから逃げる足音の様な音が微かに聴こえる。
「ケーン」
「お、戻ってきたな」
バサバサと羽音をたてて、ミドリは三郎が差し出した腕に留まる。
「なに、砦が襲撃を受けているだと?」
ミドリの報告によると、現在砦は一つ目の巨人三体に襲われているらしい。
「一つ目の巨人………。そういえば、付近にサイクロプスの群生地がありますね。付近と言っても山二つほど奥ですが」
「独眼巨人?」
「ええ、Bランクのなかでも強力な魔獣です。平均五メートルと体格も大きく、その膂力は同ランクの中では群を抜いています」
「なるほど」
サイクロプスの特徴は、先程受けたミドリからの報告と一致する。
「どうします、三郎さん?」
キールが尋ねる。
このまま放置しておけば、労せずしてミッションは終わる。もし、コボルトを倒してないと駄目なら、サイクロプスが討ち漏らすであろう個体を見つけて倒してしまえば良い。
得られる漁夫の利ならば恩恵に与れば良い。
もちろん、キールが明確にそのような思考をした訳ではない。
しかし、彼の深層では未だに戦闘を忌避する心は強い。
「いや、直ぐに参ろう」
三郎はキッパリと言い放つ。
「此度は拙者の従魔となるモノを探す目的もある」
イレギュラーが起こった事で忘れていた事を、キールはそこでようやく思い出す。
「今から行けば、その独眼巨人も従える事も出来るやもしれぬ」
三郎は凄絶な笑みを浮かべる。
その顔はサイクロプスとの闘いを強烈に望んでいる事を、キールに知らしめるに充分だった。
闘いを希求する武人と、戦いを忌避する冒険者。
二人の心根は違えど、今の目的は一つである。
「では、参ろうか」
その言葉に力強くキールは頷く。
戦いを忌避する気持ちはあるが、もう敵から逃げるつもりはないのだった。
シローを先頭に、一行は駆けに駆けた。
飛ぶような速さで獣道を行く。
数分後、辿り着いた目的地はまさに戦場だった。
砦を襲うサイクロプスと守るコボルト。
互いに一歩も譲らない攻防が繰り広げられていた。
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