武者修行の仕上げは異世界で

丸八

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第5章

四話

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 一斉に矢が放たれた。
 狙いはサイクロプス。三体いる内の一番小さい個体、それも弱点である単眼だ。

「ガァア!」

 勢いよく飛んでくる十数本の矢を、手にした棍棒で薙ぎ払う。
 矢は呆気なく吹き散らかされ、折れて地面に落ちる。
 手や肩に当たった矢もあったが、頑健な皮膚を通る事はなく、弾かれてこれも地面に落ちた。

「グルゥ!」

 号令と共に、砦から第二射が放たれる。
 同時に門から五体のコボルトが討って出る。

 先頭を走るのは、他より頭一つ大きいコボルトだ。鈍く光る全身鎧を装備しているが、後に続く軽装のコボルトよりも尚速く走る。
 コボルト・リーダー。その個体はそう呼ばれていた。
 群を率いる優秀な個体だ。

 振るわれる棍棒。
 一体だけ突出したコボルト・リーダーを襲う棍棒。ただ生えている樹を引き抜いただけのものに見えるそれを、力任せに叩き付けてくる。
 しなる棍棒を機敏な動きで避けるコボルト・リーダー。
 棍棒はそのまま地面に激突し、大地を穿った。

「ギャウ!」

 出来た隙を突き、コボルト・リーダーが回り込んでふくらはぎに大剣を叩きつける。
 厚い皮膚に阻まれて弾かれはしたものの、少しだけながらもサイクロプスの態勢を崩す事に成功した。

 その間に追い付いてきたコボルト達が、一斉に口を開けた。
 狼にも似た鋭い牙に、魔力の光が宿る。

「ギィィイイイ」

 両足に二体ずつコボルトが噛みついた。
 強力な顎の力に支えられ、魔力の宿った牙がサイクロプスに突き刺さる。
 頑健なサイクロプスも思わず苦鳴の声をあげる。
 コボルト達はそのままサイクロプスを引きずり倒そうとする。しかし、サイクロプスはなんとか踏ん張り倒れない。

「グワァ」

 踏ん張り、硬直したサイクロプスの身体を、コボルト・リーダーは駆け上がった。
 サイクロプスは両足を襲う痛みで、反応できないでいる。
 危なげなくサイクロプスの頭まで辿り着いたコボルト・リーダーは大剣を逆手に持ち、振り上げた。

「グガァアアアアアア!!」

 たった一つの眼球に、深々と刺さる大剣。
 その切っ先は脳にまで達しているかもしれない。

 だが、サイクロプスの生命力は恐ろしい。

 サイクロプスの弱点に深い傷を負わせ、僅かばかり油断してしまったコボルト・リーダーを掴み、投げ棄てた。
 いつまでも噛みついているコボルト達も次々と蹴散らしていく。

 それに、砦からの射撃で牽制されていた他の二体のサイクロプスも加わる。

 そこからは蹂躙と言っても過言ではなかった。

 棍棒をぶち当てられたコボルトは軽々と吹き飛ぶ。
 砦から放たれる矢は、仲間を傷つけられ怒りに狂うサイクロプスには牽制にもならない。
 怒りに任せ、砦ごと弓を構えたコボルト達を弾き飛ばしていく。
 煉瓦で造られた砦も、サイクロプスの怪力の前には紙みたいなものだ。あっさりと瓦解していく。

 それでも、コボルト・リーダーは痛みを堪えて果敢に立ち向かう。しかし、受けたダメージは思いの外に大きいものだった。
 動きは精彩を欠き、走るだけでも精一杯だ。
 追従する仲間は彼以上にボロボロだ。
 大地を揺らす攻撃に、一人、また一人と欠けていく。

「遅かったか」

 三郎達が到着したのは、最後の一体となったコボルト・リーダーが血にまみれた大地に膝をついた時だった。
 既に片腕を失い、虚ろな目をしたコボルト・リーダーに、止めとばかりに棍棒を振り上げるサイクロプス。

「ふっ!」

 三郎は駆け寄ると、手にした杖を振る。
 杖の先には光輝く刃があった。
 魔力の刃を持つ薙刀は、風すら切り裂きサイクロプスの脚に吸い込まれていった。

 サイクロプスの膝から下が、音もなく切り離される。

 驚いたのはサイクロプスだ。
 今まで、コボルト達の猛攻にも耐えた身体が、あっさりと断ち斬られたのだから当たり前だ。

 バランスを崩し、地面に這いつくばる。

 大上段に構えた薙刀は、サイクロプスの太い首を苦もなく切り飛ばした。


 クローは三郎の指示で、砦に取り付いているサイクロプスの元に向かった。
 サイクロプスは食事の最中だった。
 傷付き倒れたコボルトを、骨ごとバリボリと噛み砕いている。

 その隙を突き、クローはサイクロプスの背後から一撃をみまった。

 いかに巨体のサイクロプスといえど、不意をつかれた状態でクローのパンチを受けてただで済むわけはなかった。
 抵抗も出来ず、吹き飛ばされる。

 クローは飛んでいったサイクロプスにゆっくりと近付き、その頚に手をかける。

「ガアッ!」

 力を込めると、サイクロプスの頚は簡単に捻じ切れてしまった。
 すかさず大きな口を開いて、仕留めた獲物を食べようとするが、シローからの教えを思い出して、一先ず止めておいた。
 自分で獲った獲物と言えど、食べて良いかは主人である三郎に聞かねばならないのだ。



 やはり、キールは苦戦を強いられていた。
 キール、シロー、ミドリは一番小さな個体と戦っていた。
 このサイクロプスはコボルトから集中攻撃を受けて、かなりの深傷を負っていたが、仕留めきるには決定力が不足していた。

「ケーン」

 未だに眼球に突き刺さっている大剣に向かい、雷の魔法をミドリが落とした。

 それまで滅茶苦茶に暴れていたサイクロプスの腕が、感電して一瞬だけ動きを止める。
 その間に、シローとキールはコボルトの攻撃でボロボロになっている脚に攻撃を加える。

 繰り返し同じ動きを繰り返す二体と一人。
 いい加減、息があがってきた時に、ようやくサイクロプスの足から力が消え失せ、地響きをたてて膝をついた。

 立ち上がろうとするサイクロプスに、すかさずミドリが電撃をみまう。
 眼球は幾度も高熱にさらされて、一部が炭化している。
 ぼろりと大剣と一緒に眼球が崩れ落ちた。

 「ゥワン!!」

 黒々と空いた孔にシローが飛び込んだ。
 頭蓋の中で暴れまわり、脳髄を破壊する。

「はぁ、はぁ、はぁ、やったな。シロー、ミドリ」

 倒れ伏したサイクロプスを見届け、キールはその場に座り込んだ。
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