武者修行の仕上げは異世界で

丸八

文字の大きさ
50 / 62
第5章

受付嬢ルナの憂鬱な午後

しおりを挟む
「ふぅ、なるほどね」

 片付けが終わった机の上に、読めないからと言って三郎から渡された資料を一旦置いた。
 その資料にはテイマーギルド支部長ブランチマスター就任の条件と、これからのタイムスケジュールが大まかに書いてあった。

「要するに、上の連中は人工精霊ドラゴを従魔と勘違いしていたって事ね」

 支部長の就任条件は至ってシンプルだ。
 冒険者レベルが五十以上で、ジョブの熟練度がB以上。この二点だけだ。この条件に合致した者が担当地域の協会支部と、テイマーギルド本部の承認を受けて就任出来るのだ。
 テイマーギルドは慢性的な人手不足なので、条件に当てはまった者は漏れなく支部長に抜擢される。

「今回のレベルアップもボーグ支部長あのハゲが裏から手を回したみたいね。道理でいくらAランクの魔獣を倒したとは言っても、普通ならあんなに経験値を与える訳がないもの」

 ボーグがテイマーギルド支部の復活をあちこちから要請されているのは、ルナも知っていた。
 だからこそ、三郎が初めて協会を訪れた時にあれだけ熱心にテイマーを薦めたのだ。
 その後に個人レッスンで言葉を教えたりしたのは、せめてもの罪滅ぼしという思いもあった。

「でも、Aランクの魔獣を従えているテイマーが、まさかまだFランク相当だなんて、誰も思わないわよね。まぁ、テイマーギルドが機能してないから小まめにチェックしてなかったからなんだけど」

 ジョブの習熟度チェックは、そのジョブのギルドで行われている。協会では最初の登録のみ委託されてはいるものの、その他に関しては最寄りのギルドに行かなければならない。
 そして、近辺の街や村には活動しているテイマーギルドはないのだ。

「えーと、GからFへの昇格は従魔を使役して二十体の魔獣を討伐する事なのね。これはクリアしてるわね」

 資料の習熟度に関する項目を、ふんふんと頷きながら目を通していく。

「で、FからEへの条件が従魔を四体にする事ね。なるほど、ここで躓いている訳なのね。確かにドラゴが従魔だったらここもクリアしてたわね」

 ここにボーグとテイマーギルドの錯誤があったわけだ。彼等には既に三郎が魔獣を四体連れているという報告が上がっていた。Gランクの従魔の登録枠は三体。戦狼ソルジャーウルフ癒鳥キュアバード悪魔憑きデモンズオーガで一杯だ。なので、昇格によって従魔の枠が多くなればすぐに従魔として登録すると思っていたのだ。
 だが、実際はドラゴがアビリティで物体化した人工精霊だった為、新たに従魔にする魔獣を探しに行かなければならなくなったのだ。

「EからDは一体の従魔を親密度MAXにする事か。これは三体とも赤色だったからクリアしてるわね」

 シローの額を思い浮かべたルナは、次の項に目を移す。

「Cは従魔を使役して二百体の魔獣を討伐。これもオーケーね。後、BはAランク以上の魔獣を従魔にする事か。これもクリアっと。本当に、後一体従魔を増やせば条件が全て調うみたいね」

 一応、AとSの条件も見るが、どうやらこちらはまだ達成できていないようだ。
 だが、それでも何も問題ない。取り敢えずレベルが50あって熟練度がBならそれで良いのだ。

「で、タイムスケジュールがこれね。あら、結構タイトなのね」

 パラパラと紙を捲り、今度はタイムスケジュールの部分に目を通していく。

「三郎さんが帰ってくるまでに建物の修繕………これの手配は協会がやるのね。あら、費用もこっち持ちか」

 何年も使っていなかったギルド支部の建物は、やはりあちこち傷んでいたため、管理を任されていた協会が責任を持って修繕するようだ。
 何か裏がありそうだと思いはするものの、余計な詮索は敢えてしないでおく。

「テイマーギルド本部から飼育員の手配と受け入れ、学院アカデミーから研究員の受け入れ準備か。確かに、ギルド支部を一人で切り盛りするのは無理だわね」

 テイマーギルドには預かった魔獣を世話する飼育員と、それらを観察、研究する研究員が常駐する事になっている。
 飼育員はギルド本部や大きめの支部で養成しており、今回のように支部が活動再開したり、新たに開かれる場合はそこからやってくる。
 研究員は魔獣の生態や能力を研究している学者が来る事になる。この学者は学院と呼ばれる研究機関に所属しており、研究で得た知識や研究成果を協会や各ギルドに還元している。
 名簿を見ると、今回はそれぞれ一人ずつ名前が記してある。

「窓口業務は協会からの出向なのね。こっちはまだ決まってないのか」

 ぐるりと室内を見渡す。
 昼の部の仕事が一段落し、職員の数は疎らだ。
 恐らく、この中の誰かが行くことになるのは間違いないだろう。


「ルナ先輩、ボーグ支部長セクハラおやじが呼んでますよ。支部長室に来てほしいって」

 周囲の様子を見ていたら、後輩職員鹿角少女に声をかけられた。
 嫌な予感しかしないルナは、露骨に顔をしかめると立ち上がった。

「ありがと、行ってくるわ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...