武者修行の仕上げは異世界で

丸八

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第2章

六話

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「『輝ける華の乙女』ホムベ支部三番隊隊長マルシア。いざ参る」

英流兵法はなぶさりゅうひょうほう、………三郎」

二人が名乗ってから幾らかの時間が経った。
まだ、双方共に目立った動きは無い。
時間が経つにつれ、周りには野次馬が人垣を作りはじめる。

「隊長ったら、こんなとこで剣なんか抜くから目立っちゃうじゃない」

隣に立つレインが呆れている様な声をだすが、フードから僅かに見える口元は笑っているのをキールは見逃さなかった。
三郎から預かった弓を持つキールを囲む様に立っている他の二人も似たような表情をしている。
どうやら、レインを含めマルシアのパーティーメンバー達はこの事態を楽しんでいるようだ。
そんな人間達を興味無さそうに見渡すと、シローはミドリと共にキールの足元でうたた寝を始めた。


「あの猪突猛進を具現化したような隊長が攻めあぐねていますわね」

「あの方、強いですね。視線だけでマルの行動を制しています」

「ねぇ、キール君。因みに、三郎さんとはどうやって知り合ったんですか?」

状況はしばらく膠着したままだろうと、レインは視線をキールへと移す。

「恥ずかしいんですけど、4日くらい前に土猪ソイルボアに追い掛けられていたところを助けてもらったんです」

「成る程、あの腰の剣で真っ二つですか」

「いえ、よく覚えていないんですが、確かワンパンで気絶させてました」

キールの言葉に驚きを隠せない三人。
 
「あの打たれ強い土猪をパンチ一発ですか?」

レインの言葉に頷くキール。

「いくら熊の獣人みたいな身体つきだからって、どんな馬鹿力なのかしら………」

「相当レベルが高くても難しいと思いますけど」

「三郎さん、レベルはまだ1ですよ?」

アンの呟きに、キールが答える。
その言葉に、三人は一斉にキールを凝視する。

「は?」

「どういう事です?」

「助けてもらった日に冒険者登録したので、今日が初ミッションなんです。昨日まではルナさんの説明を受けていたみたいですし」

「げ、あの地獄の………」

「と言うことは、土猪を倒した時は、まだ冒険者ですらなかったって事ですか?」

「はい」

キールが肯定の意を示すと、三人は化け物を見るような目を三郎に向ける。
ただでさえ大きな三郎の姿が、更に一回り以上大きく見える。
それは、三郎と直に対面しているマルシアにはそれ以上に感じられた。

刀を抜くどころか、なんの構えもとらず、ただ立っているだけに見える三郎から、凄まじいプレッシャーを感じている。
まだ一歩も動いていないというのに、背中は汗でびっしょりだ。

「ええい、このままじゃ埒があかねぇ」

動かない足を、気合いで無理矢理に動かす。
一歩、二歩と進む度にぐんぐんとスピードが上がる。
瞬きする間も無く、距離が無くなる。

「ほう」

自分の腿を狙う剣を避けながら、三郎は微かに感嘆の声をあげる。
目算より、かなりマルシアの足が速かったのだ。
縦横無尽に襲いくる斬撃を、最小の動きで避けながら、三郎は相手をよく観察する。

「なんともちぐはぐな………」 

三郎から見たマルシアの印象だ。
確かに速い。
しかし、バタバタと動く足は歩法も何も無く、三郎からしてみれば「よくこれでこのように速くで動けるものよ」と、思う程だ。
その上、挙動の間にはいちいち溜めがあり、次の行動の間が空く。
一つ一つの動きは、マルシアの方がかなり速いが、言ってしまえばそれだけの話だ。
いくら速くとも、動作の起こりが分かってしまえば、容易にかわす事が出来る。
 
彼女の振るう双剣がかすりもしないのは、離れているキール達にもはっきり分かった。

「当たらないですね」

ぽつりとキールが呟く。
彼にはマルシアがわざと誰もいない場所に向かって剣を振っているようにも見える。

「ええ、でも、三郎さんはそれほど速く動いている様には見えないのですけど………」

「動きが読まれている」

困惑するアンに答えたのは、これまで沈黙していたエアだ。
同じ剣士として思う事があるのだろう。その鋭い視線は、三郎から離れない。

「隊長の剣は素直だ。あの男からしたら先を読み、避ける事など造作もないのだろう」

「………じゃあ、どうすれば?」

「例えばマルがスキルを使って、もう少し速く動いたらどうでしょう?」

「それでも難しいだろうが今のスピードで油断していてくれたら、隊長得意のアレを使えば意表はつけるかもしれんな」

「油断、ですか」

しなそうだな、という言葉をその場の全員が飲み込むんだまま、二人の対決を見守る。


マルシアは焦れていた。
それもそうだろう。自分の攻撃が全く通用しないのだから。
三郎からの攻撃が無いのも、遊ばれている感じがして更に苛立つ。

疾風刃雷ストームブリッツ

身を低くしてマルシアはスキルを発動させた。
風の魔力を纏い速さを得る。
一気に倍以上速度を増した彼女の剣は、雷を帯びて三郎に迫る。

「なんと!」

不意を突かれた形の三郎だったが、辛うじて避ける事に成功する。
もし、少しでも触れれば、電撃で身体が硬直してしまったかもしれない。
迫りくる雷撃の刃に、三郎はこの対決で初めての冷や汗が流れた。

一方、必殺を期して放った一撃をかわされたマルシアは、落胆する事なく遮二無二攻め立てた。
ここが踏ん張り所だとわきまえているのだろう。
避けられても構わず、双剣を操っていく。
白刃が空を切る度に、帯びる雷が強くなっていく。
三郎の背後に回り込み、双剣を大上段に振り上げる。

「喰らえ!!」

そのまま首筋を狙い、降り下ろす。

ズン

マルシアの視界いっぱいに、暗くなってきた空が広がっていた。
どうにも状況が掴めない彼女の目の前に、握っているはずの剣が突きつけられる。
剣を持っているのは三郎だ。

「勝負あり、じゃな」
 
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