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第2章
七話
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夜もまだ明けきらぬ頃、 宿舎の中庭で三郎は一人、稽古で汗を流していた。
ゆっくりと丁寧に形を行う。遅滞の無い、流れるような動きだ。
「ふぅ」
時間にしておよそ一時間程経っただろうか。一通り形稽古を終えると、芝生の上に座り込み、滝のように流れる汗を拭く。
水筒から水を一口だけ口に含むと、立ち上がって再び刀を抜く。今度は脇差しも抜いて二刀を構える。
「さて、このような感じだったかの?」
目を閉じて刀を動かす。
それは先ほどまでの身体に馴染んだ動きではなく、どこかたどたどしい。それもそのはず、今、三郎の脳裏には昨日のマルシアを思い浮かべているのだ。
彼女のイメージと寸分違わず動きをトレースしていく。
しかし、最後のスキルを用いた速さを再現することは出来なかった。
「ふむ、難しいものだの」
小首を捻りながら、終盤の攻めを再度思い浮かべる。
突如として速さがそれまでとは段違いに速くなっていた。それどころか、剣には不可思議な雷が踊っていた。
「あれが、ルナ殿が言っておったスキルというものか」
いくら形を真似て振っても雷が出てくる気配はない。苦笑を漏らしながら一人ごちる。
いくら試行錯誤しても出てこない雷に見切りをつけると、刀を納めてその場にまた座った。
「それにしても」
昨日のマルシアとの対決は、思いの外に収穫があった。
立ち合いの前は体つきや身のこなしから、彼女を軽んじていた部分が少なからず三郎にはあった。
そんな彼女がどのように魔獣達と戦っているのか興味が沸いたのだ。
だから、マルシアの悪ふざけに敢えて乗ってみたのだ。
そしたらどうだ。
三郎から見ればかなり小さなマルシアと膂力はほぼ五分。速さに至っては、彼女の方が僅かに上を行っていた。
身体能力だけで言えば、三郎は負けていたのだ。
「あれが冒険者札の加護とやらか」
三郎は冒険者カードを取り出してじっと見詰める。
ルナによれば、そこにはこの大陸の文字で己を示す情報が書かれているそうだ。しかし、三郎に分かるのは、精緻に描かれた自分の肖像だけ。
後から聞いた話では、マルシアのレベルは38だという。
つまり、通常の身体能力に380%もの補正がついているのだ。
そんな彼女が遣う剣は、力任せもいいとこであった。
攻撃毎に溜めを作り、全力で叩きつけてきた。
そういう扱いの為なのだろう、刀身も短い割には肉厚でしっかりとした作りだった。
武器屋に置いてあった物も、思い返せば同じように頑丈そうな物ばかりだったので、彼女特有の戦法では無いのだろうと三郎は推測している。
彼女の剣は、自分が修めたものと比べると、技術だけ見れば児戯にも等しいものだ。
ただただ振り回すだけ。
だが、三郎はもう侮る気にはならなかった。
「あれは人ではないモノを相手にするために編み出された剣なのだろう」
と、三郎は考えたからだ。
人より大きく、人より硬く、人より速く、人より強い何か。
この地で魔獣と呼ばれる存在と戦う為に練られた技術だと。
ブルリと三郎は身震いをする。
マルシアの剣の先に見える、未知なる敵に知らず興奮を覚える。
己の人生の大半を費やして鍛えた技が、その怪物達にどれ程通じるか試してみたい。
だが、逸る気持ちを三郎は辛うじて抑える。
冒険に赴く為には、まだ幾つかしなければいけない事があると考えている。
物事をやり抜く為に命を懸けるのを厭う三郎では無いが、だからと言って命を粗末に扱っている訳ではない。
事前に準備をする事で避けられるなら、考えられる限りの準備を行うのだ。
ましてや今度は勝手が分からない異境の地。しかも、自分一人ではない。
「む、いかんな。そろそろ皆が起きる頃合いだ」
辺りを見回すと、うっすらと空が白み始めてきた。
三郎は腰を上げると、宿舎に向かうのだった。
ゆっくりと丁寧に形を行う。遅滞の無い、流れるような動きだ。
「ふぅ」
時間にしておよそ一時間程経っただろうか。一通り形稽古を終えると、芝生の上に座り込み、滝のように流れる汗を拭く。
水筒から水を一口だけ口に含むと、立ち上がって再び刀を抜く。今度は脇差しも抜いて二刀を構える。
「さて、このような感じだったかの?」
目を閉じて刀を動かす。
それは先ほどまでの身体に馴染んだ動きではなく、どこかたどたどしい。それもそのはず、今、三郎の脳裏には昨日のマルシアを思い浮かべているのだ。
彼女のイメージと寸分違わず動きをトレースしていく。
しかし、最後のスキルを用いた速さを再現することは出来なかった。
「ふむ、難しいものだの」
小首を捻りながら、終盤の攻めを再度思い浮かべる。
突如として速さがそれまでとは段違いに速くなっていた。それどころか、剣には不可思議な雷が踊っていた。
「あれが、ルナ殿が言っておったスキルというものか」
いくら形を真似て振っても雷が出てくる気配はない。苦笑を漏らしながら一人ごちる。
いくら試行錯誤しても出てこない雷に見切りをつけると、刀を納めてその場にまた座った。
「それにしても」
昨日のマルシアとの対決は、思いの外に収穫があった。
立ち合いの前は体つきや身のこなしから、彼女を軽んじていた部分が少なからず三郎にはあった。
そんな彼女がどのように魔獣達と戦っているのか興味が沸いたのだ。
だから、マルシアの悪ふざけに敢えて乗ってみたのだ。
そしたらどうだ。
三郎から見ればかなり小さなマルシアと膂力はほぼ五分。速さに至っては、彼女の方が僅かに上を行っていた。
身体能力だけで言えば、三郎は負けていたのだ。
「あれが冒険者札の加護とやらか」
三郎は冒険者カードを取り出してじっと見詰める。
ルナによれば、そこにはこの大陸の文字で己を示す情報が書かれているそうだ。しかし、三郎に分かるのは、精緻に描かれた自分の肖像だけ。
後から聞いた話では、マルシアのレベルは38だという。
つまり、通常の身体能力に380%もの補正がついているのだ。
そんな彼女が遣う剣は、力任せもいいとこであった。
攻撃毎に溜めを作り、全力で叩きつけてきた。
そういう扱いの為なのだろう、刀身も短い割には肉厚でしっかりとした作りだった。
武器屋に置いてあった物も、思い返せば同じように頑丈そうな物ばかりだったので、彼女特有の戦法では無いのだろうと三郎は推測している。
彼女の剣は、自分が修めたものと比べると、技術だけ見れば児戯にも等しいものだ。
ただただ振り回すだけ。
だが、三郎はもう侮る気にはならなかった。
「あれは人ではないモノを相手にするために編み出された剣なのだろう」
と、三郎は考えたからだ。
人より大きく、人より硬く、人より速く、人より強い何か。
この地で魔獣と呼ばれる存在と戦う為に練られた技術だと。
ブルリと三郎は身震いをする。
マルシアの剣の先に見える、未知なる敵に知らず興奮を覚える。
己の人生の大半を費やして鍛えた技が、その怪物達にどれ程通じるか試してみたい。
だが、逸る気持ちを三郎は辛うじて抑える。
冒険に赴く為には、まだ幾つかしなければいけない事があると考えている。
物事をやり抜く為に命を懸けるのを厭う三郎では無いが、だからと言って命を粗末に扱っている訳ではない。
事前に準備をする事で避けられるなら、考えられる限りの準備を行うのだ。
ましてや今度は勝手が分からない異境の地。しかも、自分一人ではない。
「む、いかんな。そろそろ皆が起きる頃合いだ」
辺りを見回すと、うっすらと空が白み始めてきた。
三郎は腰を上げると、宿舎に向かうのだった。
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