武者修行の仕上げは異世界で

丸八

文字の大きさ
24 / 62
第3章

三話

しおりを挟む
「改めて初めまして。僕、ドラゴと言います」

 ルナからの無遠慮な視線を気にしながら、ドラゴン型精霊が頭を下げる。

「三郎と申す」
「ルナよ。さて、ドラゴ君。私も長くここで働いているけど、カードに宿る人工精霊がその姿を見せるなんて聞いた事も無いわ。これが魔石のボーナスアビリティなのかしら?」
「は、はい。そう………だと思います」

 隠された顔をなんとか見ようと、ルナは三郎の背後に回り込み、肩越しに覗き見る。
 その眼光は今まで三郎が見たことも無いほど鋭い。ドラゴは怯え、縮こまる。

「で、あなたは何が出来るの?」
「ぼ、僕ですか?」
「そうよ、他に誰がいるの?」

 ルナの声音は優しい。しかし、有無を言わさぬ迫力があった。
 それが証拠に、三郎が口を挟むことも出来ないのだ。

「え、えっと。こんな姿をしてますが、僕も一応冒険者カードなので、カードと同じ事は出来ますよ」

 緊張のあまり、ドラゴは詰まりながらも言葉を発する。
その言葉を、ルナはいつの間にか取り出したメモ帳に一言一句逃さぬよう書き留める。

「例えば?」
「例えばですか?え~と………あ、ステータスの閲覧が出来ますよ」
「どうやって?」
「僕が読み上げても良いですし、何かに書き写す事も出来ます」
「じゃあ、ここに書いてみて」

 すかさず、ドラゴの眼前に自分のメモ帳を差し出す。
 あまりの勢いに、ドラゴは思わず仰け反った。

「えっと。じゃあ、いきますよ」

  大きく息を吸い込むと、ドラゴは口から紅蓮の炎を吹いた。
 三郎は驚いてドラゴを落としそうになるが、ルナは全く動じる様子もない。手にしたメモ帳が炎に包まれても身動ぎすらしなかった。

「出来ました」

 炎が消えると、ドラゴは顔をあげた。
 メモ帳は燃え尽きるどころか、焦げ目すらついていない。その代わり、紙一面にびっしりと三郎のステータスが書き記されていた。

「なるほど。炎に似せたマナを吹き付ける事により、文字を記しているのね。どうやら工程はともかく、魔導プリンターと同じ原理のようね」

 メモ帳を一瞥すると、ルナはそう断じた。

「で、これだけなの?」
「あ、もちろん、協会の主精霊への報告も出来ます」

 逃げるように三郎の掌から飛び立つと、机に設えてある端末に乗った。
 三郎とルナが追うように机まで来ると、端末に繋がっている画面に光が灯る。

「あ、操作はお願いできますか?」
「わかったわ」

 ルナはキーボードの前に座ると、操作していく。
 いくつかの操作をすると、ドラゴを見て頷いた。

「確かに。情報のやり取りは変わらないみたいね」
「はい、だと思います。後、僕に出来る事と言えば、テイマーである御主人様三郎様の権限を使って、テイマーギルドのデータベースにアクセス出来る事、ミッション内容と地図を表示する事なんかですかね」
「そう、やっぱり普通の冒険者カードと同じ能力なのね。いえ、単独で入出力出来る分、ドラゴの方が便利かしら」

 メモ帳にまとめ終わると、憑き物が落ちたようにルナの表情が柔らかくなった。
 それを見て、三郎を秘かに安堵の息を漏らす。

「で、協会へのアクセスはこっちの端末を使わなきゃいけないのね?」
「え~と、はい。閲覧だけなら何処にいても大丈夫ですけど、報告は端末に座らないとダメです」

 ドラゴは端末から降りると、また三郎の掌の上に戻ってきた。
 どうやら、そこが一番居心地が良いようだ。

「あ、閲覧は出来るのね」
「はい。試しに何か見てみましょうか?」
「そうね、お願いするわ」
「任せてください」

 ドラゴは羽を広げると、目を閉じた。
 暫くその姿勢のままで固まっていた。
 数分経過した後、羽を閉じて口を開いた。

「ルナ・スミス  女性  ミックスヒューマン  協会職員  年れ…………ゲグッ」

 しかし、ドラゴの言葉は途中で途切れた。
 三郎が反応すら出来ない素早さで、ルナがその首を掴んでいたのだ。
 職員は協会内部において、レベル100相当の能力補正を受けている。だが、それを考慮してもあり得ないスピードだ。

「それ、どこ情報?」

 三郎にはいきなり室温が10度程下がったような気がした。
 それほどまでに底冷えがする声音だ。

「ゲ、ゲググッ」

 気管を潰され、うめき声をあげる事しか出来ないドラゴ。

「ルナ殿、そのままでは喋れない。いや、しんでしまう!」

 冷たい迫力に押されながらも、三郎が口を挟む。
 なんとか掴むのを止めさせようとするが、ドラゴを掴むルナの腕はびくともしない。
 能力補正の事を知らない三郎は、目の前のぽちゃぽちゃした腕の何処にこんな力が有るのかと目を見張った。

「あら死んでしまっては聞きたい事も聞けなくなってしまうわね」

 ルナはほんの少し指の力を弱める。
 その隙に、ドラゴはなんとか空気を体内に送ろうと荒い呼吸を繰り返す。

「これで、話せるでしょう?」
「う、うぅ…………」

 命の危険を感じ震える。
 慌てて言葉を紡ぎだす。

「ふ、普通に一般公開されている協会の職員紹介のページです」
「一般公開?」
「は、はい」

 ドラゴの怯えきった目は、とても嘘を言える余裕を感じない。
 ルナはドラゴの首をようやく解放した。

「ドラゴ君、それは秘匿情報に指定します」
「は、はひっ!!」
「三郎さん、ちよっと用事ができました。今日の講義はこれで終わりにします」
「あ、あぁ」
「では、お疲れ様でした」

 三郎は笑っていない笑顔と言うものを初めて見た。
 彼程の剛の者でも、心胆が凍えるような笑顔だ。
 ルナは優雅に一礼すると、部屋から出ていくのだった。




後日、複数のベテラン女性職員から吊し上げをくらった幹部職員が、職員紹介のページを一新したのはまた別のお話である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...