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第3章
夢か現か
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真っ暗で何も見えない。
上下も分からない。
ここが何処かも勿論分からない。
そんな空間だ。
「よぉ、三郎。元気にしてたか?」
唐突に、懐かしい顔が目の前に現れた。陽に透けると青色になる濃紺の髪、その瞳も深い海のような紺色をしている。身長は自分の胸くらいしか無いが、がっしりと逞しい印象を受ける。
「これはお師匠様。無沙汰をしております」
三郎が頭を下げる。
目の前に師がいる。なぜだかそれを不思議とは思わず、当然だと受け入れる。
「どうじゃ、鍛練はすすんでおるか?」
「は、この度、得難い敵と見えまして、師匠の教えが朧気ながら漸く見えて参りました」
日本にいる時は自分よりも大きく力の強い相手にはあった事がない。
だが、この国ではそんな相手がごろごろいる。
そんな相手と対する度に、新たな気付きがある。
そして、別格とも言える敵とギリギリの戦いを制し、三郎は理の更なる理解に至ったと感じていた。
「そうか、それは良かったな」
師は笑顔を浮かべる。
出会った時と変わらない、男臭い笑顔だ。
「そろそろ江戸に戻ってくるか?」
師の言葉に少し考える素振りをする。だが、答は決まっていた。
「いえ、異国に来てしまった以上、今更拙者が帰っても兄上達に迷惑がかかりましょう」
一旦言葉を区切る。そして、晴れやかな笑みを浮かべた。
「それに、こちらではまだこの剣を生かす道があるようなのです。ありもしない養子先を探しながら冷飯を食べるより、遥かに楽しく過ごしておりますよ」
「はははっ。確かにな」
二人して声を上げて笑う。
笑いながらも、三郎は昔に思いを馳せる。
「唯一の気掛かりだった師匠のお顔も拝見できましたし、思い残す事はもうありません。師匠、今まで有り難う御座いました」
一頻り笑い合うと、三郎は居住まいを正し、深々と頭を下げた。
「そうか、そうだな。よし、餞別だ。久方ぶりに手合わせをしてやろう」
いつの間にか二人の手には木刀が握られていた。
互いに向き合うと一礼する。それから、別れを惜しむようにいつまでも木刀をぶつけ合うのだった。
上下も分からない。
ここが何処かも勿論分からない。
そんな空間だ。
「よぉ、三郎。元気にしてたか?」
唐突に、懐かしい顔が目の前に現れた。陽に透けると青色になる濃紺の髪、その瞳も深い海のような紺色をしている。身長は自分の胸くらいしか無いが、がっしりと逞しい印象を受ける。
「これはお師匠様。無沙汰をしております」
三郎が頭を下げる。
目の前に師がいる。なぜだかそれを不思議とは思わず、当然だと受け入れる。
「どうじゃ、鍛練はすすんでおるか?」
「は、この度、得難い敵と見えまして、師匠の教えが朧気ながら漸く見えて参りました」
日本にいる時は自分よりも大きく力の強い相手にはあった事がない。
だが、この国ではそんな相手がごろごろいる。
そんな相手と対する度に、新たな気付きがある。
そして、別格とも言える敵とギリギリの戦いを制し、三郎は理の更なる理解に至ったと感じていた。
「そうか、それは良かったな」
師は笑顔を浮かべる。
出会った時と変わらない、男臭い笑顔だ。
「そろそろ江戸に戻ってくるか?」
師の言葉に少し考える素振りをする。だが、答は決まっていた。
「いえ、異国に来てしまった以上、今更拙者が帰っても兄上達に迷惑がかかりましょう」
一旦言葉を区切る。そして、晴れやかな笑みを浮かべた。
「それに、こちらではまだこの剣を生かす道があるようなのです。ありもしない養子先を探しながら冷飯を食べるより、遥かに楽しく過ごしておりますよ」
「はははっ。確かにな」
二人して声を上げて笑う。
笑いながらも、三郎は昔に思いを馳せる。
「唯一の気掛かりだった師匠のお顔も拝見できましたし、思い残す事はもうありません。師匠、今まで有り難う御座いました」
一頻り笑い合うと、三郎は居住まいを正し、深々と頭を下げた。
「そうか、そうだな。よし、餞別だ。久方ぶりに手合わせをしてやろう」
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