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第3章
とある飯屋での会話
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海猫亭。それがその飯屋の名前だった。
冒険者支援協会の支部から程近い場所にある海猫亭は、その立地から何時も冒険者で溢れかえっていた。
「よぉ、久しぶりだな。ここ良いか?」
大剣を背負った男が、ローブを着た男の返事を待たず前の椅子に座る。
ローブの男も、ちらりと目を向けただけで食事に没頭している。店内が込み合っている以上、相席は仕方ない。
「ウサギか、旨そうだな。おい!ねーちゃん!俺にも同じヤツくれ!後、エールもな!」
「はいよー!」
大剣の男が注文すると、店員の兎娘が元気よく応える。
程なく木製のジョッキに入った酒と、出来立ての熱い料理が運ばれてきた。
「ところで、最近あいつ見ねーなぁ」
「あいつ?」
「ほれ、あの熊の獣人みたいな」
「あぁ、あいつか。あいつなら、ネクスの町にいるはずだぞ」
「ネクス?あぁ、最近開拓が始まったとこか」
「そうだ、そこで一週間くらい入院してるらしいぞ」
「おいおい、まじか」
「詳しくはわからないけど、何でもゴブリンの群にやられたらしい」
「ゴブリン?まさか、あいつがそんなのにやられるわきゃねーだろ」
「ところが、そうでも無いみたいだぜ」
会話に割り込んできたのは、髭面の男だ。
断りも入れず、同じテーブルの椅子に腰掛ける。
髭面はそのライ麦パンと鶏肉のシチュー、サラダを注文する。飲み物はオレンジジュースだ。
「どういうことだ?」
「そのゴブリンを率いていたのが人食い鬼だったみてぇだ」
「オーガか」
「でもよ、オーガくらいなら俺も何度か討伐してるぜ。勿論、数人のパーティーでだけど。あいつがやられるなんて思えねぇな」
「それが、噂じゃ変異体だったみてぇだ」
「「変異体?」」
「あぁ」
髭面は運ばれてきたパンを一口大にちぎって口に運ぶ。粗野な見た目とは裏腹なエレガントさだ。
「変異体って武器持ちか?」
「いんや」
「じゃあ、鎧?」
「ちげぇ」
「まさか魔法使いか?」
「いんや、ちげぇ。どうやら悪魔憑きらしいぞ」
「「まじか!」」
「しかも、そのオーガを従魔にしちまったらしい」
「「まじか!!」」
大剣の男とローブの男は一様に驚いた。中堅以上の冒険者には悪魔憑きの恐ろしさは周知されているのだ。
「危険度Aの低位らしい。魔法を使わない肉弾戦特化だから、少し低めに設定されたらしい」
「あいつの手持ちって低ランクの魔獣しかいなかったよな。よくそれで勝てたな」
「それが、一人で倒したんだと」
「「まじか!!!」」
あまりの声に注目を浴びる。
兎娘に睨まれると、少し声のトーンを落とした。
「肉弾戦特化の悪魔憑きに肉弾戦を仕掛けたらしい」
「馬鹿だな」
「あぁ、馬鹿だ。攻撃がかすってもいないのにどんどんボロボロになっていったんだと」
「おいおい、かすってもないってどういうことだ?」
「言葉の意味そのまんまだよ。言葉自体は一発も当たってねぇ。まぁ、当たってたらいくら奴さんが頑丈でも死んでると思うぜ」
「………バケモンかよ」
大剣の男とローブの男は言葉を喪う。
「で、奴さん一気にレベル50になったんだと」
「そらまた凄いな」
「でもよ、いくら悪魔憑きだってミッションも無いオーガの経験値ってそこまで高かったか?」
「ひょっとして、後追いミッションでも発注したのか?」
余程の規模に限られるが、突発的に魔獣が大量発生した場合、対処に当たった冒険者に後追いでミッションを発注する事がある。
ローブの男は異例のレベルアップに対し、その後追いミッションを発注したのではと推測した。
「それもある」
「も?」
「他にも何かあるのかい?」
「あぁ、今回はオーガを従魔にしちまったからな。きちっと手綱を握れる様なレベルまで上げたらしい」
「ほう」
「それなら、いっそ100にしちまえばいいのにな」
「そこまではできんだろ。ぽっと出の奴にそこまで信用する協会じゃねぇのはお前さんらも知ってるだろ?」
「ちげぇねぇ」
ジョッキに残っているエールを一気に飲み干し、大剣の男は笑う。
「取り敢えず、これであいつにちょっかいかけるのも終わりだな」
「そうだな。レベルが50にもなりゃ他の街に行くことも多くなるだろ」
「あぁ、おっかさんも奴にばかり構っちゃいらんねぇだろうし」
「なにより、レベルも並ばれちゃ恐ろしくて手も出せねぇ」
「あ~ぁ、一発くらい殴りたかったなぁ」
一頻り笑うと、男達は店を出ていくのだった。
冒険者支援協会の支部から程近い場所にある海猫亭は、その立地から何時も冒険者で溢れかえっていた。
「よぉ、久しぶりだな。ここ良いか?」
大剣を背負った男が、ローブを着た男の返事を待たず前の椅子に座る。
ローブの男も、ちらりと目を向けただけで食事に没頭している。店内が込み合っている以上、相席は仕方ない。
「ウサギか、旨そうだな。おい!ねーちゃん!俺にも同じヤツくれ!後、エールもな!」
「はいよー!」
大剣の男が注文すると、店員の兎娘が元気よく応える。
程なく木製のジョッキに入った酒と、出来立ての熱い料理が運ばれてきた。
「ところで、最近あいつ見ねーなぁ」
「あいつ?」
「ほれ、あの熊の獣人みたいな」
「あぁ、あいつか。あいつなら、ネクスの町にいるはずだぞ」
「ネクス?あぁ、最近開拓が始まったとこか」
「そうだ、そこで一週間くらい入院してるらしいぞ」
「おいおい、まじか」
「詳しくはわからないけど、何でもゴブリンの群にやられたらしい」
「ゴブリン?まさか、あいつがそんなのにやられるわきゃねーだろ」
「ところが、そうでも無いみたいだぜ」
会話に割り込んできたのは、髭面の男だ。
断りも入れず、同じテーブルの椅子に腰掛ける。
髭面はそのライ麦パンと鶏肉のシチュー、サラダを注文する。飲み物はオレンジジュースだ。
「どういうことだ?」
「そのゴブリンを率いていたのが人食い鬼だったみてぇだ」
「オーガか」
「でもよ、オーガくらいなら俺も何度か討伐してるぜ。勿論、数人のパーティーでだけど。あいつがやられるなんて思えねぇな」
「それが、噂じゃ変異体だったみてぇだ」
「「変異体?」」
「あぁ」
髭面は運ばれてきたパンを一口大にちぎって口に運ぶ。粗野な見た目とは裏腹なエレガントさだ。
「変異体って武器持ちか?」
「いんや」
「じゃあ、鎧?」
「ちげぇ」
「まさか魔法使いか?」
「いんや、ちげぇ。どうやら悪魔憑きらしいぞ」
「「まじか!」」
「しかも、そのオーガを従魔にしちまったらしい」
「「まじか!!」」
大剣の男とローブの男は一様に驚いた。中堅以上の冒険者には悪魔憑きの恐ろしさは周知されているのだ。
「危険度Aの低位らしい。魔法を使わない肉弾戦特化だから、少し低めに設定されたらしい」
「あいつの手持ちって低ランクの魔獣しかいなかったよな。よくそれで勝てたな」
「それが、一人で倒したんだと」
「「まじか!!!」」
あまりの声に注目を浴びる。
兎娘に睨まれると、少し声のトーンを落とした。
「肉弾戦特化の悪魔憑きに肉弾戦を仕掛けたらしい」
「馬鹿だな」
「あぁ、馬鹿だ。攻撃がかすってもいないのにどんどんボロボロになっていったんだと」
「おいおい、かすってもないってどういうことだ?」
「言葉の意味そのまんまだよ。言葉自体は一発も当たってねぇ。まぁ、当たってたらいくら奴さんが頑丈でも死んでると思うぜ」
「………バケモンかよ」
大剣の男とローブの男は言葉を喪う。
「で、奴さん一気にレベル50になったんだと」
「そらまた凄いな」
「でもよ、いくら悪魔憑きだってミッションも無いオーガの経験値ってそこまで高かったか?」
「ひょっとして、後追いミッションでも発注したのか?」
余程の規模に限られるが、突発的に魔獣が大量発生した場合、対処に当たった冒険者に後追いでミッションを発注する事がある。
ローブの男は異例のレベルアップに対し、その後追いミッションを発注したのではと推測した。
「それもある」
「も?」
「他にも何かあるのかい?」
「あぁ、今回はオーガを従魔にしちまったからな。きちっと手綱を握れる様なレベルまで上げたらしい」
「ほう」
「それなら、いっそ100にしちまえばいいのにな」
「そこまではできんだろ。ぽっと出の奴にそこまで信用する協会じゃねぇのはお前さんらも知ってるだろ?」
「ちげぇねぇ」
ジョッキに残っているエールを一気に飲み干し、大剣の男は笑う。
「取り敢えず、これであいつにちょっかいかけるのも終わりだな」
「そうだな。レベルが50にもなりゃ他の街に行くことも多くなるだろ」
「あぁ、おっかさんも奴にばかり構っちゃいらんねぇだろうし」
「なにより、レベルも並ばれちゃ恐ろしくて手も出せねぇ」
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一頻り笑うと、男達は店を出ていくのだった。
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