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第4章
三話
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レベル50。
500%の能力補正がかかる。
数字では理解していたつもりだったが、その効果にキールは唖然としていた。
数ヵ月前まで逃げ回るしか無かったソイルボアに対し、全く力負けしなくなっていたのだ。
突進してくる土猪の側面に素早く回り込むと、手にしたショートソードで首筋を叩き斬る。
倒してしまうとあっさりとしたものだ。
土猪の魔法で飛んでくる礫も難なくかわせるし、身体を覆う土の鎧も問題なく切り裂けた。
三郎との朝練でアビリティに【剣術 F】がつき、素のステータスも上昇しているのもあるが、やはりレベルアップによる効果は本当に大きい。
まして、今は称号に【町の英雄(ネクス)】とある。
この称号を持っていると、此処ネクスの町近辺限定だが、様々なボーナスがつくらしい。
最初は「オイラは何もしてないから」と固辞していた。しかし、オーガ率いるゴブリンの集団を討伐するという後追いミッションがパーティー単位のものである事と、そのパーティーのリーダーがキールである事、そしてその他色々な理由から半ば押し付けられた形で経験値と称号、少なくない額の報酬を受け取ったのだった。
「ガアァァァ」
少し離れた場所から雄叫びが聞こえてくる。
キールが恐る恐る振り返ると、そこには「色々な理由」の一つがいた。
赤銅色のそれは、自分より大きな鎧熊を鯖折りしていた。
鎧熊はこの辺りでは攻撃力、防御力において頭一つ抜けた魔獣だ。
それが、口の端から泡を吹いて絶命寸前だ。
これで、本調子じゃないというから恐れ入る。どうやら、地上はダンジョンよりも周りにあるマナが薄いため、黒化出来るほどのマナが体内に貯まらないのだそうだ。
それでいてこれなのだ。
「こんなの、オイラが止めるとか無理があるよ」
そうなのだ、三郎が従魔としたオーガがもし暴れるようなら、体を張ってなんとかしろと言われたのだ。
凄く恐い顔で。
幸いなことに、オーガの額にある従魔の証しは真っ赤に輝き、友好度が最大である事を示している。
だが、相手は上級冒険者でさえ単独で戦うのは無謀と言われる危険度Aの魔獣である。
万が一の事を思うと、キールは不安しかない。
暴れるならせめて三郎がいる時にしてくれと切に願うキールだった。
「………あ、堕ちた」
鎧熊が白眼を剥き、全身から力が抜けた。
グッタリして動かない鎧熊の腹にオーガは両手を突き入れて左右に開く。
中身を引きずり出して食べようと大きく口を開ける。
「ワンワン!」
駆け寄ってきたシローが、前足で器用にオーガの腕を叩く。
どうやら勝手に食べようとしたことを叱責しているようだ。
魔獣としてのランクはオーガの方が上だが、三郎の従魔としての序列はシローの方が上だと言うことをオーガも理解しているらしい。
おとなしくシローの言うことに従う。
それを見て、キールはホッとする。
「いざとなったら、頼みますシローさん」
拝むように手を合わせる。
シローとオーガがこちらを向いたので、キールは鎧熊を食べる事を許可する。
今回は土猪の討伐ミッションなので、鎧熊は関係ない。もっと言えば討伐したのは冒険者カードに記録されるので、土猪も食べても構わないのだ。
見ていると、シローがまず先に口をつけ、それが終わったらオーガがようやく食べれるようだ。こうやって序列を教えているのだろう。
「そう言えばミドリは?」
ミドリはミッション中は単独行動をする事が多い。
ホムベ付近の平原では、どうやら勝手に虫系魔獣を狩って食べていたようだ。
多分、ここでも同じだろうと木に登って探してみる。
いた。
やはり虫系魔獣と戦っている。
「………」
思わずキールは絶句する。
鳩位のサイズのミドリが、三メートルを越える蟷螂を相手にしているのだ。
ミドリの上にマナで作られた力場が回転しながら飛んでいる。
その力場と共に蟷螂に突っ込んでいく。
ミドリ目掛けて繰り出される鎌を、余裕を持って避ける。
ミドリが地面ギリギリまで急降下している間に、中空に留まった力場から雷がほとばしる。
それほど威力は無いが、蟷螂を痺れさせるには充分だったようだ。
感電し動きが止まったところで、ミドリは蟷螂の身体に沿って今度は急上昇した。
「ケーン」
ミドリの両の翼から不可視の斬撃が放たれる。
ゴロリと蟷螂の首が落ちる。
次いで、身体も地響きをたてて倒れた。
ミドリは地面に落ちた頭を啄み始めた。先ずは額に赤く輝く魔石からだ。
ほとんど丸呑みする勢いで魔石をたいらげると、そのままの勢いでペロリと蟷螂を全て胃の中に収めてしまった。
何処に入ったのかも分からなその健啖ぶりに、キールは言葉が出ない。
そして、このパーティーの中で最弱が自分であることを、再度強く認識させられるのだった。
「は、はは………」
強くなりたい。
土猪を食べ始めたシローとオーガを横目に、改めて決意するキールであった。
500%の能力補正がかかる。
数字では理解していたつもりだったが、その効果にキールは唖然としていた。
数ヵ月前まで逃げ回るしか無かったソイルボアに対し、全く力負けしなくなっていたのだ。
突進してくる土猪の側面に素早く回り込むと、手にしたショートソードで首筋を叩き斬る。
倒してしまうとあっさりとしたものだ。
土猪の魔法で飛んでくる礫も難なくかわせるし、身体を覆う土の鎧も問題なく切り裂けた。
三郎との朝練でアビリティに【剣術 F】がつき、素のステータスも上昇しているのもあるが、やはりレベルアップによる効果は本当に大きい。
まして、今は称号に【町の英雄(ネクス)】とある。
この称号を持っていると、此処ネクスの町近辺限定だが、様々なボーナスがつくらしい。
最初は「オイラは何もしてないから」と固辞していた。しかし、オーガ率いるゴブリンの集団を討伐するという後追いミッションがパーティー単位のものである事と、そのパーティーのリーダーがキールである事、そしてその他色々な理由から半ば押し付けられた形で経験値と称号、少なくない額の報酬を受け取ったのだった。
「ガアァァァ」
少し離れた場所から雄叫びが聞こえてくる。
キールが恐る恐る振り返ると、そこには「色々な理由」の一つがいた。
赤銅色のそれは、自分より大きな鎧熊を鯖折りしていた。
鎧熊はこの辺りでは攻撃力、防御力において頭一つ抜けた魔獣だ。
それが、口の端から泡を吹いて絶命寸前だ。
これで、本調子じゃないというから恐れ入る。どうやら、地上はダンジョンよりも周りにあるマナが薄いため、黒化出来るほどのマナが体内に貯まらないのだそうだ。
それでいてこれなのだ。
「こんなの、オイラが止めるとか無理があるよ」
そうなのだ、三郎が従魔としたオーガがもし暴れるようなら、体を張ってなんとかしろと言われたのだ。
凄く恐い顔で。
幸いなことに、オーガの額にある従魔の証しは真っ赤に輝き、友好度が最大である事を示している。
だが、相手は上級冒険者でさえ単独で戦うのは無謀と言われる危険度Aの魔獣である。
万が一の事を思うと、キールは不安しかない。
暴れるならせめて三郎がいる時にしてくれと切に願うキールだった。
「………あ、堕ちた」
鎧熊が白眼を剥き、全身から力が抜けた。
グッタリして動かない鎧熊の腹にオーガは両手を突き入れて左右に開く。
中身を引きずり出して食べようと大きく口を開ける。
「ワンワン!」
駆け寄ってきたシローが、前足で器用にオーガの腕を叩く。
どうやら勝手に食べようとしたことを叱責しているようだ。
魔獣としてのランクはオーガの方が上だが、三郎の従魔としての序列はシローの方が上だと言うことをオーガも理解しているらしい。
おとなしくシローの言うことに従う。
それを見て、キールはホッとする。
「いざとなったら、頼みますシローさん」
拝むように手を合わせる。
シローとオーガがこちらを向いたので、キールは鎧熊を食べる事を許可する。
今回は土猪の討伐ミッションなので、鎧熊は関係ない。もっと言えば討伐したのは冒険者カードに記録されるので、土猪も食べても構わないのだ。
見ていると、シローがまず先に口をつけ、それが終わったらオーガがようやく食べれるようだ。こうやって序列を教えているのだろう。
「そう言えばミドリは?」
ミドリはミッション中は単独行動をする事が多い。
ホムベ付近の平原では、どうやら勝手に虫系魔獣を狩って食べていたようだ。
多分、ここでも同じだろうと木に登って探してみる。
いた。
やはり虫系魔獣と戦っている。
「………」
思わずキールは絶句する。
鳩位のサイズのミドリが、三メートルを越える蟷螂を相手にしているのだ。
ミドリの上にマナで作られた力場が回転しながら飛んでいる。
その力場と共に蟷螂に突っ込んでいく。
ミドリ目掛けて繰り出される鎌を、余裕を持って避ける。
ミドリが地面ギリギリまで急降下している間に、中空に留まった力場から雷がほとばしる。
それほど威力は無いが、蟷螂を痺れさせるには充分だったようだ。
感電し動きが止まったところで、ミドリは蟷螂の身体に沿って今度は急上昇した。
「ケーン」
ミドリの両の翼から不可視の斬撃が放たれる。
ゴロリと蟷螂の首が落ちる。
次いで、身体も地響きをたてて倒れた。
ミドリは地面に落ちた頭を啄み始めた。先ずは額に赤く輝く魔石からだ。
ほとんど丸呑みする勢いで魔石をたいらげると、そのままの勢いでペロリと蟷螂を全て胃の中に収めてしまった。
何処に入ったのかも分からなその健啖ぶりに、キールは言葉が出ない。
そして、このパーティーの中で最弱が自分であることを、再度強く認識させられるのだった。
「は、はは………」
強くなりたい。
土猪を食べ始めたシローとオーガを横目に、改めて決意するキールであった。
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