武者修行の仕上げは異世界で

丸八

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第4章

四話

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「いらっしゃいませ」

 可愛らしい女性店員の快活な笑顔でキールは出迎えられた。
 此処はネクスの町のスキル屋だ。
 文字通り冒険者が使うスキルを扱う店である。キールは一旦、宿屋に帰って三郎に従魔を返した後、自身の戦力アップを図る為にスキルを覚えようと思ったのだ。
 スキルを覚える方法は、大別して二つある。
 一つは何度も反復練習を行い、身体で覚える方法。その為に冒険者支援協会では定期的に講座を開いたりしている。独学で覚えたい者は、スキル屋でスキル書を買ったりしている。いずれにせよ、覚えるまでにそれなりの期間を要する。
 そして、もう一つはもっと簡単で、スキルを封じた魔石を通して覚える方法だ。

「いらっしゃいませ、本日はお目当ての物はございますか?」
「あ、え~と」

 店内に客はキールしかいない。
 だからなのか、女性店員がすぐにキールの隣についた。

「スキル書ならこちらの棚になります」

 胸の名札にナナと書かれた女性店員は、キールをスキル書の置いてある本棚に案内しようとした。
 キールの身形から判断したようだ。キールのような駆け出しの冒険者は、普通あまりお金がない。稼ぎの良いミッションはまだ請けられないし、装備や消耗品にもそれなりに出費が嵩むからだ。
 比較的安価なスキル書でも最低で一万ゴールド。同じ内容のスキルを魔石から得ようとすると、軽く十倍の値段がする。ちなみに協会の開設講座はその中間位の値段設定だ。
 つまり、ナナはキールを金持ってない客と認識したのだ。年若く、装備も貧弱なのでそれも無理からぬ事だ。

「い、いえ。今日は魔石を見せて貰いたいんですが………」

 段々言葉の勢いが尻すぼみになる。
 ナナは一瞬だけ怪訝そうな顔をするが、すぐに笑顔を取り戻す。

「はい、魔石ですね。それではこちらになります」

 キールはナナの後について狭い階段を昇る。どうやら、魔石は二階にあるらしい。
 階段を昇りきると、頑丈そうな扉をナナに開けてもらい中に入る。扉はすぐに閉められた。

「本日はどのようなスキルをお求めですか?」
「え、え~とですね」

 恥ずかしそうに俯いて言いよどむキール。ナナは根気よく笑顔で待っている。

「け、剣術のスキルがほ、欲しいんですけど」
「はい、剣術スキルですね。失礼ですが、剣術アビリティはお持ちですか?」

 戦闘で使うスキルは、その系統のアビリティを持っていないと習得できないものが多い。
 そして、そのランクに依って習得出来るものが決まっているのだ。

「は、はい。い、一応剣術アビリティはFです」

 ナナは少しばかり驚いた。アビリティが発露するにはそれなりの経験がいるからだ。
 この時点で、ただの冷やかしではないと判断した。

「Fですね。でしたらこの辺りになりますね」

  魔石は全て分厚い強化ガラスのショーケースに収まっている。色とりどりの魔石にはそれぞれ名称と簡単な説明文、それから値段が書かれた札が付けられていた。
 剣術 Fの所にある魔石の数は少なく、僅かに四つだけだ。
 【剛剣】【矢払い】【切り返し】【魔力浸透】とある。
 
「【魔力浸透】?」

 どれも十万ゴールド前後と魔石の中では比較的安価なのだが、一つだけ百五十万ゴールドと高価なものがあった。

「そちらの商品は魔力を武器に籠めることによって、その威力を底上げするものになります」
「へぇ、凄いですね」

 【魔力浸透】は希少性が高い上に、扱いが少々厄介な為、値段が高くなってしまうのだという。

「お客様は魔力操作のアビリティはお持ちですか?」
「い、いえ。持ってないです」
「でしたら、こちらの習得は残念ながら難しいと思います」

 キールは少し肩を落とした。
 金額的には充分買える範囲内なので、四つとも欲しかったのだ。中でも剣の威力そのものが上がる【魔力浸透】が一番欲しいスキルだった。

「でしたら、こちらはいかがでしょう?」

 ナナが示したのは【魔力周体】だ。説明文には体内のマナを巡らし、身体能力の強化をもたらすと書いてある。

「こちらのスキルの習熟度が上がれば、魔力操作のアビリティが付くことがあります。なので、こちらで訓練された後に【魔力浸透】を購入されたらいかがでしょう?勿論、安価な物ではないので無理にとは申しませんが」

 キールは自分が非力なのは充分承知している。素の攻撃力は三郎との朝練を経た今で、ようやく8なのだ。
 その非力さをカバー出来るスキルは喉から手が出るほど欲しい。
 キールは迷う事なく購入を決めた。

「ありがとうございます。お支払いは現金ですか?カードですか?」
「あ、カードで」

 キールが袋から冒険者カードを出している間に、ナナは一度奥の部屋に引っ込んで4つの小箱を持ってきた。
 なんでも、ショーケースに入っているのは全てダミーの物らしい。高額な物を扱っているだけあって警戒が厳重だ。

「では、カードをお預かり致しますね」
「は、はい」

 手渡された冒険者カードを端末に置く。
 画面に標示された文字を見て、ナナは「あら」と小さな声で驚いた。

「あらあらあらあら。キール様は英雄様でしたのね」
「え、えぇ。なんかそんな感じにさせられちゃいました………」

 キールはひきつった笑顔を浮かべる。称号を受け取った時の事を思い出したのだ。

「そうとは知らず失礼を致しました。この度は町を救って頂き、ありがとうございました」

 深々と頭を下げられ、キールは妙な居心地の悪さを感じる。
 オーガ率いるゴブリンの集団を討伐した話は、すでにネクスの町では誰も知らない者がいないほど広まっている。
 ただ、キールの顔までは知られていなかったので、注目を浴びる事は無かったのだ。

「なんでも、数千のオーガをたった二人で倒してしまったとか」
「いやいや、それはおかしい!いくらなんでも尾ひれが付きすぎでしょ!」

 思わず突っ込みを入れてしまう。あまりにも話が大きくなりすぎだ。

「ですよねぇ」

 コロコロと屈託なく笑うナナに、キールの顔は赤くなる。
 
「では、我が町の英雄様に英雄割引させて頂きます」

 冒険者価格から更に二割も安くなった。
 それでも、高い買い物には違いないが、貰った報酬にはまだ余裕がある。
 キールは画面に標示された値段を見ると、了承と書かれた部分を指で押した。

「はい、ありがとうございました。ところで、魔石はこちらで使っていかれますか?」
「はい、お願いします」
「では、あちらに小部屋をご用意しておりますので、そちらでご使用くださいね」
「分かりました」

 小箱を持って、隣にある部屋へ行く。
 部屋に入ると、上半身の装備を外して胸に埋め込まれている魔石を露にする。
 そこにたった今買ったばかりの魔石を押し当てる。

「う、うん」

 一瞬だけピリリとした刺激が全身を駆け巡る。どうやらこれで、魔石に封じられていたスキルが、キールの身体に移ったようだ。
 続けて残りも同じようにする。

「これで良いのかな?」

 装備を戻して身仕度を整えると、キールは小部屋の扉を開けるのだった。
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