『信長は「本能寺の変」で死ななかった?バチカンに渡り「ジョルダーノ・ブルーノ」になった?「信長始末記」歴史ミステリー!」

あらお☆ひろ

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「1600年春、バチカン その2」

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「1600年春、バチカン その2」

 ミスティーが表に出ると、左頬をボウガンの矢がかすめた。(こいつが一番の厄介ものね。まずは、こいつの矢からね!)
「メチャ兄、好兄がやりすぎへんようにってさ!今から、敵のボウガンの矢、アポートするから、できるだけ遠くにアスポートしちゃって!」
「わかった、殺さへん程度にってことやな。面倒やけどしゃあないな。今から、そっちに行く。」
(「ボウガンの矢」、アポート!)瞬間的に十数本の矢がミスティーの両手いっぱいに現れた。メチャスキーは、それを受け取り、(「遠くにとんでけ!」と一気にアスポートかけた。
 数十メートル先で、バラバラバラと矢が路面に落ちる音がした。バチカンの刺客は、突然腰に付けた矢籠が空になったことに気づき、ボウガンをナイフに持ちかえた。ミスティは、飛んでくる矢が無くなったことを確認すると、瞼を閉じ集中した。
「弥助さん、右からふたり。短刀持ってるから気を付けて!ジョバンニさんの方は、左から三人。メチャ兄、ジョバンニさんの応援に入って!好兄、式神準備できたら、正面から五人来る。右の弥助さんの応援と二枚、左のジョバンニさんとメチャ兄に二枚、合わせていける?」
「ああ、五人とふたりと三人やな。任せとけ!行け、式神!」
と十枚の人形に切られた、キッチンペーパーを宙に投げた。二枚の紙が実体化し右の弥助を追いかけ、二枚が左へ。六枚の紙が正面へ進んだ。
  オカやん号の中から、フリークの声がした。
「ミスティー!西側から、更に二十人来るで!東からは追加で二十人程!このままやとここが本能寺になってまうで!」
  車内の信長と光秀にも緊張が走った。
「光秀、わしらも出るぞ!」
「御意!お供仕ります。」
  車内は、寝ている夏子とトイレから出てきた陽菜、護衛の蘭丸。そして、量子コンピュータの再起動復旧作業に集中するフリークだけになった。
  
  オカやん号の外では、ミスティー、メチャスキーと弥助、ジョバンニが次々来る刺客との戦いを続けている。オカやん号の間近で好哉がキッチンペーパーを切りまくり、信長と光秀をフォローしている。敵の総数は五十人を超えている。
  ケガを負っているジョバンニが格闘中に叫んだ。
「こいつら、ナイト・オブ・オヴィディエンス(忠誠の騎士)だ!上級騎士で戦闘のプロだぞ!みんな気をつけろ!」
  十倍以上の敵に対し、ミスティーは必死にナイフをアポートで取り上げ、メチャスキーが遠くにアスポートを繰り返し、なんとか格闘戦に持ち込んでいるが、多勢に無勢で敵の包囲網はどんどんと縮まり、オカやん号に近づいてきている。
 キッチンペーパーが尽き、好哉が最後の二十体の式神を放った。メチャスキーは、両手に持ったウォッカのボトルを武器にして、ロシア武術のサンボとシステマをベースに、相手の膝の皿を狙って砕く方法で闘っている。ミスティーはサイコキネシスで相手を金縛りにし、ブーツをアポートすると相手の足の親指にストンピングを落とし、足の指を折る。またプロレス技を活用した踵蹴りで騎士団の膝関節を粉砕しまくる。徐々に動けなくなった相手が周辺に増えていく。
  弥助は、敵から奪った長棒を使い、次々と相手をなぎ倒している。ジョバンニも相手から奪った武器で反撃しているが、昨日の傷が開き出血が目立ってきている。各自、必死の格闘中だが、必要以上に相手を傷つけない戦闘を続ける信長一行とオカやんツアーズメンバーは、全く遠慮のない刺客の攻撃に徐々に消耗していった。
 約半数の敵を、再起不能状態にしてきたが、ジョバンニが深手を負い、オカやん号に戻ってきた。陽菜が車内から飛び出してきて、治療にあたった。
 ふたりの敵がナイフを持って、オカやん号の屋根から信長に突然飛びかかってきた。ひとりは、好哉の塗り壁バリアーで防いだ。もうひとりは、バリアーを避け、信長に切りかかった。すんでのところで信長はかわし、持っていた包丁の柄で相手の後頭部を打った。陽菜が急所を蹴り上げ、男は卒倒した。倒れたふたりを光秀が捕縛した。
 
 約二十分、戦闘が続いた。狭まる包囲網の中、信長、光秀にも敵は掴みかかってくる。片っ端から、信長、光秀は体術を使い、投げ倒す。倒れた敵をケガをおして蘭丸がスタンガンでとどめを刺していく。オカやん号の周りに十数体の敵が倒れている。夏子は、相変わらず車内で寝ている。
  仲間たちも疲労の色が濃くなり、無傷の十二名の騎士に囲まれ、じわじわと輪が狭まる。(もはやこれまでか…。)好哉が思った瞬間、オカやん号の下から、ナイフを持った刺客が信長の背後に切りかかった。とっさのことに、オカやんツアーズのメンバーは対応できなかった。
「殿!危ない!」
と光秀が間に身体を張って、壁となる。光秀の腹部から鮮血が飛び散る。ミスティのサイコキネシスで相手を金縛りにしたところ、蘭丸がスタンガンを押し当てる。
「光秀!大丈夫か!」
信長が倒れた光秀を抱き起し、叫んだ。
「殿…、ご無事でしたか。良かった…。」
と蚊の鳴くような声で答え、ガクッとうなだれた。白い洋シャツがみるみる赤く染まっていく。
「光秀、死ぬな!」
信長は、光秀を抱きしめ、涙を流しながら声をかけ続けるが、光秀は微動だにしない。陽菜が車内からシーツを持ち出し、何本か引き裂き、光秀の腹に巻き強く縛ったがどんどんと血が滲み出てくる。
 車内からフリークの声が響いた。
「おい、みんな、復旧が終わった。急いで、オカやん号に乗り込め!すぐに移動するぞ!」

 好哉が塗り壁バリアーでオカやん号を包囲し、敵の侵入を食い止める。メチャスキーがアスポートでウォッカのボトルをバリアと敵の間に落とした。次々と割れるウォッカのボトルから路面にウォッカが拡がり、強いアルコール臭が漂う。そこにパイロキネシスで火をつけたウォッカボトルをアスポートした。一気に炎が巻き起こり、刺客は一歩後ずさりした。
 その間に、重傷を負い意識の無い光秀を弥助とジョバンニが後部リビングに連れ込み、信長、蘭丸、陽菜が続いた。通りに立ち上る炎と騒ぎに、周辺の家々から人が飛び出てきた。
「よし、フリーク出発させろ!」
メチャスキーが叫ぶと同時に、ミスティーと好哉がオカやん号に飛び乗った。メチャスキーは、後部トランクから、二ケースのウォッカを取り出し、アスポートさせた。オカやん号は、メチャスキーを残し、東へと走り出した。二秒後、次々とボトルが空中10メートルの高さから現れ、路面に落ちては割れていく。メチャスキーは、オカやん号が通りの角を曲がったのを確認すると、ポケットからウォッカのボトルを取り出し、口に含むと人差し指を口の前に突き出し、「ぷふぁーっ!」と吹き出し、パイロキネシスで火をつけた。あたり一面が火の海となった。その炎の向こうからふたりの騎士団が「×××!」と何か叫びながら、メチャスキーに飛びかかってきた。敵の指があと数センチでメチャスキーの身体にかかる瞬間、メチャスキーの身体はその場から消えた。

 バチカン公園から、ローマ方面へ、約5キロ。アベンティーノの丘でオカやん号は停まった。運転席にはフリーク、助手席には、バチカンの騒動の現場からテレポーテーションしてきたメチャスキーが乗っていた。後部リビングでは、真っ赤な血に染まったシャツをたくし上げられた光秀がソファーに横たわっている。腹部に約7センチの切創が見える。好哉が右手を光秀の切創部に添え何やら呪文のようなものを呟き続けている。ミスティがその横で目を閉じ意識を黙って集中している。その状況を信長以下三人の部下と胸の前で手を組み「光秀さん、死なないで」と繰り返し呟き続ける陽菜がのぞき込んでいる。重苦しい空気がリビングに漂っている。
 停車してから、十分ほどたったであろうか、光秀の瞼がぴくぴくと小さく動いた。
「光秀!」
信長が光秀の右手をぎゅっと握りしめる。
「信長さん、もう少し、静かにしとってください。好兄の心霊治療、もうすぐ終わりますから。私のサイコキネシスでの止血は終わりましたから、治療もあと数分で終わると思います。」
ミスティーが、表情を緩めて信長に囁いた。好哉は呪文を唱えながら額に汗を浮かべ、光秀の腹部に手をかざし続けている。
 それから五分、光秀が目をゆっくりとあけた。
「殿…。三途の川の手前の花畑で、殿やみんなの声が聞こえて、戻ってまいりました。また、死に損ねてしまいました・・・。」
と笑みを浮かべた。皆から歓声が上がった。信長も涙を流して喜んでいる。
「えっ、みんな何泣きながら喜んでんの?」
と夏子が不思議な顔をして、一度目を覚ましたが、再び「コテン」と寝てしまった。

 翌日、ローマを囲った七つの丘のひとつアベンティーノの丘で十一人は、朝を迎えた。北にフォロ・ロマーノやコロッセオといった世界遺産が見える。陽菜が、光秀とジョバンニの包帯を取り換えている。瀕死だった、光秀は、好哉とミスティの治療のおかげですっかり元気を取り戻している。治療を済ませたジョバンニは、弥助と共にオカやん号の周りで警護に当たっている。オカやん号は、光学迷彩機能が復活しているので、周りの人達からは、ふたりがただプラプラしているようにしか見えないだろう。
 リビングでは、好哉が作った湯漬けと握り飯、そして味噌汁をみんなで食べた。夏子が、昨晩の事件を信長と蘭丸に聞いている。
「えー、そんなことがあったんですか?私、そんな中、ずっと寝てたんですね。信長様、光秀さん、蘭丸さん、何もお手伝いできずにすみませんでした。」
と信長に謝った夏子に
「無理して飲ませたわしのせいじゃ。夏子殿は気にすることは無いぞ。」
と優しい言葉をかけてくれた。

 そこに、フリークとメチャスキーが帰ってきた。
「バチカンの様子見てきたんやけど、結構な騒ぎになってたから、ちょっと戻られそうにあれへんわ。かなりの人が、オカやん号見てしもてたしなぁ。あと、昨晩見た騎士団の奴らが何人か市民に交じって、俺らや信長さんたちの事を探ってたわ。」
「うわさによると、騎士団の方に死者や重体者が出てないことが幸いやったな。ウォッカの炎は、オカルト現象扱いされてて笑ろたわ。オカやん号は、地獄から来た鉄の馬車扱いや。ただ噂の中に具体的な証言もあったから気をつけなあかんな。
  俺的には、そんなことより、勢いで、ウォッカ全部燃やしてしもたから、俺の飲むもんが無くなってしもたんが問題やな。もうはよ帰りたいわ。」
とふたりは皆に、朝一に見てきたバチカン市内の様子と状況を伝えた。
 好哉が腕を組んでしばらく考え込み、弥助とジョバンニを呼び戻すようにミスティーに言った。
 全員が揃ったリビングで、好哉が信長たちに話し始めた。
「まずは、昨晩の刺客やけど、ジョバンニさんの話やと、バチカンなりローマから騎士団が送り込まれたっちゅう話やから、信長さんたちも僕たちも、この場にいることは危ないと思う。最後の判断は、信長さんたちに任せるとして、僕たちは元の時代に戻ろうと思う。そこで、僕の考えだが…」
皆が、真剣な顔をして好哉の話に耳を傾けた。信長たちが日本を離れた天正十二年(1584年)から1600年までの日本の歴史について、好哉はあえて話した。
 秀吉が、信長、光秀が居ない世界で、自分に都合の良いように情報を操作し、政治を行ってきたこと。結果的に、昨年死去し、今年9月に起こるであろう「関ケ原の戦い」で徳川側が勝利すること。三年後には、徳川幕府が始まること。大坂冬の陣、夏の陣は起こるものの民衆を巻き込んだ戦乱の時代は終わりを迎え、二百六十五年間におよぶ徳川幕府の元、平和な時代が続くこと。明治維新以降の歴史…。そして、弥助の故郷、モザンビークの事。
「信長さんのご子息信雄さんは家康側についています。光秀さんの娘婿の左馬之助さんは、天海と名を変えて徳川の知恵袋として徳川三代将軍まで、あと四十三年働くことを前提に考えましょう。」
しばらくの沈黙の後、信長が手を挙げた。

 皆が注目する中、信長は緑茶をくいっと一杯あおった後、ゆっくりと話し出した。
「好哉殿の話から、「猿」ではなく、家康殿が全国を平定したというのであれば、わしの目指した「天下布武」も達成されたことになる。国に争いが無くなり、民が平安に過ごせるのであれば、そこには、もうわしの求めるものは何もない。
 ブルーノ殿やこちらでの仲間たちとバチカンで描いた夢も、どうやら限界のようじゃ。
 ただ、光秀は、国に帰って、働くべき仕事が残っておろう。信雄と左馬之助殿に手を貸して、再び戦乱の世にならぬよう、家康殿を支えてやってほしい。ローマから、船に乗るのが難しいなら、弥助と一緒に弥助の故郷のモザンビークに行き、そこから国に戻ることが良いと思う。
  政宗殿の天正遣欧少年使節がモザンピークに半年滞在して、国に帰ったのと同じルートで国に帰れるよう考えてみてくれんか。できれば、蘭丸を連れて帰ってやってくれ。蘭丸は、まだ三十五歳。これからの男じゃからのう。
 ジョバンニは、長く仕えてくれたことに、まずは礼を言う。昨日も、お前無しには、この命は無かったものであろう。この先も一緒に居たいが、好哉殿の話だと、モザンビークは、ポルトガル領で言葉も通じん可能性がある。お前は、ローマに残り、マルタ騎士団に戻りこの国で嫁を貰い、子を作り、過ごすのが良いと思う。」
みんな、一言も聞き漏らさないよう聞き入った。沈黙の時間が流れた。
 蘭丸が沈黙を打ち破った。
「と、殿はいかがされるのですか?ひとり、この地に残られるのですか?私は、殿の最後の時までお仕えしとうございます。」
涙ながらに訴えた。
信長は、天を仰いで話した。
「わしは、弥助の故郷に行こうと思っておる。聞けば、南蛮のキリシタンたちにいいようにやられ、扱われておる。そこで、弥助と共に、弥助の故郷でしっかりとした国造りができるように、何がどこまでできるかわからんが、やってみたいと考えておる。「人生五十年」と覚悟しておったのが、十七年も長生きしてしもうた。ここからは、おまけの人生じゃ。新しいことを一からやってみたいのじゃ。弥助、お主に付き合わせてはくれぬか?」
「えっ、殿…。」
弥助が固まった。

  オカやん号の中での、約二時間にわたる話し合いが終わった。
  昼に、軽く乾杯をして、信長はジョバンニと抱擁を交わした。ジョバンニは、他の仲間とオカやんツアーズの四人と夏子と陽菜と握手を交わし、信長からの世話になった修道士たちへの親書を受け取り、ローマの街へひとり歩いて行った。皆、涙で見送った。
 残った十人は、フリークとメチャスキーは座席に、残りの八人はリビングに分かれて乗り込んだ。フリークの操縦で車を発進させた。フリークの左手が運転席横の「物質K」に添えられた。量子コンピュータには、1586年のモザンビーク島の座標が示されている。ひゅいーんと音とともに、オカやん号は、ローマの街から消えた。

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