『新人結婚パートナー紹介アドバイザー薄井幸奮闘記~彼氏歴無しの私が結婚アドバイザーってできるの?~』

あらお☆ひろ

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「出社初日②」

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「出社初日②」

 午前10時20分、宛賀奈依は笑顔で「準幸結婚パートナー紹介システムズ」の申込書を書き、デートの約束を即決すると副島に深々とお辞儀すると満面の笑顔で帰っていった。
「いやー、凄いまとめ方でしたね。デートも同行するんですね。まあ、副島さんのトークにかかったらきっとまとまっちゃうんでしょうね。ちなみにトランプは本当に当たるんですか?」
と幸が尋ねると副島はしれっと答えた。
「「当たる」やなくて「当てる」んや。まあ、ちょっとは仕込みはあるけどな。万一あかんでも「ひと月の間」に「運命の人」と出会えりゃええねんから、まだ29日あるやないかい。何とかなるやろ。」
「ふーん、やっぱり仕込んでるんですね。でも、これでバーナム効果で確証バイアスかかってるし、紹介した人はちょっと年上ですけど、年収は1000万以上ありますし、草食系でも正常性バイアスでその欠点は無視しちゃうんでしょうね。
 あと、泣かせたのは焦りましたけど、そこにまで持っていったのは会話の方向性を相手に委ねる「オープンクエスチョン」とクロージングに使う「クローズクエスチョン」だったんですね。
 そして、釣書を宛賀さんに選ばさず、副島さんが候補者を絞ったのは、選択肢が多すぎると分析にパワーを使いすぎ意思決定が鈍るのを避けるため2、3に絞る「ジャムの法則」ですね。勉強になりました。」
幸が感心して熱く語っていると呼び鈴が鳴った。

 10時半に禿げ上がった頭の35歳の牟樫茂手雄むかし・もておがやってきた。紅音と緑は「濁った青」、「火の丙」と副島に伝えると席を入れ替わった。(今度は副島のおっちゃん、どう動くんやろか?)幸はワクワクして席についた。
 牟樫は仮申し込み書を副島に手渡した。年収500万、会社員、趣味はサッカーと野球とトライアスロンをすること。希望は「年下の女性」と「初婚」とだけ書かれていた。副島は、朝一と同じように過去の情報センター、相談所の利用履歴と結婚したい理由を尋ねた。
 過去の婚活はお見合いサイトを使おうとしたがメールが面倒で続かなかったという事だった。結婚したい理由は実家の親が「もうそろそろ結婚しろ」とうるさいことと
職場の社長が「男は家庭を持ってこそ一人前」と昇進条件に「既婚」が入っているというものだった。
「親と社長が居れへんかったら、結婚する気はあれへんってことですか?」
副島が突っ込むと、
「いや、子供は好きやし、今はこんな頭になってからきしですけど、大学の頃までは体育会でそこそこもててたんです。めっちゃ女好きってことはあれへんのですけど、なかなか働き出してからはいい「縁」が無くて…。こんなハゲかかったおっさんでスポーツバカでも結婚できるもんでしょうか?」
と控えめに答えた。副島は「あくまで一般論ですが」と言う前振りをして、ハゲはマイナスにはまっても加点要素にはならないので、写真でスルーされるのを避けるのであれば「植毛」を勧めた。また、「情報センターに登録」=「出会い」ではないことを説明した。更に、「ストライクゾーンは広めにすることやな」とアドバイスをした。

 牟樫は植毛については「そりゃそうですよね。」と納得したようだった。更に他の趣味について尋ねると、「体を動かすこと」以外にはこれといった趣味はないとの答えだった。ストライクゾーンについては、副島が「今の世の中、女性の方が平均寿命は8年長いから、年上も範囲に入れると成婚率はあがるで。特に、シングルマザーの40代は苦戦してるからそこまで範囲は広げて、嫁と子供も一緒にって言うのはあきませんか?」と尋ねると、「そういう考えもありますね…。」と理解を示した。次男なので親との同居予定は無く、連れ子も本人は気にしないという牟樫の扱いに副島は判断に困ってるようだった。
 「ちょっとおトイレ失礼します。」と牟樫が席を離れた瞬間、「どうして申し込みさせないんですか?結構、妥協点もあるしいいんじゃないですか?」と幸が副島に尋ねた。
「うーん、本人がもうちょっと積極的にならんとなぁ…。メールが面倒でお見合いサイトもやめてしもたってところが引っかかんねや。」
副島は難しい顔をしている。

 牟樫が戻ってきて、「どうでしょうか?入会させてもらえるんでしょうか?」と真剣な顔をして尋ねた。
「牟樫さん、一つ確認したいんですけど、「親」や「社長」がうるさいから、「婚活してる事実」を作るために来てはるんや無いですよね?どうも、結婚に対する牟樫さん自身の「熱」が感じられへんのですよ。あくまで、うちは「結婚を目的とした人」に情報を提供する会社なんでね。
 今日は一度帰られて、もういちどしっかりと考えられてはいかがですか?まあ、うちは「趣味のマッチング」もやってるんで「一緒に運動できる人」なんて探し方は協力させてはもらえると思うんですけど…。」と言った瞬間に牟樫の目つきが変わった。
「あの、トライアスロンまではいかなくても、一緒にマラソンしたり、ロードバイク乗ったりできる人っていう探し方ができるんですか?そういう人が会員さんでおられるんであれば是非ともお願いしたいんですけど…。気の利いた趣味は何もないんで、そこがマッチして私を受け入れてくれる人であれば他の条件は全然こだわらないです。」
と一気に前のめりになってきた。

 「ちょっと待ってくださいな。」と一言断りを入れて、副島はノートパソコンを開いた。データベース検索で趣味の欄で「トライアスロン」で検索したが該当者はゼロだった。しかし、「ジョギング」、「マラソン」、「ロードバイク」と検索項目を変えると複数の女性会員のタグが開いた。(あー、副島のおっちゃんの詳しいヒアリングで得た情報って凄いな。単なる「趣味」=「スポーツ・運動」やなくてそこまで詳しく聞きこんでるんや。
更にクロス検索で「結婚願望」の欄に「7~」と入力した。
 すると4名のファイルが重なってウインドウが開いた。(これは、7以上って言うのは何が何でも結婚したいっていう人なんやろな。)と幸は直感で感じた。更に「五行」の欄に「火」と入力すると2名に絞られたがそれが何を意味するのかは分からなかった。

 「せやなぁ、「フルマラソン」参戦趣味の41歳で高1と中2の男の子がおる人はおるなぁ。子供さんは二人ともサッカー部やな。もう一人42歳で「ジョギング」と「サイクリング」って書いてるけど「バツ2」やな…。」
副島が独り言のような小さな声で呟くと
「その人たちの希望条件に私は当てはまりますか?当てはまってお会いできる機会がいただけるなら申し込みます。即入会します。お願いします。」
と牟樫は当初の希望とはかけ離れた女性であるにもかかわらず真剣に申し込みを直訴した。
「まあ、希望条件は「正社員」で年収希望は、「600万」と「400万」以上なので可能性はありますわな。」
と答えた時点で、万年筆と印鑑を牟樫は取り出した。(えー、最初の「年下」と「初婚」って希望はなんやったん?やっぱり「趣味」って大事やねんなー。「裏釣書」が無かったらあれへんかった話やな。)幸が思ってると「薄井さん、社長呼んで来て。」と副島に言われた。
 事情を手短に話すと、紅音が応接室に入ってきた。副島と席を代わると、小さく頷いて
「お申込みありがとうございます。牟樫さんのご意向に沿った「ご縁」があるといいですね。我々は精一杯応援させていただきます。それでは当社のシステムについて説明させていただきますね。」
と紅音はファイルを開いた。副島は幸を連れて応接を出た。
「うーん、こんな事もあるのがこの仕事のおもろいところやな。「濁った青」でこの結論か…。俺もまだまだ勉強せなあかんな。」
と呟く副島に「濁った青」ってなんですかー?」と幸はしつこく質問し続けた。

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