『相思相愛ADと目指せミリオネラ突如出演の激闘20日間!ウクライナ、ソマリア、メキシコ、LA大激戦!なっちゃん恋愛小説シリーズ第3弾!』

あらお☆ひろ

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「トルカ・デ・レルド」

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「トルカ・デ・レルド」

 10月12日昼11時。夏子たちニコニコチームはメキシコ合衆国首都のメキシコシティーにあるメキシコ・シティー国際空港に到着した。自由主義者でフランスによる干渉に抵抗し、先住民で初めて大統領に選出された「ベニート・ファレス」大統領に習い「ベニート・ファレス空港」とも呼ばれているこの空港は、標高2230メートルと主要国の空港の中で最も高い場所にあることと、首都であるメキシコシティーの市街地を民家すれすれに飛び不時着するように着陸するスリルが味わえることで有名である。
 空港に着くと、セシルが「ウクライナやソマリランドとは別の意味で「治安」が悪いので、必要以上の現金は人に見せないことと、ミス夏子やミス陽菜は絶対単独行動しないこと。常に三人以上で行動する事。これだけは守ってくれ。」と緊張した面持ちで皆に忠告した。ジャリルもメキシコは初めてとのことでやや緊張気味だ。

 空港で事前に手配していた大型のバンのレンタカーを借りると、そこから63キロ西にあるメキシコで最も危険な州と呼ばれるメヒコ州(※メキシコ州)の州都「トルカ・デ・レルド」にむかった。
 車中で羽藤がメキシコの人身売買組織について説明をした。メキシコ中部の街「トルカ」は、「メキシコシティ」、「ティファナ」、「プエブラ」、「イダルゴ」、「ベラルクス」など数多くの人身売買組織がある中、中南米人の人身売買の中央市場とも呼ぶべき場所である旨が最初に語られた。
 メキシコマフィアと言えば「麻薬取引」が真っ先に頭に浮かぶが、現在ではアメリカマフィア、ロシアマフィア、日本のやくざ等、世界中の犯罪組織や反社会的組織が複雑に組み合わさり、ありとあらゆる犯罪マトリックスが構築される。2017年11月26日に「トルカ」で摘発された「売春強要」の被害者三十人を保護した事件をきっかけに、メキシコにおける「外国人人身売買」の実態が明るみに出た。2017年の事件での21歳から39歳までの三十人の被害者の内、十四人はコロンビア人女性で十人はベネズエラの女性だった。
 その後、メキシコ国内で保護される人身売買組織による被害者は、2018年から360人、402人、455人、503人と年々増え続け、2021年には人身売買事件を国際問題ととらえた国連の「強制失踪防止委員会」のカルメン・ローザ・ウィラキンタナ氏が訪問調査に入った。
 「失踪は、性的暴力、殺人、人身売買、性的搾取を隠すことを目的としている。」と発表し11月26日に「入手可能な公式数で95121人がメキシコ国内で失踪し、その多くが犯罪に巻き込まれている」と実数が公表された。その後もメキシコ国内での失踪者の調査は続けられ、2022年4月12日には98883人に増加している。届けが提出されていない、単独の外国人ツーリストや、家族全体が巻き込まれたような場合も含むと十数万人にもぼることは確実だと説明があった。
 2023年にアメリカ財務省が、ロシア、イエメン、イラン等からのアメリカへの不法移民を密入国させることを繰り返していたメキシコ人身売買組織「エルナンデス・サラス」を制裁したのは6月の事であった。
 現在では、アメリカに密入国させたものの人身売買だけでなく、アメリカの裕福な家庭を狙った身代金目的の誘拐や、反米組織に対して「慰み者」として売却目的でのアメリカ白人の女性や少年の誘拐も数多く発生しているという。

 今回、夏子たちは、アメリカからの旅行者やフロリダやカリフォルニアのヨットやクルーザーでのクルージングやフィッシングを楽しむセレブ層を誘拐し、多額の身代金を要求する「トルカ」のマフィア「メレンデス・ファミリー」をターゲットとした。今時では珍しく「カルテル」ではなく「ファミリー」でやってる組織だ。アメリカ国内で誘拐された被害者家族が賞金を懸け、マフィアとの交渉代行や、救出を公開依頼している案件で複数人が拉致・監禁されている「メレンデス・ファミリー」の本拠地である「トルカ」にやってきたのだった。
 情報ソースは「デイリーLA」であり、カリフォルニア近辺の洋上で誘拐されたとみられる十二名の解放を目的としている。被害者家族であるマフィアとの交渉を希望するクライアントは、高級住宅地のビバリーヒルズやマリブ在住のIT長者、投資顧問会社CEO、ホテル王、輸入海産物王、人気プロスポーツ選手の名が連なる。
「セシル、ちなみにそのセレブに要求されてる身代金っていくらくらいなん?一人頭一億円くらい要求されてるんか?」
と夏子が質問すると
「円?全然違うよ。上を見ると一人頭一億ドルは下らないよ。一番最近の事件だと、ロスの大手ホテルやレストランチェーンを顧客に持つ輸入海産物王の孫娘は5億ドル(※約700億円)の要求だ。日本のセレブとは桁が違うだろ?アメリカの上位0.1%の富裕層は皆、数兆円の資産を持っているからな。」
と返事が返ってきた。
「ふーん、でも誘拐犯からの身代金要求が来て、誰が相手なんかまでわかってるのになんで逮捕されへんの?」
陽菜が質問すると、セシルは難しい顔をして「メキシコはアメリカの警察に取り締まり権限がないからなぁ…。」と呟いた。中南米やブラジルの警察はマフィアに「鼻薬ワイロ」をかがされている場合が多く、大手犯罪組織の摘発に積極的でないという。発展途上国だけでなく、貧しい国や共産圏などは警官が味方ではない場合があると頭に入れておくように注意された。

 「坂川さんと仲田さんは今や世界的な有名人ですから、テレビの企画という事であれば、マフィアもプロの交渉人ネゴシエーターより素人の我々の方が組みやすいと考えたのでしょう。待ち合わせ場所や、引き渡し方法は相手に委ねることとなりますが、今や、昔のように「現金決済」ではなく、「仮想通貨」や「ネットバンキング」で身代金は支払われますので、事はスムーズに進めていきましょう。クライアントも、「奪還」ではなく「身代金を支払っての確保」を望まれてますので、直師範には申し訳ないですけど、格闘戦は無しですよ。とにかく四日間で次々と進めていかないといけませんから、大変は大変です。」
 羽藤が夏子と陽菜に説明すると合わせて直にくぎを刺した。直はつまらなそうにメキシカンビールを飲んでいる。

 約一時間で「トルカ」の街に着いた。マフィアの指定のホテルに車を停めると、あらかじめクライアントから聞いていた電話番号に羽藤が電話をした。予想に反して、顔を映さないことと絶対に追跡をしないという事でカメラの持ち込みが許された。まずはロスのIT長者の娘の大学生と身代金の交換が行われた。サンタモニカビーチでナンパされて乗ったクルーザーがマフィアの「手」のもので、三週間前に誘拐されたとのことだった。身代金の額は五百万ドルだった。
 指定された無人のモーテルにむかうと旧型のランドクルーザーが停まっていた。サブマシンガンを持った五人の男が一人の女の子を連れて降りてきた。全員が目だし帽をかぶっている。訛った英語でジャリルに「胸から上にカメラを向けた瞬間に撃つ。」と言われ、ジャリルはカメラを斜め下に向けた。緊張が走ったが、取引は五分足らずで終わった。

 夏子と陽菜が前に出て羽藤を通訳に交渉に入ると、マフィアの四人が夏子たちが乗ってきたワゴンの四本のタイヤのバルブを緩めて空気を抜くと日本では自転車用に使われるような手漕ぎポンプの空気入れを夏子に手渡した。取引後、追跡されないための手法なのだろう。
 すぐにスマホでクライアントにテレビ電話をかけ、誘拐された被害者の顔を確認し、家族間でしかわからない「パーソナルデータ」のやり取りで本人であることが確認されると、被害者がクライアントである父親に送金を依頼する。一分後、マフィアの仲間から電話が入り、入金が確認されたのか「アディオス・アミーゴ」と言い残し、五人のマフィアは去っていった。
「えっ、これで終わりなん?なんか、ピザの配達と変わらへん感じやな。何か気が抜けたな。」
と稀世が呟いた。
「そうですね。もっとすごいものを期待してたんで…。まあ、車のタイヤに空気を入れたら、彼女を空港まで送って次に取り掛からないといけませんから急ごうか。」
と陽菜が舩阪と一緒にポンプを押し出した。
 二件目の「ホテル王」の若い嫁、三件目の地元大手スーパーマーケットのオーナーの高校生の娘と初日に処理が済んだ。マフィア側も夏子たちが怪しい仕草を見せることなく、次々と身代金受け渡し業務を進めていくので段取り良く事を進めていったが、毎回タイヤの空気を抜くのと「アディオス・アミーゴ」と言って去っていくルーチンは変わらなかった。
 
 初日の人質解放ミッションを終えてホテルに戻りミーティングに入った。夏子はジャリルに「こんな地味な映像ばっかりやけどええんかな?もっと、騙し合いとか、私らに危険が及ぶようなもんが無いと「取れ高」になれへんのとちゃうの?」と問いかけると、ジャリル自身が「誘拐ビジネス」がこのようなものであったとは想像していなかったようで、いままで「恐ろしい」というイメージが先行し過ぎていて誰も「メキシコくんだり」まで来ることが無かったのでしょうと答えた。
 セシルが「メレンデスファミリー」は、ビジネスには淡白ではあるが「裏切り」に対しては「金」に物を言わせアメリカ国内のマフィアと連携し、酷い報復を行うことがあると注意した。今日、帰国した三人についてはFBIが拉致方法や監禁場所や監禁中の対応、監禁場所での他の被害者の確認等に入っていると説明した。ジャリルには、これ以上のスクープ映像を求めない方が良いとくぎを刺した。
 「でも、番組的にはどうなん?ジェフのおっさんはこんな映像でオッケーだしてくれんの?」と夏子がジャリルに再度質問をすると
「はい、今日の映像をメール送信したんですけど、「もっとひねれ」と返事がきました。ウクライナ、ソマリアのインパクトが強かったのでより強い刺激を求められていますが、だからと言って皆さんにそれを強制するわけにはいきませんから…。明日も今まで通りで進めてください。」
と控えめに返事をした。(あぁ、そういえば四日目にエグイ仕込みを用意されてるんやったわな…)夏子は一昨日のジャリルの告白を思い出した。

 10月13日は、午前に二件、午後に二件の人質解放を行った。二日間で七件の身代金累計は3800万ドルに上った。夏子と陽菜の報酬は38万ドルで3回戦終了時点の33万ドルと合わせて71万ドルまで上がってきていた。明日も4件の人質交換交渉が予定されている。明日の身代金合計は2000万ドルなので、問題なく取引が進めば最終日に9万ドルを残すのみで達成が見えてくる。
 チーム全体の打ち合わせが終わると、稀世が残り3日となったロケ日数を考え、夏子とジャリルに忖度してホテルのレストランのディナーを手配していた。「カメラ無しでゆっくりしておいでや。」と皆に見送られ、二人はレストランにむかった。夏子とジャリルが部屋を出ると、ロスでセシルから紹介されたジョセフ・マコーネルとウクライナで共に戦ったフィンランド人義勇兵のエイノ・ユーティライネン少佐とハンス・ウィンド大尉が部屋に入ってきた。
 
 ホテルの個室レストランでジャリルのリードでコース料理を頼んだ。夏子は、ロゼのスパークリングワイン、ジャリルはチリ産の赤ワインを頼んだ。サウジアラビア時代はイスラムの教えに従い「酒」はたしなまなかったが、アメリカに来てキリスト教に即改宗してからは、毎日のようにカリフォルニアワインを楽しんでいるとか、アメリカに来てすぐは「肌を出して街中を歩く女性」を見ることが恥ずかしかったなど、ジャリルの過去が語られた。
 夏子はあえて「過去の女」について尋ねた。ジャリルは、「今の理想の女性はなっちゃんですよ。」と念を押したうえで、サウジ時代に恋に落ちた相手も夏子同様に活発で正義感が強い女性だったと告白した。お互いに惹かれ合い、愛し合ったがイスラムの掟に触れてしまう部分があり、ジャリルは「前にも言ったと思いますけど、危うく「死刑」になるところだったんです。」と語った。
 (あぁ、イスラムって「ハラール」とか「飲酒」とか「偶像崇拝」とかコーランでいっぱい禁止事項があるんやったな…。まあ、私なんかがイスラム世界で生活したら、トンカツ食って、ビール飲んで、二次元のイケメン崇拝してすぐに「死刑」になってしまうよな。)とひとりで含み笑いをしてると、「なにを笑ってるんですか?」と尋ねるジャリルに
「ジャリルと出会ったんがアメリカで良かったってな…。ソマリランドで出会ってたら、「ブルカ」越しでしか顔見られへんかったんやもんな。ジャリルのイケメンもレース越しやったら、ようわからへんもんな。ケラケラケラ。」
と笑うと、
「それは、私も同じですよ。イスラムの厳しい国ではそのなっちゃんの素敵な笑顔もブルカ越しにしか見られない…、いや、「ブルカ」しか見えませんもんね。「生」でなっちゃんの素敵な笑顔が見られる世界で良かったです。」
と個室であることを良いことに、テーブル越しに夏子の顎に指を当てて少し持ち上げると優しく唇を重ねた。数十秒、時間が止まった。ゆっくりと柔らかい唇を離すと、夏子の目を見て囁いた。
「ロケの間はここまでですね。出演者と個人的な関係を持つことは社で禁止されてますから…。ですから、明後日のロケを無事に終えたら、改めてなっちゃんに「告白」させてください。そのためにも明後日のロケは仮病でもつかってキャンセルを…」

 「あかん、そこに「正義」があれへん。「仮病」を使ってでもっていうジャリルの言葉は嬉しいで…。でも、そこに「正義」があれへん以上、私は戦うよ。「マフィア」とも、そして「ジェフ」とも…。心配しないで。私には陽菜ちゃんも稀世姉さんも直さんも羽藤さんも舩阪君もついてる。それにセシルさん達だって味方してくれるんや。
 明後日には、「敵」みんなに「ぎゃふん」って言わせてロスの街に凱旋帰国や!最終的にあほのマリリンとマドンナの頭をカッパ刈りにしたってテレビカメラの前で大笑いしたるけどな!ケラケラケラ。」
 夏子がジャリルを元気つけようと、やや大げさに話すと「なっちゃんが危なくなったら、私は撮影を放り出してでもなっちゃんを護りますから…。」と震える声で語るジャリルに「ちゃうちゃう、ジャリルを護るのは「女神アテナ」の「化身」の私や!「門真八賢人」の私に任さんかい!」とグラスを合わせ、夏子が囁いた。
「じゃあ、明後日の「お題」達成と、10月16日のスタジオ撮影後の「夜」に乾杯!」



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