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㉒「金沢の昼・夕食~ハントンライスと金沢おでん~」

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㉒「金沢の昼・夕食~ハントンライスと金沢おでん~」
 ひがし茶屋を抜けると、兼六園に自転車を止め園内見学をした。日本三名園の話から、健がいろいろな「日本三大ほにゃらら」についてのトリビアを披露してくれた。「「日本三大自殺の名所」のサスペンスドラマのラストシーンでおなじみの「東尋坊」は自殺の成功率は70%しかなく、残りの30%はグジャグジャになるけど死ねないからやめとけ」とか「日本三大イケメン」県は「東京」、「福岡」、「沖縄(※神奈川説もあり)」で「三大美女」県は「京都」、「秋田」、「福岡」でどちらも「大阪」は入っていないと自虐的に笑った。「幕末三大美男子」は「土方歳三」、「徳川慶喜」、「松平容保かたもり」と言い、「板垣退助」が入っていないことに文句を言っていた。
 「日本三大がっかり観光名所」と「日本三大ブサイク」県は、ここではあげないがふたりで爆笑した。ちなみに男性の「日本三大生涯未婚率」には「イケメン県」で入っていた沖縄が1位で東京が3位でともに26%強との事だった。
 その後申し訳なさそうに、女性の三大生涯未婚率は「東京」、「北海道」、「大阪」と言い
「あー、希ちゃんは、無事に生き残ったら、広島に戻った方がええかもな。大阪の未婚率は16.5%。酒飲みの女となるとさらに上がるやろうからな。カラカラカラ。」
とバカにされたので、健の出っ張ったお腹に右フックを食らわせてやった。

 兼六園を散策し、南端まで降りてくると、金沢21世紀美術館の向かいに、石浦神社が見えてきた。547年建立の金沢最古の神社の祭神は大物主神おおものぬしのかみとあり、さっき訪問した宇多須神社にも祀られている「病気平癒」の神様「大黒様」であることが伝えられ、ふたりで手を合わせた。
 そこから香林坊にむかい、バス停近くの「グリルオーツカ」に入った。古風な感じのする昔ながらのレストランだった。例のごとく、メニューも見ずに「ハントンライス2つと瓶ビールにグラス2個」と注文した。
 ビールを飲んでいる間に、大きなフライがふたつとたっぷりのタルタルソースがかかったオムライスが出てきた。フライのひとつは尻尾がありエビフライであることが想像できた。
「健さん、「ハントン」っていうからにはトンカツなん?なんか細長いし、トンカツにタルタルは合えへんのとちゃう?ご飯もめちゃくちゃ多いし、食べきられへんかも…。今まで、健さんのお勧めって打率10割やったけど、これは「アウト」とちゃうか…?」
としかめっ面をすると、カウンターの中でコックが笑っていた。





 「希ちゃん、見た目より味が大事やろ。まあ、ライスは380gあるから多かったら残しや。まあ、まずは、フライを食べてみいや。文句はその後や。」
と促され、エビではない方のフライに口をつけた。(ん!美味しい!豚肉とちゃう?なんやろか、魚っぽいけど今まで食べたことのない味や。濃厚な味に酸味の効いたタルタルがめちゃくちゃ合うわ!オムライスもさっぱりとして美味しい!)と思うと箸とスプーンが止まらなくなった。希は一気に完食し、尋ね直した。
「健さん、めちゃくちゃ美味しかったけど、何のフライかわからへんかった。初めて食べる味やったけど何やったん?」

 「あー、大阪や広島ではまず出てけえへん食材やからな。答えから言うと、エビとカジキマグロやねん。フランス語でマグロのことを「トン」っていうねんな。ハンは「飯」やなくて「ハンガリー」の「ハン」って聞いてるわ。ここの店が発祥で、今や金沢のローカルフードやな。」
というとカウンターの中で店主が微笑んでいるのが見えた。健は続けて
「オムライスにトンカツでデミグラスがかかってんのは、お隣の福井県でこの間合併して越前市になった武生のソウルフードで「ボルガライス」ってあんねん。そっちも旨いから、生き残ったら食べに行きや。間違えても東尋坊で飛び降りたらあかんで。」
と笑った。

 店を出ると、自転車にまたがり、西へ走った。次の訪問先は9月下旬から10月初旬に咲く白い彼岸花で有名な「願掛け寺・香林寺」だった。
 病気で苦しむ人たちを不動明王の力を借りて救ってきた「開運霊薬不動尊」は、まさに希のためにあるような寺院だった。境内を散策し、健と一緒に「病気が治りますように。不動明王様お願いします。」と手を合わせた。
 同じ境内にある「慈愛地蔵」として有名な「幸福地蔵菩薩」もお参りし、健に言われるがままに「おん かかか びさんまえい そわか」と三度繰り返した。
「希ちゃん、噛まんとよう言えたな。きっと、お地蔵さんが守ってくれるでな!今日の神様巡りは、これでおしまい。まあ、三日前の三重から、よう頑張ったな。何十、何百柱もの神様にお願いしたんやから、誰かが希ちゃんの事を守ってくれるやろ。
 おいちゃんの仕事も明日の大阪で取材終了や。希ちゃんともラストナイトやから最後に美味しいもの食べて、おいしいお酒飲んで大阪に戻ろか。まあ、その前に背中掻いてもらってええかな?」

 希は、今までと同じように健の背後に回り背中を掻いていると、ふと、寂しさに襲われて涙が溢れた。(あれ、私なんで泣いてるんやろ…?健さんには見られてへんよな…。)腕で涙を拭きあげると、意識して元気な声をかけた。
「さて、健さん、まだ4時やけど、最後の夕食は何食べさせてくれんの?私、めっちゃ期待してるでなぁ!」

 健が向かった先は、金沢おでんの「赤玉本店」だった。6時を過ぎると、健お勧めの店が開くのだが、帰りの電車を考えると、そこまでの時間は無いので昼からやっている店を選んだとの事だった。
 店に入ると、金沢の地酒を升酒で頼んでくれた。健が頼んだ分と二種類の飲み比べを楽しんだ。淡麗辛口の純米吟醸と甘口の純米酒だった。昨日のことがあるので、飲みすぎないように気をつけた。
 健は、「車麩、卵焼き、大きゅうり、バイ貝、つぶ貝の串ひとつずつ」と頼んだ。(ん、定番メニューがひとつも無い?大根や牛すじやガンモは無いの?)とメニュー表を開いた。

 「健さん、車麩って何?きゅうりなんかおでんに合うの?それにバイ貝につぶ貝って聞いたことあれへんで?」
「まあ、何度も言うけど「頭」で食べんと「口」で食べ。金沢おでんっていうのは、基本的に金沢の食材で作られたおでんで、京風より薄口出汁でさっぱりしてんねん。
 おいちゃんのお気に入りの店では、「カニ面」っていってズワイガニのメスのだるまと牛すじがお勧めやねんで!」
一瞬、希は眉間に皺を寄せた。(カニに牛すじって絶対に合えへんやろ。時々、健さんの味覚についていかれへんようになってしまうわ…)と思っていると、卵焼きと大きゅうりと車麩が出てきた。(ゲロゲロ、ホンマに「きゅうり」や。何気に健さんの器に入れたろ…)
「さあ、希ちゃん味わって食べや。大阪おでんとも関東炊きとも違う「金沢おでん」やで!」
と大きゅうりを希の器に丸々いれられてしまった。(がおっ、南無三!)と目をぎゅっとつぶって、きゅうりを口に入れた。(ん、甘い?いや、出汁の風味と併せると絶妙や!温ったかいきゅうりってそもそもありなん?美味しい!美味しすぎるわ!)と満面の笑みで健の顔を見上げると、黙って次に車麩と卵焼きを半分に切って入れてくれた。そのどちらも今までに食べたことのない味わいで、バイ貝、つぶ貝の串も平らげた。次々と健が追加注文したおでんを味わった。







 「わー、健さん、私、「おでん」の概念が変わったわ!みんなすごい個性がある具やのにひとつも喧嘩せえへんねんな。」
「せやろ、さすがは「加賀百万石」や!「金持ち喧嘩せず!」ちゅうやつやな!カラカラカラ。」
と健は陽気に笑いながら、升酒を空けた。



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