始まりから詰んでいる鬼ごっこ

もちごめ

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4*フィリップ

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 俺は見た!

 というか、まさに今、目の前で見ているんだが……。




 ここは王宮内にある来客用のお茶スペースで、普段は婚約者であるエマアリア嬢とお茶をする場所なんだが、今日は俺と、俺の友人であるキースと、その隣にはキースの執着対象兼、俺の婚約者の妹であるミア嬢とで、まったりとお茶をしている。


 香りのいい紅茶と甘いケーキを目の前に、気の許せる友人とたわいもない話で盛り上がって日々のストレスを少しでも発散させようと思って呼びつけたのだが、目の前で繰り広げられる砂糖過多の雰囲気に、余計にストレスがたまるのはなぜだろうか……。

 無性に、飲んでいる紅茶に塩をドバドバと投入したくなった。


 目の前でイチャイチャするなよなっ!


 苦めに入れてもらったお茶を口に含み、会話を早々にあきらめて、目の前に座る男を少しの間観察をすることにした。


 目の前に座る男は、やはり俺の事や目の前の美味しそうなケーキなんかはどうでもいいらしく目には入っていない様子で、隣に座るミア嬢を穴が開くほどに見つめている。
 見つめられているミア嬢は顔を赤くして、すごくケーキを食べづらそうにしているが……。


 しかし、見れば見るほど、目の前に座るこいつは一体誰だ??



 俺の知るキース・ソルシエとは、常に冷静沈着で優秀で真面目な男だと思っていたのだが、目の前では大人が三人は座れるだろう広いソファーにぴったりとくっついて座り、招待側の俺ではなく隣に座るミア嬢に熱い視線を注ぎ続けている男からは、その面影が露ほども感じられない。

 そういえば、つい先日は”魔法師団長は仕事もせずに追いかけっこばかりしている” と魔法師団と対立する騎士団の方から報告が上がってきていたな。

 その報告書は読むとすぐに塵となる謎の現象に見舞われたが……。


 大方、魔法師団の”キースを敬愛し隊” の誰かの仕業だとは思うが。今頃騎士団の連中は謎の腹痛とかで使い物になってないといいな。つい遠い目をしてしまう……。


 以前にも、女性にもてるキースに嫉妬をした身の程知らずな若い騎士団の団員が、一方的にキース相手にいちゃもんをつけてきた事があったのだが、その若い騎士は、翌日頭皮がツルツルになる謎の病気にかかった。しかも、頭皮に触れた者も次々とツルツルになってしまう、脅威の伝染病が騎士団に蔓延してしまい、一時大変な大騒ぎになった。


 もちろん、その病気は魔法師団のありがたい薬によってすぐに沈静化したのだが、その後は騎士団にとって魔法師団は”鬼門” という暗黙のルールが作られたのだ。


 怒らせると超怖い、魔法師団に喧嘩を売るような今回の報告書。大方あのルールを知らない真面目な新入りの騎士あたりかな。


 ああ、また謎の病気が広まらなければいいが……。


 また遠い目をしてしまったのだが、視界の端に映るイチャイチャに再び若干イラっとして現実へと戻って来る。




”塩をまいてやろうか” と考えたが、今まで見たこともない友人の顔を見てふと思った。


 そういえばこいつ、こんな顔もするんだな……。


 キースの片思いかとも思いきや、なるほど、どうやらそうでもないらしい。

 顔を赤くしながらも完全に拒絶するわけでもなく、結局は受け入れているミア嬢は、もしかしたらツンデレなのか? とも思うが、べったりとくっついている男はその様子に満足げ笑みを浮かべているのだから、まあ、良しとしよう。


 とりあえずはよかったな、キース。


 あんなにもストーカーまがいの事を何年も続けていて、相手に振られたとなったら、お前はこの国を、いや、この世界ごと滅ぼしかねないもんな。


 そう思うと、ミア嬢は魔王の大事なストッパー役なんじゃないか?

 頼むから、この世界のためにも、奴の鎖をしっかりと握っていてくれよ!

 ”世界の平和は君にかかっているんだ!!”


 俺は勝手な思いを乗せてミア嬢を見れば、その俺の視線が気にくわなかったらしく、俺の視界から隠すようにミア嬢を抱き寄せている。


 おいおい、なんて心の狭い男なんだよ。


 
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