始まりから詰んでいる鬼ごっこ

もちごめ

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そこからは二人に会話は一切なく、今まで以上に二倍に膨れ上がった重苦しい空気に、廊下全体が冥界への入り口へと化していたので、誰もその道を通ろうとする強者はいなかった。



 しかしそこに場違いな、全く空気を読んでいない男の明るく楽し気な声が突然響き渡り、陰鬱な雰囲気を切り裂いた。
 しかしそれは希望の登場ではなく、むしろその逆で、絶望の始まりであることを知っていた為、誰も歓迎しなかった。


「そこのお二人さん、どうしたんだい? そんなに暗い雰囲気を纏っちゃって。若者はいつもフレッシュでなければ、かわい子ちゃんは寄ってこないぞ?」

 現われた男はやや長めの黒髪に、泣きぼくろが印象的な色気がダダ漏れの、でもどこかに上品さを兼ね備えた誰かとよく似た容姿の男だった。



「馬鹿が来た……」


 一人は心の中で呟き、もう一人は自分とは真逆のテンションに鬱陶しい、という思いを顔にはっきりと乗せて振り返る。


 しかしその男は”めげない! あきらめない! 気にしない!”をモットーに生きている男なので、例え相手がどんなに”邪魔、鬱陶しい、来るな”と身体全体で表していたとしても、気にせずに話を続ける。スルースキルのSランクの保有者だ。


「やあ、弟よ! 青春しているかい? そろそろお兄ちゃんが恋しい時期じゃないのかな~??」
「あっ、それ正解。 ちょうど今”足りない”って言っていたところだよ」

 
「おや、王子ではないですか。ご機嫌麗しく。そしてそうかいそうかい、弟がそんなことを言っていたとは。なんともいじらしいではないか。うんうん、お兄ちゃんが来たからにはもう大丈夫さ! 人前だからって恥ずかしがることはない。お兄ちゃんは恥ずかしがるお前も見てみたいぞ! さあ、弟よ! 遠慮することはない。胸に飛び込んで”お兄ちゃん寂しかった”と言って御覧?」


 期待に震え、うっすらと頬を染めながら手を大きく広げている。
 そんな兄の姿をまるで汚物を見るかの如く嫌悪に顔を歪めながら吐き捨てるように言う。

「消えろ」

「ん? 何かな? よく聞こえなかったな。さあ、おいで!!」
「消えろっつってんだよ! くそ兄貴!!」
「ぐほっ!!」


 いつの間に召還していたのか、キースの後ろには氷の魔像が主の敵を見下ろすようにそびえ立っており、その魔像が外敵に対して氷の飛礫を放っていた。


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