始まりから詰んでいる鬼ごっこ

もちごめ

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「目が覚めた? 身体、大丈夫? 一応回復魔法はかけておいたけど、首の辺りとか痛みはない?」

 浅い眠りから覚めたミアは焦点が定まっていなくしばらくボーっとしていたが、俺のことを認識すると一気に眠りから覚めたらしい。

「え? あ、やだっ、私寝ちゃってた?! 」

 初日なのに仕事してない。と慌てている姿が可愛いなとも思ったが、一旦落ち着かせ、こうなった経緯をゆっくりと説明することにした。

「――ということで、もうミアは俺のものだよ。もうどこにも逃げられないよ。だから俺と、」

 ”結婚しよう”という言葉はミアの言葉でかき消された。

「逃げられない……? そんなことないよ。大丈夫。私、頑張って逃げるから!」 
「え、……は??」
 
 何言ってんだ? と思った。
 口がポカンと開いたまま塞がらない。


「そうだわ!! 追いかけっこにしましょう! 私が逃げきれたら勝ちね!」


 私、絶対に逃げて見せるから! そうしましょう! と言ったミアの声は固まってしまった俺の耳を通り抜けていく……。





 冗談じゃない。

 絶対に逃がしてなんかやるものか。









***
 そうして始まった追いかけっこのゲーム。
 今日まで毎日毎日続けられている、追いかけっこ。
 俺にとってはもうご褒美の時間となってい気がするが。


 逃げ切れないのをわかってて毎日逃げるのは何故なんだい?
 ミア自身に追跡魔法と転移陣を永久魔法として掛けてあるんだから。
 例え、地獄の底、地の果てまで行こうが、一瞬で捕まえられる。

 そんなことしなくても、君がどこに行こうが僕の愛で、見つけられる自信はあるけどね。

 一度くらい勝たせてあげようかなとも思うけど、ごめんね。一度だって逃がしてあげたくないんだ。



 絶対に逃げられないとわかっていて、そして絶対に逃がさないと知っていて、それでも必死で俺に挑んでくるその姿が可愛くて、俺はついつい乗ってしまっているけれど、


 でも、そろそろ俺の愛の重さに観念したらどうだい?
 その首に刻まれているソルシエ家の紋章が、俺の愛の証なんだから。




 浅い眠りから覚めて、微睡む意識の中で自分の手の中にある暖かな体温を感じる。
 自然と温かな気持ちになり、心に幸せな火が灯る。



 ミア、こんなどうしようもない俺がずっと闇に染まらないでいるのは、ミアが傍にいてくれているからなんだ。



 理屈じゃない。君のことが好きで好きでたまらないんだ。



 なんだかんだ言っても、それでも絶対に離れていかない少し素直じゃない幼馴染の首の紋章に指を這わせた。
 くすぐったさからか、浅い眠りから覚めようとしている愛しい人の耳元に口を寄せ囁く。


「ねえ、そろそろ堕ちてきてよ」



 変わらないのは君なのか、それとも俺なのか

 変わってしまったのは俺なのか君なのか。



 君が逃げ続けるなら俺は喜んで追い続けよう。
 そして君が望むままに愛を囁き続けよう。


 『死が2人を分かつ時まで――』


 生まれ変わっても、俺は必ずまた君を見つける――。
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