まさか私にも異世界転移が……

もちごめ

文字の大きさ
1 / 6

しおりを挟む
ゆさゆさと、誰かが私を揺すっている感覚がする。
初めはゆっくりと、遠慮がちに。だけど段々と遠慮なく揺さぶる感じに奥底に沈んでいた眠気も一気に浮上してくる。

もう、一体何なのよ。
お母さんも気が利かないな。
昨日は飲み会で帰りが遅くなっちゃったんだし、朝になんて絶対に起きられるわけないじゃん。
今日は休日なんだから好きなだけ寝かせてほしいし、一日中ダラダラさせてほしい。
「本日は一日パジャマデー」と勝手に決め込み、絶対に起きてやるもんか、と剥ぎ取られかけている布団を引っ張り、頭まで被せた。

「あっ、おい、まて!起きろ!」 

被せた布団を再び剥ぎ取られかけた。

「頑固な奴だな。おい、いつまで寝るつもりだ。いいかげんに起きるんだ」

まるで綱引きの様に布団の引っ張り合いが始まったため、絶対に負けるもんか、と渾身の力で引っ張たのだが、ふと、聞こえた声に違和感を感じた。
お母さんではない、男性の低い、いい声に「あれ?」と動きを止めた。

あれ?おかしいな。
今日はお父さんが起こしに来たのかな?
勝手に部屋に入らないでよね。
しかもどの声優さんの物真似してるつもり? 例え声を似せても顔は似せれないんだから、若いころの夢は潔く諦めなよね。
と、布団を引っ張ったまま、眠気の膜が覆った頭で考えたが、やっぱり睡魔にはどうしても勝てなかった。
若干違和感を感じてはいたが、目は半分閉じてウトウトと微睡んでいたため、感じた違和感はあっという間に、夢の彼方へと消えて行ってしまった。

私の勝ちね。布団は渡さないわ。
おやすみなさい。今度こそ、晩御飯までは起こさないでよね。

勝ち取った布団を頭までかぶり、もう絶対に起きないぞと丸まって眠ることにした。
あっ、お父さん、早く部屋から出て行ってね。


お父さんも諦めたのか、すぐに部屋の中が静かになった。
部屋から出て行って、お母さんに「晩御飯になったらおこしてやれ」と告げてくれると思ったのだが、

「……チッ!」
なぜか盛大な舌打ちをお見舞いされた。

「おい!! 起きろって言ってるだろうが!!」

そして、大音量に響く声と共に勢いよく布団が剥ぎ取られ、自身の着ていたお気に入りの、ピンク生地に羊のマスコットが描かれたパジャマの前面を勢いよく開かれた。

びっくりして眠気も一瞬で醒める。
何が起きた!? お父さんのご乱心!?

「きゃあ! 何!?」

勢いよく起き上がり、はだけたパジャマを掻き合わせた。
そしてご乱心のお父さんに文句をぶつける。

「何のつもり?! お母さんを呼ぶから……」

ご乱心お父さんと思っていた人物と、目と目が合い、しばらくお互い見つめ合う。

「……」
「……」

「え、だれ?」
「それはこちらのセリフだ」

いやいや、この人、何言ってんの。
ここは私の部屋なんだから、おかしいのはあなたのほうでしょ。
もしもし、日本語、通じてる??

ご乱心お父さんじゃなかったけれど、今度は違った意味で危険を感じたので、とりあえず家族の誰かを呼ばないと、とベッドを降りようとしたが、足が床につかない。

あれ?? おかしいな。足が短くなった??

もう一度降りようと試み、床を覗くと、何かおかしいことに気づいた。

正確には何もかもが、おかしい。

ぇ……。ここ、私の部屋……。だよ……ね?


子どもの頃から使用している、小さなボロボロのベッドではなく、キングサイズのベッド。
傷だらけのフローリングではなく、傷一つないツルツルでピカピカの床。
見渡すと見知らぬ高級そうな調度品がずらりと並んでいて、私の住んでいる家一軒がすっぽりとはまるのではないかというくらいの広い部屋。

「え、ここどこ?」

未だ寝ぼけている頭では何も考えられなく、見知らぬ部屋にいる、見知らぬ人に答えを求めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

処理中です...