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訓練キャンプ初日

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「それでは、空間認識の訓練を始めます」とパネサ。

「空間認識は、空間属性スキルの基本となるスキルです」
「まずは空間に浮かんでいる箱をイメージして、次はその箱が透明になるイメージ、最後は箱の中の空間に意識を集中します」
行うのはこれだけ。

スキル取得の原理は精神の集中らしいが、ボンヤリするしイメージも消えてしまう。

周りを見渡すと、皆凄く集中しているのが判る。
深く息を吐きだして気持ちを整えて前を向く。
牧草地と森の境に目が行った。
牧草地の外側は森だ、牧草地を壁のように取り囲んでいる。
牧草地の空間が隔絶されたもののように感じる。大きな空間とその中の空間。
そのイメージで、箱の形をした空間の中に空間を重ねてみた。
ハッキリとイメージできる、空間の質感を感じる。

その時リングが光って、頭の中で声が響いた。「亜空間を取得しました」

空間認識ではないの?なんだろう?
ジーヌのリングが光った、そしてエルネス。しばらくするとメリシテのリングも光った。

早目の夕食を取ってから、別の訓練を行うとパネサが言った。
あわてて、取得したスキルが空間認識でなくて亜空間だと伝えると、残るように言われた。

エルネスが俺の方を見て、笑いながら、指サインで 「ドンマイ」。
えっ?!そうなの?
皆は夕食の準備に小屋へ向かった。

「まずは亜空間がどのようなスキルか実際に見た方が理解しやすいですね」
パネサは、顔の傍で指を立てて亜空間と言った。
別に何もおきない、と思ったら空間が微かに揺らいでいるように見える。
何か感じるかと聞かれたので、そう答えると
「元の空間と亜空間が重なっているので揺らぐのよ」
なるほど。

パネサが歩きだしたので、後を追う。皆が食事の準備をしている小屋へ向かう。
歩いているのは地面?違うとパネサ。
空間の重なりは水平面を原点にするらしい。
平らな屋根の下には木の床が張ってあった。地面よりも少し高い。パネサがその上に立った。

20人くらいは食事のできそうな広さのテーブルがある。
パネサは、身体の上下をテーブルが切断している位置で止まる。
振り返って「凄いでしょ?」
あなたもやってみてと言うから、同じようにして立った。
テーブルで下半身は見えないから、上半身だけがテーブルの上に置かれている状態だ。

空間が重なっているから俺とテーブルの位置が重なっているだけで、別空間なのでお互いが存在していないことになるらしい。
そばにはエルネス達もいるが、上半身だけをテーブルに乗せている俺たちには気づかない。
まさかとは思うが、壁をすり抜けることができて相手からは見えない? 

さすがにそれはちょっと倫理的にあれでは・・・。

「こちらに来て」というので一緒に小屋に入った、壁から。
パネサが解除と言うと、揺らぎが消えた。
「壁の中で解除したら?」と俺。
「解除できないか、近くの可能な空間に戻ります」

歩いて小屋をでる。皆が気づいた。
いつの間にそこに?という感じだ。

何を作るかはまだ決まっていないそうだ。
「森ウサギの肉とかあれば、煮込み料理を作れます」と言うと簡単に決まった。
森ウサギは、森ならば何処にでもいる。攻撃性は無いが、やたらと敏捷なので捕獲するにはコツが要る。その肉は美味しい。

先ほどの小屋に戻った。
食器棚の横の扉をあけると食糧庫だった。食材や調味料が整然と並んでいた。
そこから食材を取り出す。食べ切れる範囲ならどれだけ使っても良いそうだ。

手分けして調理を行う。何種類かの野菜を一口大に切りそろえて、同じ大きさの肉と一緒に大鍋に入れてバターで炒める。予め煮て作った野菜くずのスープを入れる。
少し煮込んでから、果物のピューレを加えて、塩や香辛料などで味を整える。
白身の肉もあったので、焼いてソースをかけた。
ソースは、酸味と香草を利かせた、サッパリ味だ。
そこに何種類かのブレッドを添える。

食べ始めると一斉に美味しいとの歓声。
野外のキャンプ飯は味がアップする。

エルネスが森ウサギの捕り方の説明を始めた。
簡単なのは罠。やたらと俊敏だし、警戒心も強い。
罠の作り方を熱心に説明する、エルネスは罠猟が得意だ。

「面白そうね、予定より早く終わりそうなら、罠作りもしましょうか?」とパネサ

後片付けをして、テントのところに戻った。
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