上 下
17 / 55

目つきの悪いのは仕方ない

しおりを挟む
“深い森”をどんどんと進んでいく。
亜空間はホント便利だ。

20mぐらいのベサールを横切る。
身体の内部を見られないのが残念だ。
ベサールはジャクレの天敵だ。
この辺りにジャクレがいるようだ。

亜空間を解除して、替わりにジーヌが遮蔽を張った。

エルネスが前方を探知する。
200m先に3体。

左から前方に移動するヤツもいる、さっきのベサールだ。
後を追うことにする。

亜空間に切り替える。
巨木を縫うように這うベサールの後をついて行く。
木の間からジャクレが見えた。

「ジーヌがジャクレのハサミを切り落とす。リリアナとダネルが、ベサールの足止め」
とエルネス。

亜空間解除。
ジーヌがダッシュし、ベサールの横を一気に駆け抜けた。
ベサールが気づいた。
口を大きく開け首を伸ばそうとした時、停止した。

俺が胴体を蹴って頭にジャンプ。
術式の札を貼った。
この札は相手を仮死状態にする。

やっかいなのは、頭に貼る必要があることだ。

頭から飛び降りて、ジャクレの方に向かうと、ジーヌがジャンプしながら一体のハサミを切り落としたところだった。
戦闘的な薬師って少し変わっている。

他のジャクレがハサミでジーヌを攻撃する。
動きは早くないので切って下さいと差し出しているようなものだ。
真っ直ぐに飛び込み、スパッ。
ジーヌは遮蔽を纏っているので、防御は気にせず、相打ち覚悟でスパッ。

エルネスが落ちているハサミをカバンに回収して行く。
俺とリリアナがエルネスに追いつく。
ジーヌが戻って、亜空間発動。

そのまま、ベサールの様子を見に行く。

停止は解けているだろうから、ピクリとも動かないのは仮死状態ということか。
「札を剥いでみましょうか?」とリリアナ。
「蘇生するかどうかが重要ね」とジーヌ。

亜空間を解除して、札を剥いでみる。
替わりにジーヌが遮蔽を張った。

状態が戻るまで少し時間がかかった。
ベサールが冷酷そうな目で俺たちを見る。

目つきの悪いのは仕方ない。

目が覚めたら顔の前に4人が立っていたのだから、本当は驚いているはず。
ベサールは首をもたげたまま、後ろに這って行った。

更に深部に進む途中、2匹を見つけた。
どちらもハサミはなかったが、エルネスが追跡でジャクレの来た方向を探る。

ジーヌが探索を使う。
300m先に小川らしき地形があるので、そちらに向かう。
ジャクレを発見、10匹程の群れ。
確認すると3匹はハサミがある。

「あれを切って、今日はお仕舞いにする?」とジーヌ。
「そうしようか」とエルネス。
亜空間を使って近づいていく。
小川もあるし、この辺ならキャンプに向いている。

「じゃ、切るから。ダネルとエルネス回収お願いね」
亜空間解除、と同時にジーヌが飛び込んでいって、スパッ。
次のヤツを、スパッ、最後に、スパッ。

回収終了。

少しだけ離れた場所にキャンプを設営するため、ジーヌが遮蔽を張った。
ジャクレは時々やってくるが、遮蔽が撥ね返す。

折角美味しいハサミを持っているが、割り当てがあるので、持参の食材で夕食の準備。
焚火を用意して、鍋を掛ける。

辛めのスープで肉や野菜を煮込む。
香辛料の香りが食欲をそそる。

日が沈んで、周りは闇になった。
焚火の炎が俺たちを照らす。
なんか落ち着く。

食事を終えて、亜空間を呼びだす。
湯質はトロッとサラッの2種類。

それと新たに入手した濁り湯。

要望に応じて、ジーヌ達には濁り湯とサラッを配置、俺たちはトロッ。
岩山の配置は同じなので、会話はできる。

濁り湯はフークモバの南の村で手に入れたもの、村までは片道で1日かかる。

リリアナの故郷であるイエヴェレワは、フークモバ地方南端の町で十数日かかる。
濁り湯のある村は、イエヴェレワへの帰り道にある。
リリアナはそのお湯については知っていたが、入ったことは無かった。

「それで良いお湯みたいと言ったら、ダネルが集めてくれたの」とリリアナ。
「あなたに声をかけないで?」とジーヌ。
「ええ何も言わなかったわ」
「呆れた、ねえダネル。聞いてる?」

「何?」と俺。
「この濁り湯を集めに行くのに声をかけなかったの?」
「一緒に行きたかった?」
「私に聞いてどうするの?リリアナの話よ」
「リリアナは良いお湯だって言ってた」
「だから?」
「良いお湯だよね?」

この後ジーヌがなぜか切れたので省略。
しおりを挟む

処理中です...