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ウガーモンはグロい

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“深い森”をどんどんと進んで、より深部へ。

この辺りまで来ると、遭遇する魔獣も気持ち悪いのが多くなる。
そして大抵猛毒を使う。

ウガーモンを初めて見た。

子供くらの大きさで人に似た顔がついているが、2本の手と4本の脚がある。
手の爪には猛毒がある。
粘着液を身体に点在する穴から噴き出し、集団で魔獣を搦め捕る。

亜空間を使っているから問題ないが、囲まれると危険だ。

木の上から覗く顔が気持ち悪い。
「無理、無理、気持ち悪い」とジーヌ。
囲まれて一斉に見られたとしたら、戦意を喪失する。

そんな陰気な表情。

「見た感じでヤバそうだね」とエルネス。
「遮蔽を纏っても駄目そうね」
「攻撃は通らなくても、粘着液で団子にされると思う」
「それで集団で襲ってくるのね、最悪」とリリアナ。

一匹一匹は倒せても、際限なく襲ってくるから切りが無い。

前方にある巨木の全てにウガーモンがビッシリと張り付いている。
獲物を狙っているようだ。

そのまま進む。
マズイな、前方にジャクレが数匹、それを伺うチームがいる。
ここまで来ている以上、十分に強いだろうが、相性の問題がある。

「剣士っぽいわね」とリリアナ。
そこが問題だ。
探知を発動していれば、異変に気付くはず。
ハンターは混じってないようだ、完全に囲まれている。

悩んでいる暇は無い。

バグの実の種の入った小樽を取りだした。
「亜空間を解いたら、これを上に投げて。爆縮を使う。ジーヌは全員を含めて遮蔽を張って」

頭上にはビッシリとウガーモンがいるわけだから、一瞬で決めるしかない。

彼らの背後に立ってから、ジーヌと視線を合わせる。
亜空間解除。
ウガーモンが反応して、一斉に木から飛び降りて来た。
もの凄い数だ。

そこに樽を放り投げ、爆縮を発動する。
すかさず遮蔽を張り巡らせた。

小樽が一瞬揺れて、消えた。

爆縮は、空間を瞬間的に収縮する。
魔獣が種一粒の大きさに潰れる程だ。
しかし、収縮した空間は反動で急激に膨張する。

空間の中のものは、凄い勢いで周りに放出される。

地面に埋めない限り割れないと言われている種が砕けて細かな破片になった。
それが放出された。

落下中のウガーモンを霧のように包んで行く。

巨木に無数の穴を開けていく。
そして、爆風がボロボロになった巨木をなぎ倒す。
遮蔽の周りの土の表面が吹き飛び、周辺には土埃が舞う。
収まるのを待つ。

「もう絶対に無理」とジーヌが大声を出す。
冷静なリリアナが涙目で指した方向を見ると、陰気な表情が地面に落ちていた。
落下してきたそれは空間に沿って地面に落ちたが、その間こちらをずっと見つめていたそうだ。

今も見つめている。

遮蔽を解除してから、亜空間を発動してとりあえずジャクレの居た場所まで移動。
散乱するおびただしい数の死骸、といってもグチャグチャになっているので、死骸と言えるか微妙だ。

彼らは一瞬にして状況を理解したようだ。
囲まれたことに気づかなかったと言った。
剣士、剣士、従者のチームだ。
剣士は、護衛職だそうだ。
まともに戦えば圧倒的に強いのだろう。

だが森にはまともに戦わないやつらがうじゃうじゃいる。

ルースラ村にジャクレを食べに来て、勢いでジャクレ狩りに行こうということになった。
一応、ギルドは通している。
左手のハサミ6本を従者が収納していた。
途中出会ったベサールは輪切りにしたそうだ。
キャンプ要員として雇われた従者は、探知は使えるが剣士の2人の強さに油断したようだ。

探知したところで、ウガーモンの動きは速いので囲まれることには違いないが、彼らなりに戦う方法もあったかもしれない。

ルースラ村に戻るというので、別れた。

そこから南下する。
“深い森”を縦に進んで、それからルースラ村に戻るルートだ。

そう言えば俺は時々、探査を行っている。
忘れているのではない。
グラデーションの様子を説明すると、リリアナが「無いわね」と即答してくれる。

それらしき反応は今まで一度も無かった。

南下の途中で、探査してみた。
グラデーションの様子を説明すると、「もう一度言ってと」リリアナ。
なぜかリリアナが所持している本を取り出して、ページを捲る。

近いパターンのものがあるということで、4ヵ所で探査した。

それから、本を確認して西、西、北。
「良い感じ」と嬉しそう。
更に北に行って確認。

南東に向かって歩いてから、リリアナは、カバンから杭を取り出した。

「杭を埋めて場所を記録して」とリリアナ。

俺が、杭を地面に打ち込んでから探査を発動。
反応して杭の頭に刻まれた溝が光った。
リングをかざすと、リングが光った。

今の個所も含めて、9ヵ所のパターン番号をギルドに報告すれば終了らしい。

***

どんどん南下して行く。

エルネスが、探知した。
ジャクレの群れらしい。
200m先そのまま、発見。

内陸部の沼地から新たにやって来た集団か?50匹以上はいる。
後ろから回って、後尾の3匹を捕獲することにした。

隙をつくだけだから簡単だった。
停止させる。
取り残されたそいつに札を貼る。
その前とその前のヤツも。

リリアナがカバンに収納する、成功だ。

マリタが仮死状態ならば魔獣をカバンに収納できると言ったので、リリアナが古代術式の文献を元に仮死状態になる術式を付与した札を作った。

ルースラ村で蘇生させれば、競りで高値がつくはずだ。

***ルースラ村***

ギルドの臨時出張所は、臨時とは言え立派な建物だ。
職員もこの時期は普段の3倍はいる。
フークモバから“深い森”に入る中継地なので重要なのだが、村なので臨時出張所ということになっている。

まずは探査の報告。
リリアナ指導のもと報告用紙を提出し、カウンターに右手をつくと記録した杭の位置情報が“壁”に転送された。

採掘士チームが共有する地図に反映されるらしい。

続いて、依頼の報告。
「ハサミ6本に本体3、本体は生きています」
受付の人が不思議そうな顔で俺たちを見る。
「では、こちらの伝票を持って市場の受付に」

市場の受付に伝票を渡した。
ちょっとお待ち下さいということで何処かに行ってしまったが、直ぐに競りの責任者らしき人と一緒に戻ってきた。

彼が言うには、生きたジャクレの競りは滅多にない。
高値は保証するが、暴れられると困るのでと倉庫に案内された。
そこにあったワイヤを使って、ハサミと胴体を固定した。

札を剥がしてしばらく待つ。

蘇生したジャクレがギシギシと煩い。
ハサミも一緒に置いてと言うので、6本並べた。

彼は、仲買人達を集めて来た。
2回目の競りまで時間はあったが、場が荒れるそうでこれだけで競りをするらしい。
話を聞きつけてどんどんと人が集まってきた。

最初から値が吊り上がったみたいだ。
どよめきがおきた。

最後まで、いくらで競られているのかもわからなかったが、白熱していたことは確かだった。
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