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あのテントか?!

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日暮れ前にキャンプ地に着いた。

辺り一面の木は伐採されていて綺麗に整地されているが、宿泊小屋は作られていない。
凄い数のテントが張られていた。

責任者が出迎えてくれた。
今回派遣されている聖騎士団の団長ベラールと採掘士チームの責任者のオーラフだ。

今晩はここで野営して、明日現地に向かう。

食堂があり食事もできるようだが、聖騎士団、ハンター、採掘士、土木師などに交代で対応しているので、それで手一杯だそうだ。

折角なので、ベラールにウガーモンに対する術式について聞いてみたら、そのハンターがここにいるので言づけてくれた。

各自テントを張る。

そこにキノンがやって来た。
ハンターチームのリーダーだ。
「キノンよ、よろしく」と彼女。
「ダネルです。ハルホレのリーダーです。探査士です」

皆が名前と職業を名乗った。

「ハンターはあまりいないのね」とキノンが笑った。
「でもハンターチームですから」とエルネス。

ここではこの布が配られていると言って、見せてくれた。
布には術式が縫いつけてあった。
それを首に巻くらしい。

「やってみてもいい?」とリリアナ。
「どうぞ、でも小声でね」とキノン。

発動スキルが必要だそうだが、リリアナは術師なので本職だ。

布を巻いて、何かを探っている。
呟くように声を出した。
耳障りな声でもの凄く不快だ。

布を外すとキノンが「持っていて。沢山あるから」と言った。

情報交換もしたいので、食事がまだなら一緒にどうかと尋ねたら、よろこんでとのこと。

カミロ、採掘士チームも招いた。
亜空間発動。

俺はキッチン台で調理をする。
予め作ってあったので煮込むだけだ。
フルーツやらブレッドをどんどんとテーブルに並べて行く。
テーブルの上に鍋を並べて、各自が取り分けるスタイルだ。

それから、新しいお風呂のお披露目。

キノンはゲストなのでどちらのお湯が良いか聞くと、トロトロの野天風呂はタシュバードに戻るとかならず訪れるお湯で、ここで入れるとは思わなかったと凄く喜んだ。

ではトロトロの方で。

「これこれ、疲れが取れる」とキノン。
気持ち良さそうだ。

「キノンは、ハンターは長いの?」とカミラ。
「6年になるかな」
「凄く先輩ね」とリリアナ。

「ハンターはあまりいないのに、ハンターチームなの?」とキノン。
「最初にダネルがリリアナとチームを作った時は、ダネルはハンターだった」とジーヌ。

「職業が変わったの?」
「そう」
「そんなことできるの?」

ジーヌが転職のいきさつを話した。

「それで今は、ハンター兼採取兼探査チームっていうことね」とキノン。
「次に参加する人の職業が重要ね」と言ってリリアナが笑った。

翌朝。

全員が小さなキューブを首からぶら下げた。
吸い込む空気の魔気を浄化するためだ。

魔気は人族にとっては毒みたいなものだ。
魔気を吸ったからといって直ぐに影響は無いが、蓄積すると命を失う。

現地に向かう、と言っても近い。
木がまばらになっていく、やがて平原に出た。

遥か先に森が見える。

「あの森は内陸部だと考えています」とオーラフ。
ということは、目の前の平原は“深い森”の終端らしい。

合同調査を開始する。
オーラフのチームが探査したデータが渡され、各都市の探査士と採掘士が確認していく手順だ。

「平原の半ばから内陸部側は“飛竜”に襲撃される危険がありますので、確認は希望者のみとなります」とベラールが言った。

ベラールは“飛竜”について説明した。

内陸部の森に住む魔獣で、名前はつけられていない。
彼らが“飛竜”と呼んでいるだけだ。
巨大な翼をもっている。

ここまで来て今更なので、全員が希望する。
「では進みましょう」とベラール。

半ばまでは順調。

探査したパターン番号を告げると、採掘士がその配列を確認していく。
俺も煽られてばかりはいられないので、あれから毎日勉強を重ねた成果だ。

半ばを超えた途端に、森から飛来するものが。

表面の毛のせいで、通常の攻撃は通らないらしい。
聖騎士団の何名かが、空間に盾を作る。
遮蔽に似ている。
それに隠れてジリジリと進む。

最初の地点でパターンを確認した、データどおりだ。

「まだ行きますか?」とベラール。
何チームかが戻りたいというので、一旦撤退する。

ヤツらは上空を旋回している。

倒さないのか?と聞くと、攻撃すると群れで押し寄せてくるので切りが無いそうだ。
それで行っては戻りで何週間もかけて、データを取ったそうだ。

オーラフを信じないわけではないが、確認に来てそれができないのも悔しい。
「もう一度行きますか?」とベラールが訊ねる。

俺たちはもちろん行く、スリムスロのチームも行くと言った。

俺たちのチームだけなら簡単に済みそうだが、ベラールが「護衛は聖騎士団が行う」と言う、責任問題もあるからそれはそうだろう。
どう説得するかだ。

もう一度行かないチームは、先にキャンプに戻っていった。

ベラールに取りあえず俺たちと一緒に来て欲しいとお願いした。
ベラールは滅茶苦茶腕が立つ、見れば判る。
4人位は守れるだろう、一度だけ一緒に行くことになった。

5人が駆けだした。
ブーツには俺を除いて増幅の術式が刻印してあるので速いが、ベラールは楽々とついて来る。

“飛竜”が急降下してきた。
亜空間発動。

“飛竜”は俺たちを見失う。
そのまま、先ほどの探査地点に到着。

亜空間を解除して、ジーヌが遮蔽を発動した。
ヤツらが飛来して激突する。

「これ凄いな」とベラールが遮蔽に驚く。
「皆さんも盾にしていましたよね」とジーヌ。
「しかし、こんな大きなものは見たことが無い」

では戻りましょうということで、亜空間を発動。
“飛竜”の体をすり抜けて、走って戻る。

スリムスロの探査士と採掘士の2名、探査個所の案内にオーラフ、カミロ、俺たち4名で行く。
全員歩いて移動する。

時間はかかるがやることは同じ。

亜空間を使って移動、遮蔽に切り替えて、探査と確認。
内陸部の森の傍まで行った。

データの確認が終わって、一旦戻る。

ベラールに“飛竜”を狩って良いかと聞いた。
呆れて「好きにしろ」と言った。
信用されたらしい。

「ただ、“血喰らい”に気をつけろ」と言った。
血が地面に落ちると、地中から襲ってくる魔獣がいるらしい。

彼らには先にキャンプに戻ってもらうことにした。

草原に向かった。
飛来した“飛竜”に種を弾いた。
貫通するはずがなんともない。
力を吸収する働きがあるようだ。

エルネスが矢を放った。
鏃が炸裂し、毛は焦げて多少は怪我もしたようだ。
火は効くのか。

結局、リリアナが停止で落下させ、札を貼って仮死状態にして収納。

即撤退。

ベラールの言っていたとおり森から“飛竜”が群れで向かってきた。
確かに切りが無さそうだ。

走って移動、ベラールたちに追いついた。
成果を聞かれたので、一匹狩ってきたとだけ告げた。

テントに戻って一息ついてから、早めの夕食の準備をする。
食材を切っていると、カミロがやって来た。
作業をしながら話をする。

カミロは、“飛竜”を生きて捕獲したのか?と尋ねた。

ジャクレを生きたまま競りにかけたことを知っていて、ひょっとしたらと思ったらしい。
そうだと言うと、そのままフークモバまで持ち帰って欲しいと頼まれた。

理由を聞くと、“飛竜”の皮や骨はフークモバ職業学校で使っていると言った。
あのテントか?! 
“飛竜”は、取引不能な程の珍しい物らしい。

更に生きているとなると、フークモバギルドの研究所に渡したいらしい。
カミロがそう言うなら全く構わないし、学校で使うというなら寄付します。

***

タシュバードに戻った。

データは全て確認され、採掘士チームが鉱脈の検討を行った。
草原からその先の森の中に続く鉱脈が分布していることは確認された。

現場チームは、フークモバに戻ることになった。
ただし俺たちは帰りを遅らせた。

新しい服を受け取りに行ってから、ルベルノに聞いた白濁のお湯を目指して箱車に乗った。

タシュバードは湯治が基本なのか?
ここも混浴だった。
湯あみ着で湯に浸かった。

「パネサのお気に入りのヤツに違い無い、と思ったら違った」と俺。
「同じ白濁だけど身体に気泡が付く」とジーヌ。
見えないがお湯に浸かった肌に、ビッシリと細かな泡が付着しているのがわかる。

「見てみて、字が書ける」とリリアナ。
お湯の中から腕をだすと、気泡が消える前に文字が見て取れた。

「そう言えば新しい服には、あの嫌な声の刻印もつく?」とエルネス。
「あの声で会話は嫌だな」と俺。
「それも興味あるけど、発動スキルが必要だから」とリリアナ。
「ネックレスにして、私とリリアナが着ければいいのよ」とジーヌ。
「いいわね。後で中央広場のお店に寄ってみましょう」とリリアナ。

旅を満喫しているようでなによりです。

“飛竜”の寄付の件を話した。
皆、フークモバ職業学校で使われるならもちろん賛成だ。

「そうなると、テントの布の材料の採取も必要ね」とジーヌ。

帰ったら、ギルドで依頼を探すと言った。
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