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森に穴が開いた

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ルースラ村から森に入り、数日間宿泊した。

最初の頃に、この村の傍で種を加速する練習をしていたので、練習というとここが頭に浮かんだ。
種の時は木に食い込む程度だったが、今回はそうでもないので森の奥に入った。

“深い森”の手前にキャンプ地を決めた。

森の中で技を試す。
ラッフィナイフを加速する。
種とは重さが全然違うから、それだけで十倍以上の威力だろう。
木をなぎ倒す。

でも圧倒的じゃない。

それで試すのが、縮空。
ナイフが加速された瞬間に対象との空間を縮める。
手を離れると同時に相手に到達している。
そういうイメージ。

“熟達”のおかけで、スキルの切り替えに時間は必要ない。
後は練習してイメージを現実にするだけ。

その時リングが光って、頭の中で声が響いた。「認知加速を取得しました」

「なんだろう?」
とりあえず、ホルダーの刻印を指で触れてナイフを回収する。

どうやら認知の加速で相対的に物事の時間経過がユックリに感じられる。
今のところ一瞬だが、これは使える。

新しいスキルを発動した。
ナイフをホルダーから引き抜きつつ加速する。

ユックリと動いていたナイフが加速した途端に滑らかに動き始める。
ナイフが宙に浮いた瞬間、ナイフと木の間の空間を縮めた。
認知加速しているのに、ナイフが消えた。

前方の木々がユックリと散乱して四方に飛び散っていく。

凄い威力だ、というかヤバい。
森に穴が開いた。

“深い森”でやればよかった。
深く反省して、練習を終了した。

フークモバの中央広場に戻った。

まだ昼すぎなので、エルネスの様子を見に行く。
エルネスは、宿の一室に住んでいる。
ハンターは森での活動が長いから宿を住まいにする人も多い。

道路に面した2階の部屋だ。
見上げると窓が開いている。
名前を呼ぶと、エルネスが顔をだした。

「ダネル、上がってきて」
2階に上がって、部屋に入る。

「この新しい矢じり凄いけど、どう思う?」
どうやら俺が森に行っている間に依頼した新しい矢じりができたらしいが、どうと言われましてもということで説明を聞いた。

2度爆発が起きるそうだ。

最初は炎の爆発で、すかさず2度目で進行方向に集束した爆発が起きるらしい。
“翼竜”の弱点に合わせてエルネスが考えたものだ。

使ってみないとわからないが、良い感じじゃないか。

***マリタの家***

戻ったら、リリアナが食事を用意していた。
一旦お風呂に入る。

お風呂から出たら、丁度マリタが戻って来た。

「おかえり」
「今でたの?私の帰りがもう少し早ければ一緒に入れたのに」とマリタ。
「一緒に入ってたの?」とリリアナ。
「以前はね」とマリタ。

以前はねって、おれがかなり小さかった時だから。

「あなたたちは一緒に入らないの?」とマリタ。
リリアナが思わず顔をふせた。
「ふ~ん」と言ってお風呂に向かった。

やめろよマリタ、気まずいだろう。

マリタが3つのグラスにワインを注ぐ。
とりあえず乾杯。

ラッフィナイフの件を話した。

「術式とスキルは別物と扱われることも多いけれど、本来は相互に補完するものだから」
「収納なんかそうね」とリリアナ。

「内陸部か・・・」とマリタ。
「リリアナ、もし良ければだけど、これどう思う?」
と言って胸のボタンは外して左の肩を出した。

二の腕の上に術式のタトゥがあった。
それこそ以前には無かったものだ。

「見たことないものね」
「私が考えたものだから」

「何かの融合?」
「よく勉強している。術式とスキルの親和性を高めるものよ」
「術式とスキルの働きを更に高めるということ?」
「そうよ、より複雑にできるの」

「どうすればいい?」
「明日で良ければ、一緒に彫り師のところにいけるけど。でもかなり痛いわよ」

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