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取りあえず朝風呂にするか

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箱車停留地に到着した。

定期便と既に町を出発していたチャーター便や商家所有の箱車がいた。
全部で10台。

手分けして、従者にギルドからの指示を伝えて回る。

今日は、ハンターチームが2で、兵士団もいる。
明日からは、定期便に同乗してくる護衛職と一緒にここを守ることになる。

停留地は、森の中にポッカリと空いた穴のように広がった草原だ。
ロンメイが湧いている。

ロンメイは都市の周辺で地表に現れ、都市の間ではところどころで地に潜る。

ダーランを出発した時に従者が箱車の窓を全部閉めて、そこにキューブをぶら下げていた。
ロンメイが弱く、魔気が濃いところを走るためだ。
街道を挟む森の樹影も濃い。

この停留地を超えると次の停留地までは同じような、森が続く。

チーム単位で小さな結界を張った。
これはギルドからの指示だ。
お互いの結界の間隔も空けている。

結界の破壊の仕組みはわからないが、分散した方が良いという判断だ。

俺たちの結界は、森側の端。
反対側や、周辺には兵士団やハンターそれに箱車に同乗していた護衛職たちの結界。
中央には従者や乗客の結界が集まった。

いつ結界が破られるかわからないので、ノンビリとお風呂に浸かっている場合ではない。

それに夜は、交代で見張りに立つ。
だから早目の夕食を取って、夜に備える。

焚火の火をいつもよりも盛大に燃やす。
多少は森に明かりが届く。

香辛料を効かせた薄切り肉を野菜と炒め、柑橘果汁をかけた。
取り合わせは濃厚スープとモチモチしたガーリックライス、ガーリック多めだ。

「このご飯美味しい」とリリアナ。
夜は長いから、スタミナをつけないと。

「ギルドで聞いたら、ここが一番森に囲まれているそうよ」とジーヌ。
「期待されての、チーム指定じゃない?」と俺。
「単に、敬遠された場所じゃないか」とエルネス。
「さすがにそれはないでしょうけど、良い物件は後に残した?」とリリアナ。
「それ、ここが悪い物件っていう意味よ」とジーヌ。

どうでも良いことを話ながら、食事を終えた。

今晩の見張りは俺とエルネスで深夜に交代。
エルネスは寝つきに自信があるそうで、見張りのトップバッターは俺。

では皆さまお休みなさい。

***

亜人族が現れないのはおかしくないか?と思いつつ、翌朝になった。

順々に箱車が去って行った。

残されてみると、何も無いただ広い草原。
俺たち以外には、誰もいない。

「取りあえず朝風呂にするか」

折角なので、停留地の真ん中で亜空間を発動してみた。
サイズマックス、目一杯に広げてみた。

「どうせなら、お風呂だけ4つ置いてみない?」とリリアナ。
「賛成」とジーヌ。

なるほど、どう置くかは大体わかった。

最初の角に、サラッのお湯。
時計回りに、濁り湯、トロトロ、白濁と配置した。

「改めて見ると広いのね」とリリアナ。

確かに、出現させた俺も驚いている。
パネサから最大数百メートル四方と聞いてはいたが、サイズマックスで出したのは初めてだ。

対角のお風呂なんか遥か先にポツンと見える。

「どうやって決める?」と俺。
「全員目をつぶって、10回クルクル回る。指した方向に一番近いお風呂でどう?」とジーヌ。
「いいわ」とリリアナ。
「酔いそう」とエルネス。

一旦中央に戻って、一斉に回り始めた。
「・・・8、9、10」
お風呂の方向だと思われる方向を指した。

「目を開けて、動かないで」とジーヌ。

俺が濁り湯で、エルネスが白濁。
ジーヌとリリアナは、俺たちと被って負けたので、ではもう一度。

「またするの?」とジーヌ。
「だって、そうやって決めるって決めただろ」とエルネス。

クルクル回るのを横から見るのはなんか楽しい。
サラッがリリアナで、トロトロがジーヌに決定。

「入りたかったお湯だけど、なんかクヤシイ」とジーヌ。
再戦を誓って、野天風呂へ歩く。

濁り湯に浸かった。

周りはただ広いだけの草原。
草が風にそよぐ。
気持ちが良い、クセになりそうだ。

右の方を見ると、リリアナが空を見上げていた。
視線を感じたらしい。
こちらを見たので手を振ると、振り返してくれた。
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