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ハンターじゃないけど

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教会の塔にある執務室からは、タシュバードの中央広場が一望できる。

タシュバードの街並みは美しい。
サイロ―はジッとその光景を眺めている。
サイロ―は、シュバ教の宗主、聖騎士団の長だ。

その背後から。

「4000人規模の派遣をしました。更に、ハンターチームへの依頼を300チームだします」
「ただ、ルトラがハンターチームの依頼には難色を示しています」
と聖職者たち。

「難色は拒否ではない。村だろうとキャンプ地だろうと守る依頼に違いはない」とサイロ―。

「費用はいくらでも構わない、各都市からのハンターを集められるだけ集める。汚らわしい亜人族が、キューブの地を踏んでいる。許されることではない」

窓の外を眺めたままなので表情はわからないが、その声は怒気を含んでいた。


***

俺はギルドの会議に出席している。

キャンプ地は完全に占拠され、周辺の“深い森”にも亜人族が多数出現している。
数日後には、小屋が立ち並ぶ宿泊地に危険が及ぶことが懸念される。

「最終的に、数千規模の亜人族がタシュバードの“深い森”を占拠すると思われる」
とルトラの声が聞こえた。

「魔族の関与は疑われる」とルトラ。
「ヤツらが大規模にまとまって何かをできるとは思えないから、少なくとも指揮をしている者はいるだろう」とカミロ。
「カミロに賛成だ。しかし内陸部で姿を確認して以降は、魔族の目撃例は無い」とバン。

地域の問題は地域で解決が基本だ。

もちろん、応援を各都市に依頼することはできる。
結局は、お互いの利益になるのでそれを拒む都市は無い。

しかし今回は、既にタシュバードに応援を送った上に、亜人族の襲撃によりどの都市でも少なくない被害を受けている。

当面はタシュバードで何とかして欲しいというのが、各都市の本音だろう。

「ダネルはどう思う?」とカミロ。
なぜ俺?いきなり話を振るな。

「“深い森”はもともと亜人族の縄張りだ。森で出会っても、俺たちは迂回する。わざわざ争いを生む必要はない。村が襲われたら、追跡して倒す。そうしないと村を守れないから」
「ハンターらしい意見だ」とカミロ。

ハンターじゃないけど。
知ってるくせに。

「キャンプ地は?」とルトラ。
なるほど。
俺をダシにして議論する心算か。

「襲ってくるなら逃げれば良い。キャンプ地だろうと小屋が立ち並ぶ宿泊地だろうと、放置しておけば勝手にいなくなる」

亜人族は“深い森”を縄張りにしている。
そして、そこは奴らの狩猟場だ。
獲物を狩ったら移動する、住むわけじゃない。

「村や町に注力すべきだ。“深い森”は、俺たちが管理できる場所じゃない」とバン。
「守りを固めるということだ」とカミロ。

「残念ながらそれは難しい」とルトラが続けた。
声で判る、沈痛な面持ちだ。

今回、命を落とした聖騎士団は宗主直属だ。
なにより、彼らが引くとは思えない。

「今回の襲撃ではかなり返り討ちにした。その分、村が襲われる可能性の方が高い」
とラーラ。

「だれ?」と隣のフィネに小声で聞いた。
「スリムスロのギルド長」
後で聞いたが、ギルドの中でも長老格らしい。
女性だけど。

「バン、ギルド評議会を招集して。そこで話合いましょう。首長を交えてね」とラーラ。

***

やっと解放されて、マリタの店に戻る。
今更ながら、マリタの店はギルドに近い。
一等地にあるわけだ。

「どうだった?」とエルネス。
「良くわからないけど、キャンプ地の奪い合いかな?」
「放っておけばそのうち使えるだろう」
「それは言った」

「道具の引き取りがあった。袋はその箱に放り込んである」
「じゃあ、もうリストの品が無いか」
「今日帰ってこなかったら、明日はどうする?」
「マリタ、夢中になってるな」

後1時間で閉店だ。
取りあえず、それまで開けておくか。

閉店間際になって、マリタが帰ってきた。

「おかえり。どうだった?」
と聞いたのがマズかった。

もの凄く貴重な文献がもの凄く大量にあることを興奮して説明するのが止まらない。
俺たちが店を閉めて、片づけている間も後をついて回って説明を続けた。

箱に放り込んである売り上げを見せようとしても、一瞥して終わりだ。

ヤバいな、引っ越しするとか言いだしそうだ。
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